Soulbound Token(SBT)とは?Vitalik Buterin氏の論文から「Web3の未来」を考える 〜G.GのSBT解説 #1

Soulbound Token(SBT)とは?Vitalik Buterin氏の論文から「Web3の未来」を考える 〜G.GのSBT解説 #1

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2022年5月11日、イーサリアム(Ethereum)の提唱者であるビタリック・ブテリン氏が論文「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」を発表しました。Web3に関する論文は多く存在しますが、その中でも今後のネットのあり方に革命的なパラダイムシフトをもたらす可能性のある内容ということで、多くの技術者やビジネスマンが注目しています。

そのキーワードとなるのが「Soulbound Token(SBT)」。本記事を皮切りに、xDXでは全8回(予定)にわたって、このSoulbound Tokenがもたらす未来について解説していきます。その水先案内人を務めるのは、現在、高齢者向けDAOを準備中しながらWeb3の指針動向をリサーチしている「G.G(読み方:ジージ)」さんです。

解説者プロフィール

G.G(ジージと発音)

現在高齢者向けDAOを準備中。高齢者が健康的、社会的な生活をすればトークンを稼げるAge To Earnのアプリを幾つか開発することを企画中。

現在のWeb3は、結局「金」の話ばかり

--前回、G.Gさんの記事を読んで、伊藤穰一さんの本を読んでみました!

伊藤穰一氏のWeb3本の衝撃。今後、読んだか否かで議論が噛み合わなくなるだろう

--新しい時代へのパラダイムシフトということで、いろいろなDAOプロジェクトに参加してみたり、Play to Earnモデル(X2Eの一形態)のゲームで遊んでみたりしています。 

X2E(X to Earn)とは?生活するだけで稼げる時代がやってくるのか、それともただのブームなのか

--ただ…。

G.G:ただ?

--なんだか結局はこれまでのネットのあり方の延長のような気がしています。たとえばSTEPNのようなアプリでランニングの行動習慣を付けようとしても、先立つものはお金だし、お金のために行動するみたいなところがあって…。なんだか疲れちゃうんですよね。

まさにそれが、現在のWeb3の問題だよね、という話がそこかしこで出てるんですよ。これまでのWeb3の先行事例って、それこそお金に関するものが多くて、仮想通貨はもちろん、NFTアートも話題になるのは、作品がびっくりするような値段で売れたというような話ばかりですよね。

X2Eも、おっしゃる通りお金をインセンティブにしてプレイヤーを呼び込んでいるだけと言えばそれまでです。

--このxDXの記事を読むと、Web3は、富や権力が一部のテック大手に集中したこれまでのインターネットに対するアンチテーゼで、「パワー・ツー・ザ・ピープル」「非中央集権社会」を目指すムーブメントだと理解しています。でも、現在の状況だけを見ると、なんだか今までのインターネット(Web 2.0)となにも変わらない気がします…。

Web3(Web3.0)とは?自律分散型社会のあり方から、ブロックチェーン・メタバース・NFTの関係まで詳細解説

SNSなどでも「Web3って、今までの資本主義と何ら変わらない。それどころか、一番ネガティブな部分が拡大されているだけじゃないのか」という批判があるんですが、たしかにそうかもしれませんね。

そんな批判に応えるためなのかどうかは分かりませんが、イーサリアムの提唱者であるビタリック・ブテリンさんが「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」という論文を発表して、「これからのWeb3」について詳細な技術説明をしています。

この論文の中でビタリックさんは、これからのWeb3を「DeSoc(Decentralized Society:分散型社会)」と呼び、これからのWeb3はこれまでのWeb3とはまったくの別物になる、と主張しています。全部で36ページもある長文なんですが、要約すると、以下のような内容にまとめることができるでしょう。

「Soulbound Tokenと呼ばれる譲渡不可能トークンで本人認証や本人の属性理解が可能になり、その結果、今までのWeb3の問題点の多くが解決される。さらにはセキュリティが強化され、データ共有に対して報酬を支払うことが可能になるので、人々が積極的に自分のデータを共有するようになる。大量のデータ共有を受けてAIが賢くなることで、科学技術が大幅に前進し、経済も大きく発展するようになるだろう」

※「トークン」そのものについて確認されたい場合は、以下の解説記事もご覧ください。

トークン(token)とは?Web3や暗号資産(クリプト)を理解する上での定義や考え方、種類を解説

--うーん、なんだか最近よく聞くような話な気がします。

もちろん、こうした理想論はこれまでもWeb3界隈でよく耳にしてきたことです。でも、この論文の価値は、こうした理想に向けてSoulbound Tokenを含む各種技術をどう組み合わせていけばいいのかという「具体例」を示しているところにあります。つまり、中に書いてある詳細にこそ価値があるというわけです。

なので原文を読むことをお勧めしますが、原文はもちろん英語です。しかもこの論文は、これまでのWeb3の課題をどう解決するのかという論点で書かれているので、クリプトの現状に詳しくない人が読んでも、なんだかよく分からない内容になっています。加えて、一般的なテクノロジー業界の常識や英語圏の常識もある程度理解していないと、この論文の主張は分かりにくいように思います。

--Google翻訳やDeepLを使うしかなさそうですね。

自動翻訳ソフトは最近ではかなり精度がよくなってきていますが、やはり背景の知識がないと直訳文を読んでも理解できないと思います。なので原文を直訳するのではなく、ここでは原文の中の情報を利用する形で、解説していこうと思います。

