Web3の真髄は「関係性によるデジタル社会の再定義」にあり 〜G.GのSBT解説 #2

Web3の真髄は「関係性によるデジタル社会の再定義」にあり 〜G.GのSBT解説 #2

目次

2022年5月11日にイーサリアム(Ethereum)の提唱者であるビタリック・ブテリン氏が発表した論文「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」では、「Soulbound Token(SBT)」と呼ばれる新しいトークンのあり方を通して、現在のWeb3の課題を解決するアプローチが示されています。

現在のWeb3の課題とは、平たくお伝えすると、Web 2.0の延長線上でしか機能できていないということ。#1 解説記事でお伝えしたとおり、本質的にWeb3ライクな本人認証の仕組みが現時点で存在しないからこそ、リアルな社会で行われている様々な経済活動の大半が、オンライン空間上ではまだ実現できない状況だと言えます。そして、それを解決する技術がSBTだともお伝えしました。

本記事では、Web3がWeb 2.0から抜け出せない理由と、SBTを理解する上で欠かせない「Soul(ソウル)」の考え方について解説します。解説してくれるのは引き続き、高齢者DAOの開発を進めるG.Gさんです。

※前回記事はこちら

Soulbound Token(SBT)とは?Vitalik Buterin氏の論文から「Web3の未来」を考える 〜G.GのSBT解説 #1

解説者プロフィール

G.G(ジージと発音)

現在高齢者向けDAOを準備中。高齢者が健康的、社会的な生活をすればトークンを稼げるAge To Earnのアプリを幾つか開発することを企画中。

なぜ、現在のWeb3は極めて「Web 2.0」的なのか

★論文の該当章:「§1 INTRODUCTION」

--前回もお伝えしたのですが、世の中では「Web3がすごい」って言われていて本屋とかでもWeb3の本が次々と出ているようなのですが、今のところ、これまでまでのインターネット(Web 2.0)と“さほど”変わらない気がするんですよね。なんででしょうね?

その理由を考えるには、まずは改めてWeb 1.0の時代からのインターネットの変遷を辿ってみると良いでしょう。

Web 1.0とWeb 2.0の振り返り

Web 1.0とは、Yahoo! に代表されるような、Webページからの情報が「一方通行」だった時代です。ざっくりと1990年代半ば〜2000年代前半頃までのインターネット社会を示すことが多く、​​現在のLINEのような即時性の高いコミュニケーションツールは存在しませんでした。

せいぜい自分のパソコンにインストールしたメールソフトを起動させて電子メールでやりとりをするか、もしくはネット掲示板で公開形式でコミュニケーションをとるくらいしか、一般的なオンラインコミュニケーションの術はなかった時代です。

--その頃はモバイルもガラケーしか無かったですよね。

そうですね。通信環境としては、パソコンでは電話回線を使ったダイヤルアップ接続から有線によるISDN・ADSLまでが主流でしたし、ガラケーも2G回線でした。今とは比べ物にならないほど遅い通信環境なので、動画や高解像度の画像をサクサクと送受信することは考えられませんでした。

もちろん、インターネットが一般家庭に普及する前との比較で考えると、一方通行とは言え、世界中のさまざまな情報にアクセスできることは非常に画期的だったので、純粋にすごい仕組みだったわけです。

でも、たとえばホームページを1つ作成するにも、でっかいハードウェアを買ってセットアップして、自分でサーバーを立てて1行ずつスクリプトを書いていく必要があったので、情報発信のハードルは結構高かったと言えます。だからこそ、情報の発信者と受け手がある程度明確に分かれていた時代でした。

--なるほど。

そんな情報の発信者と受け手の境が薄れていったのがWeb 2.0の時代です。Web 2.0では、FacebookやGoogleなどのテクノロジー大手が、一般大衆の作ったコンテンツ、いわゆるUGC(User Generated Contents)をネット上に流通させた時代と言えます。

ざっくりと2000年代半ばから現在に至るまでのインターネット社会を示すことが多く、モバイル領域ではスマホが台頭し、通信環境もADSLから光へ、モバイル回線では3G→4G→5Gと、それぞれ飛躍的に進化しました。

