元ソニーのエグゼクティブたちが集い、起業した理由

元ソニーのエグゼクティブたちが集い、起業した理由

目次

ソニーでVAIOのマーケティングを主導するなど様々な要職に就き、現在はブロックチェーンベンチャーであるジャスミー株式会社の代表取締役社長を務める佐藤一雅氏。

前回は、佐藤氏が歩んできたソニー時代のキャリアを中心にお届けした。

※この記事には第1話があります。
▶︎第1話はこちら

今回は、なぜ佐藤氏がジャスミーを立ち上げたのか。その背景をお伝えしよう。

「ジャスミー」のプロフィール

誰もが簡単に安全にそして安⼼してモノを使うことができる仕組み(プラットフォーム) をつくり提供することをミッションにビジネスを展開。ジャスミーが提供するプラットフォームの提供を通じて、個々のデータを安全・安⼼に利⽤できる環境を構築している。

インタビューイー

ソニースタイルドットコム株式会社代表取締役社長、ソニーマーケティング株式会社執行役員兼ソニースタイルカンパニープレジデント、ソニースタイル・ジャパン株式会社代表取締役社長兼ソニーマーケティング株式会社執行役員、ソニー株式会社クリエイティブセンター長、株式会BJIT代表取締役社長などを歴任し、2016年4月にジャスミー株式会社取締役、2018年11月に同社代表取締役社長に就任。

立ち上げメンバーが抱いていた「問題意識」

――ソニーでキャリアを築かれた後、ブロックチェーンの世界に足を踏み入れることになります。ジャスミーの立ち上げ経緯について聞かせてください。

ソニーを卒業した後は、元上司である安藤(元ソニー株式会社代表取締役社長兼COO)のもとに集まり、お互いが持つ「危機感」を共有していました。

安藤はソニーを卒業後、同社が新しいイノベーションを生み出していったように、日本がもう1度イノベーションを起こすにはどうすれば良いのかと思案していたように見えました。特に大企業からイノベーションが生まれることが非常に少なくなっていたことに、気を揉んでいたはずです。

実際、日本からもう1度イノベーションを起こそうというモチベーションから、経済産業省の「フロンティア人材研究会」の座長やJapan Innovation Networkの理事をやり、また現在に至るまで長野県立大学の理事長も勤めています。これは、アントレプレナーシップを持った人材育成についても、文部科学省と積極的に議論した結果だと思います。

あとは、「日本のベンチャー企業がグローバルで戦えていない」という課題も強かったようです。それまでもベンチャー支援をしていたわけですが、率先垂範で自分でも実際に創業しようというタイミングで、私たちと話をしていたわけです。

一方、ジャスミー副社長である吉田雅信は、当時のデバイスマネジメントを超えたいという思いを抱いていたようです。彼もソニー出身で、スマートフォンの原型と言えるような「CLIE(クリエ)」という商品をつくり、ソニーエリクソンのCTOも務めていました。

その後ソフトバンクに移ると、孫正義さんと2人でAppleに乗り込んで、ドコモから発売されると噂されていたiPhoneの独占販売権を勝ち取っています。

ただ、彼はそういった経験から、携帯ビジネスのようにサービスやネットワークの事業者を決めると使用できる機器も決まってしまう「選択の不自由さ」を問題だと捉えていたようです。例えば特定メーカーのスマートハウスを購入したら、家以外の製品もすべてそのメーカーで揃えなければならない構造はおかしい、ということです。

――ベンダーロックは合理的でないということですね。

はい。しかし、様々なメーカーの機器を購入すると、トータルのデバイスマネジメントができないという問題点も出てきます。そういった危機感を、まだGAFAがそこまで台頭していない時代から感じていたようです。

ちなみに私自身は、ソニーを卒業した後は「もう一度、現場でマーケターとして活動したい」と考えていました。

ところが、インターネットによってバラ色の未来が訪れると考えていたのに、現実はそうではなさそうだと。

インターネットの登場により利便性が高まる一方で、なりすましや誹謗中傷といった、様々な問題も生まれました。そんな負の側面を目の当たりにし、「やはりネットワークの世界に戻って何とかしなければいけないのではないか」と、思いを新たにしたわけです。

「ものづくり」の強みとIoT・ブロックチェーン技術を掛け合わせる

――ブロックチェーンのビジネスを選んだ背景には何があったのでしょうか。

当時「IoT」が話題になりはじめ、安藤たちと今後の大きな方向性について話し合っているうちに、「エッジにもう1度力が戻ってくる」という結論に達しました。

1980年頃から変わらないこととして、ITCテクノロジーには常に波があります。はじめに新しい技術が大型機器をベースに生まれ、徐々にダウンサイジングすることで端末が進化していく。そして、またしばらくすると新しい技術が大型機器から生まれる、というサイクルです。

