「日本はまさしくレジリエントな国だ」|著名な歴史学者がコロナ禍で捉えた日本の強み

「日本はまさしくレジリエントな国だ」|著名な歴史学者がコロナ禍で捉えた日本の強み

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新型コロナウイルスの影響が長引き、私たちの生活を取り巻く環境は大きな変化の渦中にある。仕事もプライベートも遠隔による非対面設計へとどんどんと切り替えられており、企業はもとより、私たち一人ひとりにとってのステークホルダーとの関係性も非常に変動的だ。予測不可能な時代ではあるものの、いや、それだからこそデジタル化やDXといった「変化」を絶えず求められており、人々はどこか地に足のつかない状況の中であっても、必死で「変わろう」ともがき苦しんでいるのが今の社会だと言えるだろう。

そんなVUCAでDXな時代において重要なキーワードの一つが「レジリエンス(Resilience)」だ。何か困難があった際にそれを乗り越える力、とでも邦訳されようか。変化に伴う逆境を振り払い、危機を乗り越え、次なるポジティブな成長へとつなげるためのスキルであり、マインドセットである。

今回は、そんなレジリエンスをメインテーマに掲げるビジネスカンファレンス「COMPANY Forum 2021」(2021年11月14日開催)の様子をお伝えする。企画・主催は、大手法人向け統合人事システム「COMPANY(読み方:カンパニー)」を提供する株式会社Works Human Intelligence。製品提供開始から25年を迎える、国内でも有数のソフトウェアパッケージ事業者だ。

イベント冒頭で挨拶をする安斎富太郎氏(株式会社WHI Holdings/株式会社Works Human Intelligence 代表取締役最高経営責任者)。誕生から25年を迎えた大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の変遷とこれからについて紹介。オンライン/オフライン合わせて3,000名近くの参加者が聴講した(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

本記事ではその中でも、スコットランド出身の歴史学者であるニーアル・ファーガソン[Niall Ferguson]氏によるキーノートセッションの様子をお伝えする。複雑化した時代において、地に足をつけた将来戦略を描くためには、歴史から多くのことを学ぶ必要がある。当日はここ2年で経験した未曾有のパンデミックを軸として、主に日本と米国を比較しながら、私たちと世界が得るべき“学び”と“未来への視座”が語られた。

一見DXとは関係ないと思うかもしれないが、世界が注目する知性から見たレジリエンスの視点は、きっと不確実なプロジェクト推進における一つのヒントになるに違いない。

歴史は波の連続のようなものとして捉えるべきか?

「歴史は波となって打ち寄せてきます。大きな波と小さな波によって彩られているのです」

このように始めた、歴史学者のファーガソン氏。例えば日本の場合、大きな波は第二次世界大戦の後にやってくることになる。大戦の後塵から目覚ましい経済発展の波が押し寄せたことは誰しもが理解していることがだが、それと同様に、その波が1980年代末に頂点へと達し、不動産市場と株式市場を大いに活気づかせた後に1990年で一気に終焉を迎えたことも、また誰しもが分かっているだろう。

1980年代と現在の世界時価総額ランキングを比較すると、いかに日本が長期的な成長という観点で他国に追い抜かれているのかがわかるわけだが、一方で日本の株式市場においては、ここ10年間で新たな波が来ようとしている。以下のグラフが示す通り、その水準は1980年代末のバブル期へと向かっているようだ。

「ここで疑問に感じるのが、この波も、1989年の波と同様に、いつかは崩れるのだろうか?ということでしょう。つまり、歴史は波の連続のようなものとして捉えるべきか?という疑問です」

ファーガソン氏はかつて、2013年に“The Right Target for the Third Arrow”(邦訳:第三の矢の正しい目標)という論文を発表している。ここでいう「第三の矢」とは、当時の安倍晋三首相が掲げたアベノミクス「3本の矢」(金融緩和、財政政策、成長戦略)をのうち、主に3つ目の“成長戦略”のことを示している。つまり、3本の矢が成功するかどうかは、企業統治のやり方を根本から改革する第三の矢(コーポレート・ガバナンス)次第だという主張だ。

「この論文では、次のような内容を記述しています。つまり、日本の利用可能な土地の狭さという制約と、その追加コストを考慮したとしても、日本企業はアメリカ企業に比べて、自らが利用できる資本の貯えを有効には利用できていません。更に、アメリカの労働生産性は政府においてはそうではないものの、民間においては日本よりもかなり高いと言えます。企業経営と企業保有の世界に向けた解放こそが、日本がとるべき明白な一歩であり、これを行えば大きな利益が得られるということもデータは示しています」

現に我が国の政府は、2014年〜2016年にかけて、成長戦略の最重要課題としてコーポレート・ガバナンスの強化を強力に推進していった。

だが残念なことに、データはこの提言の有効性を示していない。ファーガソン氏の提言とこの成長との間には、何の関係もないのだ。

「私たちは、日本企業への海外からの投資、特にアメリカからの投資が企業統治における変革をもたらし、効率性を高め、日本企業が自らの貯えをより有効に利用できるようになると想定していました。しかし程なくして判明したことですが、私たちが提言したちょうどその頃に、日本企業の外国人持株比率はすでに頂点に達していたのです。つまり、私たちが論文を出版して以降、日本いおける外国人持株比率はそれほど増えていないわけです」

