VAIO立ち上げのキーマンが触れ続けた「ソニーカルチャー」

VAIO立ち上げのキーマンが触れ続けた「ソニーカルチャー」

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ソニーで日本社会を席巻するプロダクトを世に送り出したエグゼクティブたちが、「ブロックチェーン」と「IoT」を活用して、社会に変革をもたらそうと奮闘している。

それが、ジャスミー株式会社 代表取締役社長 佐藤一雅氏だ。佐藤氏はソニーでVAIOのマーケティングを主導し、ソニースタイル・ジャパン株式会社代表取締役社長などを歴任。マーケターとしての地位を築き上げた。

しかし華々しい経歴にとらわれることなく、ソニー時代の上司と同僚だった安藤国威氏(元ソニー株式会社代表取締役社長兼COO)と、吉田雅信氏(ソニーエリクソンモバイルコミュニケーション株式会社 日本事業部門責任者)とともにジャスミーを起業。リスクを取り、新たな挑戦を続けている。

なぜ、佐藤氏はブロックチェーンの世界に飛び込んだのか。今回から3回にわたってお送りしよう。

今回は、ソニーという稀有な集団で得た経験などを中心にお伝えする。

「ジャスミー」のプロフィール

誰もが簡単に安全にそして安⼼してモノを使うことができる仕組み(プラットフォーム) をつくり提供することをミッションにビジネスを展開。ジャスミーが提供するプラットフォームの提供を通じて、個々のデータを安全・安⼼に利⽤できる環境を構築している。

インタビューイー

ソニースタイルドットコム株式会社代表取締役社長、ソニーマーケティング株式会社執行役員兼ソニースタイルカンパニープレジデント、ソニースタイル・ジャパン株式会社代表取締役社長兼ソニーマーケティング株式会社執行役員、ソニー株式会社クリエイティブセンター長、株式会BJIT代表取締役社長などを歴任し、2016年4月にジャスミー株式会社取締役、2018年11月に同社代表取締役社長に就任。

文系学生をIT人材へ。先進的だったソニーのキャリア開発

――佐藤さんはソニー入社後に、デジタルの世界に足を踏み入れたのでしょうか。

私自身は文系で経済学を専攻していましたが、入社当初はなぜか当時のコンピューター部という部署に配属されました。IBMのメインフレームという、当時の日本では有数の大型コンピューターシステムが導入されていた部署で、今でいうシステムエンジニアのような業務に従事していました。

当時は、なぜ配属されたか訳がわかりませんでしたが、後に文系出身者でも毎年必ず数人はコンピューター部に配属させていたことを知りましたね。

入社は1980年で、ちょうどオイルショックが終わった頃。緩やかに経済が回復し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と謳われた時代です。ところが当時のソニーにとっては、ベータマックスでVHSとの熾烈なビデオ戦争に敗れていく時期でした。

すでにフィリップスとCDの共同開発をはじめていましたから、文系人材のエンジニア登用も、今で言うDXのような、デジタル化に向けた動きと言えたかもしれません。

――現在は文系出身のシステムエンジニアも少なくありませんが、当時はかなり珍しかったのではないでしょうか。

一般的にはそうかもしれませんが、ソニーでは先輩でも後輩でも、当たり前のようにいました。私の同期は大学で猿の研究をしていましたし、ほかの部署になりますが、鬼の研究をしていた先輩もいました。

――鬼って、「鬼は外」の鬼のことですか?

そうです。当時は情報処理という分野ですら、文系か理系かも定まっていない時期でした。情報工学も情報経済学と言われ、経済学の一部として捉えられ、文系に近い扱いをされていました。そんな時代背景もあって、文系理系を問わず、とにかくユニークな人材が多かったと言えます。

ただ、当時の私は「コンピューターはなんてバカなんだ」と考えていたほどですから、プログラミングの素地があったかと言うと、何とも言えません。

「人間ならちょっとくらい間違っても融通が利くのに、コンピューターはコードで一箇所違えるだけで違う行動を起こすなんて」と思っていたくらいでして、デジタルに関する素地は、配属後に無理矢理につくっていったと言えそうです。

ただ、のちにVAIOを開発するときは、技術自体は私が入社当時に使用していたIBMのメインフレームだったことで、ある程度の理解は進みましたね。

――巨大なメインフレームから小さなパーソナルコンピューターへと変遷する。そんな過程で、できることの幅がより広がっていくという感覚はありましたか?

