大前研一が考えるDX時代のエッセンス。オンラインを前提とした価値設計を進めよ

大前研一が考えるDX時代のエッセンス。オンラインを前提とした価値設計を進めよ

目次

昨年から続くコロナ禍において私たちの生活が一変する中であっても、企業は逆境を振り払い、未曾有の危機を乗り越えていかなければならないだろう。

それにあたって、次なる成長につなげるための鍵となるのは「Resilience(レジリエンス)」、つまりは “再起する力”だ。予測できない時代を駆け抜け、ビジネスを飛躍するためには、どのようなことを意識すればいいのかが、今強く問われている。

大手法人向け統合人事システム「COMPANY(読み方:カンパニー)」を提供する株式会社Works Human Intelligenceでは2021年11月4日、「COMPANY Forum 2021 -Resilience 新時代への再起力」と名打たれたカンファレンスを開催し、新時代への再起力を見出すための知見を共有した。

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

今回はその中でも、株式会社ビジネス・ブレークスルー 代表取締役会長である大前研一氏が、「デジタル大潮流」と題して登壇した模様をお伝えする。大前氏による歯に衣着せぬDX談義は、聞いていて心地が良く、また視聴者全体をエナジャイズする内容であった。

なお、同カンファレンスにて「レジリエンス」のあり方そのものを考察する別セッションについては、こちらの記事をご参照いただきたい。

DXを理解するにはフィンテック領域から入るのがいい

昨今、多くの企業が注目するDX(デジタル・トランスフォーメーション)。かつての成功体験から離れることができない企業は、テクノロジーを使いこなすディスラプター(破壊的イノベーター)の猛追に太刀打ちできずに、業界の構図全体を変えられてしまうケースも生じている。

これに対して大前氏は、DXの本質を「デジタルテクノロジーを用いて、21世紀型企業への変革を図ること」だと、冒頭に強調した。

「経営者自身が先頭に立ってDXを推進すべきです。サイバー社会とはいわば、全くの新しい大陸であり、自分の会社が定めたテリトリーでしっかりと杭を打ち、一度入り込んだら成功するまで出てこない。どんな苦難があろうとビジネスを開拓していくというレジリエンス力が、より求められる時代になっています」

DXと一口に言っても、非常に広範囲を意味し、どこから着手していいか迷うこともあるだろう。大前氏はDXを考える上で、まずはフィンテック領域から入ると理解しやすいという。

「世の中の大局的な流れがあるなか、コロナ対策による緩和マネーが流入し、スタートアップ投資が拡大している状況ですが、とりわけフィンテック投資が世界中で急拡大しています。というのも、旧来の金融機関やサービスが音を立てて崩壊してきており、他のEコマースやAI、ヘルステック領域と対比しても、フィンテック関係のユニコーン企業は格段に増加しているのです」

世界に比べて遅れを取っている日本のフィンテック

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

しかし、日本のフィンテックはアメリカやイギリス、中国やインドなどに比べて周回遅れになっているという。

長らく金融法の下で定められた規制はもとより、国内の大半の預金取扱金融機関が参加する「全銀システム」が牙城となって立ちはだかり、イノベーションを起こすには非常に困難になってしまっているのが原因と言えるだろう。

それは、キャッシュレス社会の発展という観点で見ても顕著だ。コロナ禍でアジア太平洋や欧州、北米などを中心にキャッシュレス化が加速している一方で、日本はまだまだキャッシュレス社会の浸透は道半ばの状況となっている。これには様々な要因が考えられるが、一因として日常生活と行動文化において未だ現金が出回っていることが大きく関わっており、他国に比べて日本のフィンテックが遅れているのも現金主義から抜け出せないことが要因になっているわけである。

「日本では近年、スマホのQRコード決済サービスが人気沸騰しているものの、シェア獲得するためのキャンペーンを終了した暁には、果たして成長し続けるかは疑問に思うところがあります。直近では、QRコード決済事業者が手数料の有料化を発表したことで、例えばスーパーマーケット各社は自社専用のキャッシュレス決済の導入を急いでいます。今まで蓄積した自社ポイントサービスのデータを紐付け、購買履歴をもとにクーポン配布や還元率を考える方が合理的であり、手数料で持っていかれる分も収益も確保できるからです」

