メタバースプラットフォームの雄「cluster」が目指すクリエイターファーストな世界
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コロナ禍でデジタルシフトが加速し、その流れでインターネット上の仮想空間「メタバース」への関心度が非常に高まっている。
音楽やゲームといったエンタメ領域以外にも、小売りや不動産、観光などさまざまな業界からメタバースの有益なユースケースを見出そうと、各企業は試行錯誤している状況だ。
こうしたトレンドのなか、日本最大級のメタバースプラットフォームとしての地位を築いているのが「cluster」(読み方:クラスター)だ。
スマホやPC、VRといったマルチデバイスでメタバース空間に接続できる手軽さと、自分独自のアバターやワールド(cluster内のバーチャル空間)を構築できる体験が支持され、「クリエイターファーストの場づくり」と「バーチャル経済圏の確立」を目指している。
今回は、メタバースにおける事業戦略や今後の発展性について、クラスター株式会社 ビジネスプランニング事業本部でマネージャーを務める亀谷 拓史氏にお話を伺った。
「バーチャル渋谷」をきっかけにビジネスイベントの需要が高まる

2015年に創業したクラスターは、2017年にVRプラットフォーム「cluster」をリリース。
現在、同社は大きく2つの事業を展開しながら業容を広めているという。
「まずひとつは、会社の根幹を支えるCtoCのメタバースプラットフォーム『cluster』の運営と開発です。クリエイターが自分の好きな世界をcluster上で表現でき、バーチャル空間で物を売買したりすることができる体験を創出するために、機能の拡充やプロダクトのブラッシュアップを継続しています。また、clusterは『世界一敷居の低いプラットフォーム』というスタンスをもっており、誰もが気軽にバーチャル空間へと遊びにいけるよう、スマホ、VR、PCなどデバイス問わずにclusterへアクセスできることが大きな強みになっています」
もうひとつは法人向けのエンタープライズ事業だ。法人のメタバース空間の受託開発や、そこでのイベント制作運営も手がけているという。
「OEMというよりも、先ほどお伝えしたクリエイターやユーザーがすでに多く存在しているcluster上に法人のメタバース空間を制作し、イベント等を企画・制作しているようなイメージです。クラスターならではの優位性として、メタバース系のイベントコンテンツの立案から企画、運営まで、一気通貫で対応できることが挙げられます。ほとんどを当社で内製化しており、イベントを行う専用のスタジオを構えているなど、一社で全て完結する企業は他に類を見ないほどの稀有な存在になっていると言えるでしょう」
clusterがリリースされた当初は、VTuberによるライブイベントなどが主な利用用途だった。しかも、VRやPCにしか対応しておらず、コアなユーザーに向けたプロダクトだったそうだ。
それが2019年の終盤により多くのユーザーにclusterを使ってもらい、マスへ広げていこうとサービスのリニューアルを敢行。
2020年3月にモバイル版をリリースし、スマホユーザーの裾野を広げ、さらには法人ビジネスへと切り替えていったわけだ。


clusterの名が広く知れ渡るきっかけとなったのが、2020年5月にオープンした渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」だ。
通信大手のauと渋谷区の外郭団体・渋谷未来デザイン、それから渋谷区観光協会の三者共同で立ち上げた「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」の企画として、当初は渋谷の街中でXRコンテンツの提供を行う予定だった。それが突如として新型コロナウイルスが猛威を振るい、緊急事態宣言が政府から発令されたことでリアル施策が中止に。
その代替案として、バーチャル空間の渋谷を創り、何か面白いことをできないかという思いからバーチャル渋谷が誕生したのである。
「コロナ禍で外出自粛が叫ばれて急速にオンラインシフトが進むなか、幸いにもclusterではスマホアプリをリリースしていたこともあり、バーチャル空間に入るハードルを下げることができ、ユーザーも増えていきました。さらに、リアルな渋谷の街を忠実に3Dで再現したバーチャル渋谷のハイクオリティな世界観が大きな反響を呼び、clusterの認知度向上に寄与しました。これがきっかけで、他の法人様からの引き合いを多くいただくようになりました」
イベント数・動員数共に業界トップへと成長

こうしたclusterの評判は瞬く間に広がり、法人向けビジネスも順調に前進していく。
マーケティング戦略の観点で肝になっているのは「世界3大IP」の企画制作からデザインまで手がけ、3DCGで届けているところだと亀谷氏は言う。
「ポケモンをテーマにしたバーチャル遊園地『ポケモンバーチャルフェスト』やバーチャルハロウィーンイベントの『ディズニー ツイステッドワンダーランド』、人気アニメIP『ソードアート・オンライン』といった、世界的に有名なIPとコラボすることにより、マスへリーチすることができ、新しいユーザーの獲得にもつながります。そして、バーチャルらしい没入感や世界観に浸ってもらいcluster内でのユーザー体験を活性化していくというのが、基本的なビジネス戦略となっています」
そのほか、JRA「バーチャル競馬場」や横浜DeNAベイスターズ「バーチャルハマスタ」、自民党「メタバース演説会」、その他社内向けイベントなど、ジャンル問わずさまざまな法人イベントの実績をもっている。
年間に150ほどのビジネスイベントを手がけるclusterは、イベント数・動員数共に業界No.1のバーチャルイベントカンパニーに成長していったわけだ。
一気通貫でメタバースを提供できるチーム体制が大きな強み

