「Why NFT?」を明確にせよ。doublejump.tokyo COOが語る、世界が熱狂するプロダクト開発のポイント
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「Play to Earn」やゲーム×金融を組み合わせた「GameFi」が台頭し、ブロックチェーンゲームが注目を集めている。
国内においても、世界最大級のゲームギルド「Yield Guild Games(YGG)」が日本進出を果たし、さらにはYGG Japanと戦略的パートナーシップを締結した日本発のゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」の初期バリデータにSEGAやバンダイナムコ研究所、スクウェア・エニックスなど大手ゲームパブリッシャーが参画。ブロックチェーンゲーム領域の市場拡大に向けて、着実に前進しているような状況となっている。
こうしたなか、次世代のインターネットとしてWeb3が話題に上り始める前の黎明期より、ブロックチェーンゲームやIPを活用したNFTコンテンツを生み出してきたのがdouble jump.tokyoだ。
同社が2018年11月にリリースした「My Crypto Heroes(マイクリプトヒーローズ)」は、過去にブロックチェーンゲームとして世界No.1のユーザー数を記録したゲームタイトル。“マイクリ”の愛称で親しまれており、現在に至るまで世界中のユーザーから支持されるゲームのひとつとなっている。
今回はこのMy Crypto Heroesが世界中でヒットした理由や、同社がWeb3領域におけるリーディングカンパニーとして成長した所以について、double jump.tokyo株式会社 取締役COOの松谷 幸紀氏にお話を伺った。
ゲームからSaaSサービスまで、Web3領域でさまざまな事業を手がけるdouble jump.tokyo
NFT・ブロックチェーンゲーム専業の開発会社として2018年4月に創業したdouble jump.tokyoは、先述の「My Crypto Heroes(マイクリ)」をはじめ、「My Crypto Saga(マイサガ)」や「BRAVE FRONTIER HEROES(ブレヒロ)」など、様々な有名ブロックチェーンゲームの開発実績がある。
直近では、協業をメインとしたブロックチェーンゲームの開発を行うほか、ゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」のLayer2ブロックチェーン「HOME verse」の開発・運用を手がけている。
また、日本の大手IP・コンテンツホルダーと協業し、「IP × NFT」のプロデュース事業も展開。たとえば国内大手のアニメ制作会社・手塚プロダクションとタッグを組み、『鉄腕アトム』や『火の鳥』、『ブラック・ジャック』といった手塚治虫の人気漫画のNFTプロジェクトを主導している。
© 2021 Tezuka Productions, All Rights Reserved Produced by double jump.tokyo Inc.
© 2021 Tezuka Productions, All Rights Reserved Produced by double jump.tokyo Inc.
この他にも『キャプテン翼』のライツ事業を行うTSUBASA社と共同で「『キャプテン翼』ボールはともだちNFTプロジェクト」を立ち上げ、世界中の漫画ファンを盛り上げていく取り組みも行っている。
また、こうした企業やコンテンツホルダー向けのNFT事業⽀援サービスに加えて、事業者向けに秘密鍵(暗号資産の所有者を証明する暗号コードのこと)を複数人管理できるSaaSサービス「N Suite」を提供。松谷氏によれば、企業がWeb3領域のビジネスを始める際に「ブロックチェーンの秘密鍵管理が必ず課題になる」と見立てているという。
「Web3の事業において、何らかの原因で秘密鍵の漏洩につながり、大切な暗号資産を失ってしまうリスクも十分に考えられます。今後、多くの企業がNFTビジネスやブロックチェーンゲーム開発に参入してくることを見越し、今のうちからWeb3に特化したSaaS系ビジネスツールを提供することで、企業がweb3領域でスムーズに事業展開できるような土壌を整えていければという思いのもと、N Suiteを提供しています」
