イトーキ × 武蔵野大学、データを活用した教育DXへのアプローチ談義

イトーキ × 武蔵野大学、データを活用した教育DXへのアプローチ談義

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2021年11月18日から4日間開催された、EdTechグローバルカンファレンスイベント「Edvation x Summit 2021 Online」。Society5.0の実現においてはAIやデータサイエンス、数理に関する基礎知識の習得が必要となってくるだろう。

政府は今後、リテラシー教育の一環として、全ての大学・高専生がこうしたAIやデータを利活用できる素養や技術を教育課程で身につけることを公表している。こうした状況のなか、2日目に行われた「数理データサイエンス教育と学びのDX」では、数理データサイエンス教育や学びのスタイルをどのように整えていくかについて、各登壇者が意見を交わした。

・大橋一広(株式会社イトーキ 先端研究統括部 統括部長)
・中西崇文(武蔵野大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科長)

教育DXの推進にはPBL型学習や協調学習の環境が不可欠

まず、イトーキの大橋氏が自己紹介とともに、近年EdTechや教育のDXが大きな潮流になっていることについて言及した。

「私はイトーキでコミュニケーションデザイン領域のほか、デジタルメディアの開発やIoTやAIなど、応用的に色々な空間をデザインする仕事に携わっています。そんななか、OECD Education 2030では『変化を起こすために自分で目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する能力』の開発を掲げ、新たな価値創造やジレンマの克服、責任ある行動をとることなど、あらゆる面で変革を起こす力が求められています」(大橋氏)

OECD Education 2030とは、経済協力開発機構(OECD)が2015年より進めているプロジェクト。2030年という近未来において、子ども達に求められるコンピテンシーを検討し、且つそのコンピテンシーの育成につながるようなカリキュラムや教授法、学習評価などについて検討していくというものだ。親や教師、仲間、コミュニティといった、子ども達を取り巻く各ステークホルダーが、コンピテンシーを構成する各能力を共に育んでいき、最終的にWell-beingへとつなげていくことを示した「OECDラーニング・フレームワーク 2030」は、教育業界において一つの指針となっている概念図だ。

The OECD Learnig Framework 2030: Work-in-progress(画像出典:OECD Education 2030 プロジェクトについて

「さらに中核的な基盤として、数学的な能力や資質が大切になってきており、デジタル・リテラシーやデータ・リテラシーを育んでいくことが教育現場で必要になってきます。このように教育のDXを推進し、変化を起こしていくためには多様な他者と協働の場や活動を作り、PBL(Project Based Learning:問題解決型学習)や協調学習における学びのデザインを設計しなければならないでしょう」(大橋氏)

これに対して武蔵野大学のデータサイエンス学部は、イトーキとともに、次世代の数理データサイエンス教育に取り組んでいる。中西氏は「新時代に移行するデータサイエンス」について次のように説明した。

「武蔵野大学のデータサイエンス学部は2019年に開設し、ニューノーマルの時代を切り開くために、創造性を膨らませることを心がけながら教育を実践しています。近年データサイエンスという言葉が盛んに使われるようになりましたが、ひとくちにデータサイエンスと言っても色々な段階があります」(中西氏)

中西氏によると、データサイエンスと呼ばれる前はデータエンジニアリングという世界があり、このときは検索や統合などデータを整理するというのが主だったという。

「データ処理技術の発展に伴ってデータサイエンス1.0の世界に移行すると、統計によってデータを発見することが可能となり、BIツールやビッグデータなどの分析結果からさまざまな意思決定の指針として活用されるようになったわけです。そして、武蔵野大学が目指すのは“データサイエンス2.0”の世界です。AIや機械学習をどのように使い、社会に適応していくかという観点に立って、データから価値創造を生み出すための力を養えるような教育を、日々模索しています」(中西氏)

武蔵野大学が独自に行う「DS メソッド」とは?

