データをセキュアかつ柔軟に活用する未来がやってくる

データをセキュアかつ柔軟に活用する未来がやってくる

目次

ソニー時代の元同僚たちとともにブロックチェーンベンチャーを立ち上げた、ジャスミー株式会社 代表取締役社長を務める佐藤一雅氏。

前回までは、ジャスミーを立ち上げるまでの経緯を中心にお伝えした。

※この記事には第1話があります。
▶︎第1話はこちら

※この記事には第2話があります。
▶︎第2話はこちら

最終話の今回は、ジャスミーがどのようなアプローチで社会のDXを実現しようとしているのか。中長期的に描かれたビジョンとその真意に迫る。

「ジャスミー」のプロフィール

誰もが簡単に安全にそして安⼼してモノを使うことができる仕組み(プラットフォーム) をつくり提供することをミッションにビジネスを展開。ジャスミーが提供するプラットフォームの提供を通じて、個々のデータを安全・安⼼に利⽤できる環境を構築している。

インタビューイー

ソニースタイルドットコム株式会社代表取締役社長、ソニーマーケティング株式会社執行役員兼ソニースタイルカンパニープレジデント、ソニースタイル・ジャパン株式会社代表取締役社長兼ソニーマーケティング株式会社執行役員、ソニー株式会社クリエイティブセンター長、株式会BJIT代表取締役社長などを歴任し、2016年4月にジャスミー株式会社取締役、2018年11月に同社代表取締役社長に就任。

ブロックチェーンとKYC・KYMの組み合わせが強みになる

――前回話題に挙がった「多様性」は、ブロックチェーンでもカギとなってくるのでしょうか。

まさにいいとこ取りをしたような、技術そのものが多様性を表出したものだと言えると思います。

オープンイノベーションの時代ではどの技術がいい/悪いを決める必要はなく、長所をつなぎ合わせることができます。今後は日本人らしい、技術を組み合わせるユニークネスを発揮する場面も増えるのではないでしょうか。

――デバイスの組み合わせも、ユニークネスのひとつと言えそうです。

そうですね。現代は技術的な大発明をする時代ではなく、組み合わせの妙も発明だと言えます。私たちのような小さな企業でも、発想と思いで時代を突き進んでいけると考えています。

ただ、コアコンピタンスがなければユニークネスを保つのは難しいのも事実です。

私たちとしてはブロックチェーンを活用して、身元確認と当人認証である「Know Your Customer(KYC)」と、ネットワーク登録された特定のデバイスと持ち主を紐付ける「Know Your Machine(KYM)」の組み合わせにこそ、自分たちの経験値が生きると考えています。

――KYC領域には様々なプレイヤーが出てきていますが、これまでの経験値を具体的にどのように活かせるのでしょうか?

KYCとKYMのセットという概念は頭のなかでわかっていても、実際にどう成り立つのかは、実装したサービスやアプリケーションが世に出て初めて理解されると思います。

ただ、IoTが普及し切った先には、当社の技術を活用してデバイスを持ち歩かなくてもいい時代が到来するかもしれません。KYMによって認証されたデバイスであれば、例え不特定多数が利用できるような環境であっても、個人が利用できる正式なデバイスであることが第三者的に証明されることになります。

そして、そのデバイスを通じてKYC(本人確認)を行い、アプリケーションなどを起動してサービスを利用することも可能です。その際は、生体認証などの手法で個人が識別されることが想定されているため、なりすましなどのリスクも大幅に低減できるでしょう。

このような環境が構築できれば、そこを起点にさまざまなサービスが共存するエコシステムができると想像しています。

現時点では概念だけで目に見えていないため、理解は得られにくいと思いますが、私たちはこれまでソニーなどで培ってきた経験値から、完成形を予測してビジネスを展開しています。

もちろん、他にもそのような想定をしている事業者は多くいるでしょう。しかし、私たちは分散化の時代を想定して開発を進める中で、KYCとKYMのそれぞれのビジネスモデルについて国際的な特許も出願しています。そのため、ある程度のユニークネスがあると認識しています。

セキュリティを担保して、データを有効活用する

――サービスの開発はどのように進められているのでしょうか。

インターネットは当然人体に直接つなげることが出来ませんので、何かしらのデバイスを介さなければなりません。そうなると、デバイスを自分の身体の一部にするという発想が必要になります。ところが、例えば私の使用しているパソコンを誰かに渡してログインIDを変えてしまうと、途端に私のものではない使い方ができてしまいます。

