「データの民主化」を実現するために暗号資産を発行する。ジャスミーが描く未来とは
目次
2021年10月、世界最大級の暗号資産取引所で取り扱いが開始された、ジャスミー株式会社が発行する暗号資産「Jasmy(JMY)」。
前編では、ジャスミーが「データの民主化」を実現するまでの大まかなロードマップと、それを実現する上で立ちはだかる「壁」についてお伝えした。
後編の今回は、暗号資産取引所で取り扱いが始まるまでのアクションと今後のビジネスの展開について、同社 CFOの原田浩志氏に聞いた。
この記事には前編があります
「ジャスミー」のプロフィール
誰もが簡単に安全にそして安⼼してモノを使うことができる仕組み(プラットフォーム) をつくり提供することをミッションにビジネスを展開。ジャスミーが提供するプラットフォームの提供を通じて、個々のデータを安全・安⼼に利⽤できる環境を構築している。
インタビューイー
原田 浩志
ジャスミー株式会社CFO
2008年に公認会計士試験に合格し、有限責任 あずさ監査法人に入所。放送業、建設業、製造業等幅広い業種の上場企業を中心とした法定監査業務やIPO支援業務等に従事し、担当クライアントの上場実績を持つ。約11年間の監査法人勤務を経て、2020年1月に当社CFOに就任。経理、財務、税務等のマネージメントを担当する傍ら、IR業務を担当。2021年10月には、日本企業として初めて米国コインベースに暗号資産の取り扱いが開始される。
海外の暗号資産取引所を目指して
逆風が吹く中、JMYを発行するためにジャスミーが着目したのは、海外にある暗号資産取引所だった。
暗号資産が世界中に広がる中、それを扱う取引所も着実に増えていた。原田氏は当時のことをこう振り返る。
「詐欺紛いの横行とマネーロンダリングの観点から、海外でのICOも極めて困難な状況でした。しかし、海外の暗号資産取引所で取り扱いの開始なら可能かもしれない。いわゆる『リスティング』という方法ですが、これを実現するために2020年1月から準備を開始しました」(原田氏)
リスティングの場合、販売時などに取引所のサポートは受けられない。その代わり、審査のハードルは低くなる。
「あらゆる暗号資産取引所でリスティングを実現すれば、各取引所のユーザーコミュニティの増加に伴ってJMYの流通量は増えて価値を持つようになります。地道ですが、これを実現するために準備を進めました」(原田氏)
実績が無ければ、作るしかない
リスティングにあたり、ジャスミーではプロジェクトの概要と展望をまとめたホワイトペーパー(株式公開における目論見書のような書類)とJMYのシステム構築に取り掛かった。
「送金やデポジットは確実に実行できるか、そしてセキュリティは問題ないか。JMYの取引が確実に進められるよう、システム構築にあたっては様々な検証を行いました」と原田氏は語る。
また暗号資産には「コミュニティ」の存在も欠かせない。暗号資産のバックボーンとなるプロジェクトのビジョンに共感し、手にしたいと思う人が増えれば、それが暗号資産のニーズとなる。暗号資産取引所から見ても、それだけ流通量が担保できるなら取り扱いたいと考えるようになり、リスティングが実現しやすくなるわけだ。
こうして一連のプロセスを1つずつ進め、ジャスミーは2020年末から海外の暗号資産取引所へのリスティングの申請を順次進めた。暗号資産を取り巻く環境は変化が激しい。また各国の暗号資産取引所からの問い合わせも様々で、当初想定していなかった対応を迫られることもあった。さらに、金融庁から日本の事業者に課される規制もクリアしなければならなかった。
「国内では、過去に同じような対応をした事業者がほとんどなく、まさに自ら事例を作る感覚でした。その際に、パートナーとなった弁護士が非常に有能で、法的な部分を次々とクリアできたのは大きかったです。金融庁の規制に対しても、法的に問題がないか十分検討して進めることができました」(原田氏)
