農業から考える「ESG投資」と「DX」の密接な関係

農業から考える「ESG投資」と「DX」の密接な関係

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「ESG」、「SDGs」、「サステナビリティ」、これらのワードをメディアで見ない日はない。自然環境保護の重要性は、それこそ京都議定書の時代から叫ばれてきた。しかし、近年の気候変動問題などの影響により、人類はいよいよこの問題に真剣に向き合わなければならない状況に追い込まれた。

そして、その影響はビジネスのあり方も大きく変えようとしている。サステナビリティは単なるCSRではなく、現状を踏まえれば企業活動の根幹に据えねばならないテーマなのだ。特に、金融機関からは「ESG投資」などの観点から厳しくジャッジされるようになりつつある。

そこで、今回は2021年6月18日に開催されたAG/SUM2021 SYMPOSIUMのプログラム「金融包み込むESGムーブメントが農業に及ぶ」の内容を踏まえながら、ESG投資とその影響を受けるであろうDXの関係性を探っていこう。

登壇者

  • 藤井 良広(環境金融研究機構 代表理事)
  • 粟野 美佳子(SusCon 代表理事)
  • 三輪 純平(金融庁総合政策局 国際政策管理官)
  • 瀧 俊雄(株式会社マネーフォワード 執行役員CoPA 兼 Fintech研究所長)

なぜ農業にESG投資が求められるのか?

まずは、今回のメインテーマになる「ESG投資」の定義をおさらいしよう。

そもそもESGとは、環境(Environment)、社会(​Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字から作られた言葉である。自社の利益だけを追求するのではなく、環境や社会のあり方を踏まえながら、適切な情報開示を行い、企業マネジメントを円滑に行うことを意味する。

つまりESG投資とは、上記観点に配慮して投資等の判断を下すアセット・オーナー(企業年金や各種保険会社など)サイドの投資ポリシーということになる。そして、このESG投資はあらゆる産業領域への投資条件として、世の中に広まりつつあるのだ。

それでは、なぜ今、農業にESG投資の発想が求められているのか。SusCon 代表理事・粟野 美佳子氏は以下のように述べる。

長きにわたり国際環境NGO WWFでも活動してきたSusCon 代表理事・粟野 美佳子氏。SusConでは、企業のサステナビリティチャレンジを支援する他、農水省「生物多様性戦略検討会委員」や環境省「地域におけるESG金融促進事業委員」など、有識者としての行政機関への働きかけ等も行っている

「農業開発の観点からすると、森林を伐採するなど農業は自然破壊を促進させます。例えば、森林が伐採されれば、CO2の増加を助長することになり、地球温暖化が加速する可能性が懸念されます」(粟野氏)

粟野氏によると、農業を捉える上で”3つの観点”の観点が欠かせないと指摘する。

「1つ目は先ほど挙げた"環境破壊者"としての農業です。そして、2つ目は"自然資本依存者"としての農業で、生物多様性を犠牲にするようなことがないか世界的な課題になっています。そして、3つは"ソリューションプロバイダー"としての農業です。これは、再生型農業など環境負荷をむしろ下げるような農業で、これは今後成長することが見込まれます」

また環境金融研究機構 代表理事で元日経新聞の記者として金融業界を専門とし、以前から「サステナブルファイナンス」の必要性を提唱している藤井 良広氏はこう語る。

「開墾のために土地を開発すると、確かに気候変動を加速しかねません。しかし、SDGsに飢餓の撲滅が掲げられているように、食糧生産のための農業は必要です。このトレードオフをどうクリアするかが大きな課題でしょう」(藤井氏)

日経新聞の記者としても、国際金融の最前線を追い続けてきた環境金融研究機構・代表理事 藤井 良広氏

このように、農業と地球環境は密接にリンクしているのだ。

「ナッジ」を示すために、テクノロジーを活用

一方で、粟野氏はこのような見解も示す。

「最近、台頭しつつあるソリューションプロバイダーとしての農業には期待しています。バイオ燃料などはその1つで、環境負荷を低減する技術も登場しています」(粟野氏)