2018年リリースの「My Crypto Heroes」が成長の原動力に
このようにWeb3領域でさまざまな事業を手がけるdouble jump.tokyoだが、同社がこの業界で頭角を現すきっかけになったのが、冒頭でも説明した「My Crypto Heroes」の世界的なヒットだろう。2018年11月30日のローンチ初日で、イーサリアムベースのブロックチェーンゲームでは世界1位となるトランザクション数やDAUを記録したのだ。
なぜ、ここまで多くのユーザーに注目されるゲームになり得たのか。
松谷氏は「今のdouble jump.tokyoの原点とも言えるのがMy Crypto Heroesだった」と話す。
「2017年にリリースされた『CryptoKitties(クリプトキティーズ)』は、今日のNFTが広く知れ渡る端緒となったブロックチェーンゲームでした。ゲームのエコシステムを活性化するためにNFTを活用したユースケースはクリプトの未来や将来性を感じ、ゲーム内に登場するキャラクターや武器、アイテムをNFT化するという構想のもと、My Crypto Heroesのローンチに至ったのです。既存のゲーマーのほか、クリプトに張っていたユーザーもMy Crypto Heroesをプレイするようになったことで、ブロックチェーンゲーム業界で認知されていったと考えています」
しかし、2018年に発生したコインチェックのNEM流出事件や、クリプト・ウィンター(暗号資産の冬)の影響もあり、リリースから2年間ほどは下火だったという。
それが2020年のコロナパンデミックで金融資産が一気にクリプトへ流れてきたことが契機となり、ブロックチェーンゲームへの関心が再び高まった。
さらに、GameFiやDeFiといった潮流の高まりとともに、2021年の『CryptoPunks(クリプトパンクス)』や『NBA Top Shot』といったNFTバブルも到来しWeb3市場が急激に温まったことも、double jump.tokyoにとっての大きな追い風になったという。
「ゲーム内に登場するキャラクターやアイテムなどをNFT化し、唯一性や互換性を持たせることで、他のゲームでの共有や売買も可能になるというNFTならではの体験価値を追求してきました。My Crypto Heroesのノウハウを生かし、『BRAVE FRONTIER HEROES』や『My Crypto Saga』など、新たなゲームの開発にも着手してきたわけです。
そんななか、double jump.tokyoのプレゼンスをもっと高め、バリューアップしていくためには盛り上がるNFTブームのトレンドに合わせ、日本のIPやコンテンツに還元できないかと思い始めたんです。そこから、ゲーム特化型のブロックチェーン『Oasys』の構想やNFTコンテンツのプロデュースを考えるようになりました」
Why NFT?(なぜNFTをやるのか)が大切になる
先ほどもご紹介したNFTプロデュース事業の「NFTPLUS」では、バーチャルシンガーの初音ミクや書道家の武田双雲といったゲーム以外のIPともコラボし、NFTの企画・販売を行っている。
ブロックチェーンゲーム開発で培ったNFTのコンセプト設計やプロジェクトの戦略策定、IPの特性や事業の目的に合わせたブロックチェーンの選定など、トータルでプロデュースしているという。
こうした企業向けのNFTプロジェクト支援を業界に先駆けてはじめたこともあり、最近では多くの企業から引き合いがあるとのことだ。
「Web3関連の企業以外にも通信やメーカー、百貨店、航空などさまざまな業界からの引き合いが非常に増えています。『NFTを新規事業に取り入れたい』『X to Earn型のビジネスをやりたい』など、色々なご要望をいただくケースが多いわけですが、日本における税制や法務観点のフィードバックを行ったり、そもそもNFTを活用する必要性の有無なども含めてアドバイスさせていただいております」
また、これからNFTを生かしたビジネスを始める際に必要なマインドセットや取り組むべきことについて松谷氏へ伺うと「Why NFT?(なぜNFTをやるのか)をしっかりと明確化しておくことが大切になる」と語る。