本気でキャッシュレスを普及させるなら“決済マフィア”を解体せよ

他方、国内でもこれまで高いと批判されてきた銀行経由の送金手数料に、変化の波が押し寄せているという。日本では、スマホでの個人間送金の手数料を安くすることで、少額の送金を可能にする小口トランスファー(ことら)だ。

海外に目を移すと、株取引における手数料を無料にしたアメリカのRobinhood(ロビンフッド)は若者を中心に支持され、既存のヘッジファンドを脅かす存在になるまでに成長している。金融業界における既得権益ともいうべき手数料を無料にする代わりに、PFOF(ペイメント・フォー・オーダーフロー)という、金融商品の値付け業者に顧客の注文を流し、その分のリベート収入を得るという新たなビジネスモデルに活路を見出したのだ。

ソーシャルゲームの要領で投資ができるということで米国の若者を中心に人気が高まっている。一方で2021年11月8日(米国時間)には、数百万人分の顧客情報が第三者のアクセスにさらされたとのデータセキュリティ・インシデント発生を同社が発表しており、ユーザーの安全・安心に向けた課題は多い

このようにフィンテックのビジネスモデルは、まだまだ開拓の余地があり、色々なシーズが眠っている。それゆえ、DXの潮流をつかむにはまずフィンテックを抑えることが重要なわけである。

また、スマホ普及に伴って「岩盤規制のない新興国でもモバイル金融(スマホ送金)が急速に急拡大している」と大前氏は語る。

フィンテック領域のユニコーン企業を多く輩出する英国では、HSBC、バークレイズ、ロイズ・バンキング・グループ、ロイヤルバンク・オブ・スコットランドの4大銀行による寡占状態が長らく続いていた。しかし、2008年の金融危機を機に政府は規制改革を行い、銀行業への新規参入要件を見直したのである。

その結果、多くのプレイヤーが銀行業へ参入するようになり、現在ではMetro BankやVirgin Money、Monzoなどのチャレンジャーバンク(銀行免許を取得し、デジタルを活用した金融サービスを提供する企業)が台頭してきている。テクノロジーを活用し、既存の銀行業界にイノベーションをもたらしたことで、インベスターからも将来性を見越した投資が盛んになっているのだ。

大前氏は「もし、日本でキャッシュレスを本気で普及させるなら、“決済マフィア”を解体するくらいの勢いがないと実現できない」と言及する。

「長年、金融業界を支えてきた旧態依然とした仕組みを変え、キャッシュレス普及の足かせになっている岩盤システムを一度解体しないと、フィンテックサービスが入り込む余地がないでしょう。ネットのセキュリティを高め、既存の岩盤システムを介さないデビット方式の決済手段を導入、普及させることができれば、キャッシュレス決済の手数料は0.5%以下へ下げられるので、多くの事業者にもメリットとなります。
スマホのOSを使うことを前提に、オープンAPIを進めていけば、金融機関が独占していた送金や決済、運用などを各事業会社単位で可能になる。今後のキャッシュレス社会の浸透は、オープンAPIが鍵を握っていると言っても過言ではありません」

世界的に進む金融包摂の流れは業界の新常態を作る

さらに欧米では、クレジットカードの代替として後払い決済「BNPL(Buy Now, Pay Later)」が急成長し、ユニコーンも誕生している。米国Stripeと業務提携したスウェーデンの「Klarna(クラーナ)」や米国の「Affirm」、オーストラリアの「Afterpay」などを中心に、後払い決済は世界的に大きなトレンドになっているのだ。

日本でもオンラインショップ向けの後払い決済サービス「Paidy」が、今年9月にPayPalから3,000億円で買収されたことで大きな話題となった。加えて、イー・ギャランティ社の「eG Pay」やネットプロテクションズ社の「NP掛け払い」などの法人向け後払いサービスも登場しており、手元資金が限られる日本の中小企業にとっては資金繰りの改善が期待できる状況になっている。

今まで資金運用の面からビジネスの投資もしづらかった中小零細企業も、後払い決済が一般化してくれば、思う存分ビジネスに軸足を置くことができ、事業の成長機会を増やすこともできるだろう。こうした流れは、ファイナンシャル・インクルージョンが進み、皆が平等に金融サービスの恩恵を受けられる社会に向かっているとも言える。

