循環もDXも「手段」でしかない。本質的な「目的」をしっかりと見極めよ|中石和良

循環もDXも「手段」でしかない。本質的な「目的」をしっかりと見極めよ|中石和良

目次

地球上の有限な資源が不足するというマクロトレンドを背景に、持続可能な社会を実現するための社会・経済システムとして注目されているサーキュラー・エコノミー(循環型経済)。大量生産・大量廃棄を前提とする一方通行のリニア・エコノミー(直線型経済)からの脱却はもちろん、廃棄物の排出が前提となるリサイクリング・エコノミー(3Rエコノミー)とも違う、最初から廃棄物と汚染を発生させないように設計された、発展的かつ革新的な経済システムであり産業モデルである。

このサーキュラー・エコノミーの実現には、行政府はもちろん、各企業・団体および一人ひとりの意識のトランスフォーメーションが必要不可欠であり、そのための手段の一つとしてデジタル技術の応用がある。まさに、サーキュラー・エコノミーとDXは、不可分な関係だと言えるだろう。

では、各ステークホルダーは具体的にどのように考え、何から始めるべきなのか。今回は、そんな“実践的なサーキュラー・エコノミー・システムの構築に向けたアクションについて、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンの代表理事である中石和良氏にお話を伺った。

一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンとは

サーキュラーエコノミーを国際的な協調の下で、日本に経済システムとして根付かせることを通じて、持続可能な社会を実現することを目的とするプラットフォーム。このプラットフォームを通じて、サーキュラーエコノミーに関するナレッジ、アイデア、行動を結びつけることにより、日本経済のサーキュラーエコノミーへの円滑な移行を促進している。

また、サーキュラーエコノミーは、Cradle to Cradle™のデザイン原理と密接に関連しているため、サーキュラーエコノミー・ジャパンでは、日本がこれまで世界に先行して成果を上げてきた「循環型社会」システムをベースに、Cradle to Cradle原理や最先端テクノロジー等を用い、国際競争力のあるサーキュラーエコノミー日本モデルの育成を目指している。

インタビュイー

中石 和良[Kazuhiko Nakaishi]
一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン
代表理事

パナソニック(旧 松下電器産業)、富士通・富士電機ジョイントベンチャーで20年間経理財務・経営企画部門業務に携わった後、ITベンチャー、QBハウスを運営するキュービーネットホールディングス経営企画室長を経て、2013年に独立・起業。

株式会社ビオロジックフィロソフィ及び一般社団法人日本ビオホテル協会を設立。

2010年頃より、欧州の世界最先端の欧州サステナビリティ思想・政策・戦略と関わる。
ヨーロッパ発祥のサステナビリティに特化したホテルブランドを運営する「BIO HOTEL協会」との公式提携によりBIO HOTEL認証システム及び持続可能なライフスタイル提案ビジネスを展開。

2018年、企業と政策決定者に向けた一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンを創設。日本経済産業の「サーキュラーエコノミー」への移行を加速するプラットフォームを運営。
大企業・中堅企業のサステナビリティ戦略構築/サーキュラーエコノミービジネスモデル構築/商品・サービス企画開発を支援すると同時に、自らもサーキュラーエコノミーコンセプトのオリジナル製品の製造・販売ビジネスモデルを展開。

著書に「サーキュラー・エコノミー:企業がやるべきSDGs実践の書」ポプラ社

PaaSモデルの重要性が、ますます高まっている

--まずは、中石さんが普段どのような活動をされているのかについて教えてください。

最近はもっぱら、サーキュラーエコノミー・ジャパンの代表理事として、様々な分野の大手企業・中堅企業、団体に対してサーキュラー・エコノミーの認知拡大のための講演やセミナーを行いながら、企業のサーキュラーエコノミー関連のコンサルティングとアドバイザリーを行なっています。

製造業、流通業、ファッション業界、広告代理店など、多種多様な企業からお声がけいただいており、日本でもサーキュラー・エコノミーへの興味が一気に高まってきていることを実感します。

--具合的には、どのようなお話をされているのでしょうか?