ちなみに、Web 2.0という言葉を初めて使ったと言われているティム・オライリーさんは、「What Is Web 2.0」という論文で以下のような対Web 1.0との比較表を作っています。

--要するに、僕たちのような一般大衆が発言力を持てるようになった時代ということですね。

そうなのですが、一方でその情報の流通をつかさどることで、テック大手が大変な影響力と富を手にすることになった時代とも言えます。

このテック大手という「中央」に集中した富と権力を分散させて、人々の手に取り戻そうというのが、Web3が本質的に目指すところです。前回もお伝えしたとおり、「パワー・ツー・ザ・ピープル」と「非中央集権社会」(分散型社会)がWeb3の哲学であり、目標でもあるのです。

そして、その哲学と目標を実現するための技術がブロックチェーンやブロックチェーンを補完する技術であり、これらの技術を総じて「Web3関連技術」と呼んでいます。

未だ実現していない、オンラインでの「関係性の表現」

Web3関連技術はここ数年で急速に進化しました。専門的過ぎるのでここでは割愛しますが、そもそもブロックチェーン自体が考えに考え抜かれたすばらしいアイデアで、よくこんな仕組みを思いついたものだと思います。

秘密鍵と公開鍵を使った公開鍵暗号方式をはじめ、スマートコントラクトやプルーフ・オブ・ワーク(Proof-of-Work、PoW)、プルーフ・オブ・ステーク(Proof-of-stake、PoS)などといったWeb3技術も、考えついた人はみな天才だと思います。

--こうした技術のおかげで、ビットコインやイーサリアム、ネムのように、通貨の機能をオンライン上で表現できるようになったわけですね。

そういうことです。でも、社会や経済の活動の中で大事なことが一つ、まだ実現できていません。それは「人間の関係性」の表現です。

--関係性の表現?

人間は、大量生産される大衆消費材のように、すべてが同じパッケージ、同じ中身、同じ価格ではありません。多くの人の中から、この人と仕事がしたい、この人は信用できる、この人なら責任感を持って仕事をやりとげてくれるはず、などと感じながら一緒に仕事をしたりしなかったりします。

信用できる人にお金を貸す場合は利子を少なくしてあげたいですし、この人なら仕事を任せても大丈夫という人なら給料を上げてあげたいでしょう。

このように、リアルな社会の中では多くの場面で「関係性」をもって物事の価値を決めているのに、その関係性を今のWeb3技術では表現しきれていません。だからこそ、Web3と呼ばれるサービスであっても、Web 2.0の中央集権型サービスに頼らざるを得ない状態になっているのです。

--Web 2.0ライクなサービスに頼るって、具体的にどういう場面がありますか?

たとえばNFTアートを考えてみましょう。NFT化されたアートは、ファンがいるので値段がつくわけで、ファンコミュニティが形成されているアーティストほど、作品の値段が上がります。まさしく関係性で値段が決まるわけです。

ところがファンとつながるために、多くのアーティストはWeb 2.0の代表的サービスであるTwitterを利用しています。

--たしかに!でも、たとえば世界最大のNFTマーケットプレイスである「OpenSea」上でファンとつながっているアーティストもいるようですよ?

よく勘違いされるのですが、OpenSeaは分散型のWeb3技術で運営されているわけではなく、ユーザーの情報を運営会社(OpenSea社)がすべて入手して管理する中央集権的なサービスです。つまり、アメリカ・ニューヨークに本社を構えるOpenSea社が倒産すると、OpenSeaもクローズしてしまうことになります。

ちなみに、株式会社に変わるWeb3時代の組織形態と言われる「DAO(分散型自律組織)」もそうです。DAOは、だれもがトークンを持つことで運営に参加できる組織なのですが、株式のようにその保有数をそのまま投票できる票数にすれば、トークンを多く保有する金持ちのメンバーの発言力が強くなります。

--たとえば一人一票というルールでいくと、男性メンバーが多いDAOの場合、男性の意見が通りやすくなりますね。まさに、多くの株式会社で起こっていることがDAOでも同様に起きる可能性があるということですね。

