私が看護をしている理由、それは「美しい」から|ファミワン

私が看護をしている理由、それは「美しい」から|ファミワン

目次

妊娠を願うすべての方を支えるべく、LINEを活用したパーソナル妊活コンシェルジュを提供している株式会社ファミワン。「妊活」という言葉が一般的に認知され広がっていく中においても、ユーザーとの丁寧なコミュニケーションを心がけ、決して「こうすれば妊娠する」という関係にはならないように心がけている企業姿勢が光るスタートアップだ。

今回は、同社の中でも代表看護師として、企業向けの福利厚生のセミナーやユーザー対応、サービス設計を担当する不妊症看護認定看護師(※)の西岡有可氏にお話を伺った。物事のトランスフォーメーションは一朝一夕には実現せず、実直な姿勢と対応が身を結ぶことになる。そんなことを実感させてくれるお話であった。

※不妊症看護認定看護師:日本看護協会が提供する認定看護師制度の中でも、不妊症看護領域における認定を有する看護師。認定看護の中では最も人数が少なく、全国で181名(2019年時点)のみ存在する

※この記事には前編があります。
▶︎前編はこちら

株式会社ファミワンとは

妊活に取り組む夫婦を支える、LINEを活用したパーソナル妊活コンシェルジュ「ファミワン」を提供。LINEのアカウント登録をすることで専用チェックシートが届き、ユーザーによる入力内容を分析して、不妊症看護認定看護師や臨床心理士、培養士など様々な専門家が相談者の妊活状況に合わせたアドバイスを行う。

2018年9月からは法人の従業員や自治体住民向けの提供も開始。不妊治療と仕事との両立支援の観点から小田急電鉄やミクシィグループへの福利厚生導入、ソニー、全日本空輸株式会社(ANA)、伊藤忠労働組合などへのセミナー開催、神奈川県横須賀市や東京都杉並区、群馬県邑楽町への「妊活LINEサポート事業」の提供を実施している。

インタビュイー

西岡 有可[Yuka Nishioka]
株式会社ファミワン
代表看護師/不妊症看護認定看護師


不妊症看護認定看護師として都内の不妊治療専門クリニックで10数年勤務。不妊に悩むカップルへのケアやチームマネジメント、研究発表を経験。医療機関の枠組みを超えて、もっと身近な存在として悩める人へサービスを届けたい思いからファミワンへジョイン。現在は福利厚生のセミナーやユーザー対応とともにサービス設計を担当。

石川 勇介[Yusuke Ishikawa]
株式会社ファミワン
代表取締役 Founder


自身の妊活で強く感じた課題を解決するため、株式会社ファミワンを創業。前職の国内最大級の医師向け情報提供企業のエムスリーでは、新規事業「AskDoctors評価・開発支援サービス」の担当として企画、営業、運用まで全て実施。優しい長男と元気な長女の二児の父。家庭では土日の料理、ゴミ捨て、洗濯担当。妻には頭があがらない。

大学院卒業以来、ずっと不妊治療領域に携わってきた

--まずは、普段のお仕事内容を教えてください。

ファミワンには私のような不妊症看護の専門家の他にも、臨床心理士や培養士といった様々な専門家が在籍しています。そんな専門家チームを取りまとめ、ユーザーからのご相談にLINEでアドバイスをお送るための橋渡しなどをしています。もちろん、私自身も回答者の一人として、日々ご相談者と向き合っています。

また、このLINE相談サービスに付随して、サブスク型の動画配信サービスや各種イベント・セミナーも提供しているのですが、それらのサービス設計や、実際に登壇もしています。

--不妊症看護の視点で、マルチに活動されているのですね。そもそも、ファミワン以前はどんなことをされていたのでしょうか?

社会人としては、最初に国立成育医療センターで不妊外来に配属されまして、そこから今に至るまで、ずっと不妊治療領域に携わっています。国立成育医療センターでは珍しい症例の患者様をケアし、それ以降に転職・在籍したクリニックでも多くの不妊治療患者様をケアし、看護師としての経験を積んでいきました。クリニックだけでなく、企業所属の看護師として、従業員の相談対応をすることもありました。

--その中で、ファミワンとはどんなきっかけで出会ったのでしょうか?

2018年に、代表・石川との共通の知り合いを通じて紹介してもらいました。サービス内容を教えてもらい、本来的に私たち看護師が対応するべき領分の広さと大切さを改めて感じ、ぜひ何かしらの形で携わりたいと思って、少しずつ事業へと参画するようになりました。

この3年で、主に企業の反応が大きく変わってきた

--2018年といえば、ちょうど今のファミワンのサービスの形(LINEを使った相談対応サービス)ができたタイミングと(前編で石川さんより)伺いました。そこから今日に至るまで、周囲の環境はどのように変わっていきましたか?

