正解を決めつけない。僕たちが創業時から決めている基本姿勢|ファミワン

正解を決めつけない。僕たちが創業時から決めている基本姿勢|ファミワン

目次

世界一の“不妊大国”と言われる日本。夫婦全体の約2.9組に1組が不妊を心配したことがあり、また約5.5組に1組が実際に不妊の検査や治療を受けたことがあると、国の調査で明らかになっている。

画像:不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック(厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」より)

また近年では、不妊治療とキャリアの両立も大きな課題となっており、企業としても勤務形態を含めた人事制度の見直し等を迫られている。プライベートとパブリックの境が融解している昨今において、企業にとって従業員の妊活や不妊治療は、決して他人事ではないのだ。

今回は、そんな“生”にまつわる領域のDXとして、「コミュニケーション」課題に着目してLINEを使って相談者に寄り添う株式会社ファミワンにお話を伺った。禁忌とされる領域の情報を明るくするために、同社はどのようなアプローチをとっているのか。本質的なトランスフォーメーションに向けた視点をご紹介したい。

株式会社ファミワンとは

https://famione.co.jp/

妊活に取り組む夫婦を支える、LINEを活用したパーソナル妊活コンシェルジュ「ファミワン」を提供。LINEのアカウント登録をすることで専用チェックシートが届き、ユーザーによる入力内容を分析して、不妊症看護認定看護師や臨床心理士、培養士など様々な専門家が相談者の妊活状況に合わせたアドバイスを行う。

2018年9月からは法人の従業員や自治体住民向けの提供も開始。不妊治療と仕事との両立支援の観点から小田急電鉄やミクシィグループへの福利厚生導入、ソニー、全日本空輸株式会社(ANA)、伊藤忠労働組合などへのセミナー開催、神奈川県横須賀市や東京都杉並区、群馬県邑楽町への「妊活LINEサポート事業」の提供を実施している。

インタビュイー

石川 勇介[Yusuke Ishikawa]
株式会社ファミワン

代表取締役 Founder

妊活に取り組む夫婦を支える、LINEを活用したパーソナル妊活コンシェルジュ「ファミワン」を提供。LINEのアカウント登録をすることで専用チェックシートが届き、ユーザーによる入力内容を分析して、不妊症看護認定看護師や臨床心理士、培養士など様々な専門家が相談者の妊活状況に合わせたアドバイスを行う。

2018年9月からは法人の従業員や自治体住民向けの提供も開始。不妊治療と仕事との両立支援の観点から小田急電鉄やミクシィグループへの福利厚生導入、ソニー、全日本空輸株式会社(ANA)、伊藤忠労働組合などへのセミナー開催、神奈川県横須賀市や東京都杉並区、群馬県邑楽町への「妊活LINEサポート事業」の提供を実施している。

“妊活版ライザップ”という印象は本望ではなかった

--ファミワンは、それこそ「妊活」という言葉がここまで世の中に広まっていない時期から事業展開されています。まずはこの6年間の事業の経緯から教えてください。

2015年6月に会社を立ち上げて以来、一貫して妊活・不妊治療領域をテーマに事業を提供してきました。とはいっても、現在の「LINEを活用した妊活コンシェルジュ」へと行き着いたのは2018年頃でして、それまでは10回ほどサービス内容を変えています。

--10回ってすごいですよね。具体的にはどんな内容を検討されたのでしょうか?

最初は、月額2万円で妊娠に向けた様々な情報やグッズ、オンラインコミュニティを提供し、一定期間内に妊娠しないと全額返金する、というモデルを採用しました。

--RIZAP(ライザップ)の妊活版みたいですね。

まさに、メディアでもそのように取り上げていただくことが多かったのですが、それは必ずしも本望ではなく。あえて提供期間を区切って夫婦で話す時間と機会を作り、全額返金があることで金銭的な負担を軽減して検査や治療へと進むきっかけにしてほしいと思っていたのですが、「このサービスを受ければ妊娠できる」という印象につながってしまい、一度サービスをクローズすることにしました。

そこからはもう本当に試行錯誤でして。何度もピボット(事業の方向転換)をしていく中で、2年後にようやく、現在の雛形になるサービス形態へと行き着きました。

一番多いのは「後悔」の気持ち

ファミワン初の売上となった妊活セミナー。創業当時は自社オフィスにて対面型妊活セミナーを実施していたという

--妊活を事業テーマとする中で、何が最も難しかったのでしょうか?