そこで多くのDAOでは、できるだけ少数意見を無視せずに多様な意見を取り入れるための工夫が、いろいろと施されています。

たとえば男性のメンバーが圧倒的に多いDAOでは、男性の票の重さを1.0以下に設定することで、女性の意見を通りやすくしています。特定の政治的志向のメンバーが多い場合は、少数意見のメンバーの票の重みを1.0以上に設定することで、多様性を重視する組織作りを目指しているのです。

では、どのようにしてメンバーの性別や政治的志向を調べているのかというと、今のところFacebookなどのWeb 2.0サービスに頼らざるを得ない状況なのです。

また、Web3サービスを利用するのには「ウォレット」と呼ばれる暗号通貨やNFTデータを収納するアプリが一般的に必要になります。これらのウォレットは大手暗号資産取引所が発行しているものが多いのですが、こうした取引所のほとんどはDAOではなく株式会社、つまり中央集権的な組織なのです。

--こうやって考えると、まだWeb3の技術だけでできることって、本当に限られているんですね…。

なぜこんなに中央集権的な仕組みに頼らざるを得ないのかというと、繰り返しになりますが、分散型の本人認証の仕組みが存在していないからだと論文では指摘されています。他の人や会社、組織との関係性のデータを自分自身で管理し、どの部分を公開するのかを自分で決めることのできる仕組みがまだ存在しないからだというのです。

そして、前回から何度もお伝えしているSBT(Soulbuond Token)が、そうした仕組みになりえる技術だということです。

※「トークン」そのものについて確認されたい場合は、以下の解説記事「トークン(token)とは?Web3や暗号資産(クリプト)を理解する上での定義や考え方、種類を解説」をご覧ください。

SBT(Soulbound Token)とソウル(Souls)

★論文の該当章:「§3 SOULS」

それではSBTの仕組みを詳しく見ていきましょう。

SBTの管理に不可欠な「ソウル」とは?

端的にお伝えすると、SBTとは、その人の学歴や職歴、技能を示すようなデータのことです。

--え?学歴って、たとえば「◯◯大学卒業」とかの、あの学歴ですか?

そうです。たとえば、卒業証書や技能研修の修了証をはじめ、社員証などの職に関するデータや、論文・ブログ記事、アート作品など、個人に紐つくさまざまな“属性情報”をSBTにすることができます。

前回、SBTとは「譲渡不可能トークン」だとお伝えしましたが、たとえば他人の卒業証書を手にしたとしても、使い道がないですよね。それが譲渡可能なNFTと異なる点なのです。

そして、こうしたその人物のスキルや属性を表現できるSBTを格納したアプリを、論文では「Soul(ソウル、魂)」と表現しています。暗号通貨やNFTを格納するウォレットのようなアプリをイメージしていただければと思います。

--えーっと、ちょっと整理したいです。自分についてのいろいろな属性データが集まったウォレットアプリのようなものということは、1つのアプリを起動したら1つのソウルがあって、そこにたくさんの属性データとなるSBTが入っているということでしょうか?

イメージとしては合っていますが、ソウルは1つである必要はないです。多くの人は複数のペルソナ(人格)を持っていると言われていて、会社員としてのフォーマルなペルソナがあれば、学生時代の友人たちの間で見せるカジュアルなペルソナ、配偶者に見せるペルソナ、親としてのペルソナなど、複数のペルソナを使い分けて生活しています。

それと同様に1人の人間が複数個のソウルを持つことになると考えています。

--ペルソナが分かれていること自体は理解できるのですが、ソウルという単位を複数に分けて管理することの必要性が、いまいち理解できません。何個も作っちゃうと、管理が煩雑になりませんか?

