ESG × スタートアップが世界を変える。支援側から見たインパクト投資とテクノロジーの今

ESG × スタートアップが世界を変える。支援側から見たインパクト投資とテクノロジーの今

目次

地域の課題解決や行政サービスの効率化を進めていくシビックテックの機運が高まるなか、去る2021年9月18〜19日に開催された「Code for Japan Summit 2021」では、「ESG/インパクト投資とテクノロジー」と題するセッションが行われた。

日本ではアイデアソンやハッカソン、ビジネスコンテストなどのさまざまなコミュニティでプロトタイプやプロジェクトが誕生している。しかしながら、実際に社会実装されたり、持続可能なビジネスモデルとして支援する仕組みがなく、継続的な活動が困難なのが現状だ。

そんななか、カンファレンスを主催するCode for Japanでは、今年から「Civictech Accelerator Program(CAP)」を立ち上げ、アイデアから生まれたサービスやプロダクトを、実社会に生きるユーザーへと価値提供できるまで育成する取り組みを始めている。

セッションでは一般社団法人コード・フォー・ジャパンの山崎清昭氏がモデレーターを務め、スピーカーには五常アンドカンパニー 経営企画部の田中はる奈氏、株式会社D2 Garage代表取締役の佐々木智也氏らが招聘され、今後の将来像を語り合う会となった。

あらゆる事業体のDXを語る上で、ESGは避けては通れないテーマだからこそ、非常に学びのある内容である。

登壇者

  • 田中 はる奈(五常アンドカンパニー 経営企画部)
  • 佐々木 智也(株式会社D2 Garage 代表取締役)
  • 山崎 清昭(一般社団法人コード・フォー・ジャパン) ※モデレーター

グローバルな金融包摂を進める五常アンドカンパニー

田中氏が所属する五常アンドカンパニーは、「民間セクターの世界銀行をつくる」を掲げ、マイクロファイナンス(小規模金融)事業を展開。主に途上国における事業向けの少額金融サービスの提供しており、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)に焦点を当てた取り組みを創業以来行ってきている。

現在はインド・カンボジア・スリランカ・ミャンマーの4カ国にビジネスを広げており、出資や融資、経営、テクノロジー、ガバナンス統制などの管理を中心に、金融包摂の実現に向けて各グループ会社をエンパワーメントしているという。

田中氏は「成長と利益を実現しつつ、世界中で通用する事業を確立させるために日々取り組んでいる」と説明する。

「創業期に複数国で事業展開できるかどうかの実験を行い、結果として確証が得られたのを機に事業を伸ばしてきました。現在はインドへ注力している状況で、資本の60%を投下し、事業ポートフォリオの80%がインドに集中しています。
ここで、世界にも拡張できるビジネスモデルを構築することが目下の目標となっています。将来的にはこれまで確立させたビジネスモデルをアフリカや中央アジアなど世界各国へと展開し、2030年までに50カ国1億人以上の人へ、便利で安い金融サービスを届けたいと考えています」(田中氏)

国内アクセラレーターのパイオニアが、新たにESG特化のファンド設立

D2 Garageの佐々木氏は、2005年から同社にてインキュベーション事業やスタートアップの投資育成部門に関わっている人物。
Twitter社の日本事業展開のグロース支援や日本初のアクセラレータープログラム「Open Network Lab」を主導し、数多くのスタートアップを立ち上げ、軌道に乗せた起業家を輩出している。

「2010年にOpen Network Labを立ち上げたのは、日本発の世界へ羽ばたくスタートアップを育成したいという想いからでした。
主にシードからシリーズAまでを育成支援し、大手ベンチャーキャビタルへ紹介していくのを基本軸に、日本におけるアクセラレーターの草分け的存在として10年間運営してきました。今まで約130社以上の卒業生を輩出し、15社の上場を含むイグジットの達成にもつながっています」(佐々木氏)

SmartHRやQiita、giftee、oViceなど、一度は耳にしたことのあるサービスばかりではないだろうか。
まさにスタートアップの登竜門として業界を牽引してきたわけだが、今年からは新たに、ESG分野のスタートアップに向けた「Earthshotファンド」をスタートさせている。

正式名称:Open Network Lab・ESG1号投資事業有限責任組合。
運用期間:10年間。
投資対象:Onlabの参加(応募・採択)企業ならびにESG分野に関連する企業を中心に、今後将来性が見込まれる日本国内外のスタートアップへの投資と、投資実行後の成長性の高い投資先へのフォロー投資

「2010年の立ち上げ以来、Open Network Labはエリアや領域に特化した形で横展開をしてきました。
そして近年、世界的な投資活動がESG分野に注目が集まっている状況を受け、ESG分野のスタートアップ企業の成長支援をするべくEarthshotファンドを設立しました。
持続可能な社会実現に向け、ESG分野のイノベーション創出を図るためにも、新しいエコシステム構築に尽力していく予定です」(佐々木氏)

ESG/インパクト投資におけるケーススタディとは

次に、成果を上げているESG/インパクト投資の具体的な事例について、登壇者より紹介がなされた。

まず田中氏からは、インドのニューデリー発スタートアップである「SATYA MicroCapital」が例として挙げられた。

SATYA MicroCapitalは2016年の創業以来、テクノロジーを活用したマイクロファイナンス事業を手がけており、主に女性起業家を中心にビジネス成長に必要な小口融資を提供している。