もちろん期待感はありました。しかし、当時はネットワークスピードがボトルネックとなっていました。まだADSLが形になっておらず、ダイヤルアップ接続で「ピーヒョロロ」とモデムから音がしていた時代ですから。

3度目の正直で「VAIO」は成功

――佐藤さんと言えばマーケターの印象が強いのですが、VAIO事業の責任者になるまでは、どのようにマーケティングに関られたのでしょうか?

もともと、入社時に自分の目標を書く自己申告書に「ソニーを超えるブランドを作りたい」と記していました。

ところが、その自己申告書を読んだ上司に、「おい、佐藤」と呼ばれまして(笑)。結局、「ソニーに匹敵するぐらいのブランドを作りたい」と直されましたね。

当時はマーケティングの理解がまだ進んでおらず、自己申告書にブランドについて書いたとしても、「宣伝をやりたいのか」「広報をやりたいのか」と言われたものです。しかし、私としてはブランドイメージを作ったり、ブランド力を向上させたいわけではなく、ブランドバリューそのものを作りたいと考えていました。

幸運にも、ソニーではキャリアプランとして新人は3年ごとにジョブローテーションがあり、私も3年でマーケティング部門に異動になりました。加えて、パソコンの普及によりデータ解析に基づいたマーケティングが始まりだした頃でして、パソコンを扱えることで重宝してもらえました。

――まさに、入社当初のコンピューター部でのキャリアが生きていますね。

会社が狙っていたかはわかりませんが、結果的にそうなりましたね。

ただ、「新しいブランドバリューを作る」「新しい商品を作る」となると、何か新しいことを思いつかなければなりません。そんなことを考えているタイミングで登場したのが、「マルチメディア」でした。

そこからマルチメディアについて学びはじめるわけですが、ソニーとしてもそれまでに2回ほどパーソナルコンピューターにチャレンジしながら、失敗した歴史がありました。

私自身、マルチメディアというお題にかこつけて、「何度もチャレンジしてなぜうまくいかないのか」と調べたことで、自分なりの打開策を見出しました。

その間、デジタル時代の波が大きくなり、当時の出井伸之社長時代に「PCビジネスの立ち上げに際し、国内マーケティングをやってくれ」という指令を受けました。そして、ついに新たな事業を立ち上げることになります。

――それがVAIOだったわけですね。

そうです。当時のコンピューターはBtoBばかりで、BtoCをメインにしたパソコンなどなかった時代です。とはいえ、ソニーはVAIOをただのハードウェアとして販売するのではなく、ネットワークとの接続で生まれるサービスやソリューション、体験を含めた販売計画を考えていました。

――今でこそスタンダードな戦略の一つですが、当時は画期的な発想だったと言えそうです。

当時はスティーブ・ジョブズもAppleから追い出されていて、パソコンのカラーバリエーションすらなかった時代でしたからね。他にない取り組みだったと思いますよ。

マルチメディアの裏側にある「デジタル化の本質」

――佐藤さんはその後、ソニースタイル・ジャパン(※)の代表取締役も務めました。その際のお話も教えてください。

※ソニースタイル・ジャパン:VAIOを中心としたエレクトロニクス機器の新しいビジネスモデルの構築や、ネットワークを使った新規サービスの提供などを通して、多様化する顧客ニーズへ迅速に応える販売会社(当時のプレスリリースを参照)