「今までのクレジットカードを主体とした金融サービスは排他的(エクスクルーシブ)だったが、世界のフィンテックトレンドは、すべての人に金融サービスを提供する金融包摂(ロングテール型)の方向性が広がっています。資産の少ない若者はスマホや無店舗型で金融サービスを享受し、資産や信用スコアの上昇に伴って対面・店舗型へ移行し、プライベートバンクなどのハイタッチなサービスの恩恵を受けられるようになってくるでしょう。貧困や差別などに寄らず、あらゆる人が平等に金融サービスを使える社会が到来することで、金融業界は大きな変化が起こると考えています」(大前氏)

DX推進はリーダー自身の変革が重要になる

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

21世紀はテクノロジーの進化やディスラプター(破壊的イノベーター)の台頭により、これまでの産業や業界構造が根底から覆されることも起こるようになった。その最たるものが米中の先端テクノロジーを巡る覇権争いだ。

テクノロジーを駆使したディスラプターの脅威に対抗し、企業が存続していくためにも、DXを推進して21世紀型企業へと変革していくことが求められていることだろう。

大前氏はアフターコロナに向け、DXを推進する上で大事なことを次のように述べる。

「アフターコロナの『オンライン化する世界』では、小売、飲食、労働、医療、住まい、教育などあらゆる分野でDXの進行が予想されます。それぞれの分野にはリアル経済、サイバー経済、ボーダレス経済、マルチプル経済の4つの経済空間が生まれてくるでしょう。アフターコロナにおけるDXは、リアルでやっていたことのオンライン化ではなく、“オフラインを前提とした価値設計”が大切になってきます。すべてがオンラインになり、オフライン単体がなくなる時代のビジネルモデルを構築することが必要になり、ゼロベースで考えなければなりません。
こと日本においては、『大きな政府+大きな公的債務』を甘受してきたわけですが、富の創出メカニズムを抜本的に作り出さなければ、衰退の一途を辿ることになる。しかるに、飛び抜けた人材とメガリージョン(都市圏から生まれる広域の経済圏)が21世紀の繁栄においては必須になってくると考えています」

そして最後に、DX推進にはリーダー自身が自分を変革することの重要性を説き、セッションを締めくくった。

「DXは、単に既存の業務プロセスのデジタル化ではなく、テクノロジーを用いた企業変革を担うことです。それには、リーダー自身がDXを理解し、デジタルで何ができるのか。どんな価値提供ができるかを理解した上で、会社のDXを推進しないと、うまく主導することはできないでしょう。DX人材の不足やヒューマンリソースがなければ、アウトソースしたりインターンを採用したりするなどいくらでも方法はあります。あらゆる手立てを考え創意工夫しながら、レジリエンスの気概を持ち、全社一丸となって取り組んでいくことが大切です」

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

関連記事

  • あらゆるサービスへと「金融機能」が埋め込まれる日

    あらゆるサービスへと「金融機能」が埋め込まれる日

  • 暗号資産からメタバースまで、Web3.0時代はとてつもなく面白い

    暗号資産からメタバースまで、Web3.0時代はとてつもなく面白い

  • 国内フィンテックのキーパーソンが集結。Fintech協会主催「FINTECH JAPAN 2021」

    国内フィンテックのキーパーソンが集結。Fintech協会主催「FINTECH JAPAN 2021」

  • 逆境をバネにして「夢」をみよ!DX時代にこそ響くJR九州会長の言葉

    逆境をバネにして「夢」をみよ!DX時代にこそ響くJR九州会長の言葉

  • 「マネーシステムは決済に閉じた話ではなくなる」日銀・金融研究所長が考えるデジタル通貨の論点

    「マネーシステムは決済に閉じた話ではなくなる」日銀・金融研究所長が考えるデジタル通貨の論点

News

  • 業務改革をもたらすデジタルツール発掘イベント「Less is More.」第8回を開催!

  • 静岡銀行の営業活動DXに向け、Salesforceを活用したコンタクト・センター拡充と営業支援システム刷新を支援

  • LINEでスタンプラリーの実現を目指す クラブネッツ、モバイルプロモーションのPKBソリューションと業務提携

  • Buddycomが次世代予測型見守りシステム「Neos+Care」と連携、業務負担軽減に貢献し介護現場のDX化を実現

  • 補助金・助成金DXのStaywayが補助金と地域金融機関、VCから総額7500万円のハイブリッド型資金調達を実施

FREE MAILMAGAZINEメルマガ登録

DXに特化した最新情報配信中