データの利活用が、教育DX〜生涯にわたるWell-beingの実現を支える

データの利活用が、教育DX〜生涯にわたるWell-beingの実現を支える

目次

2021年11月18日から4日間開催された、EdTechグローバルカンファレンスイベント「Edvation x Summit 2021 Online」。「Beyond GIGA 〜GIGAスクール構想のさらなる向こうへ〜」をテーマに、国内外を問わず様々なチャレンジを進めるEdTech企業および官公庁のメンバーが集結し、未来の教育に向けたアクションとビジョンを共有した。

今回は、日本の教育現場DXに欠かせないツールやプラットフォームを提供しているGoogleと、日本のあらゆるDXの旗振り役であるデジタル庁から、それぞれ重要ポストを担う秋元禮氏と中室牧子氏を招き、教育DXに欠かせないデータ利活用について見解と可能性が議論されたセッションをご紹介する。

教育分野のDXにおいて重要な「データ利活用」。そのためのHowを考える上で忘れてはならないのが「全ての子ども達の生涯にわたるwell-beingの実現」であると、中室氏は釘を刺す。この視点を念頭に、議論が進んでいった。

・秋元禮(グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 パブリックセクター本部 EdTech 東日本エリア責任者)
・中室牧子(デジタル庁 デジタルエデュケーション統括)

Googleのミッションと教育DXへの貢献可能性

Our mission is to organize the world’s information and make it universally accessible and useful.
「私たちのミッションは、世界中の情報を整理し、それらを世界中の人々がアクセスして使えるようにすることです。」

このようなミッションを掲げるGoogleでは、教育分野を統括するGoogle for Educationにおいて「全ての生徒に平等な」学びの提供を掲げている。独自のOSを搭載した端末デバイス「Chromebook」をはじめ、平等な学びに必要な各種ツールやプラットフォームを提供しており、ハードとソフトの両面から教育DXを進める存在として、コロナ禍をはじめ多くの教育シーンにおいて支援の実績を有している存在だ。

国が進めるGIGA構想によって、生徒の1人1台のデバイス整備は進められたわけが、これらの端末整備は教育DXの入り口に過ぎない。グループウェアの共有やデジタル教科書などのEdTechの活用などは始まったばかりであり、その先にはデータの利活用を通じた学びの変革があると秋元氏は述べる。

「Googleはデータの利活用で個別最適化された学習を実現したいと考えています。そのためには適切なデータを適切な人が扱えるように配慮した上で、活用できるように整備しなければなりません。教師が生徒に向き合う本来の業務に集中できるようサポートしつつ、初等教育からリカレント教育まで一気通貫で新しい学習環境を提供することが目標です。その実現のためには、生涯を通して使えるIDの提供と管理が必要となりますので、この部分について特にデジタル庁と一緒に進めていきたいと考えています」(秋元氏)

4省庁にて検討中の教育データ利活用ロードマップについて

画像:教育データ利活用ロードマップの検討状況について p4

これに対して、デジタル庁にてデジタルエデュケーション統括を務める中室氏は、デジタイゼーション→デジタライゼーション→DXというDXの各ステージを上がっていくごとに政策・施策・制度等の見直しが必要であると前置きした上で、以下のように述べる。

「日本の教育分野は現在第2段階の“デジタライゼーション”の位置にあり、学習者主体の教育へ、早急な政策の見直しが求められています。この現状に鑑みて、現在、文部科学省、総務省、経済産業省、そしてデジタル庁の4省庁で、“教育データ利活用ロードマップの検討状況について”という文書を発表し、パブコメを募集中(開催時)です」(中室氏)

同ホワイトペーパーによると、まず、教育のデジタル化のミッションを「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」と掲げ、そのための軸としてデータの「①スコープ(範囲)」、「②品質」、そして「③組み合わせ」の充実・拡大という3つの軸が設定されている。その上で、以下の図にある通り、ルールや利活用環境、インフラといったそれぞれの構造に関連する論点や、必要な措置に関するポイントがまとめられている。

画像:教育データ利活用ロードマップの検討状況について p2

「スコープという視点では、既に数値化されているデータにとどまらず、非認知能力の数値化も視野に入れたいです。品質の視点では、データの標準化はデータの品質低下を招きやすいことを考慮しなければなりません。また、組み合わせの視点においては、所管の異なるデータの接続と連携を進めたいと考えています」(中室氏)

その上で同氏は、教育DXを推進して実現する社会のあり方として、以下のような図を示しながら続ける。

画像:教育データ利活用ロードマップの検討状況について p28

「全ての子どもたちが個別最適な学びと協働的な学びを得られるように実現したいと考えています。同時に同一学年、同一内容での画一的授業は限界を迎え、弊害も出ています。より高品質な学校教育への持続可能な発展を目指して規制面の洗い出しも進めており、多省庁とワンチームで進めているのが、このロードマップの検討です。たくさんのご意見をいただきたいので、引き続きよろしくお願いします」(中室氏)

