CivicTech × GovTech。強みを活かし合う「官民連携」が公共DXを加速させる

CivicTech × GovTech。強みを活かし合う「官民連携」が公共DXを加速させる

目次

市民が自らテクノロジーを活用して、行政府サービスの課題解決を進めるCivicTech(シビックテック)。そして、政府や自治体といった行政府機関のサービス提供等に関わるテクノロジー活用を指すGovTech(ガブテック)。

デジタル時代の公共インフラ整備には、この2つを有機的に掛け合わせた「官民連携」が必要不可欠だと言えるだろう。

2021年9月18日〜19日にかけてオンライン開催された「Code for Japan Summit 2021」では、まさにそんなことを感じるセッションが多数組まれた。こちらは2014年より継続して開催されている、年に一度のCivicTechの祭典。特に今年は、東日本大震災から10年という一つの節目となるタイミングだからこそ、そのテーマを「Rebirth(再生)」に据えての実施となった。

今回は、その中でも「GovtechとCivictech、両輪で進める官民連携の新しい姿とは」というテーマで実施されたキーノートセッションについてレポートする。

登壇者は、経済産業省で官民連携をライフワークに活動する須賀千鶴氏と、市民セクターのテクノロジーを牽引する関治之氏。全く文化の異なるセクターの協働には何が必要で、現状不足しているものは何なのか。社会全体のDXを促進する新しい姿が見えてくる、非常にポジティブな語り合いとなった。

登壇者

  • 須賀千鶴(経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長)
  • 関治之(Code for Japan 代表理事)

デジタルアーキテクチャ・デザインセンターとは

まずは、今年の9月より動き始めたデジタル庁の立ち上げに携わってきた須賀氏による活動紹介プレゼンから。

「一つ、皆さまに知っていただきたいのが、デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)という、私たちが担当している組織です」

こちらは独立行政法人情報処理推進機構(IPA)内に設立されたもので、法律(※)に基づいたデジタル庁からの依頼に対し、システム全体のアーキテクチャを設計・提案するために機能している組織だ。

同団体のホームページには、以下の取り組みを通じてSociety 5.0時代の新たなデジタル市場基盤の構築において中心的な役割を果たす、と記載されている。

  • Society5.0を形成する基盤となるシステム全体のアーキテクチャを産官学の連携の下で設計・提案するとともに、その設計のための方法論を開発・確立する

  • 検討において見いだされる制度的・技術的な課題等について、産官学の関係機関等と連携、または必要な働きかけを行うことにより、制度の見直しや各種標準の整備、更なる研究開発等につなげていく

  • アーキテクチャ設計を担う中核的な人材を実践を通じて育成する

  • 上記の取組みを国際的な協力・連携の下で行うことにより、世界の課題解決にも貢献し、人を中心とした自由で信頼ある国際社会の発展に貢献する。こうした取組みにより、Society5.0時代の新たなデジタル市場基盤の構築において中心的な役割を果たす。

※情報処理の促進に関する法律第五十一条第一項第八号

「官民から様々な専門家の方が集まって議論をし、システムについて企み合う。そんな場所にしていけたらなと思っておりまして、私はこれを、第2の第四次産業革命日本センター(世界経済フォーラム)にしたいなと考えています。」

このように語る須賀氏の真意を知るには、まずは同氏の活動を振り返る必要がある。

全てはグラデーションになっていることの気付き

「入省以来、官民連携をひとつのライフワークとして、こだわって役人をやってきた」と語る須賀氏。きっかけは入省時に小泉内閣主導で進んでいた郵政民営化にあるといい、ここで民営化について徹底して深く学んだと言う。

国がやっている事業の中で、国が独占的に提供すべきもの、民間にお任せすべきもの、官と民がタッグを組んで行うべきものはいずれも明確に区分できるものではなく、全てはグラデーションであると気づく。その上で、いかにそのバランスを取るかが非常に興味深く、可能性を感じたのだと振り返る。

「ここから先は業務に関連して、どういう試行錯誤をしてきたかお話ししたい」と前置きして、須賀氏がまず挙げたのが、クールジャパン機構での「苦い経験」だ。

クールジャパンといえば、2011年にソフト外交戦略として注目された、大型助成金「J-LOP」と初の官民投資ファンド「Cool Japan Fund」を軸にした、日本のブランディング戦略の仕組みである。