clusterがここまでグロースできた要因について、亀谷氏は「世界3大IPの活用に加え、一気通貫でメタバース空間を作れるチーム体制と、創業当初からVRイベントを手がけてきた実績とノウハウがあったから」だと述べる。
「企画と営業を担当する『プランニング』から、制作や進行を行う『ディレクション』、クライアントの要望を形にする『クリエイティブ』、ライブ配信やバーチャルイベントを支える『スタジオワーク』まで、一貫性を持って納品を行える点が大きな差別化ポイントになっています。また、創業時よりVRのイベント制作をしてきた知見やノウハウを蓄積しているため、メタバースによるビジネスイベントにおいても、的を射た見せ方や最適化の仕方を提案することができます。
加えて、当社が培ってきた3DCGやワールドの容量を軽くしたままクオリティを担保する技術によって、ゲーミングPCやVRデバイスを使わずともスマホでスムーズに動かせるのも、大きな強みになっていると思います」
マーケティングやグロース観点で意識した点については「バーチャル初心者と本格的なクリエイターそれぞれがアバターやワールドをオリジナルで作れる機能を提供する」ことだと亀谷氏は説明する。
「プラットフォームを拡大していくためには、コンテンツを制作するクリエイターの数を増やさなければなりません。要はユーザーが消費できるコンテンツが増えていかないと広がっていかないわけですが、ゲームエンジン『Unity』のスキルを持った人を増やすのは難易度が高い。そのため、プログラミングの知識不要で、かつスマホからも簡単に誰でもcluster上でクリエイターになれる機能を開発しました」
ユーザーが自由にアバター制作ができる『アバターメイカー』、自分だけのメタバース空間が作れる『ワールドクラフト』といった機能は、ユーザーの創作力を掻き立て、バーチャル特有の没入感をより楽しむためのきっかけとなり、アクティブユーザーやアプリの継続率の増加につながったという。
「一方で、玄人向けの『Cluster Creator Kit』ではプログラミングでクオリティの高いアバターやワールド制作も可能で、両方のニーズに応えるために現在でもクリエイターファーストで機能の拡充やサービス改善を続けています」
世界一敷居の低いメタバースを目指し、クリエイターエコノミーを創出する

2022年10月20日にはクラスターが主催する「Cluster Conference 2022」にて、バーチャル経済圏の確立に向けた新たな機能や取り組みの発表がなされた。
まずはスクリプト機能だ。
ワールドクラフトやCluster Creator KitではJavaScriptを使えるようになり、アイテムにさまざまな動きを付けられるようになった。
そして、自分ならではのオリジナルアバターに対し、さらに装飾やドレスアップできるアクセサリー機能も開発中だという。
こうした背景には、クラスターの掲げるミッション「人類の創造力を加速する」のもとでのクリエイターエコノミー創出の思いがあると、亀谷氏は説明する。

「2022年9月にユーザーが制作したアイテムをcluster内で売買できる『ワールドクラフトストア』をリリースし、12月にはアクセサリーの売買を行える『アクセサリーストア』も開設する予定です。このようにプラットフォーム内でクリエイターの経済圏を確立していくことはもちろん、法人向けビジネスの観点でもユーザーとの新たな接点になると考えています。
これまでは展示会やイベントといった切り口でメタバースを活用するケースが多かったわけですが、マーケットプレイスを活用することで、ユーザーに刺さるような企業らしさを体現する3Dアイテムやアクセサリーを提供し、企業のロイヤルティやエンゲージメントがより高まると考えています」
現在、メタバース活用の主目的は、マネタイズよりもプロモーションやマーケティング寄りの施策が多いような印象を受ける。
他方、ユーザー視点でみれば、フィジカルの商品を購入する際の最適解はEコマースと言えるだろう。Eコマースでの購買体験をバーチャルに無理に持ってきても、メタバース本来の良さは活かせない。
物を買うなら、今までの情報社会の発展の中で最適化されてきたEコマースが最良だと言える一方、メタバースでは独特の没入感や臨場感を駆使し、ブランドのストーリーを伝えたり、バーチャル空間ならでのプロダクトを作ったりすることが、これからの時代に求められるのではないだろうか。
クリエイターファーストでバーチャル経済圏のインフラを創る
「3DCGは次の時代の鍵になる」
こう語る亀谷氏は、メタバースの未来やビジネスの可能性を次のように予想する。
「将来的には誰もが立体的な世界を創れるような世の中になるでしょう。地球上のほとんどの人がVRゴーグルをかけてバーチャル空間に入るようになるのはまだ先だと思いますが、現実世界に3D空間が入り、普段のライフスタイルに溶け込んでくるのはそんなに遠くない未来に現実となるのではと考えています。
クラスターのカルチャーには『世界に挑戦し、全人類を巻き込もう』というものがあるのですが、clusterが次世代の“紙”と言われるように、当たり前のように使われるツールを目指し、一歩一歩前に進んでいきたいですね。とはいえ、メタバースは新しい概念なので、法人のお客様がどうすればバーチャル経済圏の中でマネタイズしていけるかなどを、クラスターが先陣切って提案していけることをまずは目標にしたいと考えています」
同社の掲げるビジョン「バーチャル経済圏のインフラを創る」を根底に、これからも
クリエイターファーストで機能やツールを開発し、メタバースプラットフォームとしての確固たる地位の獲得を狙いつつ、人気IPやエンタープライズ企業と組むことで事業成長させていくとのことだ。
ライター後記
筆者が初めてclusterを使ったのは「バーチャル渋谷」で行われたハロウィンイベントだった。
これまでVRやオンラインライブには参加したことがあったが、渋谷に実在する店や街並みが忠実に再現された世界観に圧倒された。まるで、自分の分身(アバター)が本当に渋谷を歩いているような体験だったのを覚えている。
メタバースが身近になる日も、そう遠くない。
clusterの取材を通して、そう感じたのであった。
取材/文/撮影:古田島大介
編集:長岡 武司