主に企業の反応が大きく変わっていると感じています。2018年当時は、妊活なんてまだ物珍しいテーマだったので、人事さんも「試しに入れてみることを検討するか」というテンションのところが多かったのですが、現在だと「そろそろ入れないとまずいよね」という空気感になってきています。

妊活や不妊治療への認知が広がっていったことに併せて、従業員へのサポートが必要だという認識も広がっていった印象です。

--その変化は医療機関にいると、なかなかキャッチできなさそうですね。

おっしゃる通りで、医療の現場にいると、例えば一般企業にどういった働き方があってどんなコミュニケーションが行われているのかは分かりません。

ファミワンでは、一社一社どういう勤務体系があり、どういう研修制度のもとで教育がなされ、各種資格や制度がどうなっているかなどを具体的に見ていくので、より解像度の高いペルソナを作ってセミナーや福利厚生サービスへと落とし込んでいます。

私たちとしてはこの3年で、妊活領域の専門性はもちろん、働く人の妊活を支えるだったり、その人の周囲の上司や同僚を支えるという専門性も上げることができていると感じています。

--(前編で)妊活サポートについて、会社としてどうすれば良いかわからない、という相談があると伺いましたが、例えば休暇ひとつ考えた場合、どんなペインがあるのでしょうか?

例えば生理休暇制度を設置しているけど、実態としてはほぼ使われていない、という話はよくあります。それは、認知されていないケースもあれば、認知されているけれど使いにくいケースもあります。

--使いにくいとはどういうことでしょう?

どの休暇も上長承認が必要になると思うのですが、そこには必ずカミングアウトも必要になります。婦人科治療に行くだったり、流産をしたなどの話は、できる限り人には知られたくないはずです。企業によって、直属の上司ではなく人事部へ申請したり、理由は伝えずに利用できる等の配慮もありますが、それでも利用率は高くありません。この領域ならではの言いたくない気持ちと休暇制度がうまく融合していないことが多く、改善の余地が大きい状況だといえます。

相談対応の質の担保は最優先事項なので、一切妥協しない

--もうひとつ、西岡さんは日々の相談対応業務もされているとのことですが、こちらはどうなのでしょう。テクノロジーが発達し、文字認識技術等が向上したことで、ある程度の自動化ができる部分なのかなと思うのですが。

もちろん、これまでいただいたご相談内容をもとにして、基礎となる標準的なメッセージ内容のパターンを何通りも作ってはいて、ある程度の自動化を進めることはできています。

一方で、自動化に限界があるのも事実です。例えば、「ファミワンに相談することなんてありません」という一言がメッセージで送られてきたとしましょう。システムだと文字通りの認識をして「そうですか」となるでしょうが、アセスメントを行う私たちの視点においては、その言葉通りには捉えません。その言葉の背景にはどんなことがあるのか、想像を巡らせながら、ときには返信を1時間だけ遅らせてみて、気持ちの昇華に鑑みた間の置き方をするなどしています。

--すごく細かい部分を考慮されていますね。

例えクレームが来たとしても、それは私たちにとってはクレームではなく、アセスメントの対象になるという考え方なのです。この部分をAIがとって変わるというのは、なかなか難しいのではないかと考えています。

--そのレベルの対応をなさっていると、今度は標準化と拡大の部分に課題が出てくる気がするのですが、そこはいかがでしょうか?

この対応については、私じゃないとできないとは思っていません。標準化については先ほどお伝えしたいくつかのパターンでテンプレートを作成していますし、姿勢の部分としては、マニュアルも整備しています。ファミワンではプレミアムプランとして、通話サポートも行っていまして、文字で残る相談とZoomなどの画面で行う相談と併せて、それぞれのメリット・デメリットをしっかりと理解した上で対応することが大切となります。

不妊症看護の領域については、認定看護師が私を除いて180名いるので、将来的にはそことうまく連携していきたいですね。今でもファミワンに関わりたい方は非常に多いのですが、現在のフェーズとしては質の担保が最優先事項なので、そこは一切妥協しないようにしています。

美しい看護をやり続けたい

--妊活、ひいては自分の身体に関するリテラシーを向上させるのは、我が国にとって大きなチャレンジだと感じています。この部分についてのお考えを教えてください。

まず、妊活というテーマを考えたときに、当事者はこの社会の全員だと思っています。日本は大きく遅れていますが、性教育も3歳から必要になるものだと捉えています。

だからこそ、地域ぐるみ、学校ぐるみ、社会ぐるみで考えていかないと、リテラシーの向上は実現できないと考えています。ここは、ファミワンにジョインした時から同じ気持ちです。

今夏からは会社としても取り組みを強化して、こどもに向けた性教育に関するイベントの実施や自治体との連携などを予定しています。

--素晴らしいですね!

