逆境をバネにして「夢」をみよ!DX時代にこそ響くJR九州会長の言葉

逆境をバネにして「夢」をみよ!DX時代にこそ響くJR九州会長の言葉

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時代の転換期真っ只中にある状況下において、企業に必要なことは、何事にも負けない“逆境力”だと言えるだろう。たとえ予想だにしない事態が起きようとも、揺るがず、ひるまずにビジネスを推進し、苦難を乗り越えていく。この姿勢こそが、今の時代を生きる全てのビジネスマンにとって必要なマインドセットだと強く感じる。

今回は、そんな「不確実性」を所与の条件としながら、事業成長のエンジンへと昇華させていった人物について取り上げたい。古今東西さまざまな偉人から得た“学び”を自らの経営に活かし、300億の赤字事業を500億の黒字事業へと転換させたカリスマ経営者、九州旅客鉄道株式会社 代表取締役会長執行役員の唐池恒二氏である。
同氏は、九州新幹線や豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」、駅ビル型複合施設「JR博多シティ」、東証一部への上場など、その全てにおいて陣頭指揮を執り、JR九州の成長へと多いに貢献した立役者として知られている。

2021年11月4日に行われたビジネスカンファレンス「COMPANY Forum 2021 -Resilience 新時代への再起力」における、唐池氏のセッション「夢みる力が『気』をつくる」を通じて、10年後も持続可能なビジネスのために必要な、リーダーの視点について考えていきたい。

逆境と夢は、人と組織を強くする

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

唐池氏は開口一番、「逆境と夢は、人と組織を強くする」と述べ、JR九州がいかに逆境に立ち向かい、夢を描きながら成長と進化を遂げてきたかについて説明した。

「遡ること35年前の1987年にJR九州は発足しました。旧国鉄は、全体で1兆円規模の赤字を抱えるような厳しい経営続きでしたので、そんな状況を打破するため、1987年に国鉄改革を敢行したのがJR九州誕生の経緯となっています。他方、全国の鉄道を地域ごとに7つのJR会社に分割し、赤字路線を多く抱えていた北海道や四国、九州を切り離したことで、本州のJR東日本、JR東海、JR西日本は初年度から大きな利益を上げるようになりました。

このような黒字を上げる他の地域とは裏腹に、JR九州は国鉄から引き継いだ鉄道路線の大半が、赤字を生むローカル線を抱えていました。初年度の鉄道事業は収入が1,100億円足らず。約300億円の赤字で、とても上場なんて考えられない経営状況でした」

国鉄改革によってJR各社に大きな格差が生じ、いわばマイナスからのスタートとなったJR九州は、「いつまで経営が持つか」などと揶揄されることも多かったそうだ。しかし、そうしたネガティブに見られることが、逆に奮起する原動力になったという。

「私を含め、JR九州の社員は危機感をバネに、鉄道事業の改革や新規事業への立ち上げなどに本気で挑みました。もちろん、発足当時は鉄道以外の事業経験もありません。気力とモチベーションだけで逆境を乗り越えてやろうという一心で、取り組んできたわけです。また、言うは易く行うは難しというように、一つ間違えば逆境に押しつぶされてしまう可能性もあります。そのため、逆境に立ち向かうべく夢を抱き、それを実現するために愚直に取り組んでいくことを35年間やり続けたのです」

悲願だった九州新幹線の全線開業

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

唐池氏がこれまで掲げてきた夢は、大きく分けて「3つ」あるという。

まず1つ目は九州新幹線の全線開業だ。JR九州の発足当時から「新幹線運行の担い手になりたい」と夢を抱き、日々仕事に打ち込んでいたと唐池氏は話す。

「本州には東海道新幹線や山陽新幹線など、着実に新幹線のネットワークができていましたが、九州は博多止まりになっていました。また、新大阪~博多間はJR西日本の運行だったので、JR九州としてはひとつも新幹線の路線を有していませんでした。そんな状況から、どうにかして新幹線を走らせることで九州の人に喜んでもらいたいという想いから、開業に向けて一歩一歩進んできたのです」

一方、当時の政府与党や省庁は、当面の間九州には新幹線を作らない方針を掲げていた。ゆえに、博多まで来ていた新幹線をさらに伸ばす目処は立たなかったわけだ。しかしながら、さまざまな働きかけやネゴシエーションを重ねていったことで、念願が叶い、2011年3月に九州新幹線の全線開業にこぎつけた。その時、すでに唐池氏は社長に就任しており、来たる日に向けて着々と準備を進めていた。

そして、開業前日の3月11日。「東日本大震災」として今なお語り継がれる大惨事が東北を襲った。唐池氏が、開業当日のセレモニーや祝賀会でのプレゼンに備え、練習を重ねていた矢先の出来事であった。

「テレビをつけて、震災の様子を見ていたのですが、阪神淡路大震災のときよりもはるかに甚大な被害が出ることは想像できました。これは単なる震災ではなく、国難だと悟ったのです。そしてすぐに部長や課長に連絡し、翌日に予定していた祝賀会をすべてキャンセルさせました。『3年前から仕込み、予算もたくさん投じているのだから中止せずにやろう』という声もありましたが、“やらない”という決断を下すのもリーダーの資質だと思っています」

とはいえ、計画から約40年の悲願に変わりはなく、JR九州の歴史に新たな1ページを刻んだ瞬間でもあったわけだ。こうして一つ目の夢である九州新幹線の全線開業を、見事成し遂げたのである。