ユーザーとの世界観のすり合わせですね。

ユーザーにとって一番の願いは、妊娠することです。でも僕たちとしては、妊娠させますなんて絶対に言えない。そもそもこの領域に、絶対なんて存在しないので、過剰に妊娠させてくれるという印象を与えるのは、明らかにミスコミュニケーションになってしまいます。

一方で、大変だよねという気持ちをわかってあげるだけでは、次に進まないのも事実です。この辺りのバランスを考えながら、最も安定した形で寄り添うことができるのが、現在のLINEの形だということです。もちろん、大きな形態は落ち着いたものの、中身の細かいコミュニケーションの部分は、より良いユーザー体験に向けて日々改善を繰り返しています。

--なるほど。ユーザーのことについても教えていただきたいのですが、ユーザーにとっての最大のペインは何になるのでしょうか?

一番多いのは「後悔」の気持ちだと思います。あの時こうすればよかった、もっと夫婦で話し合っておけばよかったなど、情報やコミュニケーションの不足に起因した後悔が多い印象です。一方で、後悔していないときに「後悔しますよ」といっても、なかなか「そうですか」とはならない。

だからこそ、後悔する前の時点で、いかに課題を“自分ごと”として捉えてもらうかが、この領域では大切だと言えます。

--ユーザーの顕在化したニーズに応えつつも、潜在的なインサイトを捉えていく必要がありますね。

その点だと、ユーザーの言葉をそのまま捉えるべきでは、必ずしもありません。例えば「夫婦間の会話を増やしたいんです」と言われたとして、本当にそこが一番の課題なのかと。どの夫婦も大小問わずこのようなパートナーとのコミュニケーションが悩みとして出てくるのですが、仲良く話したいだけではなくて、妊活を進めたいだとか、妊娠に向けて動いていきたいというのが根っこの部分だと思います。

ユーザーが根本的に悩んでいる部分がどこなのかは、個別に捉えてあげることが大切だからこそ、LINEでのやりとりが現時点では適切だと考えています。

横須賀市を皮切りに自治体展開も加速

--改めてとなりますが、ファミワンが現在進めていることを教えてください。

メインは、先ほどからお伝えしている、LINEを活用した妊活パーソナルサービス「ファミワン」の提供です。大きな特徴としては、妊活や妊娠に悩んでいない段階から登録して使うことができる点でして、様々な質問や相談に対して、不妊症看護認定看護師や臨床心理士、培養士などが回答するようになっています。ユーザーの6割が病院未受診の方になります。

--いわゆる「プレコンセプションケア」(※)としての利用もできる、ということですね。

※将来の妊娠に向けて、夫婦やカップルを含めた個人が、自身の生活や健康に向き合うこと

その通りです。ただ、そうはいっても、toC向けのサービス展開だけでは、どうしてもニーズが顕在化した人だけが登録することになります。だからこそ僕たちは、2018年から企業の福利厚生としての提供や、自治体との連携、保険会社の付帯サービスとしての提供、ウェディング会場での妊活セミナー実施など、「まだ妊活は早いと思っているけど、興味あるしちょっと知ってみようかな」というターゲットにも向けて、様々なチャネル展開をしています。

--自治体での採用も進んでいるのですね。

昨年5月に、神奈川県横須賀市の『妊活LINEサポート事業』として初の自治体提供をスタートさせました。妊活に取り組む市民のサポートと、不妊・不育専門相談センターの推進連携を行っています。

この取り組みを見て、現在、他自治体からのお問い合わせも増えていまして、今年度は東京都杉並区と群馬県邑楽町での提供が開始しています。その他の自治体ともやり取りは進んでおり、市民サービスとしてのファミワンの展開も、少しずつ増えていくと想定しています。

人事制度を細かくチェックした上でセミナーを設計

--もう一つ、企業向け福利厚生として展開されているとのことですが、これはどんな背景から実施されているのでしょうか?

先ほどお伝えした通り、toC向けだとどうしても、すでに顕在化した層にしかアプローチできません。少なくとも妊活というキーワードで検索したりするフェーズの方ですね。企業の福利厚生サービスとして提供するによって、これまで妊娠や妊活に意識が向いていなかった方でも、興味の風穴を開けることができると考えています。

また、企業に対しては、当事者向けの福利厚生サービス以外にも、すべての世代に向けたセミナーや研修の開催、そして必要に応じて人事制度設計のアドバイスなども行っています。

--人事制度設計についても扱っているんですね。

ファミワンのスタンスとしては、制度の有無はそこまで問題ではなく、もっと理解を促して風土を変えることが最大の目的だと捉えています。だからこそ、従業員に向けて啓発してから制度を作るでもいいし、制度作ってから啓発をするでもいいし、その両軸でもいいと考えています。

--なるほど。セミナーだと、具体的にどのような内容をお話しされているのでしょうか?