今から5年ほど前の創業当時は、ちょうどクラウドがもてはやされていました。しかし、IoTの将来を考えると、大規模サーバーをベースにしたクラウドではなくエッジコンピューティングの可能性が広がっていくと予想しました。

そして、それが現実となれば日本が世界をリードするチャンスも十分あるはずだと。なぜなら、日本のものづくりのレベルなら、シリコンバレーのものづくりのレベルに勝てる可能性があるからです。

――日本のベンチャー企業を買収しても、結局日本企業に再買収されるなんて話もありましたね。

もちろん私たちは、主に東アジア圏にありがちな、ただ安価で大量に作ればいいという考えではありません。ITの強みを取り入れた新しいビジネスモデルとともに、端末を世に出していき、あるいは端末を強くしていくという考えから、ジャスミーはスタートしたわけです。

――ブロックチェーンの技術ありきではなく、あくまでもハードウェアが起点だったと。

いえ、起点になったのはもっと大枠で「第4次産業革命」の到来です。

新しい技術の登場によって、社会では既存プレイヤーと新規プレイヤーの入れ替わりが起こります。そのチャンスをものにするためには、ビジネス的な要素はもちろんあるものの、課題を解決できるかどうかという点は見逃せません。

現に第4次産業革命は、日本に横たわっているような少子高齢化や労働力不足といった問題を解決する可能性を秘めています。例えばIoTによって、家で子育てをする人が在宅で仕事のできる環境を構築することができれば、一気にチャンスをものにできると言えます。

ただ、それらの課題を解決するIoTや、それに起因するDXはあくまでも手段であり、決して目的ではありません。ブロックチェーンも同じく、ブロックチェーンの活用によって何かが変わるわけではなく、何かを起こすためにブロックチェーンを活用するという考えです。

私たちがブロックチェーンに注目したのも、分散技術をIoTの発展に活用できるのではないかと考えた結果になります。また、誰もやらないのであればチャンスがあるのではないかという「ソニー的スピリット」の側面もあります。

現在、ブロックチェーンに関する世の中の興味は、暗号資産をはじめとするフィンテックに注がれています。ところが、ブロックチェーンの技術は複雑で、管理には秘密キーと公開キーという2つの鍵が必要となります。なかでも、秘密キーは他人に読み取られるわけにはいかないため、多くの場合は取引所に預けてコールドと呼ばれるオフライン状態で保管されます。

イノベーションの鍵になる「多様性」

――インターネットにつながっていると、読み取られるリスクがありますからね。

その通りです。ただ、IoTはInternet of Thingsであり、常にインターネットに繋がっている状態になります。ブロックチェーンとの関わり合いを考えるとリスクが高く、多くの技術者が二の足を踏みます。そこで私たちとしては逆説的に、先行することで優位性を保てるのではないかと考えました。

――発想が多くのITベンチャーとは全く異なると感じます。ちなみに安藤さんと吉田さんはソニー時代から関わりは深かったのでしょうか。

元々は同僚です。ソニーのIT関係のボスである安藤の下に、PC開発をしていた私たちやクリエを作っていた吉田たちがいた、という関係です。当時から関係性は近く、そもそも会おうと思えば偉い人にも会いに行けるような、風通しのいい会社でしたから。

ソニーには物怖じがしない社員が多く、特に安藤は長らくIT業界で生きてきたわけではないのに、あっという間にビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスとも電話で話せる間柄になるくらいです。その根底には、「自分は彼らと張り合えるものを持っている」という発想があったのでしょう。

その一方で、多様性を認めるところもありました。多神教で、オルタナティブに「俺か、お前か」といった選択をすることがほとんどない点は、日本人の良さでもあると思います。

――良くも悪くも曖昧さを受け入れるというのは、日本の特徴かもしれません。それがいい面に働くこともありますね。

海外は宗教が複雑に絡む上、正しい一つのことを選ぼうとしがちです。しかし、私たちは七夕もハロウィンもクリスマスも、すべて楽しんでいます。

「これもいい」「あれもいい」と長所を混ぜられるのは、世界的にはかなりユニークと言えます。世界的に多様性を取り入れようとしている現代社会においては、日本人が世界に打って出るチャンスは、かなりあるのではないでしょうか。

――確かに、最近は若い世代の感覚が世界的な流れに合致して、注目されています。

日本の若者は海外に出たがらないといった声を聞きますが、これからはどんどん出ていっても不思議ではありません。スポーツ界を見れば既にそうなりつつありますから、ビジネスの世界でも近くそうなるのではないでしょうか。

編集:山田雄一朗
執筆:小谷紘友
撮影:太田善章

第3話につづく

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