このような取り組みの成果もあり、2021年1月にJMYはMEXC取引所で初めてのリスティングを果たす。これを皮切りに他の暗号資産取引所でもリスティングを進め、2021年10月には日本企業として初めて世界最大級の暗号資産取引所・Coinbaseにリスティングすることとなる。そして同月末には日本の暗号資産取引所・ビットポイントジャパンにリスティングを果たす。
このリスティングラッシュに、ジャスミーに対する見方が大きく変わったと原田氏は実感する。
「現在10以上の取引所にリスティングされていますが、これだけ多くの取引所からお墨付きをもらえたことにより、本来ジャスミーが実現を目指すデータ価値の顕在化への理解と信用もつきました。特にCoinbaseのリスティング以降は問い合わせが増えています。今後、実際の商用化が進み、『データの民主化』が広く現実のものとなれば、多くの方の理解も進むと思いますが、それまでは、ジャスミーの挑戦を理解していただけるようこまめなIRのような活動が欠かせず、まだまだ手はかかりますが、それで皆さんの注目度がさらに高まり、賛同して頂ける方々が増えれば、リスティング後もJMYを購入していただける方が増えることで流通量も増え、JMYがデータ価値を顕す為の基軸トークンとなればこの苦労も吹き飛ぶでしょう」(原田氏)
JMYを世の中へ普及させる「仕掛け」
2021年に入り順調にリスティングを進めるジャスミー。新たなリスティングを見据えつつ、今後は新たなフェーズに入ろうとしている。
前編でもお伝えしたとおり、ジャスミーが目指すのはユーザーに自身のデータにはちゃんと価値があることを気付いてもらうことであり、その為にもJMYを普及させ、人々への認知向上が求められる。
そのために鍵を握るのが、データのやり取りによって報酬が得られるという「体験」そのものだ。原田氏は「現在、人の興味や行動に関連した無意識な特徴データを個人側に安心して帰属され、適切に利活用ができるアプリケーションを開発中です。まずは、実証実験を実施し、その参加者には、トライアル中に蓄積した特徴データを有効活用のため、利用を許諾して貰えれば、報酬としてJMYがもらえるようなキャンペーンも用意したい」と語る。
JMYの真の普及には個人だけでなく「企業・団体」の存在も欠かせない。取引所だけで売買するだけでなく、実生活で必要となるモノやサービスが購入できるようになれば、JMYの価値はさらに高まる。
また企業にとって、個人の「決済データ」はニーズを確実に掴む上で非常に価値のあるデータになる。企業がJMYを提供する代わりに、個人からデータの提供を受けることができるようにしなければ、本来の目的は達成でできないし、JMYが普及し、流通量をさらに増大させることはできない。
「JMYはイーサリアム規格ですが、いわゆるコンソーシアム型の側面を持ち、参画する企業・団体や個人の中で流通させていきたいと考えています。イメージとしては地域発行通貨に近く、JMYが利用価値も持つには使える場を増やす必要があります。そのために、ジャスミーではあらゆる企業や団体と提携を模索しています」(原田氏)
多くの人が暗号資産を保有し、自由に使う環境を構築するためには、日本円と完全連動するステーブルコインのような仕組みも必要だ。決済はそれで行い、必要に応じてJMYとステーブルコインを交換できる仕組みも検討しているという。「データを提供して報酬を得るという体験だけでなく、その報酬を用いてJMYに投資するという体験も味わっていただけたら嬉しいです」と原田氏は語る。
日本では、これまで「投機的」な色が強かった暗号資産。厳しい規制が敷かれたことで「日本の暗号資産ビジネスは世界から大きく遅れをとってしまった部分もある」と原田氏は危機感を表す。だからこそ「規制や法律の問題も着実にクリアして、暗号資産を用いたビジネスが世の中に認められるようにしたい。実業を持つジャスミーであれば必ず成し遂げられる」(原田氏)と強い想いも持つ。
「21世紀の石油」とも言われる「データ」を本来あるべき形に戻す壮大な取り組みは、まだまだ端緒を開いたにすぎない。今後どのようにJMYが普及するか、引き続き注視したい。
編集:長岡 武司
取材・文:山田 雄一朗
画像提供:ジャスミー株式会社