介護DXでケアの底力を引き出す。世界標準の「ケアテック」に向けて

介護DXでケアの底力を引き出す。世界標準の「ケアテック」に向けて

目次

介護分野でのテクノロジーの利活用と、「持続可能な介護」の実現を目指して設立された「一般社団法人日本ケアテック協会」。その設立記念総会とフォーラムが、「介護DX元年 科学的介護の実現とケアテックの推進」をテーマに、2021年6月30日に開催された。

本記事では、後半のフォーラムに組まれた「在宅介護・地域包括ケアとデジタライゼーション」セッションの内容についてレポートする。理論に留まらず、具体的な事例をあげての理想と希望が語られた時間であり、日本の介護DXの未来に大きな希望を描ける内容であった。

※この記事には前編があります。
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登壇者

  • 青柳直樹(ドクターメイト株式会社代表、医師)
  • 鹿野佑介(株式会社ウェルモ代表取締役CEO)
  • 森剛士(株式会社ポラリス 代表取締役、医療法人社団オーロラ会 理事長、医師)
  • 山岡勝(パナソニック株式会社テクノロジー本部スマートエイジングPJ 事業総括)モデレーター

介護と医療の壁を超え、“全国”包括ケアへ(ドクターメイト 青柳直樹氏)

青柳直樹氏(ドクターメイト株式会社 代表取締役/医師/日本ケアテック協会 理事)。ドクターメイトでは、全国の介護事業所向けにオンライン医療相談を提供している

皮膚科医として大学病院に勤務していた頃、医療と介護の違いをきちんと理解できていなかったと青柳氏は反省する。介護施設からの外来や入院に対して「どうしてこんなになるまで連れてこなかったんだ?」「どうしてこんな軽症で忙しい病院へ連れてくるんだ?」といった言葉を、介護者へ投げかけてしまったこともあったという。今思えば、医療と介護の間にある「壁」を理解しない、無神経な言葉だったと、同氏は思い返す。

そんな青柳氏がドクターメイトを立ち上げた背景も、この介護と医療の隔たりにあった。21年前から変化していない介護施設の医療体制の中で、要介護度をカバーするための医療ニーズは年々増加している。すぐに医療者に相談できないが故に、重症化するケースも多いという。だからこそ、このような状況を解決するために、同氏は24時間いつでも医療にアクセスできる「ドクターメイト」を立ち上げたのだ。

ドクターメイトでは、日中は介護施設からタブレットやスマートフォンを使用したチャットで専門医に相談することができ、不要不急の受診を減らすことができる。また夜間は、介護施設から電話でドクターメイトの医療チームの看護師に相談でき、医療者不在の状況をカバーすることができる。

いずれの場合も、相談内容をレポートとして短時間のうちに作成し、施設、連携医師、家族の3者へと迅速に共有されるので、ステークホルダーには非常に喜ばれるという。不要不急の受診を減らすとともに、施設の負担を軽減し、医療費も削減することができる三方良しの仕組みというわけだ。

「今、地域や施設の医療リソースには限界が来ています。増える高齢者を減り続ける介護者数でどう支えるのか。その打開策として、全国の医療リソースを全国でシェアする方法を提示したいと考えています。地域包括ケアから“全国”包括ケアを提唱していきたいと思います。」(青柳氏)

AIでケアマネジメントをアップデート、日本の介護を次世代水準へ(ウェルモ 鹿野佑介氏)

鹿野佑介氏(株式会社ウェルモ 代表取締役CEO/日本ケアテック協会 代表理事)。ウェルモでは保険内外サービス、ケアマネ、行政を公平につなぐ地域情報見える化サイト「ミルモネット」や、ケアプラン作成業務を支援する人工知能エンジン「ミルモぷらん」を展開している