これを推進するクールジャパン機構の立ち上げに、須賀氏は初手から参画。構想の企画書の最初の1枚から、官民ファンド立ち上げに必要な法案を作り、国会を通し、組織に加わってほしい企業トップや投資家トップのCIOに声をかけ、まさに走り回り思いを込めて組織を作り上げていったという。

「しかし」と須賀氏は続ける。

「その組織に私は出向しなかったのです。役所の常識では、ひとつの組織に3年が限度。人事がクールジャパン機構から私を外した時、私は淡々と受け入れてしまいました」

その後、クールジャパン機構は大きな問題をいくつも噴出させ、当初の期待を裏切ることとなる。

「官民で組みたいという“思い”だけでは難しく、課題が多いことを実感しました。
また、それをお願いする官の責任の重さも痛感しましたし、何より、組織を作った私が伴走しなかったことが大きな後悔として残っています。
苦い経験ではありましたが、官民連携に巻き込んでしまった人たちを、後悔させない形で実現したいという強いモチベーションも、この時に得ました」

大きなターニングポイントとなった次官・若手プロジェクト

大きなターニングポイントとなったのが、2017年の「次官・若手プロジェクト」だと須賀氏は振り返る。これは経済産業省の中で立ち上がった議論の場で、若手30人で今後の社会はどうなっていくのか、個人としてどうするべきなのか、役所は何をすべきかといったテーマを深めていった。

その議論をまとめた資料『不安な個人、立ちすくむ国家』を経産省サイトの片隅にひっそりとアップロードしておいたら、翌朝「大変なことになっています」と広報室から連絡が入ったと言う。一晩で150万ダウンロードという、経産省がこれまでに経験したことのないバズり具合になっていたのだ。

これをきっかけに、意見交換、ワークショップ、講演、勉強会などの声が民間各所から掛かるようになり、今もその流れは続いていると須賀氏は嬉しそうに語る。

「自分は全てのステークホルダーを俯瞰して見ているつもりでいましたが、全く気付けておらず、想像もできていなかった形で、民間には面白いコミュニティがあること、役所と同じ目線でコラボしてくれるプレイヤーがたくさんいることを、この時知りました。官民連携の裾野の広さ、可能性を改めて感じた出来事でした」

さらに須賀氏が取り組んでいったのが、世界経済フォーラムにおける「第四次産業革命日本センター」の立ち上げと出向だ。デジタル時代に重要とされるアジェンダは多岐にわたるが故に、優先順位を見極める必要があるのだが、これが非常に難易度が高いわけだ。あまりの難しさに政策が虫食い状態になりつつあることを懸念しつつ、官民を超えて多様なメンバーと虚心坦懐に議論できる場の必要性を訴えて始まった、世界経済フォーラムにとっても経産省にとっても初のジョイントベンチャーとなる試みだったのである。

設立当時、プロパー11名・企業フェロー26名・官庁フェロー6名の参加を受けて、ヘルスケア、モビリティ、スマートシティといった分野ごとに議論を深め、役所がエネルギーとリソースを割くべき事柄を抽出。
政策のアウトプットの質を上げていったと振り返る。

この、日本センターへの出向を終えて経産省に戻ってきた須賀氏が現在携わるっているのが、冒頭にお伝えしたデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)というわけだ。ここまでの話に鑑みて捉えると、「第2の第四次産業革命日本センターにしたい」ということは、まさに官民の知見を集合し、マルチステークホルダー・プロセスを経て、最終的にはIndia Stack(インディアスタック)の決済スタックのような世界のベストプラクティスに通じるものを日本でも作りたい、ということだと言えるだろう。

これまで機密だと思っていたものの9割は機密じゃない

後半からは、本イベントを主宰するCode for Japanの代表理事である関治之氏と須賀氏の対談となった。

民間の人が行政の枠組みに入った時、少し活躍しにくいように思うのですが、なぜだと思いますか?

須賀逆に関さん、デジタル庁のキーマンになってみてどうですか?