複数個のソウルの必要性については、私自身の日常生活に関する簡単な例でイメージできると思います。

実は私、Amazonのアカウントを2個持っています。1つは仕事関係の書籍を購入するためのアカウントで、もう1つはそれ以外の商品を購入するためのアカウントです。

前者の仕事用アカウントでは仕事関連の本が日々レコメンドされてくるのですが、仕事柄読むべき本を探し出すのが本当に大変なので、レコメンド機能が本当にありがたく、非常に重宝している機能となります。

そのレコメンドに、息子の漫画や生活用品が混じり込んでほしくないので、趣味の瞑想の本や生活用品、息子の漫画などは後者のアカウントで購入するようにしています。これらの購買記録データが仕事の本に混ざるとレコメンデーションの精度が落ちるような気がしますし、確定申告のときに仕事用のアカウントで購入した本を仕分けすることなくすべて経費扱いできるので、アカウントを2つ持つのは本当に便利なんですよ。

これと同様の理由で、私はソウルは複数持ちたいと思います。どんな本を読んで勉強しているかも、私の属性を示す重要なデータなのでSBTとしてソウルに格納しておきたいのです。

アナログな「人の関係性」をデジタルで表現するということ

--たくさんのSBT(属性情報を譲渡できない形でトークン化したもの)を複数のソウルに分けて管理する必要性は、なんとなくイメージできました。でも、このSBTって、要するにブロックチェーンで管理するものなんですよね?たとえばイーサリアムのようなパブリックチェーンに書き込むとすると、めちゃくちゃオープンな情報になるので、センシティブな情報についてはSBT管理に向いていない気がするのですが…。

おっしゃるとおり、ソウルの中のSBTは基本的に一般公開されます。ただ、中には一般公開したくないSBTもあるでしょうから、そういう場合は「プログラム可能な共有プライバシー」という機能で対応できると、論文では説明されています。プログラム可能な共有プライバシー機能については、この連載の最後(論文の該当章:「§7.1 Private Souls」)で解説する予定です。

--プログラム可能な共有プライバシー。覚えておきます。

SBTの中には履歴書のように自分で作成するものがあれば、卒業証書や運転免許証、ファンクラブの会員証のように、他の人や組織が発行したものもあります。そして、SBTを発行した人や組織も、そのデータをSBTとして自分たちのソウルの中に格納することになります。

つまり、関係性を持つソウル同士が同じSBTを持つことになるので、片方のSBTが間違って消去されたとしても、もう一方のソウルのSBTをベースに、失われたSBTを復元できることになります。

もちろん、これは個別でどこかにバックアップをとっておくという話ではなく、仕組みとして復元のスキームが備わっているということです。

--なるほど。となると理論的には、たとえばソウルそのものを間違って消去したり、もしくは盗まれてしまったとしても、SBTの要領で復元できそうですね。

お!鋭いですね。おっしゃるとおり、関係性を持つすべてのソウルがそれぞれのSBTを復元することで、盗られたり消去したりしたソウルを復元できることになります。

もちろん、本人認証の手段としては従来の戸籍やマイナンバーといった国が発行するデータを基にすることも考えられますが、われわれが友人知人を認識する場合、戸籍やマイナンバーで認証しているわけではないですよね。その人の仕事や社会での役割、自分との関係性などの複数の属性情報を基に、その人を一つの人格として認識していると思います。それが自然な認識方法であり、普段の生活で無意識に行なっている本人認証のようなものだと言えます。

国がそのような認証手法をとっていないのは、属性データを基にAさんとBさんの違いを認識できる仕組みがなかったからで、だからこそ、マイナンバーという数字で国民を認識するしかなかったわけです。

--少しずつ、SBTがどういう役割を担うトークンなのかが見えてきました。たしかに、これまでWeb3で登場してきたトークン群(NFT、ユーティリティトークン、セキュリティトークン、ガバナンストークン etc…)とは全然性質が違うものですね。

SBTと、ここ数年で飛躍的に進化しているAI技術を組み合わせることで、個々の人格の違いをソウルによって認識できるようになることが考えられます。

私たちは数字ではありません。社会の関係性の中に存在する1つの人格です。

今までは一意の数字でしかデジタル社会で本人を表現できませんでしたが、もしかしたら「関係性でデジタル社会を再定義する」という時代変化の入口に立っているのかもしれません。

--だからこそ、SBTは今後のネットのあり方に革命的なパラダイムシフトをもたらす可能性のある内容なんですね。論文が注目されている理由が少しずつ理解できてきました。

ではこのSBTを使ってどのようなことが可能になるのか。次回からは、具体例を挙げながらSBTの可能性を探っていきますね!

文:G.G
編集:長岡武司

※つづく(次回掲載は2022年9月22日 AM9:00を予定しています)

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