人事領域のITコンサルティングに携わっていた9年前、介護現場の離職率の高さに強い危機感を覚えたという鹿野氏。会社退職後に、一年ほどかけて全国を周ってボランティアなどで現場を体験したのち、アナログへの依存の解消と、利用者への公平さの確保を目的として、同氏はウェルモを立ち上げた。

ウェルモのミッションは、「社会課題をICTと先端技術の力で解決する」こと。第二次ベビーブームの世代が後期高齢者となる2025年に向けて、ICTやデジタル技術を活用し、介護者の知識習得のサポートや介護事業所との連携効率化、利用者の見守り情報のデジタルデータ化などを推進して人に寄り添い、質の高いソーシャルワークを可能にすることを目指している。

ケアプラン向けAIエンジンから地域資源情報の可視化サービスまで、複数の事業を展開する同社であるが、当然ながら介護領域は一社では解決できない構造的な課題を抱えた業界である。だからこそ同社は、基本姿勢として「オープンイノベーション」を掲げている。介護の担い手が減っていく中、不足するリソースをいかにサポートするか?に重点が置かれているわけだ。

特に4年半の研究開発を経て今年4月にリリースされた「ミルモぷらん」は、ケアプラン第二表の作成をAIがサポートする仕組みとして、業界全体で注目されている。

「介護は人の話です。老年医学領域、介護領域で徹頭徹尾ロジカルに説明できるものは少ない。人とテクノロジーが協調して解決すべき課題ばかりです。介護にはアーティフィシャル・インテリジェンス(AI)よりも、オーグメンテッド・インテリジェンス(拡張知能)が向いていると考えて開発しています。」(鹿野氏)

その上で、現場の介護は属人により過ぎていると鹿野氏は指摘する。看護出身者が少なく、医療や看護の分野に不安を感じるケアマネジャーが実に64%もいるというアンケートもあるくらいだ。個人の知識やスキルに頼ることから生まれる格差を解消し、AIによる多様な選択肢の提案サポートを受けて、地域資源も大いに活用しながら、利用者のニーズに応じた在宅介護サービスを提供する。まさに、ケアマネジャー本来の実力を引き出す仕組みを構築していると言えるだろう。

「介護という、人でつながる世界を情報でも繋げて、オペレーションそのものをDXしたいと考えています。」(鹿野氏)

自立支援介護×科学的介護で、高齢者はもっと元気になれる(ポラリス 森剛士氏)

森剛士氏(株式会社ポラリス 代表取締役 CEO/医療法人社団オーロラ会 理事長/医師/日本ケアテック協会 常務理事)。ポラリスでは、自立支援に特化したリハビリ型のデイサービスを、兵庫県宝塚市の医療法人社団オーロラ会を母体に全国へ展開している

元は外科医だった森氏が介護に関わったのは、祖母がきっかけだったという。出血性脳梗塞で倒れ植物状態になった祖母であるが、対応できる病院や施設がなかなか見つからず、その際に日本のリハビリ市場の限界を感じたことで、大学病院の医局を辞め、リハビリテーション医として介護の世界に飛び込んだのだ。まだ当時は「リハビリ難民」という言葉もない頃だったが、受け入れ先がないことの深刻さは想像以上だったという。

「2021年は科学的介護元年と言われるけれども、ポラリスではもう20年、科学的介護を行なってきた。やっとスタートラインに立てた」と森氏は胸を張る。ポラリスのデイサービスに3ヶ月通って要介護度が改善するケースは国の平均の2倍近くあるのだそう。介護保険を卒業する人数も要介護認定の仕組みが変わった中でも横ばいを保っている。

「自立支援介護は一社だけで実現できるものではありません。力を合わせてワン介護でいきたいです。そのために現在、パナソニックさんとのコラボプロジェクトを進めています。利用者さんの生活をIoTで見える化し、AIで予測と改善計画を出し、改善されたサービスを提供したい。これが実現したら、在宅で自力で元気になっていける世界ができるかもしれません。」(森氏)

