妄想力を高めて、想像を超えるアイデアを生み出せ。本質的なX(トランスフォーメーション)に向けて

妄想力を高めて、想像を超えるアイデアを生み出せ。本質的なX(トランスフォーメーション)に向けて

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課題を特定して、それに対応する商品・サービスを開発する。

なにか新しい商材を作り出すにあたっての、王道な手法だと言えるだろう。ここでいう課題とは、顕在化したニーズかもしれないし、いまだ表面化していない潜在ニーズかもしれない。もしかしたら、ここ数年で注目度が増しているインサイトを探り当てることかもしれない。

いずれにしたって、なにかのペインポイントがあって、そのマイナスをゼロないしはプラスにするという手段を、多くの人や企業がDXアプローチとして採用しているのは間違いないだろう。

だが一方で、研究開発の領域においては、必ずしもそれが有効とは限らない。情報科学者であり、これまで数々の賞を受賞してきた研究者でもある暦本純一氏は、今年2月に出版した書籍『妄想する頭 思考する手』(祥伝社)の中で、以下のように記述している。

"「イノベーションのスタート地点には、必ずしも解決すべき課題があるとは限らない」"

引用:『妄想する頭 思考する手』p17

同氏は、誰も考えなかったような新しい技術は、ひとりの「妄想」から生まれるものだという。どういうことか。

本記事では、2021年5月18〜19日にかけて株式会社エクサウィザーズが開催したオンラインイベント「ExaForum2021」にて、同氏が登壇したセッションの内容をお伝えする。

妄想の実現で大切な、「天使度」と「悪魔度」のバランス

暦本氏といえば、最も有名な発明の一つとして、マルチタッチインターフェースである「スマートスキン」が挙げられる。これは要するに、僕たちが普段使っているスマホで、2本指を使って写真や文字を拡大したり縮小したりする「ピンチング操作」を可能にするような技術だ。

特記すべきは、この技術が、スマートフォン登場の数年前に開発されたということ。スマートフォン以前は、タッチスクリーンなんてまだ一般化するような概念ではなく、暦本氏自身、数年後には指先で操作するようなディスプレイデバイスが登場するなんて考えてもいなかったという。

じゃあなぜそんな技術を思いついて開発したのかというと、様々なきっかけがあるものの、当時のパソコン操作で主流であった「マウス」の操作に違和感を感じていたことが一つの要因だという。つまり、自然界では一本指による操作が珍しい中で、マウスは常に一本指(多くの人は人差し指)での操作が前提となっている。人々が、これを当たり前のように受け入れているのはなぜなんだろう、と。

そんな素朴な疑問から、スマートスキンの開発は始まったというのだ。

暦本氏が、このスマートスキンのような「ひらめき」や「妄想」を実際の研究テーマとして評価するときには、「天使度」と「悪魔度」という2つの指標を使っているという。天使度とは発想の大胆さを表す尺度で、悪魔度とはそれを実現するための技術力などの高さを示すものだ。

「この天使と悪魔は、巨匠・黒澤明さんの言葉からきています。『悪魔のように細心に! 天使のように大胆に!』という言葉で、素人のような豊かな発想力と、アイデアを形にする玄人の専門的スキル・経験が必要だと表現しています。
同じようなことは、カーネギーメロン大学の金出武雄さんも『素人のように発想し、玄人として実行する』という言葉で表現していますね」(暦本氏)

暦本氏によると、この天使度と悪魔度のバランスが大事だという。つまり、天使度が高くても悪魔度が低いと、実現性が乏しい思いつきで終わってしまう。一方で悪魔度が高くて天使度が低いと、難度の高い技術を実現することにばかり目がいってしまい、スペック競争に陥ってしまうのだ。

ブレストは、アイデア出しとしてはワークしない

そうは言っても、そもそも天使度の高い、人をびっくりとさせるようなアイデアなんて、なかなか凡人では難しいのではないかと思ってしまう。それ対して、暦本氏は、そんなことはないと強調する。

「アイデアは才能だと思われがちですが、多少の差はあれ、誰だって発想自体はしているものです。なにか新しい製品が発表されたとき、実は同じことを思いついていた、なんて人は少なくないのではないでしょうか。」(暦本氏)

確かに、そんなことはよくあるとも感じる。では僕たちは、アイデアを、どのようにして意識的に生んでいけば良いのだろうか。

「アイデアは「さあ出そう」と思って出てくるものではなく、ずっと下の方でぐつぐつしていて、あるときにふっと出てくるようなものと思います。そのタイミング自体はコントロールできるものではないですが、アイデア自体は、自分の中の“引き出し”を増やすことで高まると言えるでしょう」(暦本氏)

