FinTechとEdTechの有識者対談。金融と教育で大切な「DX」と「UX」の視点

FinTechとEdTechの有識者対談。金融と教育で大切な「DX」と「UX」の視点

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AIやIoT、XR技術などテクノロジーの劇的な進化はIndustry 4.0(第四次産業革命)をもたらし、あらゆる業界でイノベーションが起こっている。それは昨年からのコロナ禍で顕著となり、今まさに時代の転換期を迎えている状況と言えるのではないだろうか。

そんななか、「新しい環境の選択肢を知っていただくこと」と「既成概念に囚われない教育イノベーターを生み出すこと」を目的としたEdTechグローバルカンファレンスイベント「Edvation x Summit 2021 Online ~Beyond GIGA~」が、2021年11月18日から4日間にわたって開催された。

文部科学省が提唱するGIGAスクール構想に沿って、ICT教育を普及させるために生徒一人一台のデバイス配布を実施するなど、学校教育のデジタルシフトも進んでいる。

これからの未来における教育の指針やあり方はどのようなものになるのだろうか。今回は、xDXで重点的に特集してきたフィンテックとこのEdTechの交差点を探る、「EdTech × FinTech」と題したセッションの模様について取り上げたい。

・瀧俊雄 (株式会社マネーフォワード 執行役員 サステナビリティ担当 CoPA 兼 Fintech研究所長)
・板倉寛(文部科学省 初等中等局学校デジタル化プロジェクトチームリーダー/学びの先端技術活用推進室長/GIGA StuDX推進チームリーダー)
・船津康次(トランスコスモス株式会社 代表取締役会長兼CEO) ※モデレーター

金融の民主化に向けての昨今のフィンテックトレンド

まずはマネーフォワードの瀧氏が、自己紹介を兼ねてDXを取り巻く所感について話した。


「もともと野村証券で研究者として働いていましたが、2012年にマネーフォワードの設立に参画しました。『複雑でわかりづらいと思われているお金の概念を変えたい』という想いのもと、もっとお金が身近になるような世界を追及し、これまで事業をやってきたのです。FinTechは金融とテクノロジーを合わせた造語だと言われていますが、そもそもなぜ金融の世界で重要かと申しますと、シンプルに『金融=規制の塊』のような産業だからです」(瀧氏)

従来であれば、規制のコストを金融産業特有の収益性でまかなうことができ、さらにはイノベーションも生み出せていたため、産業の成長に繋がっていた。だが、金融はお金のニーズに照らして伸びていく産業であるがゆえ、近代の我が国に見られるような低成長やゼロ金利、人口減少に伴う銀行の必要性の低下などの影響で、未来における投資がしづらい状況が生まれてしまっているのが現状だ。こうした問題は、既存の金融インフラや金融機関がインターネットテクノロジーの進化の流れについていけなかったのが原因だと瀧氏は続ける。

「最近では光明の兆しが見えてきていると感じていて、金融庁が銀行の機能や全銀システム(全国銀行資金決済ネットワーク)の仕組みを、インターネット系企業へ開放しようという動きが出てきています。まだまだ途上ではありますが、いわゆる“金融の民主化”に向け、新たな金融産業のあり方を考えていく上ではいいタイミングなのではと考えています」(瀧氏)

金融を起点とする規制テクノロジーについては、以下の記事でも言及しているので、ぜひ併せてご覧いただきたい。
社会のDXを加速させるために、「規制のサンドボックス制度」が果たす役割とは

既存の授業改善や個別最適な学び等に向けた「GIGAスクール構想」

文部科学省の板倉氏も、自己紹介とともにGIGAスクール構想による教育の質の向上についてトピックを立て、意見を交わした。板倉氏は現在、今年10月に立ち上がった「学校デジタル化プロジェクトチーム」にて、校務の情報化やセキュリティ対策、ICTを活用した指導方法の整備、教育データの利活用などを推進している。

2021年10月1日文部科学省「文部科学省組織令等の一部改正について」より

また、学校現場の先生たちで構成されている「GIGA StuDX推進チーム」では、学校現場の視点と事務職が見据える未来とをうまく掛け合わせながら、プロジェクトに取り組む活動を行なっているという。

「GIGAスクール構想に関わる『新学習指導要領』は、10年後の社会を見据えて策定しているわけですが、現代は社会の変化がより加速度を増し、複雑で予測困難な時代になってきています。そのような社会的変化にどう対応していくかという受け身の姿勢ではなく、変化を前向きに受け止め、社会や人生、生活を人間ならではの感性を働かせながらより豊かなものにしていくことを目指すのが大切になってくると考えています。
児童や生徒それぞれが、自分の良さや可能性を認識するとともに、他者含め多様な人々との協働や人生を切り開いていくための素養を身につけることが今後求められてくるでしょう。それには、既存の授業改善や個別に最適化された学びを提供することが重要であり、これらを支える役割なのがGIGAスクール構想になるというわけです」(板倉氏)

グローバル、イノベーション、アントレプレナーシップの素養を身につけるために

GIGAスクール構想の実現にはICT活用が肝となってくるが、学習用端末の普及状況としてはほとんどの学校が、今年度からICTを活用した教育が始まったところだという。そのため、失敗やトラブルにどうしても目が行きがちになっているそうだ。

