教育業界でも期待高まる「メタバース」活用と、それに向けたインフラ基盤を考える

教育業界でも期待高まる「メタバース」活用と、それに向けたインフラ基盤を考える

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EdTechにおける国内最大級の祭典として2021年11月18日から4日間開催された「Edvation x Summit 2021 Online 〜Beyond GIGA〜」。3日目には「20xxの未来の教育にXR(VR/AR)テクノロジーがどのように寄与するか?」と題したセッションが行われた。

全国の小中学校に1人1台の端末導入が始まったものの、運用面や利活用のノウハウが確立されておらず、各所で課題も上がってきている。現状のICT教育に不足しているものは何なのか。近未来における教育のあり方とはどのようなものか。

VRやARといったXR(Extended Reality)技術を活用するような、20xx年の未来の教育について、有識者らが議論を繰り広げた。

・豊福晋平(国際大学GLOCOM 准教授・主幹研究員)
・デビット・ベネット(レノボ・ジャパン合同会社 代表取締役社長)
・山下博教(日本電信電話株式会社 経営企画部門 XR推進担当 担当部長)
・内山泰伸(立教大学 大学院人工知能科学研究科 教授 研究科委員長)

教育系YouTuberのような存在がもっと必要

教育DXといえば、本カンファレンスの副題ともなっているGIGAスクール構想の実現に向けた取り組みが真っ先に思い浮かぶものだが、各登壇者はこの取り組みをどのように捉えているのだろうか。

2020年4月に開設された日本初のAIに特化した大学院の人工知能科学研究科(立教大学 大学院)にて教授を務める内山氏は「学校教育は先生が教壇に立って生徒へ教える、一方通行的な授業を長年フォーマットとしてきた風潮がある」とし、次のように語った。

「今回、GIGAスクールの導入によって1人1台PCやタブレットを持つようになるわけですが、それはこれまでの教育のあり方を変えるチャンスだと思うのです。画一的な授業から個別最適な授業へとシフトし、一人ひとりに合った学びを提供するには、どのようなコンテンツを提供できるかが重要であり、同時にGIGAスクール普及に際する大きな課題です。また、教育のあり方をドラスティックに変えるようなマインドセットが、社会全体や学校現場にまだまだ根付いていないと感じています」(内山氏)

そんななか、コンテンツの提供事例として教育系YouTuber「葉一」(読み方:はいち)の事例を挙げた。

「YouTuberのような動画で基礎知識の伝達を行うことで、教員が生徒に沿った創造的な学びを、今以上に提供できる可能性があると考えています。短時間で効率的に何度も学習できる動画は、学生にとっては有用なものと認識されている一方で、教える側、ひいては学校教育全体で考えれば“敵”と見なされる懸念もあるのが現状です。こうした現状を変えていくには、草の根活動みたいに日本中あらゆる人が教育のコンテンツを提供していく必要があり、教育系YouTuberの台頭はそのパイオニアだと思っています」(内山氏)

「Beyond GIGA」を考える前に大事なこと

次に、NTTグループにてXR推進の担当を担う山下氏は「XRはスマホの次のコミュニケーション基盤として大きな発展が期待できる技術」という前提のもと、教育領域での課題についてこう述べる。

「NTTでは回線のネットワークや端末の準備、教材コンテンツとして教育クラウドサービス『まなびポケット』を提供し、GIGAスクールの普及をお手伝いさせていただいております。弊社担当社員も実際の現場に向かうのですが、そこから挙がってきている課題としては、『端末や環境は揃っていても、先生のITリテラシーの差によって質の担保ができない』というもの。
NTTでは一元対応窓口やヘルプデスクなども用意はしているものの、コンテンツや端末を実際の現場でどう使いこなしていくのかというノウハウや運用の仕方は十分に展開しきれていません。ここはもっと解決していく必要がありますし、またZoomのようなWeb会議ツールでの授業だと、リアルに比べてインタラクティブ性に欠けてしまうことも課題として挙げられます」(山下氏)

また、レノボ・ジャパンの代表取締役社長であるベネット氏は、端末配布のスピード感は世界トップクラスだと強調する。

「レノボ・ジャパンでは数年前からGIGAスクールに向けて教育機関向けの学習端末を提供してきたわけですが、今年に入り、全国の学校では800万台の端末が普及し、生徒1人1台のPCを使った授業がスタートしました。私は10年以上、海外を含めて教育機関へのタブレット導入の動向をウォッチしていますが、このスピード感で普及したのは世界トップレベルだと正直思っています」(ベネット氏)

一方で、その歪みとして、デバイスやデータの管理、端末の使い方、故障時の対応など、現場で教育にあたる先生の負担は相当なものだとも感じているという。

「もっと大きな課題は『Are you using it?(使っていますか)』。デバイスを入れただけでは効果はありません。Beyond GIGAを考える前に、今の現状に向き合うことがとても大切なのではないでしょうか。失敗を恐れずにまずはどんな使い方でもいいので端末を使ってみることです。意外にも子どもたちは驚くほどのスピードで端末を使いこなすかもしれません」(ベネット氏)

シビックテック × メタバースのインパクト

このような課題がたくさんある中において、我々はどのような視座で子ども達と向き合えば良いのか。後半では、20xxの未来の教育について考えていることや、将来に向けて取り組んでいることについて、各登壇者が議論を交わした。