IoT×デジタルケアマネジメントで自立支援介護を実現する(パナソニック 山岡勝氏)

山岡勝氏(パナソニック株式会社テクノロジー本部スマートエイジングPJ 事業総括)

長らくパナソニックでスマート家電の開発を行なってきたという山岡氏。もともとIoTで生活空間や生活者の情報を蓄積していく事業を構築していたわけだが、いざ溜まったデータを前にしてどのように活用すれば良いのかが、なかなかイメージできなかったという。それが、ポラリス森氏との出会いで明確になり、介護業界への参入に至った経緯がある。

そもそもパナソニックは「モノを通じて暮らしを良くする」ミッションを100年続けてきた企業。次の100年何を目指していくのか?と問い直し、「IoTで蓄積したデータを活用して、より良い暮らしを実現する」と掲げた。「冷蔵庫は「ただのものを冷やす箱」なのですが、それがインターネットにつながって、単身高齢者がいる時、水分や食事の摂取データが得られます。データを基にリスクを回避し、生活の改善につなげられるのです」と山岡氏は述べる。介護は生活そのものなのだと。


国が策定したロボット技術の介護利用における重点分野は6つあり、その一つ、介護業務支援の分野で同社が採択。現在はオープンプラットフォームのプロジェクトに取り組んでいる。利用者の生活に関わるデジタルデータを集約し、データの利活用に加えて、介護者の生産性の改善も見られるという。

IoTでリアルな生活実態を把握し、データに基づいた分析と改善の提案をケアプランで行い、介護者の生産性を向上させると共に、利用者の健康状態も改善するこのプロジェクトは、まさに「高齢者を元気にする介護」への挑戦であり、自立支援介護の実現に大きく近づくものであると言えるだろう。

ケアテックを世界のスタンダードに。国際化に必要なこと

各事業紹介が終わったのちに、最後に登壇者同士によるクロストークが展開された。最後にここでは、その一部をご紹介する。

山岡(モデレーター):皆さんのお話にもあったように、日本の介護モデルを国際化していきたいと考えています。でもそのままでは世界では役立ちません。ケアテック(介護×テクノロジー)を世界のスタンダードとして通用させるために、必要なことは何だと思いますか?

鹿野:国ごとの法律や風習に合わせる必要がありますね。でも、課題は世界共通だと思うのです。最小のコストでどれだけ良質のケアマネジメントが実現できるか、ということです。そこへの提案を、日本でしっかりモデル化し、パッケージとして提示する必要があります。

青柳:世界的に見ても医療と介護の連携データは少ないようです。そこを紐づかせるデータは世界初。人が人を看るデータに差は少ないはずですので、応用できるはずです。データの活用を強みに、世界の第一線に出せるものになると私は考えています。

森:自立支援介護は日本が世界にイノベーションを起こせる数少ない分野だと考えています。合理的で手厚い介護に科学的な自立支援介護を掛け合わせたら、その可能性は大きいです。急性期を過ぎた高齢者をいかに元気にするかは世界的な課題です。経験知を超えてテクノロジーの力を借りられたら、世界への急速な拡大が進むと思います。

山岡:イノベーションを起こしていくことが重要ですね。イノベーションは、主体同士のコミュニケーション距離に比例すると言われています。介護業界とテック業界の距離感を縮めるための、日本ケアテック協会です。この取り組みで高齢者を元気にしつつ、日本全体も元気にしていきたいですね。今日はどうもありがとうございました。

ーーー

介護に関わる様々なステークホルダーが一同に会した日本ケアテック協会フォーラム。構造的な課題を抱える領域であるからこそ、官民含めた緊密な連携に向けた媒介としての協会の存在は、DXを促進するための必須要件だと改めて感じる時間であった。

「2025年問題」が目前に迫っているからこそ、同協会による介護DXの推進は、待ったなしの状況だ。

取材/文:麓 加誉子

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