そんな状況のなか、武蔵野大学では「DS メソッド」と呼ばれる独自メソッドを掲げ、データサイエンス学習に取り入れているという。

「1つ目は学習者中心の『協調学習』です。教授が登壇し、学生に向けて講義を行うのではなく、あらかじめ課題を与えて調べてもらいその結果をまとめてもらう形式の学習となっており、全てグループワークで行うことで能動的な学びに繋がるきっかけづくりになります。

2つ目が『プロジェクト型学習』と呼んでいるもので、一般的には卒論の時期にならないと研究や実践の場はでてきませんが、武蔵野大学では1年次からプロジェクト型学習を取り入れています。学年ごとに実践の場を設け、経験を積み重ねることで、未来を創造する力を育む一助になると考えています」(中西氏)

「また3つ目は『社会実践』で、協調学習やプロジェクト型学習で学んだ得た知見を、実際の社会でどのように実装していくかを考えるために、国内外でのインターンシップを通じて学びを深めていきます。
このように武蔵野大学ではDS メソッドに基づいた学びの場を提供しており、学年を追うごとに知識がスパイラルアップしていく『アジャイル型学習』を取り入れていることで、データサイエンス2.0を実践する人材育成を図っています」(中西氏)

コロナ禍ではあらゆるコミュニケーションがオンラインへとシフトし、Zoomでの授業やGoogle Classroomを使った授業資料の共有や課題提出、Slackを活用した学生と教職員間のインタラクティブな連絡など、デジタルツールをフルに活用することでシームレスなグループワークが実現できたという。

オンラインでも学習者中心の協調学習を実践することで、「『未来創造PJ』と位置付ける武蔵野大学ならではのプロジェクト型講義を推進してきた」と中西氏は続ける。

「1年次後半から始まる“未来創造PJ”は、学内でのグループ学習のみならず企業との共同研究を通じて、大学で身に付けたスキルや知識をどう実社会の課題に活かせるかを実践的に学ぶものです。4年次だけの卒論ではなく、1年後期から『ミニ卒論』という形で学生に実践機会を提供することで、応用力や創造力をつけるのが目的となっています。未来創造PJの目指す姿は、授業等で学習している内容が実際の社会でどのように使われ、あるいは活かすことができるかを知り、実装を行えるようになること。自分の研究したいテーマを探求し、そのテーマを実装まで行う『デプロイファースト』の視点から、検証や実践、フィードバックなどのPDCAを高速に回していけるような枠組みを作っています」(中西氏)

さらにこうした研究結果を学内発表だけにとどまらず、学会やアイデアソン、ハッカソンなど積極的に外へ出ていくことも奨励しているという。武蔵野大学では1、2年次から学会で発表して受賞するケースや国際会議でのアワード受賞などの実績も出てきているという。

大橋氏も、コロナ前から武蔵野大学の未来創造PJに参加しており、そのなかで「1年生のうちからグループ学習を通して課題解決を図るテーマの設定を行うことに感銘を受けた」とし、こう感想を述べた。

「1年生のうちから、課題解決に向けたプロセスを実践し、さらには学会や国際会議での受賞に結びついているのは非常に素晴らしいことだと感じています」(大橋氏)

デザイン・シンキングの手法をもとに協調学習を促す

ここから、大橋氏が武蔵野大学におけるインターンシップ社会実践学習に取り組みについて発表した。企業側の視点で学生に伝えているのは「協働して新しい価値を創造するプロセスを身につけてもらうこと」だと大橋氏は語る。

「協調学習のなかでグループワークを活性化させていくために重要なファシリテーションやリーダーシップ、プロジェクトマネジメントスキルを育めるよう、デザインシンキングの手法を下敷きにしながら実習に取り組んでいます。個人と組織、アイデアの発散と収束の思考プロセスにより、質の高いアイデアへとブラッシュアップしてアウトプットを創造するためには、『個人による探求ワーク』と『グループによる協調ワーク』の両軸で進めていくことが大切になります」(大橋氏)

協調プロセスとしては、まず個人探求(Search)のワークを実施し、次いでグループワークによる①発散思考(Brainstorming)→②収束思考(Summary)→試作制作(Prototype)→発表評価(Presentation)を経て振り返り(Reflection)を行う流れとなっている。大橋氏は「各プロセスに応じた環境やツールのセッティングをすることで、学生が主体的に選択して創造するようになる」と続ける。

「現場で学生と接するなかで感じていることとしては、アイディエーションの部分でいろいろな意見を出し合う部分について非常に活発に行なっている印象をもっています。ただ一方で、出し合ったみんなの意見を収束させ、折衝をしながらまとめていく過程はまだまだ伸びしろがあると思っていて、妥協せずに共感性を持ったアイデアへと昇華させられるよう、学生と一緒に取り組んでいる段階です」(大橋氏)