内山氏は「コンテンツをどれだけ充実させていくかが重要な論点になる」とし、こう未来を見据える。

「中央集権的にコンテンツを提供するのではなく、市民それぞれが教育コンテンツ提供の担い手になっていかなければなりません。立教大学大学院では2022年に『シビックテック(Civic Tech)』をテーマのひとつに掲げ、市民による市民のためのテクノロジー活用を推進していく取り組みを行っていきます。
実際の事例としては、学生による学生のためのスポーツテックを研究しており、タブレットやスマホで撮影した映像をAIで解析し、見本となる動作と解析した生徒を比較することで、動作における優劣をスコアリングできるものとなっています。こうすることで、生徒の習熟度や成長度合いを時間軸で可視化することができるわけです。要は学生自らが、端末やテクノロジーを活用して教育の担い手側になるのが、未来の教育を考える上でひとつキーになると考えています」(内山氏)

また、内山氏自身が代表を務めるXRテクノロジーを活用したベンチャー・ギャラクシーズでは、2023年に向けて、メタバースという3D仮想空間を活用した新たな教育に向けた展開を見据えているという。。

「先に申しました教育のマインドセットを変えていくには、“黒船”が来るくらいのインパクトがないと本当の意味では変わらないと思っています。私がギャラクシーズでやりたいのは、教育現場にメタバースを入れていくことです。極限まで実在感を高めた仮想現実というHyperRealityテクノロジーを開発しており、フォトリアルに再現したアバターやAI技術で本人の動作や表情をリアルタイムにシンクロさせることができます。コントローラーによる操作ではなく無意識でアバターを動かせるのは重要ですし、リアリティが非常に高い空間では、さまざまな教育現場でも応用ができると考えています」(内山氏)

XR技術は、教育のD&Iを創出する

他方、NTTが次に目指すのは「VRによるバーチャル空間ではなく、よりリアルに近いナチュラルな世界」だと山下氏は話す。

「N対Nのコミュニケーションの場だったり3Dオブジェクトを使った楽しさのあるコンテンツを作ったりすることが、未来の教育では重要になってくるでしょう。そのためにはPCのキーボードを叩いてVR空間に入っていくのではなく、自然な形で入れるような技術的ブレークスルーが必要になってきます。XRは、現実と仮想の力で教育現場のみならずビジネスをも変革するポテンシャルを秘めていると思います。XR技術の進展は、次の社会基盤のようなものをもたらすことでしょう」(山下氏)

また、ヘッドマウントディスプレイ装着に伴うストレスや不便性を解消するため、現在推進しているのが『IOWN構想』だという。IOWNとはInnovative Optical and Wireless Networkの略で、同社公式サイトによると、以下のように説明されている。

"あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会を創るため、光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想”

画像出典:NTT研究開発

「これから鍵になるテクノロジーは、オールフォトニクス(従来の電子技術よりも圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現する技術)でしょう。
現在、全国を巡らす光ネットワーク内には全て通信機器が介在していて、サーバー上のPCも電気で動いています。しかし、現状では『電気のものを光に変えて、光のものを電気に変える』という部分にロスが発生してしまっている。ここをチップの中や通信機器の中身を光に変えてオール光にすることで、電力効率が100倍になったり伝送容量が125倍になったりします。

既存の環境では端末側の処理負荷が高く、多分に端末の性能によってユーザー体験のばらつきが発生しますが、IOWN構想では光電融合技術などの最先端な技術を活用することで、ヘッドマウントディスプレイ自体ももっと薄くかつ軽くなると想像していて、今よりもハイクオリティなXRを実現できると期待しています」(山下氏)

加えて、XR技術の発展は「教育の参入障壁を下げていくことにもつながる」と山下氏は続ける。

「XR技術を用いれば、例えば体が不自由な学生や人間関係に不安を感じている学生でも、VR空間の中でリアルな学校へとインタラクティブに接続することができます。ARやVRを活用し、位置情報に時間軸を組み合わせたデジタルツインの世界観を見出すことで、教育におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が実現できるのではないでしょうか」(山下氏)

メタバースやXR技術の進展に耐えうるインフラが整えば、現状どうしても発生しやすい“VR酔い”も解消されていくことが期待できるだろう。

身体、空間、時間の制約にとらわれない新たな教育に向けて

さらにベネット氏氏は、XR技術で見出せる3つの価値に触れ、近未来における教育のあり方について語った。

「私は、未来の教育に必要なものは ①体験によるアクティブラーニングの定着 ②アバター変身によるインクルーシブ教育の実現 ③時空を超越した教育の実現という、3つの価値をVRやARによって見出すことだと考えています。XR技術を活用することで教育の可能性をさらに拡張していけるでしょう。また、VRやARが発展することで教育機会の平等にも繋がると考えています。例えば、学校に行けない子ども達が、アバターを作って自宅から学校の仮想空間に参加することで授業を受けるような世界です。近未来は、性別や年齢、上下関係も問わず、誰でもどこでも勉強できる環境になっていくのはないでしょうか」(ベネット氏)

今後もレノボは「Smarter Technology for all Students(すべての子どもたちに優れたテクノロジーを)」をテーマに、「ICT企業の使命として教育改革をサポートしていきたい」と抱負を述べ、セッションを締めくくった。

「教育のイノベーションを起こすには新しい端末やテクノロジー、プランが必要不可欠だと思います。共生社会に向けて新しい教育仮想プラットフォームを創造するために、NTTが提供するXR空間プラットフォーム『DOOR』を用いて、PoCを回していく計画を立てています。『XRデバイス × メタバース × Beyond GIGA』によって身体、空間、時間の制約から解放され、平等な教育を受けられる未来を実現できるよう尽力していきたいと考えています」(ベネット氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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