D(デジタル)よりもX(トランスフォーメーション)の方が大事。DX時代の人材育成談義

D(デジタル)よりもX(トランスフォーメーション)の方が大事。DX時代の人材育成談義

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2021年9月29日から3日間にわたって開催された日本経済新聞社主催「金融DXサミット(Financial DX/SUM)2021」。「持続可能な社会へ向けて加速するデジタル変革」をテーマに、“金融”に関わる様々なステークホルダーが会場およびオンラインで参加した。(イベント概要紹介はこちら

その中でも、DX時代における「人材」領域に課題を感じている企業は、少なくないだろう。DX時代に活躍できる人材の要件とは何なのか。さらには、どのようにしてDX人材を育成すればいいのか。

そのヒントとなるパネルディスカッションが、カンファレンス2日目に開催された。テーマはずばり、「現場を活性化するDX人材とは?」である。

本セッションには、三井物産 執行役員デジタル総合戦略部長の真野 雄司氏や、Xspear Consultingコンサルティンググループ マネージングディレクターの梶田 威人氏、デジタル庁 デジタル社会共通機能グループ デジタル庁統括官の楠 正憲氏、そしてON BOARD代表取締役の大山 りか氏らがスピーカーとして登壇した。

「DXビジネス人材」の早期育成を目指す三井物産

まず、現場でDXを推進する上で課題になっていることについて意見が交わされた。三井物産の真野氏は人材の内製化を図るための取り組みについて次のように説明する。

「三井物産ではDXを担う人材を3つのタイプに分類しています。一番多く在籍しているのがビジネス人材(上図のa)。業界のナレッジや経験、スキルを持っていますが、デジタルの知識がほとんどない人材です。
次にDXビジネス人材(上図のb)。ビジネスとデジタルの双方に精通し、ビジネスモデルやサービスの全体設計ができたり消費者ニーズを汲んだアイデアを生み出せるスキルを有しています。
3つ目はDX技術人材(上図のc)。データサイエンスやUI/UX設計などハイレベルな次元でDXに関連した技術を提供できる技術者を指します。
今まで、aとcが一緒になってDXをやろうとして失敗していたので、これからはbのDXビジネス人材を、3年間でグローバル含めて100人を目標に育成したいと考えています」(真野氏)

DXビジネス人材を内製化するべく、三井物産では独自の社内研修を実施しているという。

「『Mitsui DX Academy』という社内向けの講座を開講し、DX人材養成に尽力しています。
デジタルスキルの基礎知識を座学で学び、実際のハンズオンとしてブートキャンプ型の講義を行っています。
また、最先端のDXスキルや知見を獲得するために、海外大学コースへの派遣もしたりしています。
採用に関しても注力していて、DXをテーマにした新卒採用向けのビジネスコンテストの開催やアジアでのグローバル採用を強化し、DX人材の内製化に向けて取り組んでいます」(真野氏)

これに付随して、DXに特化したコンサルティングファームに属する梶田氏は、デジタル人材の育成プログラムを提供する立場から次のような課題を提示する。

「よくある課題なのが、DXで目指す姿が不明瞭なこと。デジタル化によって業務効率化をするのか、組織全体のバリューアップを図って事業成長につなげるのかなど、目標が曖昧な場合が少なくありません。
このようにゴールが定まっていないと、例えばデータサイエンティストの必要な人数も割り出せないですし、実はエクセルでも十分に管理できるケースもある。
三井物産の真野さんが言われた『DX人材を3年以内に100人内製化する』という定量的な数字まで落とし込めるかが肝になってきます。」(梶田氏)

会社が活躍の場を用意することが大切

また梶田氏は、育成だけではなく、実際に業務として活躍できる場を設計することも不可欠だと強調する。

「DX人材を育成するための研修やプログラムに参加しても、どのレベルに達しているのかわかりづらいということ。加えて、学んだ知識やスキルを活かせる活躍の場所が社内に用意されておらず、結局DXが進まなかったり上司に理解されなかったりする課題もあると思います。
DX人材の内製化とセットで、会社が活躍の場をしっかりと用意することが大切なのではないでしょうか」(梶田氏)

デジタル庁統括官として行政DXを推進する楠氏からは、「どうやって国のシステムのDX化に貢献していくかが鍵となる」とのコメントがなされた。

「デジタル庁は2021年9月に立ち上がったばかりなので、まだこれからではありますが、行政や日本企業のデジタル化を担うために多くのチャレンジをしていくと思います。
デジタル庁は500人くらいの規模感ですが、そのうち200人くらいが民間出身の職員でして、これは役所の中では異例なこと。いわば、今まで行政をやってきた官僚とテック系をやってきた民間が集うカオスな状態が生じているわけです。
民間の良いところを取り入れつつ、行政として守るべきポリシーはおさえ、一から庁内の仕事のやり方を整えていく必要があると思っています」(楠氏)

これに併せて、大山氏は業界や企業を越えた女性活性化施策「IoTデザインガール」を通した活動で得たことを次のように話す。

「5年前に東京大学の森川教授から『デジタルを普及させるには、たくさんのつなぐ人が必要だ』という想いを受け、いろんな企業にひとりだけでもつなぐ人ができれば、啓蒙活動ができるのではと考えてIoTデザインガールを立ち上げました。
IoTデザインガールのプログラムでは、組織・企業間を超えてつながることの重要性や多様性の尊重、本質を捉えることについて教えています。
これらがDX人材のスキルだと考えていて、こうしたつなぐ人材が組織でもっと評価されるようになればいいのではと思っています」(大山氏)

日本はなぜ、海外と比べてデジタル化が遅れているのか

では、なぜ日本は諸外国に比べてデジタル化の普及が遅れているのか。これについて真野氏は「海外は7割が内製化しているの対し、日本は3割しか内製化に至っていないことが大きな要因」とし、こう説明する。

