Soulboundトークンはデジタル時代の「社会的包摂の基盤」になるかもしれない 〜G.GのSBT解説 #3

Soulboundトークンはデジタル時代の「社会的包摂の基盤」になるかもしれない 〜G.GのSBT解説 #3

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2022年5月11日にイーサリアム(Ethereum)の提唱者であるビタリック・ブテリン氏が発表した論文「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」では、「Soulbound Token(SBT)」と呼ばれる新しいトークンのあり方を通して、現在のWeb3の課題を解決するアプローチが示されています。

SBTは様々な領域において、従来のオンライン社会では実現できなかった「リアルでは当たり前にできていること」をデジタル的に可能にします。

本記事ではその具体的なユースケースとして、「アート作品管理」、「ディープフェイク対策」、そして「融資管理」でのSBT活用のイメージを解説します。説明してくれるのは引き続き、高齢者DAOの開発を進めるG.Gさんです。

※前回記事はこちら

Web3の真髄は「関係性によるデジタル社会の再定義」にあり 〜G.GのSBT解説 #2

解説者プロフィール

G.G(ジージと発音)

現在高齢者向けDAOを準備中。高齢者が健康的、社会的な生活をすればトークンを稼げるAge To Earnのアプリを幾つか開発することを企画中。

アートとDeepFakeを解決するSolboundトークン

★論文の該当章:「§4.1 Art & Soul」

論文の第4章(§4 STAIRWAY TO DESOC)からは、これからのWeb3として志向される「DeSoc(Decentralized Society:分散型社会)」に向けて、Soulbound Token(SBT:学歴や職歴のような個人の属性情報をトークン化したもの)とソウル(SBTを格納するアプリ)の具体的なユースケースが解説されています。

その第一弾として挙げられているのが「アート領域」です。

アーティストをエンパワーするソウルの仕組み

--NFTもアートをきっかけに大ブレイクしましたよね。昨年の今頃に見た、夏休みの自由研究に380万円の価値がついた話がとても印象的でした。

NFTは、端的にお伝えすると作品の所有権を示すことのできるデータです。アート領域で考えると、油絵や水彩画などのリアルなアート作品の所有者を示すために発行される場合もありますが、デジタルアートの場合は“アート作品そのもの”をNFTデータの中に含むこともあります。

--いわゆる「NFTアート」と呼ばれるものですね。

そうです。ところがこのNFTは、誰でも発行できるものなので、アーティスト本人じゃなくても作品をNFTにして流通させることができてしまいます。現に他人のアート作品のNFTを勝手に発行して売るという詐欺が横行しているわけですが、そのことに本物の作者が気づいて「売買されたNFTは無効だ!」って宣言すれば、その作品はNFTを購入した人のものではなくなります。

--そう考えると、NFTであっても素人では真贋判定ができないから不安ですね…。

そういう詐欺は、SBTの登場で一掃されます。アーティストが自分のソウルの中に、美術学校の卒業証書や展覧会での賞状といったSBTを格納していれば、そのソウルの持ち主が社会的に認められたアーティストであることが必然的に分かりますよね。

つまり、「信頼性の高いソウル」から発行されたNFTであれば、「そのNFTを発行した人は本物の作者である」ということも証明されます。結果、「誰でも発行できてしまうNFT」よりも格段に安全・安心にアート作品を購入することができるというわけです。

--うーん。たとえばソウルの中に、偽物の属性情報(SBT)が入り込んでしまうことは考えられないのでしょうか?結局偽物の属性情報が入るようだと、「間違いなく本人だよ」という説得性が大きく損なわれてしまうと思うのですが…。

そこは、ソウルとSBTを分けて考えると良いでしょう。

ソウルそのものは一種の管理アプリなので、誰でも何個も作成して、管理・運用することができます。なので、たとえば何か悪さをしようとしてダミーのソウルを何個も作ろうとする人はいるでしょう。

一方で、ソウルの中身になるSBTは発行主体が明確に可視化されるので、たとえば悪意をもって特定の機関を装ってSBTを発行したとしても、それが正しい機関によって発行されたものでないことがすぐに分かってしまいます。