資質・能力の育成に活かすためのデータ利活用とは

ここからは、テーマに沿った対談という形でセッションが進んでいった。ここでは、その中でもポイントとなる部分をお伝えする。

中室:資質・能力という言葉が特に最近重視され始めており、コンピテンシー(資質・能力)が測れるのか?という問題もあるわけですが、そこに含まれる非認知能力や非認知スキルは、データからも測れるようになってきました。今後、行動面の定量化も進むでしょうし、これらの数値化は研究との両輪で見える化が進むと考えられます。大切なことは子どもたちの能力を幅広く捉える必要があるという視点だと思います。

秋元:おっしゃる課題については、Googleがお手伝いできるのではと考えております。Googleのプラットフォームやツールを使っていただくことで、つまずきポイントの発見など指導上の課題が見えやすくなっています。また、継続して活用いただくことでデータが集積され、より適切なデータ解析とリコメンドが可能になります。教師の皆さんの指導計画も、集積したデータから最適化できるようになります。

さらに、これまで困難だった感情の分析も行えるようになります。チャットやワークスペース、クラスルームなどでのメッセージ、特に注意したいネガティブなものもキャッチアップしてスコア化できるようになり、より早めの対応が可能になります。

中室:なるほど。これについては、順序と優先順位が大切かと考えています。優先すべきはデータの品質を保持すること。データというものは標準化すればするほどにコストが上がり、品質は低下する傾向があります。データごとに標準化する価値を見極めて行う必要があります。

学習ログは現在取得開始の段階で、粒度の高いリアルタイムデータなどの活用は学術的にも知見がない状態です。行政や学校内で既に蓄積されているデータの分析と連結から進め、リアルタイムデータの活用法を探っていきたいと考えています。

秋元:それについても、Googleの学習支援プラットフォームがお手伝いできるかと思います。データを一元化し可視化する試みとして、各種アプリケーションからアウトプットされたデータを使用する“基盤データレイク”を作っています。

学習データの生涯識別子としてのIDプランについて

中室:先ほどから何度も「適切な人が、適切なデータを、適切な形で手に取れるように」と行った主旨の発言をしていらっしゃいますね。

秋元:はい。GoogleはポストGIGA構想を見据えています。学習履歴や結果、学習ログなど全てのデータをクラウド上にあげ、ビックデータの活用を目指します。その上で、Googleが築いてきたID管理の知見を活用していただけると考えています。

中室:識別子(ID)は非常に頭が痛い問題です。医療分野では健康保険証のナンバーで決着するまでに10年かかっています。教育分野ではそんなに待てないので、スピードを優先して検討を進める必要があります。現在の検討状況はこのようになります。

画像:教育データ利活用ロードマップの検討状況について p27

中室:マイナンバーの活用は現行法では特定事務に限定されており、教育分野で活用するためには法改正が必要です。海外のユニバーサルID運用情報などもリサーチ中で、マイナンバーの活用も除外せず、進めていきたいと考えています。

画像:教育データ利活用ロードマップの検討状況について p6

中室:また、教育データの利活用における現状と課題はこのようになっています。所管ごとにバラバラで管理されているデータを連携させるのが、教育データの利活用の最初の山場です。これが可能になるだけで、解決が見込まれる問題が山のようにあります。プライバシーへ配慮しながら、最上位目標である全ての子どもたちのwelfareと生涯にわたるwell-beingの実現のために、一つひとつ駒を進めていきたいと考えています。

秋元:弊社では、教務システムや成績管理システム、日常使っているワークスペースなどの各種個別情報をクラウド上に適切な形で変換、集積、保管、解析するプラットフォームを設計しており、この領域においても色々とお手伝いができるとのではないかと思います。

画像:教育データ利活用ロードマップの検討状況について p7

教育DXというと、教育というものが子どものみを対象に語られがちな日本では、子どもの学習や生活の変貌を想像するのではないか。しかし、子どもたちの学習と生活は、大人である保護者たちの生活も変える。そして、教育は子どもだけを対象にしているのではない。

個別最適な学びと協働的な学びへの変化の先には、場所や時間を超えた学びが可能になり、その結果年齢を問わない学びが可能になるだろう。そこには子どもと共に学び続ける大人の姿がある。

中室氏は「すべての子どもたちの生涯にわたるwell-beingの実現」を掲げたが、「すべての子どもたち」は「今子どもである子どもたち」と共に、「子どもであった大人たち」も含むものであると思う。

DXというものはどの分野でも、すべての人を巻き込んで起きる変革なのだと思わせられる。個別のテクノロジーやデータの利活用のためには、その上位目標の軸を見失わないことが何よりも大切である。

編集:長岡武司
取材/文:麓 加誉子

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