伊藤穰一氏のWeb3本の衝撃。今後、読んだか否かで議論が噛み合わなくなるだろう
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解説者プロフィール
G.G(ジージと発音)
現在高齢者向けDAOを準備中。高齢者が健康的、社会的な生活をすればトークンを稼げるAge To Earnのアプリを幾つか開発することを企画中。
その昔、「ウェブ進化論」という本が爆発的に売れた。インターネットが双方向通信の時代になるということを説いた本で、一般ビジネスマンの間でも「Web2.0」というキーワードが広く認知された。その本の中に書かれてあった、SNSが社会に大きな影響を与えるようになるという予言は、見事に的中した。
あれから15年以上が経ち、今度はインターネットがWeb3(ウェブスリー)と呼ばれるフェーズに入るのだそうだ。
Web1.0で情報の一方通行、Web2.0で双方向、Web3で情報だけでなく価値を送受信できるフェーズになるという。これからWeb3というキーワードがタイトルについた書籍が山のように出版されるのだろうが、僕が最も注目するオピニオンリーダーのWeb3に関する本が6月7日に発売になった。
そのオピニオンリーダーとは、日本人で初めてマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長になった伊藤穰一氏だ。
日本人は自分たちが思っているほど特殊ではない
最初に彼の名前を聞いたのは、インターネットの黎明期だったと思う。日本のネット産業の立ち上げに貢献した一人だった。その後、彼は投資家になり舞台裏に回った印象があった。2002年、2003年のころだと思うが、2度ほど取材させてもらったことがある。伊藤穰一氏を取材したいとデスクに申請すると、「彼はもう過去の人じゃないのか」というのがデスクの反応だった。
世間のイメージはそうなのかも知れないが、彼の意見は独創的でおもしろかった。ブログが登場した頃、識者と呼ばれるような人たちのほとんどは「日本人は控え目な民族。日本ではブログは流行らない」と主張していた。事実、英語圏ではウィキペディアが豊富なコンテンツを誇っていたが、日本語のウィキペディアは長い間コンテンツがほとんどなく、スカスカの状態だった。
しかし伊藤氏の主張は「日本人は自分たちが思っているほど特殊ではない。世界で流行するものは日本でも流行る」というものだった。そのころ僕は20年間に渡る米国生活を終えて帰国したばかりだったので、彼の意見に強く共感した。僕も日本人は自分たちが思っているほど特殊ではないと思う。しかしより詳しく聞くために、あえて反論してみた。「でも、ウィキペディアは日本では流行ってませんよね」。
彼は少し顔をしかめたあと「でもいつか絶対に流行る」と静かに反論した。
その後しばらくしてウィキペディアが盛り上がりを見せ始め、日本は世界でも最もブログが流行った国の1つになった。今ではユーチューバーやティックトッカーが、芸能人を超えるほど人気になっている。日本人は、自分の意見を主張しない特殊な民族ではなかった。伊藤氏の読みは正しかったわけだ。
伊藤氏は両親ともに日本人だが、インターナショナルスクール育ちで義務教育を受けていない。取材させてもらったときは「あまり多くの漢字を知らない」と語っていた。英単語は英語発音になるし、英語で浮かんだフレーズを日本語に訳しているような話し方だった。実際に英語のほうが得意なのだと思う。
伊藤氏は、全精力を日本のテクノロジー業界のために注ぎ始めたようだ
その後、日本ではあまり彼の話を聞かなくなったが、アメリカのブログを読んだり、ポッドキャストを聴いていると、ときどき彼の名前を耳にした。アメリカのテクノロジー業界の中で、オピニオンリーダー的存在になっているようだった。
なので彼がMITメディアラボの所長に抜擢されたとき、もちろん少しの驚きはあったものの、周りのジャーナリストに比べるとそれほどびっくりはしなかった。
MITメディアラボと言えば、アメリカのテクノロジーの最先端の研究所の1つである。彼がオバマ大統領と対談している動画を見たこともあるし、伊藤氏はアカデミズムのみならずアメリカの政治、経済界に交友関係を広げていったようだった。
その後、メディアラボへの寄付に関するスキャンダルに巻き込まれ、責任を取る形で辞任し、日本に帰国した。
もう米国の表舞台に立つことはないかもしれない。なので伊藤氏は、全精力を日本のテクノロジー業界のために注ぎ始めたようだ。彼自身のキャリアとしては不運なことなのかも知れないが、日本にとっては非常に幸運なことだと思う。彼は日本の政治、経済に影響を与えていくことだろう。
Web3によるパラダイムシフトの現在地を確認せよ
6月7日に発売になった『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』(SBクリエイティブ)は間違いなく大ヒットになると思う。当たり前だが米国を中心としたテクノロジー業界に関する情報量や人脈の広さでは、他の日本人識者とは比較にならない。現在進行形の最先端の動きを幾つも紹介していて、Web3というパラダイムシフトが今、どの辺りを進んでいるのかが、はっきり分かるようになっている。
Web3が暗号資産をベースにしたパラダイムシフトなので、暗号資産へ投資していない多くの人には、聞いたことのないような話ばかりだ。非中央集権という価値観にも馴染みがない人も多いだろう。
なのでこの本を読んだ人と読んでいない人の間では、今後議論が噛み合わなくなることになると思う。それほど多くの人にとっては衝撃的な本になるだろう。別の言い方をすれば、この本を読まなければ、これからの時代に関する議論には参加できないと思う。
まちがいなく今年の必読書の第一位である。