「多くの日本企業はこれまでベンターと二人三脚で歩んできた反面、システム開発における内製化が進んでいない。このことがDXの致命的な遅延につながっていると考えています。
他方、現在ではノーコードやローコードの時代。コードを書く必要性もなくなってきていて、ワイヤーフレームを使った図示も可能になっています。
何かシステムに絡む疑問点をいちいちベンダーに聞いているようであれば、スピード感が出ないですし、アジャイルな開発もできません」(真野氏)

また梶田氏も、DX人材育成の観点から以下のようにコメントする。

「ハイブリッドでもブリッジでも、DX人材は『ビジネスモデルをトランスフォームさせることにコミット』する人材と捉えています。ただ、デジタル化を進めるなかでプロジェクトの失敗などに慎重になりすぎて、身軽な動きがしにくくなる問題もあります。
もちろん、成果を出さなければ意味がありませんが、スピード感をもってやれることはどんどん進め、慎重さを出すべきところは留意するといった両面を意識することが大事になってくるでしょう。ただ、DX人材の育成プログラムを提供する立場として思うのが、『上から変わっていかなければならない』ということ。DX人材育成の対象は若手のみならず、管理職や経営層など幅広く設定するべきだと思っています」(梶田氏)

楠氏はこれまでベンダーに丸投げしていた状況を顧みて、「何を内製化し、何をベンダーにアウトソースするかを議論している」と話す。

「今までは失敗やリスクを背負いたくないという理由から、ベンダーに全て頼っていました。それが、古いシステムがずっと使われ続けてレガシー化する問題の原因になっていました。これからもベンダーと伴走する形は変えないものの、デジタル庁でグリップを握るところを決め、内製化できるところは自ら開発していくなど、挑戦も必要だと考えています。もちろん、それにはリスクも生じるわけですが、失敗しても学びながら人材を育成していくようなカルチャーも根付かせないといけない。
そういう意味では、発注の仕方も請負契約による入札だけでなく準委任契約を取り入れるなど、チャレンジングな取り組みをやっていきたいです」(楠氏)

また、コロナ禍でサービスのローンチまでのスピード感が求められるなか、行政として比較的早くデリバリーすることができた事例を挙げた。

「昨年のコロナが流行し始めたのは2月ごろですが、それから4ヶ月くらいで接触確認アプリ『COCOA』をリリースしています。また、ワクチン接種記録システム(VRS)も2ヶ月と開発からリリースまでのスピードは着実に早まっています。
フロントの部分であれば、エンジニアでなくても実装できるような環境が整っていますし、クラウド技術やフレームワークの充実も大きい。ただ、ご周知のとおり、不具合などの問題も発生しているので、そこは改善を繰り返しながら良いサービスへのブラッシュアップが肝要だと考えています」(楠氏)

この行政によるスピーディーなサービスデリバリーについては、こちらの記事で詳しく言及されているので、併せてご覧いただきたい。

デジタルは『ツール』から『環境』へと変化している

では、具体的にどのようにDX人材を増やせるのだろうか。DXの波が押し寄せ、多くの企業がデジタル化の必然性を感じている一方で、圧倒的な人材不足に直面していると言える。
大山氏からはそのヒントとして、鹿児島でのIoTデザインガールの現場での体験が語られた。

「『今チャレンジしないと、10年後に仕事なくなってしまうかも』と受講者へ伝えたところ、本気でデジタルを普及しようとやる気になりました。
こうした働きかけから、企業や自治体をつなぎ、鹿児島を盛り上げようという機運が生まれたのです。ひとつ言えるのは、デジタルはそんなすぐに結果が出るようなものではないので、組織はDX人材を長い目で見てほしいと思っています」(大山氏)

また、梶田氏はDX人材が育つ社内の環境整備が大切だと説く。

「自社に必要なDX人材は何かを考えることが、まず出発点だと思います。そして、DX人材がパフォーマンスを発揮できる土壌を作ること。DXスキルを持った人材の人事考課や配属先、意思決定の仕組み、給与体系などを体系立てていかないと、本当の意味でのDX人材は育たないでしょう」(梶田氏)

真野氏は「リカレント教育が大切になってくる」とし、デジタルによる“変化”ではなく、“進化”を求める姿勢こそDX人材に必要なことを示した。

「もはやデジタルは『ツール』から『環境』へと変化しています。そんななか、座学で知識を得ることに加えて、実際に触れてもらう方が浸透しやすい。『100の説明よりも1の実物』と言えるように、まずは作ってみせてみるとデジタル化への意識が底上げされます。
また、DXを担う人材は、デジタル化について理解が進んでいない人を助けながら、組織全体でDXが推進できるようになるのが理想です。さらに、若手が社長や専務にアドバイスする『リバースメンタリング』も、トップレイヤーのDX理解に有効だと思います。三井物産としても、色々とトライアンドエラーを繰り返しながら取り組んでいる状況です」(真野氏)

最後に、楠氏からは「人材が育つには場数を踏むこと」の大切さが示され、セッションが締めくくられた。

「DXはデジタルよりもトランスフォーメーションの方が大事だと思っています。
デジタルツールの使い方だけではなく、業務の組み立て方や仕組みを改善していく力が求められるからです。これまで国は制度だけ作って、業務は自治体に丸投げしていました。
ゆえに、非効率な業務フローや煩雑さが露呈してしまっていた。これらを改善するためには、テクノロジーの知見を用いながら、業務の全体設計を再構築していかなければならない。行政と民間、東京と地方などさまざまな持ち場で、これまでとは違った現場での業務を経験することで、『変えることのエキスパート』を育てていくことが必要だと考えています」(楠氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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