全力疾走しきれていない感じはありますね。

須賀民間の方はポテンシャルを出し切ることを遠慮されるんですよね。役所と民間は作法も違いますし、協力的な方ほど様子見して空気を読んで、遠慮したまま3年くらい経ってしまいがちです。
ひとつは能力ある人に決断をさせない、役所の過保護な面だと思います。役所の意思決定はみんなでするもので、民間の意思決定とは異なって、任せにくいやり方になっているんですよね。

地雷を踏まないようにと様子見しがちで、調整が大変だというのは感じます。あと、情報が流れて来ないのも理由かなと思いますね。

須賀ありますね。役所が扱う情報は自分自身のものじゃないから、すごく保守的になりがちです。
でも出向してわかったのですが、これまで機密だと思っていたものの9割は機密じゃない、どんどんシェアして、多様な人にフィードバックもらった方が良いと感覚がアップデートされましたね。

先ほどご説明のあった次官・若手プロジェクトのお話も聞きたいです。須賀さんと出会ったきっかけですね。

須賀ありがたいことに、1年ほどのブームの後も官民問わず、色々なところで同じようなプロジェクトが立ち上がって、元祖的な扱いをしてもらっています。一過性でなくサイクルになっているのが嬉しいですね。

発表した資料は出版にもつながった

あの時、官僚の方々が多くの人の意見を聞きたいとおっしゃっていたのが印象的ですが、霞ヶ関にいると聞きにくいこともあるのですか?

須賀官僚って、ことを起こすたびにステークホルダー分析することをすごく訓練されるんです。でも、市民セクターとかソーシャルセクターと呼ばれる存在がなかなか見えていませんでした。ごっそり見逃していたと理解した瞬間でした。

SENQでワークショップをご一緒しましたが、あの時「会いに行ける官僚」がキーワードにあがりましたね。僕たち民間からは 官僚や役人というステークホルダーを見落としていたように思います。

須賀役人も「みんな」の中に入れて、血が通った思いのある人間だとわかってくれる人が増えてよかったと思っています。

お互いに良い繋がりができましたね。いろんなプロジェクトが進むきっかけになりました。

公益に関する仕事は面白いし、その楽しさを解き放ちたい

「民」側の話をしたいのですが、官僚の方々がいろんなオープンな取り組みを始めていて、連携する機会が増えています。どういう人が共創関係を作りやすいのでしょうか?うまくいった事例もお聞きしたいです。

須賀圧倒的な当事者意識のある方ですね。問題が起きた時に担当者を責めるより、どうしたらうまくいくか、自分は何をすればいいかという方向へ考える人。関さんも東京都とのコロナ関連の共創の時、不確実性の高いプロジェクトだったのに、都もびっくりの当事者意識で案件を捌いて回したと伺っています。頼まれなくてもやっちゃう人は組みやすいですね。

チームでやるには互いに当事者意識が高いと、どちらの能力も発揮しやすいですね。都と作ったコロナのサイトは、イシューを全てオープンにしているので、指摘してくれた人に直してもらうことにしています。自分が全部やらなくて良い、という環境づくりも大切かもしれません。

須賀そういう意味では、デジタル庁への期待って、霞ヶ関文化とCivicTechという真逆の文化の出会いが擦りあって入り混じった、最先端の組織になるかもしれないというものだと思います。世界経済フォーラムから経産省に戻って最初にやったことは、民間から来てくれている方との1on1でして、モチベーションや興味関心を中心にお聞きしていきました。公益に関する仕事は面白いし、その楽しさを解き放ちたいですね。

民間の人材が活躍するためにと考えた時に、役所での心理的安全性ってこれから大切なテーマになりそうです。

須賀心理的安全性、低いですよね。どうしてああなってしまうのでしょうか。

怒鳴られる場面があるというのは大きいですね。それから締切が厳しい上に仕様も削れないのに、その理由もわからないことが多い、とかでしょうか。

須賀健全な百家争鳴とは違って、決断に不安な人への対応にリソース取られますよね。どうにかしなければいけませんね。

:最後に、NPOや市民セクターが官民連携に参加するきっかけをどうやって作ればいいのかについても教えてください。

須賀デジタルな公共財ができていない今、市民セクター、ソーシャルセクターの方々のスキルは喉から手が出るほど欲しいです。自信を持って手を挙げて、リソースのありかを教えてください。官民の国境を超えて、お持ちのスキルを余暇で構わないから一肌脱いでくれると嬉しいです。官側でも民側でもアウトプットの質が一気に上がって、日本全体がもっと元気になると思います。

ーーー

楽しさを解き放つ、という須賀氏の言葉が印象的だった。あらゆるステークホルダーは、まずは自分が持つスキルやマインドに自信を持とう。そして、手を挙げよう。DXを始めるにせよ、できることはそこからだという強いメッセージを受け取るセッションであった。

セッション動画

本記事をご覧になって、より詳しくセッションを聞きたいと感じた方は、以下にセッション動画が公開されているので、ぜひご覧いただきたい。

編集:長岡 武司
取材/文:麓 加誉子

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