ただ、連載のすべての中見出しを「論文中の見出し」に対応するようにしているので、原文に当たりたい方は、その見出しの部分の原文を読んでいただければと思います。また論文の巻末部分には、分散化社会を実装するための数式が多く記載されているので、専門家の方はぜひそれらの数式も確認していただきたいです。

--見比べながら学べるということですね!それは有難いです。

先にお伝えしておくと、わたしは暗号技術の専門家ではないので、私のお伝えすることの中には間違いもあると思います。それでも今、Web3の今後の方向性を示すこの論文を日本語で解説して多くの人に読んでもらう必要があると思い、この長文の解説に挑戦しました。ぜひ、暖かい目で見守っていただければと思います。

Soulbound Token(SBT)は、分散型社会の「魂」になる

★論文の該当章:「§2 OUTLINE」

G.G:SBTの詳細に入る前に、まずはこれまでのWeb3の現状について簡単にお伝えします。Web3が大きな可能性を秘めている理由は主に2つあって、1つは、その中核技術であるブロックチェーンが「機能を追加できる技術」だという点にあります。いわゆる、イーサリアムで言う「スマートコントラクト」と呼ばれる機能です。

--スマートコントラクトって、ブロックチェーン上で定義したルールが自動的に実行される仕組みのことですよね?

そうです。ある条件を事前に定義しておくと、ユーザーが条件どおりの内容を入力した際に自動で決済などの処理が実行されます。イーサリアムのスマートコントラクトが有名ではありますが、それ以外にも多くのコインやトークン上で実装されています。このスマートコントラクト機能の追加が順調に進んでいる点が、Web3が注目される理由の一つです。

もう1つは、その技術的な可能性に気づいた世界中の優秀な人材が、こぞってこの領域に参加してきているからです。優秀な人材が、機能を追加できる技術に群がれば、当然技術は急速に進化する。それが今、Web3の領域で起こっていることです。

--普通に生活していると、優秀な人がどんな業界に行っているのかはよくわからないのですが、そうなんですね。

もう一つ、トークンの代替性と非代替性についても、改めて触れておきましょう。もともとブロックチェーンは代替可能なトークンしか発行できませんでした。代替可能とは、「私の持っている1ビットコインと、あなたの持っている1ビットコインは、取り替えることが可能だ」というような意味です。そこに非代替性トークンを発行できる機能が開発されました。

--NFT(非代替性トークン)ですね!

そのとおり!非代替性とは「私の持っている絵は価格が1ビットコインで、あなたの持っている絵も1ビットコインなので、金銭的価値は同じ。でも全然違う絵なので、取り替えるわけにはいかない」というような意味です。

そして、先ほどお伝えした2022年5月11日付の論文で、イーサリアムの提唱者ビタリック・ブテリン氏などが正式発表したのが、非譲渡性トークンのSBT(Soulbound Token)です。

--さっきも「譲渡不可能トークン」とおっしゃっていましたが、いまいち理解できません。譲渡できないトークンって、そもそも必要なんですか?

ここで言う非譲渡性とは、「本人以外が持っていても仕方ない」というような意味です。たとえば、運転免許証やパスポートを譲ってもらっても、詐欺などの犯罪目的以外には使えませんよね。他にも、卒業証書や社員証、健康診断の結果、過去に書いたブログ記事なども、SBTにできます。

こうしたSBTデータが数多く集まってくると、その人がどのような人物なのかが分かってきます。社会との関係性の中で、その人の人物像が「属性データの塊」として浮かび上がってくるわけです。

すべてのSBTのデータセットが完全に一致する人などいないので、結果としてこのデータセットは「本人認証」に使えることになります。この本人認証の機能がないので、これまでのWeb3のサービスではできないことが多かったと言えます。

--と言うと?

たとえば交通違反歴がない人は、自動車保険の保険料が割り引かれるなどといった、リアル社会では当たり前に行われていることが、本人認証の技術がないためにWeb3の世界ではまだ実装されていません。

--そうか。これまでの本人認証(本人確認)って、どこかの第三機関が「あなたは間違いなく本人ですよ」と信用(トラスト)を付与することで成り立っていたので、トラストレス(信頼のある第三者が必要ない)が前提になるWeb3だと、今までの本人確認ができないのか…。

そういうことです。このWeb3でもワークする本人認証の仕組みさえできれば、リアルな社会で行われている様々な経済活動がオンライン空間上で可能になるだけでなく、リアルな社会では到底実現できないような新しい分散型サービスが次々と登場してくるはずなのです。

地球の長い歴史の中で、約5億年前の古代カンブリア期に、今日見られる動物の祖先が一気に出揃いました。カンブリア爆発と呼ばれる現象です。本人認証の仕組みが誕生すれば、Web3サービスが爆発的に増え、分散型社会という新しい社会の基盤になると、この論文は主張しているのです。

--その本人認証の仕組みが、非譲渡性トークンである「SBT(Soulbound Token)」だと言うわけですね!なんだかワクワクするな〜。

その人の経歴、スキル、人となりが分かる本人認証データ。こうしたデータが利用可能になることで、社会がどのように変化するのか。そのことを正しく理解するには、SBTの仕組みや可能性をより詳しく知る必要があります。

これから何回かに分けて、この論文「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul(分散型社会、Web3の魂を見つける)」を読み解いていきますね!

文:G.G
編集:長岡武司

※つづく(次回掲載は2022年9月16日 AM9:00を予定しています)

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