全てが“世界一”を目指す、壮大な豪華寝台列車プロジェクト

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

2つ目の夢は、九州に世界一の「豪華寝台列車」を走らせること。

JR九州の発足当時、まだ唐池氏が副課長のポストの時のこと。師と仰ぐ、イベント企画やアイデアに長けた社外の知人と交流するなかで、「九州に豪華な寝台列車走らせれば大ヒットする」と教えてもらったのが原体験になっているという。

「『ななつ星 in 九州』を具体的に構想したのは2009年でした。社長に就任後すぐに、主だった課長や部長を集め、『世界一豪華な寝台列車を作ろう』と夢を語ったのです。というのも、2年後には待望の九州新幹線の開業が決まっていて、大変喜ばしい限りでしたが、『開業=夢がなくなる』と捉えることもできたわけです。
JR九州には事業開発本部という、鉄道以外のレストランや不動産、コンビニエンスストアなどいろんな新規事業へ挑戦する部署があります。そこでは、次から次へと“夢”が出てくるので、社員も常にチャレンジ精神で溢れていました。他方で、鉄道陣営は九州新幹線開通と共に夢がなくなってしまうため、別の夢を見出すことで、新たな目標へと向かうモチベーションになればと提案したのが寝台列車でした」

九州の山中にある、普段は1両か2両しか通らない脆弱な線路が、果たして重い機関車の通過にも耐えうるのか。また、高額な旅行代金を受け取る中で本当に経営として成り立つのか。寝台列車の実現可能性について検証するよう、唐池氏は各部へと指示を出した。

それから1ヶ月。各部長から返ってきた答えは、課題が山積するような内容だったという。しかし、反対派だった運輸部長をプロジェクトリーダーへと任命したところ、見事人事がはまり、実現に向けてどんどんと問題解決がなされていったという。

人の想いや夢、そして期待。見えない「気」が感動を呼ぶ

「ななつ星 in 九州」のデザイナーは、全国で多くのリゾート列車のデザインを手がけている水戸岡鋭治氏。壮大な計画に対して、初めはデザインそのものには着手せず、世界に点在している高級寝台列車の情報収集をするために海外へ出向きながら、アイデアを昇華させていった。

また車両を作る職人たちも、世界一の車両を作るという視座の高い目標を共有することで、モチベーションを高めていったという。今まで培ってきたクラフトマンシップを結集し、車両のいたるところに匠の技を施すことで、完成度の高い車両作りに奔走したわけだ。

寝台列車の客室乗務員も、元航空会社の客室乗務員やホテルのコンシェルジュなど、サービス業のプロ中のプロが集結し、開業の1年前からななつ星のサービスやホスピタリティを追い求め、研修を重ねた。

3泊4日、列車の中でお客さまが生活を送るなかで、どういう設備やデザイン、サービス、料理を出せば、ななつ星らしい唯一無二の体験を創造できるのか。何時間も、何ヶ月も、メンバー全員で思い悩む日々が続いたという。

そして開業の1年前に、とうとう寝台列車のデザインが完成した。車両としては完成度が高い。客室乗務員によるサービスも一級品と言える。

しかし、何かが物足りなかった。

そう。かの有名な世界的寝台列車のオリエント・エクスプレスが持つ、車両の構造を超えた「魂」のようなものが足りないのだ。

そう考えたデザイナーの水戸岡鋭治は、車両に一工夫加えるべく、佐賀県の有田焼で400年の歴史を受け継ぐ柿右衛門窯の門を叩いた。人間国宝に認定された故・十四代酒井田柿右衛門に、世界一の寝台列車にふさわしい焼き物を依頼し、客室にしつらえるための洗面鉢を14個制作してもらったのだ。十四代酒井田柿右衛門は洗面鉢以外にも多くの制作物を提供した。奇しくも、洗面鉢の納品1週間後に十四代酒井田柿右衛門が他界したことで、まさに寝台列車に魂を吹き込む役割を、焼き物が担ったわけだ。

こうして、ななつ星に関わるさまざまな人の想いや夢、期待が、目には見えない「気」となって、感動を与える要素と相成ったわけである。唐池氏は「気のエネルギーは感動のエネルギーに変化する」という考えを示し、次のように説いた。

「思いと手間を込めて作った商品は、新しい価値を創造し、感動のエネルギーを生み出します。人間誰しも「気」は持っています。これは私が部長時代から言い続けていることです。図示したような気を高める5つの法則を実践することで、気は集まってきます。7年間外食事業の経営者としてやっていた頃は、レストランや居酒屋の店長に対し『お店の中に気を満ち溢れさせないと、お客さまは来てくれず、繁盛しない』と伝えていました。気に満ち溢れた職場や人は勝利をもたらす、ということを、自分の中の信念としてずっと意識してきたのです」

どんな逆境もはねのけるために必要な「リーダーの資質」

(画像提供:株式会社Works Human Intelligence)

こうして唐池氏は、JR九州浮上の張本人として次々と事業を成長させてきたことで、2016年10月には3つ目の夢である株式上場も果たした。東証一部への上場である。本州のJR各社は1987年の発足から10年以内に上場を果たしたわけだが、JR九州も苦節30年の時を経て、ようやく日の目を見ることとなったのだ。

最後に、唐池氏はリーダー10か条について述べて、講演を終えた。

  • 第一条:逃げない
  • 第二条:逆境をバネにする
  • 第三条:夢をみる
  • 第四条:本質に気づく
  • 第五条:まず行動する
  • 第六条:勉強する
  • 第七条:伝える
  • 第八条:思いやる
  • 第九条:決断する
  • 第十条:真摯さ

「どんな逆境に立たされても逃げずに、むしろそれを力に変えて前に進むこと。そしてまず動いてみること。物事の本質を見極めながら、思いやりや真摯な気持ちを持ち、一所懸命に取り組んでいくことが大切になるでしょう」

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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