また現在のネットワークは、私のものであるという考えと、誰でも使えるという考えをいかに両立させるかが課題になります。所有しているようで、所有していない状態の両立とも言えますね。この状態を実現する技術が、先ほど紹介したKYMとKYCで、これをいかに組み合わせるかがポイントになります。

――所有しているようで所有していない状態。難しいですね。

しかしKYCとKYMをうまく活用できれば、データ自体をセキュアに管理し、かつ利用しやすく運用できると考えています。これは、自分のデータのより安全で便利な活用法が必要なのではないか、という発想が原点となっています。

現状は、GAFAといった巨大プラットフォーマーに自分たちのデータをすべてさらけ出すことで、レコメンデーションといった便益を享受できるようになるのが一般的です。もちろんこれは便利な側面もありますが、ユーザー自身が積極的にデータを活用するという観点では足りない部分もあり、さらに米国では独占禁止法の規制に抵触するといった議論が続いていることからも、未だに「データの民主化」は実現していないと考えています。

既にデータを預ける「情報銀行」という仕組みが一部運用を開始していますが、その多くは私が知る限り、ウェブサービス等でこれまで自分が行動・消費してきたデータを預けて運用してもらう「預託形」となっています。

――信託銀行のようなシステムですね。

それらの仕組み自体は信頼でき、データも貸し手の悪いようには使われません。一方、私たちの開発する「データロッカー」であれば、KYCとKYMを活用して、財布や貸し金庫に近いイメージでデータを自分で管理でき、自由に活用可能となります。

また、銀行におカネを預けていると送金ができますが、個人情報に関しては預かっている企業が情報を送ることは、個人情報保護法の規制から現状では難しい状態です。しかし、ユーザー自身がデータロッカーに預けているデータを管理することで、今お伝えしたこと含めて実現の幅が広がるのではないか、という期待感があります。

――具体的には、どういうことでしょうか?

例えば、現在推進しているコールセンターへの応用を考えてみます。、メーカーへの問い合わせ内容がネットワーク起因であったとき、これまでは「一度ルーターメーカーにお問い合わせください」と答えることしかできず、また問合せ主体であるユーザーとしても二度手間になってしまいました。

ここで、ユーザー自身が自分の所有するハードウェアと利用するネットワークの情報をデータロッカーに記録し、このデータロッカーの情報を、問い合わせを行ったユーザー自身が開示することで、このような無駄を省くとともに、応対品質向上へとつなげることもでるでしょう。

また、コールログを記録する事で、コールセンターは過去ログを過度に保管する必要がなくなり、GDPR準拠の最適な情報管理などが実現するだけでなく、スムーズで高品質な応対が期待できるようになります。

このように、自分自身がデータの実質的な所有者となる事で、その活用法もより豊かになるのではないかと考えています。

ソニーのように、テクノロジーの力で社会を変革する

――この仕組みを使えば、企業のデジタルマーケティングの改善にも寄与できそうです。

そうなると思います。レストランの選び方を考えてみると、食事の際は評価の高いレストランを選ぶ人もいれば、自分の好みに合うレストランを選ぶ人もいるでしょう。例えば、私は薄味が好みなのですが、レストランガイドには3つ星と書かれているだけで、薄味かどうかはわからない場合がほとんどです。そうなると、多くの人から受けている評価よりも、薄味を好む数人だけからの評価の方が信頼できたりするわけです。

もちろん誰を信用するかどうかが肝になってきますから、なりすましや匿名性の問題は出てきます。ただ、ブロックチェーンを使えば改ざんは現実的に不可能ですから、匿名相手であっても素性を把握することは可能です。

――そう考えると、リファーラル・マーケティングはまだまだ発展する余地があると言えますね。

今の例で考えると、現在のレコメンデーションは、食べ歩きが好きな人、あるいはそれを生業としている人たちの評価がもとになっていると言えます。一方で、そのようなお店に一度しか行ったことのない人たちによる評価よりも、毎月通う常連客の評価の方が信頼できる場合もあります。

私たちは、そういった個人の好みや趣向を表すデータを「プラチナデータ」と名付け、問題の解決や行動決定などに役立てようと考えています。プラチナデータは個人情報や機密情報と紐付けなければ、幅広く活用できますから。