あとは、不妊症看護認定看護師として看護学生に向けた実習のご依頼をいただくことがあるのですが、私個人にとってもかけがえのない貴重な機会だと受け止めています。

そもそも、妊活領域で実習があることがすごいことだなと。依頼いただいた大学の教授がすごく思い入れのある方で、これまでの経験を総動員して、いろいろなことをお話させていただいています。

--どんなことをお話しされるのでしょうか?

前提として、不妊治療看護って、すごく難易度が高いという研究が実は多いです。一般的に看護では事後に振り返りなどをするのですが、この領域においては「この看護が合っているか」の実感が非常に得にくいです。不妊治療そのものに正解はなく、感情の波もあるし、私たちの倫理観と患者様の価値観は決してイコールになるわけでもありません。

だからこそ、自分たちの対応を患者様に合わせてシフトしていく必要がありますし、そういうことをより強調して実習でも伝える必要もあると感じています。

今年もご依頼をいただく中で、自分の「看護観」を振り返ることで、患者様の生活及び人生の援助者としてどうあるべきかの基礎的な部分がすごく重要だという話になりました。これまで色々な先生方に教えていただいたことを自分の中に入れて、その上で後輩たちにそのままお伝えしたり、先ほどお伝えしたようなビデオ通話やチャットのような使えるアイテムの特徴を踏まえて伝えていく。自分が教えているようで、実は自分にとっての総復習の場になっています。とても有り難い場ですよ。

--西岡さんのお話を伺っていると、看護者としてのマインドセットが本当に素晴らしいなと感じています。その使命感はどこから来ているのでしょうか?

使命感。難しいご質問ですね。

看護用語で「させていただく」という表現がありまして、それはそれで少し宗教っぽいところもあると思いつつ、看護は自分にとっての自己表現なんです。ユーザーに対して医療的なことも心理的なことも支援しますが、それら全てが私にとっては美しい情景で、私が没頭できる、させていただけること。それが美しいから、というのが答えなのかなと思います。

大学の修論スピーチでも、全く同じことを言っていました。「美しい看護をやり続けたい」と。人生を変える場面に私が居させてもらって、そばにいる。そして、その方に今できることを最大限する。ケアというものは、患者様がパワーをかけて相談をしてくれるからこそ成立しています。その相互作用が成立しているだけで、私はいつも感動しています。

--その思いとスタンスが、今のファミワンのサービスに染み渡っているわけですね。

代表の石川がコツコツとやり続けていることが、本当にすごいことだと思っています。本当に地道に続けていって、それが少しずつ繋がり、ようやく社会がそれに追いついてきた。ある意味で、私はその船に乗させていただいているだけです。

社会全体で「当たり前」の空気を作る

--今後、ファミワンという会社をどのように成長させ、また世の中にどのような価値とトランスフォーメーションを提供されようとしているのか。最後に石川さんも含めて、現時点でのビジョンを教えてください。

石川:まずは今のサービスの延長線上として、これから妊活をしようと思っている人も含めて、いかに社会全体で「当たり前の支援」として認知してもらうかを、引き続き進めていきます。そのためのインフラとして、現在のLINE相談なども日々改善を繰り返していきます。

さらに中長期スパンでは、医療機関との連携も進めていきたいです。これは国内だけではなく、海外も含めた考えです。その上で、自分たちでも医療機関を作ると言った構想も考えています。ユースクリニックに近いものを想定しています。

オンラインでできることと対面でなければできないこと、そして、私達だからできることと医療機関や企業と連携することでできることを、うまくバランスとりながら、これからもまっとうに取り組んでいきます。

西岡:私の方では、引き続き質を担保した上で、アドバイザーチームをさらに強化していきたいです。

あとは先ほどもお伝えしたように、子ども達やその保護者の方に向けた性教育も、今後積極的に進めていく予定です。今までの患者様ではないところにもアプローチしていくことが、全体として価値のあるアクションだと捉えています。この活動が拡大していけば、中長期的には自治体や教育機関方面にも展開していきたいと考えています。ひとりでも多くの方が、「自分もこの社会における妊活というテーマの当事者なんだ」と考えるような社会を作っていきたいです。

編集後記

妊活の領域においては、医学的エビデンスのあるものからそうでないものまで、様々な情報が世の中に出回っています。それに起因するデジタルデバイドや情報の非対称性は、決して無視できるものではないでしょう。

同社が切り込んでいるのは、このような現状をもたらしている雄大なネットワーク社会において、「適切な情報を適切な人に、適切な形で届ける」ことだと捉えました。世の中のあらゆる箇所でDXが進んでいるからこそ、この適切な情報アクセスへの挑戦は、今後のプラットフォーム運営者にとって必須の考え方になると言えるのではないでしょうか。

最後に西岡氏がおっしゃっていた「美しい」という感情。これこそが、看護者、ひいては人々の困りごとを解決するサービス運営者としての美しい姿勢だと感じたのは、私だけではないでしょう。

取材/文:長岡武司
撮影:太田善章

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