つまり、よくないことをするためにソウルを作ったとしても、そこには信用に足るSBTを格納することができないので、結果としてそのソウルは「信用できないソウル(正確には、信用に足る情報が少ないソウル)」というラベリングがなされて、ユーザーが「これは偽物だ」と気付ける仕組みになっています。

--なるほど。フィッシングサイトに誘導しようとする、怪しい友人情報しかないFacebookアカウント、みたいな感じですね。

イメージとしてはそんなところです。

話を戻すと、アーティストとしては偽物の流通を未然に防止できるだけじゃなく、SBTを発行することで作品と作品売買の記録を自分のソウル内に格納できることになります。

自分の作品のコレクションと併せて、それらが幾らで売れたかや、誰が所有しているかといった情報を世間に公開することができるので、自分がアーティストとしてどの程度社会で評価されているのかが一目瞭然になるわけです。

--Web3はクリエイターをエンパワーする社会システムになるという話がWeb3の解説記事にあったのですが、まさにクリエイターエコノミーのための技術と言えますね。

もちろん、こうした使い方はアート以外の分野でも、希少性、世間の評判、信頼、信憑性が重要である分野なら活用できるはずです。

SBTを使えばフェイクニュースも見極められる?

たとえば、本物であるという証明ができればフェイク情報の問題に対する解決策にもなります。

--テレビのフェイクニュース対策になると?

はい。フェイク情報は21世紀の“軍事兵器”の1つと言われるほどに大きな問題になっています。ロシアのウクライナ侵攻に関しても、国際世論を味方につけたり、敵国兵士の士気を低下させたりする目的で、フェイク情報が飛び交っています。

最もやっかいなのが、「DeepFake(ディープフェイク)」と呼ばれるフェイク動画作成AIです。2018年に米ニュースサイトがDeepFakeを使って実験的に作ったフェイク動画の中で、オバマ元米大統領が「トランプ(元大統領)はクソ野郎だ」と語っていて大きな話題になりました(以下動画の0:23〜)。

--この動画は本当にびっくりしました。もうこんなことができる時代になったんだなと。

この動画自体は、オバマ氏の話し方がどこかぎこちなく、なんとなく怪しい感じがします。でも、その後のAIの精度は急速に向上しており、今では本物の動画とフェイク動画の見分けがなかなかつかなくなっています。

「おしゃべりひろゆきメーカー」のように冗談として作られているものならまだいいのですが、証拠動画として裁判所に提出されたり、ニュース映像としてネット上で拡散されれば、社会が大混乱に陥る可能性があります。

--今、YouTubeで「deepfake」と調べるだけでも、いろいろな動画が出てきますね。知名度の高い有名人を模したものもあって、正直、言われても区別がつかないものもありますね…。恐ろしい時代です。

人間の目でフェイク動画を見抜けなければ、フェイク動画を見抜けるAI を作るしかありません。フェイク動画を作る側はより高性能のDeepFakeの開発を続け、見破ろうとする側はより高性能なフェイク発見AIの開発を続けることになります。

元Googleの中国支社長で「AI 2041: Ten Visions for Our Future」の著者のカイフ・リー氏は、「イタチごっこが続くので抜本的な解決策はあと何十年も出てこないだろう」との前提の上で、「解決策として可能性があるとすればブロックチェーンだが、今のブロックチェーンでは無理で、ブロックチェーンが2041年までにそこまで進化することはないだろう」と予測しています。

そんな中、SBTの登場によってDeepFake問題の解決の兆しが見えてきたわけです。専門家にとっても、未来予測は難しい時代になってきたと言えます。

担保なしのコミュニティローン

★論文の該当章:「§4.2 Soul Lending」

SBTのユースケース、2つ目に挙げられているのが「融資」です。

銀行やクレジット会社、消費者金融会社などの金融機関が無担保融資をするとき、金融機関はクレジットカードの返済履歴(credit history)などを基にして個人の信用格付(credit score)を決めます。