妊活をメインテーマにすることもあれば、そうではなく、生理痛や更年期の話、女性のライフサイクルの話、LGBTテーマなど、要望に応じてかなりカスタマイズしています。もちろん、初期の頃に比べてご要望も多くなってきているので、企業の業種業態が異なったとしても、共通化できる部分は標準化して提供するようにしています。

同社所属の​不妊症看護認定看護師による、​株式会社メルカリでの妊活セミナーの様子(2018年4月4日実施)

--人事部の方は、総じてどのようなことに困っているのでしょうか?

妊活サポートを入れたいが、よく分からない。自社の産業医だけでは対応が難しい。休暇制度の中でも、どれがあれば良くて、どんなものが使えるのか、など様々です。直面しているお悩みが多様だからこそ、その会社の人事制度を拝見し、どんな手当があるのかまで細かく見ていった上で、内容を詰めていきます。

あとは、僕たちのような第三者が入ること自体にも意味があります。例えば、妊活セミナーを人事部が率先して主催すると、それだけで「出産することを会社が推奨している」というような印象を与えることになります。

そうではなく外の講師として専門家が話すことで、あくまで選択肢としての出産という正しい意図と理解を促すことができるわけです。

東京大学との共同研究で目指すこと

--ここまでのお話を伺って、テクノロジーを使う前段階の、そもそもの意識・認識の啓発がとても難しい領域だなと感じています。だからこそ、御社がテクノロジーをどのように捉えているのかも、教えてください。

テクノロジーについては、もっと活用が進むといいなと思っています。今でもアプリにデータを入れると、自身の身体に関する数値を返すといったサービスはありますが、もっと返すデータの根拠を提示するなど、ブラックボックスでないデータの提示と理解の促進が重要だと考えています。

--その辺りの「データの確からしさ」について、ファミワンでは何か取り組まれていますか?

エビデンスを整えるという観点で、2019年から、東京大学医学部附属病院との「生活習慣が体外受精の成功率に与える影響の解明」を目的とした共同研究を実施しています。要するに、食生活や運動の習慣、生殖における生活の質QOLと、体外受精の治療成績を調べることで、どんな生活習慣や生活の質がどのような影響を及ぼしているのかを研究しています。一般の方からの自己申告の情報提供だけではなく、医療機関を通じて適切なスクリーニングも行った上で取り組んでいます。

--ネットサーフィンをしていると、「こんな生活習慣が妊娠に良い」的な記事やブログを目にするのですが、実際のところどうなのでしょう?

実は今回の研究領域については、実はまだどこも明確に相関を証明できるデータをもっていません。海外でさえ、まだちらほらと出てきたレベルなので、少なくともエビデンスとして高いレベルで提示できるものはないはずです。

だからこそ、ネット上では諸説が出ているわけなのですが、多施設共同の診療研究をおこなうことで、僕たちはここのデータを“作る”ところから始めているわけです。

正解を決めない、決めつけない

--色々とお話を伺っている中で、それこそ儲けようと思ったら、サプリの販売などでもっと簡単に儲けられると思いますし、事業としての影響力についても、もっと簡単な方法でアプリをパッケージ化して展開することもできたはずでも。でも、経営的に厳しい中でもそうはされなかった。ファミワンとして大切にされているポリシーは何なのでしょうか?

強く意識していることは、正解を決めない、決めつけないということです。これまで何回も、資金がショートしそうになったのですが、ここは絶対にゆずりませんでした。ユーザーとの関係性の中で、「こうすれば妊娠する」という関係にはならないように、創業時から心がけています。それは先ほどもお伝えした通り、妊娠こそは100%のない領域だからこそ、そのような印象は非常に危険だからです。

--正解を決めつけない。素敵だなと思う一方で、あらゆる領域の消費者は分かりやすい「正解」を求めたがるものだとも思います。その辺りの、啓発はどうされているのでしょうか?

ここについては、もう、こちらのスタンスを丁寧にお伝えするに尽きるかもしれませんね。弊社・代表看護師の西岡から、実際のコミュニケーション部分についてお伝えしたいと思います。

取材/文:長岡武司
撮影:太田善章

▶︎後編記事につづく

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