また、産学共同研究プログラム実践の事例としては、学生活動データの可視化に取り組んでいるという。学生自身が実践してきたプロセスを可視化することで、活動の成果を振り返ったり、教職員が活動内容を分析してフィードバックしたりというようなシステムを実験ベースで行なっているそうだが、その背景にあるのは「学生もしくは教職員の多様な自律化を図っていくこと」だと大橋氏は述べる。

「オンラインとリアルが混在するなか、学習者主体の選択と創造による多様な学びのスタイルを実現するためには多様な“自律化”が必要になってきます。加えて、学習者それぞれに合わせた『パーソナライゼーション』の実現や学内外あるいは国内外との学際的な『コラボレーション』によるオープンイノベーションの創造など、新たな機会創出や基盤づくりをするために学生活動データの活用が肝になってくるでしょう。データサイエンスと学習プロセスUX活動から、学びのスタイルと空間をデザインしていく『Campus Life Log』というものを目指していきたいと考えています」(大橋氏)

具体的には、グループメンバー内でのディスカッションにおける発言の音声をテキストデータ化し、可視化分析する試みなどが挙げられる。録音音声をテキスト化することで、学習履歴や録音からの分析アルゴリズムを用いて、グループワークの振り返りに役立てるというわけだ。

数理データサイエンス教育で肝になる学生活動データの可視化

このような取り組みを実際に授業で行なっている中西氏は、このシステムの概要や得られた成果について次のように振り返る。

「たとえば“話題の発散度”のグラフは、ディスカッションの中でどのくらい新しい言葉が出てきたかを示しています。つまり、新しいアイデアがどのくらい出ているかの度合いを見ることで、アイデアの発散がなされているか否かを判断できるわけです。一方、“話題の収束度”のグラフは、今まで話された言葉がもう一度出てきた割合を表しています。すなわち、何回も同じ言葉が頻出していれば、アイデアがまとまってきたとわかるようになっているのです。グラフデータを活用すれば、時間軸でアイデアの発散度や収束度を可視化できるようになっています。また、時間帯ごとにグループで話題に上がった言葉をクラスター別に分けられるので、時系列でディスカッションの内容を振り返ることも可能です」(中西氏)

もうひとつは授業や課題への取り組みの際、アイデアを出したり調査をしたりブレストを行ったりといった活動記録をスマートフォンでログを取得し、取り溜めていく試みだ。大橋氏は「常にオンラインと繋がりながらデータをやりとりできる学ぶの空間を、一つひとつ計画しながらデザインしていくのが重要」だと捉えているという。

「配信の仕組みだったり、産学官民とコラボレーションできるような場を作ったりと、デジタルと連携させながら取り組んでいます。さらには大学のキャンパスにとどまらず、学際的な交流を促すようなハイフレックス(ハイブリッド)型授業を実践する上での環境づくりも進めており、まだまだ挑戦的ではありますが、できることから形にしていけるよう尽力したいと思っています」(大橋氏)

今後キャンパスデータのソリューションを用いて、新しいキャンパスライフを見出していくには、どのようなことが大切になるのだろうか。最後に中西氏が抱負を込めてこう話した。

「我々教員は、とかく授業の内容に目がいってしまいがちですが、今回イトーキさんとタッグを組ませていただいたことで、テクノロジーを活用した授業の振り返りができるようになったのが大きな進歩だと感じています。『本当に自分たちのグループワークが上手くいっているのかどうか』というのを可視化して見ることができるようになったことで、自分たちが実践してきた内容をメタ的に判断し、改善サイクルを回していけることが大きな収穫になっていると思います。

またグループワークをしていると、どうしても『やったつもりでも実際にはやっていない』といったフリーライダーの学生が一定数出てきますが、活動記録や成果の一元化がなされることで、学生の評価や貢献度を図るという側面でも役立ってくるのではないでしょうか。今後、数理データサイエンス教育や学びのDXが必須になってくると、学生活動データの可視化をするツールや仕組みがより重要になってくるので、今後も検証を続けながら最適解を導き出していきたいと思っています」(中西氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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