逆に考えると、クレジットカードの返済履歴ぐらいしか個人の返済能力を示す情報がないわけです。

--融資を受ける側としても、自ら進んで自分の与信に関わるような情報を差し出すメリットもインセンティブもないですからね。

しかし、金融機関のような中央集権的な組織による信用格付にはいろいろな欠点が指摘されていて、特によく言われるものとしては「公平性」の問題があります。

信用格付は、一般的に多くの消費者データをもって「信用力」や「融資金額が満額回収できる可能性」などを弾き出すわけですが、たとえば100万件のデータがある消費者属性と、3万件しかデータがない消費者属性だと、どうしても後者の信用格付が不正確になるリスクがあります。結果、たとえば少数民族や貧困層のような十分なデータがない層に不利な力学が働く可能性があるということです。

ブテリン氏は論文の中で、このような状況を、イギリスのテレビドラマシリーズ『ブラック・ミラー』の「ランク社会」(原題:Nosedive、シーズン3エピソード1)を引き合いに出して「差別を強化することになる」と警笛を鳴らしています。

--本来的に金融は人々の社会生活を包摂するもののはずなのに、それでは本末転倒ですね。

そんな中、消費者が学歴や職歴、レンタル契約書などをSBT化して自分のソウルの中で管理するようになれば、ローンの返済能力の有無がより正確に予測できるようになることが期待されます。もしもローンの契約書と返済記録もSBT化されてソウルの中に格納されるのであれば、ローンの返済能力はさらに正確になるでしょう。

もちろん、消費者にとっても、自分がどのような信用状態なのかを常に把握することができるわけです。

--まさにパワー・ツー・ザ・ピープルですね!

論文では、従来の中央集権的な信用格付システムがトップダウン型であるのに対して、SBTによる仕組みを「ボトムアップ型」だと表現しています。

また世の中のソウルのSBTをすべてAIに学習させれば、返済できるかどうかをより正確に予測するAIモデルが完成するでしょう。いろいろなAIモデルが登場するでしょうし、そうしたAIモデルをベースにした新たな金融商品もたくさん出てくることでしょう。

さらに、関係性のある友人や知人に対して、みんなでお金を貸すようなコミュニティ内金融の仕組みも出てくるかもしれません。もしかしたら、お金を貸すだけでなくて、「力」を貸すようなサポート体制も構築できるかもしれません。

--力とは?

要するに、何かしらの問題を解決するスキルや経験、知識などを提供してくれるということです。解決はなにも経済的な手段に限ったものではないので、お金以外にも、各種サポートを提供してくれそうな人を探し出すことも可能になるでしょう。

--なんだか、沖縄の北のほうにある共同売店を思い出しました。つまるところ、今の社会システムに古くからある包摂的なコミュニティを、いかにデジタル社会で実現するかということなんですね。

そのとおり!連載の最初の記事(#1.Soulbound Token(SBT)とは?Vitalik Buterin氏の論文から「Web3の未来」を考える)でもお伝えしたとおり、リアル社会では当たり前に行われていることが、本人認証の技術がないために今のインターネットではまだ実装されていません。その根本的な問題を解決する可能性を秘めているのが、今解説しているSoulbound Tokenという技術なのです。

ちなみに、先ほどのアート作品と同様に、融資についても適切な評価の仕組みが設計されています。と言うのも、たとえば芳しくない返済履歴をしてしまった場合、人によっては新しいソウルを作ってキレイな返済履歴へと“ウォッシュ”して融資をお願いしたいと思うでしょう。

でも、そのソウルの中には十分なSBTデータが蓄積されていないので、返済能力をAIが予測できず、どちらにせよお金は借りれないことになります。

--なるほど。返済履歴のデータは個人じゃ作れないですからね。よく出来ているな〜。

大都会の住民は地域コミュニティーとの関係性が希薄だと言われていますが、SBTが当たり前の社会になれば、ソウルを通じて関係性を大事にするようになるでしょう。

一方で、所属コミュニティは地域コミュニティに限定されません。オンラインを通じて自分と指向性のあった世界中のコミュニティと関係性を持つことができるので、「閉鎖的な村社会のような地域コミュニティは苦手なんだよな」と思っている人は、そこに拘束される必要はないことを理解してもらえればと思います。

次回は、このSBTがもたらす「コミュニティ」のあり方と、想定される機能について解説しますね。

 

文:G.G
編集:長岡武司

 

※つづく(次回掲載は2022年9月30日 AM9:00を予定しています)

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