アイデアというものは、何もゼロからイチで出てくるものではなく、多様な既知のものの組み合わせによって、醸成されていく。そのめくるめく組み合わせの妄想が、あるときひょこっとアイデアとして表面化するというのだ。それは、ヨガをしている時かもしれないし、ジョギングをしている時かもしれない。どこでどんな発想が天使度の高いアイデアにつながるか分からないからこそ、暦本氏はiPhoneの下段4アイコンの一つを「Google Keep」アプリにして、いつでも音声メモを残せるようにしているという。

ちなみに引き出しの増やし方については、暦本研ではインプットを増やす目的で、「なんでも面白いものを見つけてきて発表し合う」会議を定期的に行っているという。面白い研究はもちろん、YouTuberでもいいし、書籍の内容でも良い。とにかく“人が知らないであろうもの”を見つけてきて、共有し合うのだ。

一見ブレストのように感じるかもしれないが、あくまでインプットを増やすことが目的という意味で、アイデアのアウトプットを目的とするブレストとは根本的に違うという。暦本氏の本では、アイデアを生むという目的に対してブレストという手段はあまり適していないと記述されている。

"「アイデアの「責任」を負うのは、それを思いついた個人であるべきだ。集団で考えると、責任が分散してしまうので、真剣に考えることができない。」"

引用:『妄想する頭 思考する手』p92

知識はいくらでもあるので、踏み出すかどうかですよ

もう一つ、妄想を具体化するときのポイントとして暦本氏が挙げるのが「言語化」だ。自分にも他人にもわかるような言葉にすることで、モヤモヤとした妄想がしっかりと輪郭をもち、ある種冷静な視線をもって再考できるというのだ。妄想力のためのインプットが天使度を高めるための施策だとしたら、言語化は悪魔度を高めるための施策というわけだ。

そしてこの言語化されたアイデアを、いかに早く、鮮度の高い状態で「実現可能か」を検証することが大切だという。

「例えばWantedlyの仲さんは、サービス立ち上げ当初に、Ruby on Railsを使って自分でコードを書いてサービスを作ったと聞きました。要するに、やる人はやるんです。知識はいくらでもあるので、踏み出すかどうかですよ。」(暦本氏)

すぐに試すフットワークの軽さが、ここでいう「思考する手」ということだ。思考する手によってアイデアの実現可能性を素早く検証し、ダメだったらまた次のアイデアを試して考える。想像を超えるアイデアを生み出すには、このように多くのアイデアを高速で試していくことが重要というわけだ。

そんな暦本氏がずっと興味を持っているテーマが「人間拡張」。かつて1990年代に奥様と歌舞伎座に行った時に体験したイヤホンガイドの存在によって、人間に「ジャックイン」(人間が人間に乗り移って操作する形のテレプレゼンスのこと)するインターフェースへの興味が爆発したという。

「今はサイレントボイスという、声を出さずに口を動かすだけで言葉を推測し、音声へと変換する技術の研究が面白いですね。人間拡張として発展性があると感じています。
研究が進んで、たとえば脳と連携できるようになれば、聞くスピードと同等の情報量を話すことができるようになるでしょう。」(暦本氏)

人間拡張については諸外国でも実装ケースが増えてきており、例えばスウェーデンの国鉄では、​体内にマイクロチップを埋め込んで、Suicaの要領で乗車券代わりに利用できるようになっている。暦本氏も、このような体内埋め込み型の人間拡張については「ぜひ自分の身体でやってみたい」と話しており、実際に暦本研の学生さんの中には、法的に問題のない米テキサスまで行ってNFCチップを埋め込んできた人もいるという。

まさに、妄想する頭と思考する手を体現する姿勢と言えるだろう。

知能はAIで、知の探究は人間

以上のセッションを経て、エクサウィザーズ 代表取締役社長の石山洸氏は「ひらめきの民主化」へのモチベーションを語った。

「アイデアは常にバックグラウンドで走っていて、どこかのタイミングでパッとひらめくという話がありましたが、僕がこれまでお話しした発明家の方々は、みんな同じことを言っています。僕としては、ひらめきのメソッド化が、次なるテーマなのかもしれないと感じました。」(石山氏)

少なくとも、セッションの中でお話があった通り、暦本研では「なんでも面白いものを見つけてきて発表し合う」会議を行ったり、天使度と悪魔度のバランスを考えてアイデアの実現性を高めるなど、発明に対する再現性あるアプローチを行っていることは非常に興味深い。

知能はAIで、知の探究は人間。

SFプロトタイピングなる手法が大企業でも採用され始めている時代だからこそ、そんなすみ分けを前提に「妄想する頭と思考する手」を意識することが、DXにおける本質的なトランスフォーメーションへの第一歩になるかもしれない。

取材/文:長岡武司

※xDXでは他のExaForum2021セッションも記事化しています。以下、併せてご覧ください。

テクノロジーが進化しても変わらない、DXの根底にある「普遍的な原理」とは

医療従事者と患者がWin-Winになる「医療×AI」の未来像

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