DXの鍵は「抽象化」。農業を起点に考える社会のあり方

DXの鍵は「抽象化」。農業を起点に考える社会のあり方

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私たちの「食」と切っても切り離せない農業。担い手の高齢化や減少で、日本の農業は大きな岐路に立っている。

一方で、暗い話題ばかりではない。近年は「AgriTech」という言葉を象徴するように、異業種の参入やスタートアップの台頭もある。

矢野経済研究所の予想では、2019年度のスマート農業の国内市場規模はおよそ180億。翌2020年度は10%以上成長して約203億と伸び続ける見込んでいる。

大きなポテンシャルを秘めた農業の新たな未来を築くには何が必要か。2021年6月18日に開催されたAG/SUM2021 SYMPOSIUMのプログラム「農業DXの未来」では、以下4名のスピーカーたちを交えて議論が行われた。今回は、その内容をお届けしよう。

登壇者情報

  • 小池 聡(ベジタリア 代表取締役社長 CEO)
  • 神成 淳司(慶應義塾大学 環境情報学部 教授/内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 室長代理 兼 副政府CIO)
  • 渡邉 善太郎(スカイマティクス 代表取締役社長)
  • 西山 圭太(東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授/経営共創基盤 シニア・エグゼクティブ・フェロー)

DXの第一歩は「レイヤー化」にあり

まずは冒頭、「DXの思考法」を上梓した西山氏よりDXの基本的な考え方が示された。

まず現状認識をした上で、縦割りではなく「ミルフィーユのように”横”で捉え直すのが第一歩」と指摘する。これは、従来の業種などに囚われることなく、他業界や社会まで視野を広げるという意味だ。これにより、デジタルを活用して未来の姿を描くというのが、西山氏が唱えるDXの基本的な考え方にある。

この事例として西山氏が挙げたのが、「エル・ブジ(El Bulli)」というスペインにあったレストランだ(現在は閉店)。レストランであれば、どの国の料理を提供するか、それによってメニューなども自ずと決まってくる。

しかし、エル・ブジの発想はこれとは大きく異なる。まず世界中にある食材を洗い出し、データベースに蓄積。さらに世界中の調理テクニックを調べあげ、その食材を生かす最高の方法を探った。これにより、今までにはない最高の料理を提供したのだ。西山氏は「デジタル技術は使っていないものの、レイヤー化の典型的な例だ」と語る。

ここで重要なのが「今までのビジネスをそのままデジタル化するのがDXではない」(西山氏)ということだ。農業なら、生産している作物や地域などの枠組みを超えてこそ、DXが実現しうるのではないか。この見解を示した上で、農業でDXにチャレンジするプレイヤーたちがその現状を明かす。

社会を俯瞰して、農業のあり方を捉え直す

これを踏まえ、小池氏からは「スマートフードチェーン」の考え方について紹介された。

現在ArgiTechの主流になっている、生産工程の効率化に貢献するスマート農業的な観点からマーケットニーズなどを捉えた「フードバリューチェーン最適化」というアプローチではなく、Society5.0で描かれた社会から“バックキャスト”した形で農業を考えるべきではないかと、というのだ。

このためには、社会をビッグデータ・AIなどを用いて解析して、マーケットデータを踏まえてバリューチェンを構築する。これにより「スマートフードチェーン」が実現するという。

確かに、農業は一ビジネスの枠を超えて、地域社会とも密接に結びついている。小池氏は「農業は作物を生産するだけでなく、里山を維持するなど地域の環境にも影響を及ぼします。昨今、声高に叫ばれるサステナビリティの観点からも考えなければなりません。また祭りなどの文化も、ほとんどが農業に関わっています。農業を考える際は、このような視点が欠かせません」と語る。

また渡邊氏は、フードバリューチェーンを含め、農業のあらゆる問題を解決する糸口は「農家と農地にある」と言い切る。現状、農業に関するノウハウはほとんどが作り手の頭の中にある。さらに、その上で大事な観点を示す。

「今までノートに記されていたものを、デジタルで記録するのは単なるデジタル化に過ぎません。大事なのは、農家の方々も認識していないノウハウをどうやって記録に落とし込むか。広大な農地を持っている農家の方々の場合、すべての農地や生産している全作物のリアルタイムの情報は持ち合わせていないケースが多いでしょう」(渡邊氏)

このデータ化に付随して、農業に関するデータベースづくりに携わる神成氏も「その土地に関する情報がないと、新たな担い手も参入しづらいです。明らかできるの情報をどのように集約するかは大きな課題でしょう」と同意する。

農業の「特殊性」をどう乗り越えるか

一方で、農業にはそれにまつわる特殊性がある。自然を相手にしている、協業が難しい、土地への依存度が高い、属人化など言い出せばキリがないほどだ。

これをどう乗り越えるか。この知見は、農業に限らずさまざまな業界で求められている。

そのヒントについて、スピーカーの方々よりさまざまな意見が出た。まず、渡邊氏はDXを進める"メリットの訴求"について挙げ「今のDXはメーカーやベンダーの都合が大きい。ツールにしても、正直説明書がないと使えないものがほとんどです。スマートフォンは説明書がなくても使えるのに、スマート農業のツールはスマートではないという声も挙がっています」と指摘。使いやすく、効果が目に見えてわかるツールの存在が必要だと訴える。

また神成氏は、渡邊氏のコメントを踏まえた上で"人"の存在を挙げる。

「影響・効果が大きく、実現性が高く、さらに最も変われるのは人です。その上で、本当に価値がある特殊性を見極める。私は、熟練技能の継承に関する研究にも取り組んでいますが、職人たちの技術はものすごく価値がある。もちろん、ネガティブな見方をすると属人化しているわけですが、それを変えようとするのではなく、むしろ物流やニーズのマッチングなど、それを取り巻く環境を変える発想も重要ではないでしょうか」(神成氏)

各スピーカーの話しが尽きない中、プログラムも終わりが近づいてきた。農業DXの最前線で活躍するプレイヤーたちのメッセージを踏まえて、西山氏が以下のように述べた。本レポートは、このメッセージで締めたい。

「根源的に、まず自分は何を実現したいのか?これを自分自身に問いかけて、課題を認識するのが重要です。そうすると、今やっていることを数%改善するだけでは、実現できないこともある。しかし、今の延長線からあえて外れて、目に見えるものにとらわれすぎず、まずは抽象化して考えるのがポイントだと思います」(西山氏)

取材/文:山田雄一朗

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