新たなテクノロジーの利活用が進み、地球環境にも貢献する。これは、まさにニューノーマルなビジネスのあり方を示しているとも言える。地球環境や社会に貢献して、その対価として利益を得る。このようにESGをベースにしたモデルがスマートであり、高い評価を受ける時代はすぐそこまで来ているのではないだろうか。

またマネーフォワード 執行役員CoPA 兼 Fintech研究所長の瀧 俊雄氏はテクノロジーの活用方針として「ナッジを示す」ことを挙げた。

ナッジとは「人々が望ましい行動を自発的に取れるようアプローチすること」で、行動経済学の分野では大きなテーマとなっている。瀧氏は、ナッジを実現するために実践されているテクノロジーを活用例を紹介する。

「海外の家計簿アプリでは、日々の生活の中でCO2をどれだけ排出したか計算できるようになっています。牛肉を食べたのか、大豆を食べたのかでもCO2の排出量が変わるように、これらを家計簿アプリを通じて集計して、可視化するのです」(瀧氏)

マネーフォワードの成長を牽引し、同社のサステナビリティの取り組みも推進する瀧 俊雄氏

誰もが所有しているスマートフォンを通じて、このようなアプローチができるようになったのは大きい。環境といえば、これまで政府などが主導する「トップダウン」型で実施されるのが一般的だったが、これからは1人ひとりが環境を意識して消費をする「ボトムアップ」型のアプローチが、より広まっていくかもしれない。

ESG投資の鍵は「データ」

このような世の中の動向に、いち早くアクションをとっているのが金融セクターだ。

金融業界では、私たちが想像している以上にESG投資を進めようとしており、また、そのために様々なフレームワークをつくって広めようとしている。

金融庁 総合政策局 国際政策管理官の三輪 純平氏は、その一例を紹介する。

「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、その1つです。財務データだけでなく、気候変動リスクになりうる活動なども適切に開示する。従来は、任意での対応が求められていましたが、これが要件になりつつあります」(三輪氏)

資金の出し手である金融機関の変化は、非常に大きいとも言える。しかし、このような動きにも課題はある。その1つが"データ"の存在だ。

「金融機関やそこから投資や融資を受けている企業は、温室効果ガスの排出量など気候変動にかかわるあらゆるデータを揃える必要があります。しかし、特に農業はそれらのデータを測定して用意するのが難しい。規模が小さな農家が多い日本では大きな課題です」(三輪氏)

金融庁の一員としてESG投資のあり方を考える三輪 純平氏

データが鍵を握るという意見には、粟野氏も「農業だけでなく、あらゆる産業で温室効果ガスの排出量の算出が求められている」と同意する。現状を踏まえると、これは誰かがやらねばならないことだ。

農業から排出される温室効果ガスをどのように測定するかは、政府でも大きなテーマとなっており、2021年1月27日には、環境省が「農業分野における排出量の算定方法について(案)」を提示している。農地に投入される有機物由来の窒素量(有機質肥料)の算定緻密化や家畜一頭当たりの排せつ物量に占める窒素量などを算定する方法が検討されており、この分野はまだまだ議論が続きそうだ。

こうして、プログラムではESG投資と農業に関する活発なディスカッションが行われ、終了となった。

DXの先に、サステナブルな世界を描けるか

農業とESG投資は切っても切り離せない関係にある。だが、ESG投資と密接に関係があるのは農業だけではない。極論を言えば、あらゆる産業セクターがESG投資とは無縁ではいられなくなる。それほど、世界におけるサステナビリティに対する意識は高まりつつある。


このような現状を踏まえると、DXを企図するプレイヤーは、その未来像に「サステナブルな世界を描けるかどうか」が成功を左右する要因の1つとなるだろう。それが描ければ、ESG投資の観点から金融機関に支持される可能性も高まる。

またESGに関わる問題を解く上で、デジタルを活用できる余地は非常に大きい。農業を見ても、データの収集・活用は大きなテーマであり、そこでDXを起こせるかもしれない。そして、このようなチャンスは、視野を広げれば数多くあるはずだ。

取材/文:山田雄一朗

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