「マイナスな面がある一方、学校現場のニーズに合わせて伴走型の支援ができるように我々も創意工夫しています。例えば、1人1台端末の活用方法に関するユースケースや対応事例など、ICT教育にまつわるさまざまな情報を集積したポータルサイト『StuDX Style』にて情報発信を行っています。また、教科の中でどう使っていくかに着目されがちですが、それ以外にも家庭と学校が結びついていくために欠席連絡や健康管理をデジタル化したり、個人懇談日程の調整をオンライン化したりすることも大事になってくると考えています。現場の状況をウォッチしながら、できる取り組みから支援していこうというスタンスで行なっています。
色々と試行錯誤しながら、より良いICT教育が提供できる環境整備ができるよう尽力していきたいと思っています」(板倉氏)

さらに、離島や中山間地域の学校がICT活用をうまく取り入れることで、教育の質がずいぶんと変わるという仮説も持っていると、板倉氏は続ける。

「離島、中山間地域の学校へ通う子どもの数は少なく、かつ身近なアナログの世界にはロールモデルもあまりない。だからこそ、『ICTでこんなことができる』ということに目を向け、一歩ずつ取り組んでいけば、非常にポテンシャルがあると考えています。とはいえ、こういった地域の周りの方々は『現状維持でもいいのでは』という風潮もあるので、そこの意識改革が肝になってくるでしょう」(板倉氏)

モデレーターの船津氏は新経済連盟にて教育改革プロジェクトリーダーを担っていおり、そこでは、未来に向けた人材に必要なキーワードとしてグローバル、イノベーション、アントレプレナーシップを掲げているという。GIGAスクール構想をもとにした教育が浸透してくれば、これらの素養を子どものうちから楽しく学ぶことができるのではないだろうか。板倉氏は「GIGAスクール構想で最終的に目指すべきものは、創造性を育んでいくことだ」と意見を述べる。

「資質・能力の育成について話しますと、これまで学力は知識中心で考えられていましたが、それに加えて今では思考力や判断力、表現力、学びに向かう力、人間性なども重要視されるようになりました。特にコロナ禍では学びに向かう力が試される場面が多かったと感じています」(板倉氏)

コンピューターを使えば情報活用能力は伸ばしていけるわけだが、その一方で、それだけでは足りないと板倉氏は続ける。

「当然ながら、グローバル人材という観点では英語などの言語能力も大切になってきますし、STEAM教育で学ぶ問題解決能力も備えていく必要があるでしょう。このように、複合的な能力を身につけられるような学校教育を行うことが重要になってくるのではないでしょうか」(板倉氏)

DX推進のためにはさまざまな「UX」を考える必要がある

この教育におけるDXの現状について、瀧氏からはメインストリームから外れた「余白」の大切さが語られた。


「ノンコア業務や非校務においてこそ、デジタルで効率化していくのが大切だと感じています。普段過ごす日常の生活ではデジタル化されているのに、こと業務においてはアナログの環境で行うのも疑問に思うところがあり、教育のDXが語られる中心から離れたところに、デジタルと馴れ親しむ余白や失敗しても許容される余地があるのではと考えています」(瀧氏)

加えて、DXに対する自身の考えとして、「DXとは本質的にはUX(ユーザーエクスペリエンス)だ」と捉えている旨が語られた。

「教育のDXといったときに、生徒と先生という2つ大きなオーディエンスがいるわけですが、先生の側は創造性を育んだり、知識を“覚える”のではなく“使う”という考え方に生徒を導いたりするなど、アクティブ・ラーニングを主導することが求められているわけです。すなわち、先生がアクティブ・ラーニングを学ぶ際に有用となるのが、教員向けのDXだと考えることができます」(瀧氏)

他方で、生徒側は色々なUXが存在していると思っているもの。たとえば、居場所としての学校に重要なUXが潜んでいれば、教育の範疇では捉えきれない“端末の価値”というものが出てくるだろう。

「また、学習塾の授業や習い事なども同じ端末で受けられれば、生徒側のUXは必然的に向上し、『端末を持っていて良かった』と思ってもらえる。教育でも金融でもDXを考える際はさまざまなUXを、希望を持って捉え続けることが大切になってくるのではないでしょうか」(瀧氏)

そして、板倉氏も「短期的あるいは長期的な視点に立って考えても、教育においてUXを最大化させることは重要である」とし、セッションの最後で教育の未来を見通した。

「これからEdTechなどが教育現場に入ってくるなかで、先生の役割も当然変わってくると予想していて、従来型の指示や説明ではなく、問いを見つけ出したり発問をしたり、探求をしているときに役立つ課題設定したりするのが大事になってきます。『先生しかできない役割は何か』ということに収斂してくると、必然的に子ども達を見取る力が大切になってくるでしょう。色々な個性が尊重され、認め合うようになるということは、すなわち子ども達一人ひとりのことを理解しないといけない。GIGAスクール構想に伴う学校教育の進化は、ともすると先生のあり方自体も変化させるものだと考えています」(板倉氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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