これは先日行った講演の目次です。サーキュラー・エコノミーのコンセプトとデジタルテクノロジーを掛け合わせた新しい事業戦略を、世界のグローバルリーダー企業が描きはじめています。前半ではサーキュラー・エコノミーの全体像をお伝えし、後半では具体的にどのようにデジタルを活用するかという部分をお伝えしています。

中石氏によるセミナー目録例

--サーキュラー・エコノミーは経済・産業システムのお話なので、当然デジタルが関わる部分ではありますが、そのような切り口のお話はあまり出回っていない気がします。

私自身、昨夏に拙著『サーキュラー・エコノミー: 企業がやるべきSDGs実践の書』を出版したのですが、そこではデジタルやデータの話はあまり触れておらず、サーキュラー・エコノミーの正しい理解のために必要な考え方の部分と、分かりやすくかつ象徴的な企業の事例を中心にお伝えしています。まずは本質を伝えたく、あえてそのようにしました。

一方で、この領域は日進月歩で動いていて、特にデジタル技術の活用に関わる部分は驚くほどのスピードで進化しています。その象徴が、サーキュラーエコノミーにおいて最も重要なビジネスモデルである、PaaS(Product as a Service:サービスとしての製品)モデルです。製品を売るのではなくその価値をお客様に提供するビジネスモデルですが、顧客提供価値を高めるためにIotによりデータを集め、同時に、データにより新なビジネスを創出しマネタイズする、持続可能な新しい経済システムに向けたプラットフォームとも言えるでしょう。

書籍で書いた内容がPaaS1.0だとしたら、今はPaas3.0くらいになっている印象です。

このままでは日本の産業・企業が完全に取り残されてしまうと感じた

--面白いですね。デジタルの活用部分を詳しく伺う前に、まずは中石さんがこのサーキュラー・エコノミーという領域に着目されるようになった経緯を教えてください。

元々はパナソニック、富士通・富士電機ジョイントベンチャーおよびITベンチャーなど、ハードとソフトの会社を経た後に、「QBハウス」運営のQBネットホールディングスでの経営企画室長を経て、2013年に独立しました。

2010年ごろから欧州のサステナビリティに関する思想や政策と関わり、サステナビリティコンセプトに特化したホテルブランドである「BIO HOTEL(ビオホテル)」を認証・運営する欧州ビオホテル協会との公式提携から、日本での認証システム運営とホテルプロデュース、さらにビオホテルを総合ライフスタイルブランドとしてサステナブルなライフスタイル提案ビジネスを行なっていました。

BIO HOTEL では、持続可能な「ライフスタイル」の提案を行っているのですが、当時は日本にはサステナブルなライフスタイルのための製品やサービスがあまりにも少ないという状況でした。今でも少ないですが。

それじゃあ、作る側、サービスを提供する側にアプローチをしようと考え、欧州現地でサステナビリティに関する情報に日々触れていた中で、「サーキュラー・エコノミー」という言葉、そして概念を知ることになりました。ちょうどSDGsが採択された2015年くらいくらいのタイミングです。

日本では2017〜2018年くらいに、SDGsの認知が拡大したのですが、欧州ではSDGsよりも、サーキュラー・エコノミーの認知と実践が先行していました。欧米のグローバル企業はこういうことに取り組んでいることを知り、このままでは日本の産業・企業が完全に取り残されてしまうという危機感を抱いて、2018年より、ライフスタイル提案ビジネスから企業向けのコンサルティングへと活動内容をシフトさせていきました。

--欧米ではサーキュラー・エコノミーの方がSDGsよりも先行して認知されていたことを初めて知りました。今回、コロナ禍を経て、欧米ではサーキュラー・エコノミーやサステナビリティの動きをむしろ加速させている印象なのですが、日本はいかがでしょうか?

コロナ禍により動きが一時後退していました。欧米や中国企業は一気に変わって、企業が中心になって気候変動をはじめとする各種課題への対応姿勢を強めています。ヨーロッパは特に、企業だけではなく議会や大臣も動きはじめました。アメリカの場合は、当時のトランプ政権・レッド政府自体は積極的ではなかったものの、企業が連合して上院・下院に向けてグリーン・リカバリーに向けた政策と投資を打ち出すようにと圧力をかけていきました。

アメリカ、カナダ、EU、中国の企業が、コロナショック後にその動きを加速させた一方で、日本企業はまったく反応がなかった。まさに金融危機の時と同じですね。あの時は、大半の世界企業が以前のオールドエコノミーに元に戻ってしまったのですが、欧米企業や政府はその時の失敗を繰り返さないという思いから、今回のコロナ禍では逆の動きにシフトしました。

ESG投資の本格化と取り残されることへの危機感が、日本企業を本気にさせる

--サステナビリティやサーキュラー・エコノミーへの視点・姿勢として、海外と日本の違いについて教えてください。

まず日本では、NGOやNPOの影響力がないです。海外だとNGOが企業の事業運営の問題点を明らかにし、それがきっかけで消費者の不買運動に広がります。例えば、今ではサステナビリティに積極的な企業の代表であるナイキやアディダス、アップルはNGOのプレッシャーがスタートです。一方、日本ではNGOが企業の事業の問題を明らかにしても、消費者の購買意向にほとんど影響しません。だから企業もサステナビリティへの取り組みが遅れてしまいます。

