医療従事者と患者がWin-Winになる「医療×AI」の未来像

医療従事者と患者がWin-Winになる「医療×AI」の未来像

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コロナウイルスの感染拡大により、今一人ひとりが自らの健康状態に向き合う機会が増えた。あらゆる場所で体温が測定でき、スマートフォンやスマートウォッチを活用すれば脈拍や睡眠の質なども計測できる。

このように健康に関わるデータが蓄積されると、新たなソリューションの登場が期待される。特に、AIに対する期待は高まる一方だ。

「AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実現する」をミッションに掲げる株式会社エクサウィザーズでは、2021年5月18〜19日にかけてExaForum2021を開催。激変する時代に何をすべきか議論するため、国内外の第一人者を集め、さまざまなセッションを展開した。

こちらでは医師であり、作家として「ディープメディスン」を出版したEric Topol氏が出演した「AIが引き起こす医療の歴史的変化」の内容をレポートする。

医師が本来やるべきこととは?

「医師はさまざまな業務を抱えている。これに忙殺されて、本来やるべきことに注力できていない」

インタビューの冒頭、Topol氏はこのように指摘した。確かに、医師の業務は多岐にわたる。診察だけでなく、書類の作成などデスクワークも山積みだ。いかに能力が高い医師でも、これを捌き切るのは困難を極める。

では、医師は本来何をやるべきか。Topol氏は、ズバリこう述べる。

「医師は患者に向き合って、しっかりコミュニケーションを取りつつ、適切に診断する必要があります。しかし、これ以外の業務に忙殺されると、これに注力するのが困難です。そこで、AIをはじめテクノロジーを活用します。情報処理はAI、医師は患者との共感、各々が強みを活かして補うのが理想的であり、あくまで医師と患者にとってベストな形を模索するのが重要です」

Topol氏は、このような考えを示した上で”ある技術”に期待を寄せる。それは、音声入力などに活用される「自然言語処理技術」だ。

医師に降りかかる膨大な書類作成業務の負荷を軽減するために、Topol氏は「音声入力の利活用を積極的に進めるべき」と主張する。キーボードを叩く時間を減らし、少しでも患者に向き合う時間を増やす。近年、AIスピーカーの登場に代表されるように、自然言語処理技術の進化は著しい。医療現場での利活用も今後期待したいところだ。

自らの健康を維持・管理する技術

また最近ではスマートフォンやウェアラブルデバイスにより、心拍数や血中酸素濃度などを常時計測して、セルフヘルスケアに役立てることもできる。Topol氏は「スマートフォンやウェアラブルデバイスだけに依存する必要はない」と前置きしつつ、これらの技術にも期待を寄せる。

「例えば、近年ではスマートウォッチで不整脈を検出するソリューションも登場しています。これにより、事前に自らの身体の異常を察知して、対処できるでしょう。さらに、スマートフォンのカメラ性能の向上と画像処理技術の進化は、医療に新たな可能性をもたらしています。人間の網膜を撮影すれば、ピクセル単位で画像を処理して、AIは男女を判別できるほどです。最近では、皮膚の状態をスマートフォンで撮影して、皮膚発疹や皮膚がんなどの異常がないか調べることも可能です。このように、現代では身近になったデバイスやアプリケーションを用いて、よりきめ細やかな健康管理ができます」

さらに、AIを活用したソリューションはまだまだある。

「承認待ちですが、採血無しに腎臓のカリウム値を測定できる『Kardia』というソリューションがあります。これは、心電図のデータをもとにカリウム値を測定するもので、実はカリウム値は心電図の特定のインターバルと連動することが知られています。そこで、スマートウォッチなどを用いて心電図を日常的に計測して、そこからカリウム値に異常がないか判定するのです。これは腎臓に病気を抱えている方にとって画期的なソリューションです。また、AIが尿サンプルから尿路感染の判定を行うこともできるようになりました。このように、テクノロジーでできることは増える一方です」(Topol氏)

健康管理にも「コーチ」の存在が必要だ

Topol氏はこれらのテクノロジーの進化が行き着く先を示す。それは「バーチャル医療コーチ」の存在だ。

これは、一人ひとりの遺伝情報や日々の健康データ、さらにアカデミックの分野で日進月歩で進む研究の成果をまとめた論文などあらゆる情報を踏まえて、ベストな健康管理方法を提案するものだ。Topol氏は「エクササイズにトレーナーがいるように、健康管理にも”コーチ”の存在が必要です。自己流でやるのではなく、専門的な知見をAIが提供できれば、その精度はさらに高まるでしょう」と語った。

また、このようにデータが集積されることであるメリットも生まれるという。それが「患者の自立」だ。近年はインターネットの普及により、病気や治療に関する情報もあふれている。Topol氏は「患者自身が、病気や治療について調べるのは良いこと」と前置きした上で、インターネット上の情報にも真偽が怪しいものがあると懸念する。

しかし、もし自らの血圧や血中酸素濃度、脈拍などの情報が日々蓄積されれば、それをベースに自らの身体と向き合うことができる。AIが進化すれば、そこから異常を検知でき、病気を未然に防ぐことも可能だ。「これにより、比較的症状が軽い病気は患者自らが対応できるようになる」とTopol氏は指摘して、もう1つのメリットを挙げる。

「患者が自立することで、医師がより本来やるべき業務に注力できます。それは、患者自らの力では対処できない重篤な病気などの治療です。この場合、ただ手術や薬を施せば済む話しではありません。まず患者に自らの状態を理解してもらうために、丁寧なコミュニケーションが求められます。その上で、治療を進めるのが理想であり、それを念頭に置いてテクノロジーを活用すべきです。大事なことなので繰り返しますが、医師と患者の関係強化こそがゴールになりうるのです」(Topol氏)

医療従事者と患者が価値を享受できる医療の実現を

Topol氏の話しを踏まえ、株式会社エクサウィザーズの羽間康至氏はこのように振り返る。

「Topol氏が仰るとおり、医師の時間を生み出して重要な業務にフォーカスできるようにAIを活用する点は共感できます。さらに、患者さんの自由と自立について触れていたのも興味深いですね。患者中心の医療が叫ばれていますが、具体的にどのような状態をいうのか。まだまだイメージが共有されていないと思います。医療については、医療従事者にフォーカスがあたりがちですが、患者さんを軸に考えていくのも今後必要だと思います」(羽間氏)

Topol氏が期待を寄せる音声入力については日本語特有の問題点もあると指摘する。

「英語と日本語では、音声データの蓄積や難易度も異なります。また音声からテキストに落とし込めても、それを構造化データにできるかがポイントです。例えば介護記録なら、それを決まったフォーマットに書き込みます。しかし、それを実現するにはどの言葉が医療用語なのか認識できるようにして、さらに音声入力の方法も標準化が必要かもしれません。そこまでやり切れるかどうかが、ポイントになるのではないでしょうか」(羽間氏)

AIをはじめ、テクノロジーによって我々を取り巻く医療は大きく変わろうとしている。今回はテーマから外れるため取り上げられなかったが、オンライン診療などもテクノロジーの進化があったからこそ実現したといえよう。今後もイノベーションが絶え間なく創発し、医療従事者と患者が共にその価値を享受できる時代が訪れるのを願ってやまない。

取材/文:山田雄一朗

※xDXでは他のExaForum2021セッションも記事化しています。以下、併せてご覧ください。
テクノロジーが進化しても変わらない、DXの根底にある「普遍的な原理」とは
妄想力を高めて、想像を超えるアイデアを生み出せ。本質的なX(トランスフォーメーション)に向けて

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