持続可能な介護に向けて。介護DXの要となる「日本ケアテック協会」

持続可能な介護に向けて。介護DXの要となる「日本ケアテック協会」

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2021年6月30日、介護分野でのテクノロジーの利活用と、「持続可能な介護」の実現を目指して設立された「一般社団法人日本ケアテック協会」の設立記念総会とフォーラムが開催された。

耳慣れない「ケアテック」とは、Care(介護)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語である。世界に類を見ないスピードで超少子高齢社会へと突入した日本だからこそ、課題先進国、いや課題解決先進国として、この領域へのテクノロジー活用が大いに期待されている状況だ。

xDXでは前後編に分けて、我が国の介護DXを推進する官民連携を媒介する存在としての日本ケアテック協会の概要と、フォーラムの中でも特にDXに関わるセッションにレポートする。

まずは前編となる本レポートにて、日本ケアテック協会の設立概要やその背景、中長期的なビジョン等について見ていく。

迫りくる「2025年問題」と、進まぬICT化

既知の通り、我が国における高齢者割合の急激な増加は、諸外国と比較するとトップを走っており、2060年には全人口の38.1%が65歳以上になると予想されている(韓国:37.1%、中国:30.5%、英国:26.7%)。また、現時点における訪問介護職員の平均年齢はとうとう50歳を突破しており、数年後の未来に鑑みると、人材不足問題が顕著になることが容易に想像できる。直近で見てみても、2025年時点では約55万人(下図右矢印の差分)の介護人材が不足すると考えられている状況だ。いわゆる「2025年問題」の一事象である。

画像:第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について(厚生労働省「2040年頃の社会保障を取り巻く環境」)

これに対して有効な手段と考えられているのが、テクノロジーの活用だ。しかし、介護業界のICT活用の現状を見てみると、保険・医療・福祉関連の中小企業が最もICTの利用状況が低いとされている(下図左下のピンク円)。

画像:産業別・規模別でみたICT化の深化と改革、効果の関係(総務省「ICTが成長に与える効果に関する調査研究」(平成24年))

要するに、ここに対して積極的な投資を行うことが、構造的な課題を抱える介護業界における問題解決のアプローチとしては、ポテンシャルが大きいと言える。

2021年4月には自民党ケアテック活用推進議連も発足

このような状況下で、介護業界におけるテクノロジー活用の橋渡し役を担うべく設立されたのが、日本ケアテック協会だ。2020年11月11日「介護の日」に設立された同協会では、その設立目的を以下のように掲げている。

代表理事には、ケアプラン作成業務を支援する人工知能エンジン「ミルモぷらん」等を展開する株式会社ウェルモのCEO・鹿野佑介氏が就任している。

2020年11月11日の協会設立会見にて。写真左から、竹下康平氏(一般社団法人日本ケアテック協会 専務理事/事務局長/株式会社ビーブリッド 代表取締役)、鹿野佑介氏(一般社団法人日本ケアテック協会 代表理事/株式会社ウェルモ 代表取締役 CEO)、森剛士氏(一般社団法人日本ケアテック協会 常務理事/株式会社ポラリス 代表取締役 CEO/医療法人社団オーロラ会理事長/医師)

同氏は早い段階から、行政や政治を巻き込んでの業界改革を想定して事業を展開しており、2018年の福岡市でのケアプラン作成支援AI(現「ミルモぷらん」)実証実験を皮切りに、複数の自治体での展開を実現している。また、2021年4月に発足した自民党のケアテック活用推進議員連盟会議(会長:丸川珠代参院議員)にも、外部有識者として積極的に参加しており、まさに業界構造を政策レベルでトランスフォームすべく、官民連携を推進している人物だと言えるだろう。

そんな鹿野氏の声がけに集まった同協会の理事・顧問・監事メンバーも、非常に頼もしい名前が連なる。

例えば、各種AI事業を展開する株式会社エクサウィザーズ代表の石山洸氏は、xDXでも、同社主催のフォーラム「ExaForum2021」のイベントレポートで登場している。

中長期的なICTの浸透に欠かせない「ケアテック認証制度」

協会の構想としては上図の通り。ポイントとしては大きく3点、ケアテック事業者と介護事業者の適切なマッチングとそのための判断軸の一つとなる「ケアテック認証制度」の環境整備・運用、介護現場のデータ利活用の促進、そして社会保障の仕組みへの各種提言にあると、鹿野氏は強調する。

特にケアテック認証制度については、中長期的な業界のテクノロジー浸透において非常に有効な施策だと言える。人手不足で常に多忙な介護事業者にとって、多種多様な製品やサービスの中から情報収集・比較して、最適なプロダクトを選択する工程は、非常に大きなハードルとなっている。一方でケアテック事業者にとっても、製品企画から開発、マーケティング、導入運用に至るまで頼れる指針がなく、全て自助努力での工数負担となっているのが現状だ。

だからこそ、同協会が中立的な立場で認証制度を運用し、安心してケアテック製品・サービスを選択する基準を示すことで、介護事業者としてはケアテックを利活用しやすい環境が整備され、またケアテック事業者の製品・サービス販売の健全性を担保することにもつながる。

介護に関わる全ての人の身体的・精神的負担をできるだけ減らしたい

以上のような構想に対して、では具体的にどのように進めていくかということだが、ケアテックの社会実装に向けてはヒト・モノ・カネそれぞれ観点で、以下図のような変革事項が挙げられている。

例えばモノの部分について、現状の介護業界ではAIを活用しようと思っても、そもそも教師データ等となり得るデジタルデータそのものが存在しないケースがほとんどである。また、仮にデジタルデータが整備されていたとしても、個人情報関連の制約によって、民間事業者はそのデータを自由に活用しにくい状況もある。だからこそ、日本ケアテック協会としては、行政や医療、介護事業所内のデータの扱いや外部連携のあり方の見直しを行い、データが適切に有効活用できる土壌を整備することを進めるとしている。オープンデータの拡充は、その一つのアプローチと言えるだろう。

さらに、協会には様々な企業が会員として関わるからこそ、そこから様々な課題が上がり、また介護事業者サイドからも同様に課題が上がってくることから、それらを集約・整理することで、課題解決に向けたプラットフォームとしての機能も加速することになる。

「領域が広すぎて、テクノロジーだけで済むという話でもございませんし、介護現場だけでも無理なので、色々な方が一丸となって取り組んでいかないと、なかなか動かないことが多いと思っております。ぜひ、介護に関わる全ての人の身体的・精神的負担をできるだけ減らして、持続可能な介護を実現できればなと、心から思っておりますので、引き続き宜しくお願いします。」(鹿野氏)

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現在の介護報酬の算定は、極めて労働集約的なビジネスプロセスを根拠としている状況だ。だからこそ、政策提言も含めた役割を担う同協会としては、このような算定根拠を、よりICTライクなものへとアップデートしていくことが必要となるだろう。

複雑な課題が絡まりあった業界だからこそ、それらを下手に丸めることなく一つずつ丁寧に官民連携して対応していくことで、介護保険、さらには介護業界全体のDXにつながることが期待される。そんな協会設立記念総会であった。

取材/文:長岡武司

▶︎後編記事につづく

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