COVID-19で浮き彫りになった日米の“反応”の違い

このように俯瞰して見てみると、日本企業、いや日本そのものはどうやら「米国のようになること」を指向してきたように見受けられる。ファーガソン氏自身も8年前までは、日本が米国のような株式市場と企業統治を手に入れることを政策的な目標にしている、と考えていたという。


だが、ここ2年のコロナ禍を振り返ってみると、いわゆる米国の真似事という戦略には説得性が欠けると、ファーガソン氏は強調する。ここで同氏は、パンデミック下における両国の経験比較を試みた。

「この2つの国における人口100万人あたりの死者数について見てみると、アメリカのデータは大きな波となって現れていますが、それに比べて日本のデータはさざ波程度です。これについて私は、説得力ある答えを持ち合わせていないのが正直なところです」

日本は強制力の強いロックダウンを行ったわけでもなければ、ワクチン接種を他国に先駆けて進めたわけでもない。ファーガソン氏は、「もっと社会の根本部分での違いがあるだろう」と続ける。

「2つの社会は、特に年老いた人々に対して伝染力が強く致死的な新しい病原体の出現に対して、根本的に異なる反応を示したようです」

この内容を見ていく前に、そもそもCOVID-19は歴史的に見て、どれほどの惨事なのだろうか。ジョン・ホプキンス大学がWebサイトで公表しているデータによると、世界全体のCOVID-19による死者数は460万人を超えてるという。ただしこの数字はなるべく最小の形でカウントしたものであり、エコノミスト紙を含めた他機関は、死者数はもっと多く700〜1500万人ほどの間だろうとする論説もあるようだ。

だが、“死因”という観点で眺めてみると、昨年米国がもっともひどい時でさえ、COVID-19は最大の死因だったわけではなく、ガン・心臓疾患に次いで第3位であった。日々メディアを見ていると、ここ18ヶ月はCOVID-19が唯一の死因であるかのように錯覚しがちだが、当然ながら、従来からある一般歴な死亡原因が無くなったわけでは全くないのだ。よってCOVID-19がどれくらい深刻だったかは、より大きな枠組みの中で捉える必要があるとファーガソン氏は述べる。

公衆衛生対応および政治上の脆弱性があらわになった米国

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

上述した通り、COVID-19によって大きな被害を被った米国だが、当然ながら事前準備を怠っていたわけではない。パンデミックへの対策は行っていたが、それがほとんど機能しなかったのだ。

現に2019年、エコノミスト・インテリジェント・ユニット(英国『エコノミスト』誌の調査部門)とジョン・ホプキンス大学は、公衆衛生上の危機に対してどれほどの準備が進んでいるかの国際比較を公表したのだが、これによるとパンデミックに対して最も準備が整っていたのは米国で、その次が英国であった。だが実際に起きてみると、両国の対応はひどいものだったわけだ。もちろん、米国の準備計画に不足があったわけでは無く、例えば保健福祉省は2018年にパンデミックに対する36ページの準備計画を公表しており、素晴らしい内容として評価もされていたのだ。

またこれに加えて、米国は政治的にもかなり脆弱であることが露呈された。2020年夏に、ミネアポリスでジョージ・フロイドが警察官に殺された事件を受けて始まったBLM(Black Lives Matter)を記憶している方は多いだろう。「黒人の命も大事だ」という旗の下で抗議の波が盛り上がり、かつてないほどに大規模な抗議となって米国内を席巻したのだ。

ここで特徴的だったのが、抗議の他に「罪の償い」の波も引き起こされたという点だ。宗教色を帯びていたのだ。例えば抗議活動として黒人の牧師の足を清めることで、過去の奴隷制度と現在の人種座別についての赦しを神に請う人々が出現した。また、抗議を行なった白人の中には、おそらくフェイクの鞭による傷跡を背中に露わにして抗議の行進を行う者も現れたのだ。

「これを見て私は、1930年代、黒死病が猛威を奮っていた頃に中世ヨーロッパで目撃された光景を思い起こしました。“鞭打ち苦行者”として知られた人々が、自らの身体に鞭を打ちつけながら町から町へと練り歩き、人間の罪について赦しを請おうとしていた光景です。こうすることで、腺ペストという形での神からの天罰を逃れようとしたのです」

この政治的な脆弱性は、2021年1月6日(米国時間)で頂点に達する。トランプ大統領(当時)の支持者らによる連邦議会への押し入り事件だ。そしてこれに付随してもう一つ発生したのが、米巨大テック企業による、現役大統領の排除である。米建国の父たちは、扇動家が大統領に就任するような事態を想定して政治システムを構築したわけだが、それが機能しないことが明らかになり、そして公の場においても、大規模なテック企業が力を持ち過ぎたということが露呈したのだ。

「政治家としてのドナルド・トランプには様々な意見があるでしょうが、私個人の意見を述べるならば、彼は特に任期の終盤においてm憲法を脅威に晒したと考えています。だからと言って、わずかばかりのテック企業が公の場へのアクセス権を完全にコントロールし、大統領が自ら書き込んだ公的な声明をTwitterから他に移せないようにするなど、アメリカ大統領ですらもどうにでもできてしまう状況が良いことであるはずはありません」

これに対して、「日本はまさしくレジリエントな国だ」とファーガソン氏は続ける。

「パンデミックの最中においてオリンピックを開催するなど、並外れて大胆な行いです。他の多くの国々にはなし得なかった行いです。多くの国々は同じ立場であれば、開催を断念するか、開催することが不可能な事態に追い込まれていたことでしょう」

取材・文:長岡武司

▶︎​​この記事には後編があります(11月9日 AM9:00配信予定)

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