ソニーは規模が大きく、アナログからデジタルへと移行する時代においては、実に様々な考えが企業内にありました。

そんななか、私はとにかく「ネットワークの可能性」を信じていた人間になります。「インターネットの時代が到来すれば、世の中はもっと良くなり、大きく変わるはずだ」と。

ただ、私たちネットワーク信奉者による、インターネットによってメディアがなくなるという考えは、世間的にはなかなか受け入れられていませんでした。

ソニーがオランダのフィリップスと共同開発したコンパクトディスクも、既存技術のデジタル化の一例と言えますが、当時はまだまだ音はレコードやテープから流れるものだという考えが主流です。

レコードから出る音もテープから出る音も同じ信号だと言ったところで、メディアが異なるとなかなか理解はされませんでしたね。

――目に見えるものがあるかないかだけでも、大きな差があると思います。

先ほどお伝えしたとおり、当時は様々なメディアをミックスする「マルチメディア」という言葉が流行っていましたが、実はどのメディアでも流れる信号は同じなため、デジタルであればメディアミックスは成立すると言えます。デジタル化すれば、メディアや媒体は選びませんからね。

――社内での理解はいかがでしたでしょうか?。

私と同じ考えを持つ社員はもちろんいました。一方で「今ある技術を磨くべき」という考えをもつ社員もおりました。もちろん、それは決して悪いことではなく、社内はデジタル派とアナログ派のバランスが取れていた環境だったと言えます。

――ソニー元会長の平井一夫氏は、書籍やインタビューで「かつてはエレキやものづくりへのこだわりが強すぎる側面があった」を語っています。

そもそもソニーは、戦後間もない1945年の創業当時、電気座布団や電気炊飯器をつくっていた会社です。私も入社式で「あなたたちは、一歩間違ったら世界一の電気座布団の会社に入っていたかもしれない」と話したことがあるように、企業として何か決まった事業の枠があったわけではありません。ただ「電気を使って人々を豊かにする」といった方向性は、当時からブレていませんね。

もちろん、何をもって豊かにするかは、考え方も様々だと思います。よく比較されるパナソニックでは「水道哲学」です。水道の水のように低価格で良質なものを大量供給するという発想で事業展開されています。

一方、ソニーは新たな価値を提供するような製品を生み出すという視点が強いです。

――確かにソニーはエッジが効いているイメージがありました。

社風もその通りで、ネットワークの考えも否定されるのではなく、「そういう考え方もあるよね」と受け入れられていました。だからこそ、デジタル化も推進でき、So-netのようなビジネスも生まれたと思います。

社員も実に多種多様で、入社した理由を問われ「ソニーのテッド・ターナーになるため」と、電気とは全く関係ないエピソードを語った後輩社員もいました。そういった風土が、今おっしゃったような企業イメージを積み上げていったのかもしれません。

――その「自由さ」は、入社から退職まで変わらなかったのでしょうか。一般的には、企業規模が拡大するにしたがって、自由さも相対的に失われることがあるかと思います。

大きくなって変わった部分もあるかもしれませんが、根底に流れているものは不変と言えますね。

私の先輩世代は、まだ企業としての規模が小さく技術も限られていたため、やりたくてもできないことがあったと聞きました。ところが、会社規模が大きくなるにつれ、「やりたいことはできても、大人数を動かす大変さが生まれた」とも言っていました。

例えば、かつてのカムコーダー(※)は高密度実装技術の塊のような製品で、ヒトもおカネもかかる大規模事業ですから、1人で好き勝手にやれるわけではありません。なので、規模の大小によって、違う苦労はあったとは思います。

※カムコーダー:撮影をするビデオカメラと、記録を担うビデオテープレコーダーが一体化した装置のこと。現在はほとんどのビデオカメラに、この両機能が併存していることになるが、当時は分かれていることが多かった。

その点デジタルは、1人の天才が1万人に勝つこともあれば、1人の天才が1万人の凡人に負けることもあります。自由度が桁違いに高いのは間違いないと思います。

編集:山田雄一朗
執筆:小谷紘友
撮影:太田善章

第2話につづく

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