「既存のコンテンツやIPを持つ事業者の中には『なるべく今のIPを活用し、NFTでビジネスしたい』という考えを持っているところもあります。でも、この考えのままでグローバルをターゲットにやろうとすると、海外からは見透かされてしまい、失敗に終わるケースをよく目にします。要は、単に既存のIPをそのままデジタルデータにして販売したようなものだと、特に海外では『NFTブームに乗っかっただけ』と捉えられてしまうわけです。このようなことを踏まえて、本当に今やろうとしていることに対し、NFTは本当に必要か。NFTにする理由は何かを考える必要があります。
仮に海外をターゲットにした場合、NFTは投機的な要素を多分に含むため、フロアプライス(2次流通)を維持するコミュニティやプロジェクトの継続をするリソースがあるかなど、『Why NFT?』をはっきりと定めるところから取り組むべきだと考えています」
ブロックチェーンゲームで大切な「トークノミクスの設計」と「遊び方の余白」
こうしたなか、直近のブロックチェーンゲーム業界の大きなトレンドは、ゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」の動向だろう。同チェーンでは独自の「Oasysアーキテクチャ」を構築することで、ユーザーに対して取引手数料(ガス代)や高速なトランザクションを提供し、快適なゲームプレイ環境を提供する仕組みになっている。
10月からのメインネットローンチの第1フェーズを経て、今後段階的に第2、第3フェーズと順次実装がなされていく予定だ。
そんなOasysのLayer2におけるメインデベロッパーを務めているのがdouble jump.tokyo。今後グローバルに向けて日本の大手ゲームパブリッシャーとともにクオリティの高いブロックチェーンゲームの開発に注力していく予定となっている。
これこそ、ブロックチェーンゲームのさらなる飛躍の鍵になると言っても過言ではない。
松谷氏は「魅力的なトークノミクスの設計と、様々な遊び方ができる余地を残せるかが肝になる」と述べる。
「ブロックチェーンゲームでよく議論されるのが『ポンジスキーム』です。どんなにゲームのエコシステムを考えて、インセンティブやサービス設計したところで、結局は最初に入った人しか儲からないんじゃないかと。せっかく面白いゲームを作ったのに、儲かる経済合理性を考えたときに、真面目にゲームをやっている人が稼げないのはアンフェアですし、あるべき姿でないと考えています。そういう意味ではMy Crypto Heroes独自のプレイスタイルである『士農工商』(下図参照)はユーザーにさまざまなさまざまなゲームの楽しみ方を提供する非常に良いユースケースだと捉えています」
また、自分たちでゲームのルールを決めて楽しめるような余白を設けることも大切だと、松谷氏は続ける。
「よりスケーラブルで新しいゲーム体験を提供するために、FTやNFTを活用したユーザー主体のゲームづくりが求められることでしょう。まだどんなものが最適解なのかは見出せていないものの、これまでブロックチェーン専業でやってきたノウハウを生かしながら、ハイクオリティかつ多くのユーザーが熱狂できるゲームを作っていきたいですね」
大手ゲーム会社と共創し、マスアダプションを目指す
double jump.tokyoは、これまでイーサリアムやポリゴンなど、複数のブロックチェーンを組み換えながらゲームを開発してきた。
そのなかで抱いていたのが、「ユーザー目線での遊びにくさやUXの悪さ」だったという。
こうした状況から、マスアダプションのためにはプロトコルレイヤーから変えていく必要があると感じ、Oasysのメインデベロッパーに参画したわけだ。
既存の日本ゲーム業界もOasysに注目しているものの、今現在では海外からの問い合わせが7割くらいを占めているそうだ。
「あくまでOasysのメインデベロッパーとしての見解ですが、特に韓国勢はすでに開発中のゲームにブロックチェーン要素を加えたりして、Oasysのエコシステムに入ろうとする気概が感じられます。私自身も、日本のゲームパブリッシャーと連携しながら、マスアダプションに向けて尽力していこうと思います」
ライター後記
double jump.tokyoの取材にあたっては、Web3界隈のイベントで度々目にする企業だったため、今回興味深い話を聞けて大変勉強になった。
ゲームに特化せず、さまざまなジャンルのNFTプロデュースをしている取り組みは、まさに業界を牽引してきたdouble jump.tokyoだからこそできることなのだろう。
これからもWeb3領域の主導的企業として、さらなる発展を期待したい。
取材/文/撮影:古田島大介
編集:長岡 武司