――活用の幅は広そうですね。最後に今後の展望について聞かせてください。次なるステップはどのように考えていますか。

私たちにとって、現在のメイン領域である情報セキュリティは入り口や土台と言えます。安全・安心が担保されると、ユーザーたちによってサービスを活用したアプリケーションなどが開発され、やがて私たちが思いもしなかったような未来が現れるものです。

先ほどご紹介した、IoTが普及し切った先の未来なども、その1つです。

私たちとしてはコールセンターのためのサービスを作りたかったわけではなく、私たちの技術がコールセンターで有効だから使っていただいていると理解しています。そして、自分自身がデータの所有者となり、自由に利活用できる「データの民主化」の可能性は、より広がっていくと信じています。

コールログのような、ネットワーク上でユーザーが行動・消費したあらゆるデータはログとして全て残っているため、実に膨大な量になっています。それらをまとめてビッグデータとして一般化して活用するだけでなく、外部には出せない個々人のデータと組み合わたり、別々のサービスに蓄積されてきたデータを個々人の軸で横断するサービスをどのように生み出すかが、次なるステップとなっていきそうです。

それはユーザーの手によって生まれるかもしれませんし、他企業にデータを委ねることで生まれるかもしれません。

当然、所有者としてユーザー自身にメリットが生じる事が前提となりますが、最終的には、データの受け渡しが行えるマーケットプレイスが誕生することも考えられます。

このように、あらゆるオープンイノベーションの可能性を信じて、ジャスミーのテクノロジーを展開したいですね。

ちなみに、同じようなエピソードはソニーにもあります。創業者の井深大がアメリカでトランジスタの特許ライセンスを購入する際、「補聴器ぐらいにしか使えない」と言われたそうですよ。

――トランジスタがエレクトロニクスの主役になった現在からすると、考えられない話ですね。

使い道は少ないと言われながらも、当時の井深はなけなしのおカネをはたいてまで、トランジスタのライセンスを購入しました。当初はラジオに使用していましたが、購入したときから、ゆくゆくはトランジスタが広く使われる未来を想像していたのだと思います。

そして、実際にイノベーションを起こしました。

私たちも同じように、まだ種がある状態に過ぎません。しかし、ジャスミーのテクノロジーを知ったユーザーが各々の未来を描き、ソニーが起こしたようなイノベーションを創発してくれたら、これに勝る喜びはありません。

編集:山田雄一朗
執筆:小谷紘友
撮影:太田善章

関連記事

  • 【安宅和人 × 斎藤幸平】人類のあり方のトランスフォーメーションによせて

    【安宅和人 × 斎藤幸平】人類のあり方のトランスフォーメーションによせて

  • スタートアップ〜大企業まで、8社が語るDXのホンネ

    スタートアップ〜大企業まで、8社が語るDXのホンネ

  • 社会のDXを加速させるために、「規制のサンドボックス制度」が果たす役割とは

    社会のDXを加速させるために、「規制のサンドボックス制度」が果たす役割とは

  • 新たなステージに入った金融業界。DXが加速させるESGの最前線に迫る

    新たなステージに入った金融業界。DXが加速させるESGの最前線に迫る

  • メタバース時代の娯楽とは。コロナ禍で強制DXしたエンタメ業界の次なる打ち手を探る

    メタバース時代の娯楽とは。コロナ禍で強制DXしたエンタメ業界の次なる打ち手を探る

  • D(デジタル)よりもX(トランスフォーメーション)の方が大事。DX時代の人材育成談義

    D(デジタル)よりもX(トランスフォーメーション)の方が大事。DX時代の人材育成談義

News

  • ヤプリ、アプリ開発にさらなる自由を与える新機能を多数発表〜モバイルDXを加速させる”デザイン・施策・連携”を強化〜

  • オロ、ビジネスモデルにあったデジタル広告を可能にする独自指標「PGI」を開発

  • 【資金調達】ITエンジニア向け見積もり作成のDXツールを展開する株式会社EngineerforceがSEEDラウンドにて総額3,500万円調達!

  • 製薬・医療機器メーカー向けのプロモーションSaaSを提供する株式会社フラジェリンが、大阪オフィスを「WeWork なんばスカイオ」に開設

  • エンジニア組織の活動量を自動解析し、生産性向上をサポート エンジニア組織支援SaaS「Findy Teams」正式版をリリース

FREE MAILMAGAZINEメルマガ登録

DXに特化した最新情報配信中