現在までに、インド国内21州の51万人を超える女性のマイクロ起業家を支援してきており、業界で最も脚光を集めるマイクロファイナンス機関となっている。

「SATYA MicroCapitalには2018年に出資しました。現在、4ヵ国7社で事業展開しているなかでも一番大きい規模の会社であり、将来が有望視されています。
出資を決めたのは、ローン提供のキャッスレス化など、オペレーションのデジタル化をかなり進めていること。そして、リスク管理の高度化が実現できていることです。
加えて、女性のエンパワーメントや貧困問題の解決など、五常アンドカンパニーの目指す世界観と合致していることも決め手になりました」(田中氏)

一方で、佐々木氏はごみ拾いSNS「ピリカ」と不動産ESGテックサービス「EaSyGo」を例示し、次のように説明した。

「ピリカに関しては今年でリリースから10年を迎えるサービスで、地道にごみ拾い活動を広めてきました。とかく、ごみ拾いは地味で自己満足になりがちですが、ごみ拾い活動自体をSNS化することで、ユーザー同士の感謝の気持ちを共有したり交流が生まれたりと、ごみ拾いを楽しみながら『自然と街を綺麗したい』と思う人の輪が広がっていく特徴を持っています。
また企業や自治体と連携し、プラスチックごみの調査やゴミが落ちている状況をAIで分析し、ヒートマップ表示する取り組みなども行っており、社会課題に挑むスタートアップとして注目度が高まっています」(佐々木氏)

EaSyGoについては、ビルから排出されるCO2削減にフォーカスしたプロダクトとして、不動産オーナーや運用会社向けに展開している。

「脱炭素社会に向け、ビルオーナーに対してCO2の排出量や入居テナントのCO2削減の活動を見える化し、ビル全体のCO2削減を目指すサービスになっています。
不動産テック × ESGのスタートアップとして、今後の成長が期待されています」 (佐々木氏)

今後はESG関連のスタートアップがどんどんと増えてくる

セッションの後半には、登壇者らによるディスカッションが行われ、現状のESG・インパクト投資における所感や課題について議論が繰り広げられた。

まず、出資する側の観点としてどのような判断基準を持っているのかという問いに対し、佐々木氏は「まだまだ北欧に比べ、日本はESG関連のスタートアップ少ないものの、ESGに対する起業家の熱いは見るようにしている」と述べる。

「SDGsやESGに社会的な関心が寄せられ、社会機運も高まっています。
そんな状況下だからこそ、ESG系のスタートアップが成長する土台は整ってきているので、今はまだ少ないですが、今後はESG関連のスタートアップが増えてくるのではと思っています。前提として、スタートアップをやろうと思う人は、何らかの社会課題を解決しようというパッションがあるので、概してポテンシャルは持っています。
とはいえ、投資側は経済的リターンがあるかどうかも見なければならないので、インパクト投資の評価軸含め、もっと判断基準をブラッシュアップしていく必要があるでしょう。
今まで環境問題への取り組みや多様性を認めるガバナンス統制などは見てこなかったのですが、今後出資判断する際は、ひとつの指標として取り入れようと考えています」(佐々木氏)

また田中氏の場合は、「①ビジネスとして利益を出せそうか ②持続可能なビジネスモデルか」を軸として投資判断をしているという。

「持続可能性や経済的リターンはもちろん、『五常のミッションやビジョンに合うか』も意識しています。そこは経営陣のミッション、ビジョンから現場のオペレーションまでかなり細かく見て判断しています。
ただ、マイクロファイナンスとしての重要指標はある程度把握していますが、業界やビジネスモデルが異なれば、横比較できない部分もあります。それゆえ、インパクト投資の指標は定めづらいため、今でも試行錯誤しながら議論を重ねている状況です」(田中氏)

また田中氏は、「社会起業家のよくある課題」についても以下のように触れた。

「社会起業家の特徴として、解決したい社会課題のスケールが大きいことが往々にしてあると思っています。
解決までの道のりが遠いからこそ、頑張り過ぎてしまう傾向があり、大義を持って一心不乱に取り組む姿勢をメンバーに強要しすぎると、疲弊してバーンアウトしてしまう原因になる。
また、同じような価値観を持ったメンバーばかりが集い、多様性が失われることもあります。起業家自身も独りよがりになるのではなく、周囲のメンバーと協調しながら取り組んでいくのが大切なのではないでしょうか」(田中氏)

海外ではESGやインパクト投資が飛躍的な拡大を見せている一方、日本においても経済的リターン以外の資金調達方法として、想いや共感の連鎖で資金を集めるクラウドファンディングが興隆している。着実に社会課題を解決するサービスやプロダクトにも、お金が集まるような土壌は整いつつあるのかもしれない。

シビックテックにお金が集まるトレンドは、もう始まっている

最後に今後の展望について登壇者らが語った。

「インパクト投資の仕事をしているなかで、シビックテックに資金が集まる世界観が生まれ、トレンドが来ていると感じています。
投資家からは、経済的リターンの話も出ることもありますが、長い目でリターンを考える投資家も増えてきているので、いいパートナーと共に社会課題を解決する
サービスを成長させるお手伝いをこれからもしていきたいです」(田中氏)

「シビックテックは目の前にある課題をみんなの力で改善し、大きく成長させていくものです。それを持続可能にするためには、収益性やスケールするビジネスモデルも大事だと思っています。私たちアクセラレーターなどのサポートもうまく活用しながら、一緒に課題解決していけるようなサービスを世に出していければと思います」(佐々木氏)

セッション動画

本記事をご覧になって、より詳しくセッションを聞きたいと感じた方は、以下にセッション動画が公開されているので、ぜひご覧いただきたい。

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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