また、政府のリーダーシップも違いますね。欧州では欧州委員会および議会がグリーン経済(サーキュラー・エコノミー)への明確で強いリーダーシップをとっています。
この2つとも、特に2018年くらいまでは日本に決定的にかけている要素だと感じました。今は少しは変わってきていますが。

--そうなのですね。何が要因なのでしょうか。

ESG投資の動きが、一番の後押しになっていると感じます。2015年から現在にかけて、一気にESG投資の投資額が増えています。2018年の実績では世界の投資額の1/3がESG投資です。そこから、融資含めた金融がサステナビリティに取り組んでいる企業へと動き始めたわけです。

日本の場合はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が最初に動き始めて、そこから他の機関投資家もサステナビリティへの投資で動くようになりました。
あとは、グローバルで競争しようとしている企業にとって「取り残され感」が明確に出てきたのも、大きな要因だと思います。

欧米や中国のグローバル有力企業がサーキュラー・エコノミーというワードを必ず企業ビジョン等に入れるようになってきて、それに伴う様々な戦略・施策を打ち出してきました。並行して、世界経済フォーラムやWBCSD()、国連環境計画などもサーキュラー・エコノミーへの移行の先導を切るようになりました。そして2016年のダボス会議では、プラスチック問題をサーキュラー・エコノミーで解決するイニシアティブ「ニュープラスチック・エコノミー」レポートが立ち上がりました。

今では、あらゆるグローバルリーダー企業や政府、団体、機関が、サーキュラー・エコノミーを前提にした事業活動を設計していると言えるでしょう。

※WBCSD:World Business Council for Sustainable Development。持続可能な開発のための世界経済人会議

--もはや「やらないと取り残される」という状態にまでなっている、ということですね。

そういうことです。ESG投資の拡大と新しいビジネスモデルで取り残されることへの危機感が、日本企業の動きの加速に大きく影響していることは、間違いありません。

ゴールは「ヒューマン・ウェルビーイング」です

--サーキュラー・エコノミーを考える際に、循環型経済という和訳も相まって、「循環そのもの」を価値と捉える傾向が見受けられます。それはあくまでHowだと思うのですが。

その通りです。物質を循環させることは、あくまで手段であり、目的ではありません。そもそもですが、カーボンニュートラルも目的ではなく手段でしかない。

じゃあ目的(ゴール)は何かというと、それは「ヒューマン・ウェルビーイング(Human Well-being)」です。「人々の健康と本質的に豊かな暮らし」、これをいかに向上させるかです。今、人類最大の課題として目に前に突きつけられている気候変動緩和(カーボンニュートラル)も手段です。なぜなら、気候変動が進行すると人々が安心して暮らせなくなります。まさにウェルビーイング が損なわれるということです。

--本質的にはそこに行き着くということですね。DXも目的として捉えられる傾向があって、ある意味でサーキュラー・エコノミーと認識の課題が一緒だなと感じるのですが、中石さんにとってDXとは何だとお考えでしょうか?

私なりの解釈としては、DXは、気候変動緩和とサーキュラーエコノミーの実現、そしてサプライチェーンの最適化を進めるための手段です。ヒューマン・ウェルビーイングを実現するための手段を、さらに実現するための手段だと考えます。

この辺の理解が、日本企業にほとんどないと言えます。企業の長期事業戦略やサステナビリティ戦略を見ると、目的にカーボンニュートラル。DX、サーキュラーエコノミーを設定しています。本来的なその先のビジョン(ゴール)を描けていません。私の講演・セミナー、コンサルティングでは、このビジョンの考え方を最初に共有します。

--海外では、このあたりは明確になっているということですか?

例えば、EUの欧州グリーンディールでは、明確にかつ分かりやすく表現されています。気候変動緩和、資源効率性、デジタル(DX)は、EUの人々を公平で健康、幸せにすることが目的だと明言しています。このようなビジョンが明確であると、市民も企業も腹落ちします。ただ単に「カーボンニュートラを実現しよう」と言われても、特に市民にとっては、ベネフィットがなく負担だけが増えると感じてしまうでしょう。

最近ではパーパス経営などと言われたりもしますが、要するに本質的な目的が何なのかを、しっかりと明確にして発信することが、最低限必要なことだと考えています。

取材/文:長岡武司
撮影:編集部

▶︎後編記事につづく

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