システムは手段。目的は、働くひとと組織が健康で活躍できる「仕組み」を創ること|iCARE

システムは手段。目的は、働くひとと組織が健康で活躍できる「仕組み」を創ること|iCARE

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ここ数年で注目されているワードの一つ「ウェルビーイング(Well-being)」。身体的・精神的・社会的に良好な状態にある、もしくはそれらが満ち足りた暮らしをすることを意味する言葉だ。もともとはWHO(世界保健機関)が「健康」を定義する中で登場した概念だが、現在では米シリコンバレーのテック企業をはじめ、世界中の様々な個人や組織が、高度デジタル社会を迎える人類の次なるアジェンダとして、このウェルビーイングに注目している。

その際に重要なポイントの一つが、働く環境だ。多くの人にとっては人生の大半を占めるものである一方で、ILO(国際労働機関)の調査発表によると、私たちが住む世界では、毎日1,000人が労災事故により死亡し、さらに6,500人が労働関連疾病により死亡していると推定されているという。働く環境の最適化は、今や世界中誰もが認識している課題であると言えるだろう。

今回は、そんな組織の健康管理領域でのDXを推進し、働くひとと組織の健康を創ることにコミットしている株式会社iCAREについて、代表の山田洋太氏にお話を伺った。抜本的なDXには、確固たる世界観が大前提にある。そのことを強く感じる時間であった。

株式会社iCAREとは

現役の産業医が代表を務める法人向けヘルスケアサービスを提供。「働くひとと組織の健康を創る」をビジョンに掲げ、複雑で煩雑な健康管理をシンプルでカジュアルに変えるクラウドサービス「Carely」の開発・運営を行っている。

Carelyでは、健康診断・ストレスチェック・長時間労働対策といった健康管理をクラウドで一元管理し、人事労務担当者・産業保健スタッフの業務工数を大幅に削減することで、手応えのある健康経営を手軽に実現している。

インタビュイー

山田 洋太[Yota Yamada]
株式会社iCARE
代表取締役CEO

金沢大学医学部卒業後、2008年久米島で離島医療に従事。顕在化された病気を診るだけでなく、その人の生活を理解しないと健康は創れないことを知り、経営を志す。2010年慶應義塾大学MBA入学。2011年心療内科・総合内科で医師として従事しながら、株式会社iCAREを設立。

2012年医療センターの経営企画室室長として病院再建に携わり、病院の黒字化に成功。2016年企業向けクラウド健康管理システム「Carely」をローンチ。2017年厚生労働省が行う検討会にて産業医の立場から提言。2018年より同省委員として従事。2020年Carely利用アカウントが11万を突破。CEO兼、現役産業医。

働く人の健康管理領域には、とにかく無駄が多い

--iCAREが提供するプロダクト「Carely(ケアリィ)」について、様々な機能があると思うのですが、まずはそのポイントについて教えてください。

https://www.carely.jp/
Carelyでは、健康診断、健康診断予約、ストレスチェック、過重労働対策、健康相談窓口、面談管理、従業員閲覧画面、ダッシュボードなど、企業の健康管理に関わる様々な機能が提供されている

前提として、僕たちは「働くひとと組織の健康を創る」をビジョンに掲げていまして、そのビジョンに対してなら何でもやるよ、というスタンスで日々活動をしています。

なので、プロダクトの位置づけは、僕たちの事業に関わるあらゆるステークホルダーをエンパワーするための、一つの手段だと考えています。

大事なことは、働く人や組織が健康に過ごせ、そしてしっかりと活躍できる「仕組み」を創ることであって、逆に言うと、システムは大事だけどそれだけでは世界を変えることはできないとも思っています。

--システムはあくまでツールということですね。

もちろん、CarelyというSaaSプロダクトは、テクノロジーを通して効率性という武器をもたせてくれます。一方で我々がやっているもう1つの側面は、専門家を育成するということ。お仕事を紹介することもあれば、研修でシステムの使い方を教えることもあります。情報提供や学会発表だってあるわけです。

つまり、システムは大事だけれど、単純に作ればそれで終わりじゃない、ということがとても大切です。すごく切れる包丁を作ったとしても、その包丁を使う料理人の世界観が一致していないと、素晴らしい料理が作れないのと全く一緒です。

--なるほど。働くひとと組織の健康を創るにあたって、そもそもの課題は、どこにあると捉えているのでしょうか?

健康管理と呼ばれている領域には、主に「個人」と「組織」、そして「人事労務・専門家」という3つの単位がありまして、それぞれにおいて非常に無駄が多いのが現状です。

なぜ無駄が発生するのかというと、健康って常にモニタリングが不可欠な領域だからです。例えば今日の体温が36.8度だったとして、その数字自体にはさほど意味はないのですが、もしかしたら時系列で平均体温をはじき出した結果が35.5度だったら、その日の体温は相対的に高いということが分かりますよね。そこで初めて、新たな価値が生まれるわけです。

つまり、健康管理というものはモニターし続けることで初めて意味あるものになるわけで、働く人の健康領域には、それに付随した無駄がとても多いのです。

現状、働くことで人はめちゃくちゃ健康を損なっている

--働く人の健康領域の「無駄」って、例えばどのようなものがあるのでしょうか?

代表例は、法律で定められている健康管理業務でしょう。もちろん、それ自体が無駄ということではなく、本来の目的を達成するにあたって「無駄な作業が多い」という意味です。
例えば健康診断って、ひと言で表現すると、会社のモニタリング機能の一つです。

その従業員が働けるか働けないかをチェックしているわけですが、結論としては99%は働けるわけです。

つまり、会社が費用負担しているので99%は無駄なわけですが、100人いたら1人をあぶり出すために、やり続けているわけです。

--いつも健康診断の意義を従業員目線で捉えていましたが、組織としてはモニタリングという視点が重要になるわけですね。

そういうことです。そして、その1人をあぶり出す理由は、「働くことで健康を害してはならない」というグローバルな価値観・道徳観によるものです。その代表的なものがILO(International Labour Organization:国際労働機関)でして、日々多くの方が労働関連疾病で亡くなっていることがデータとして明らかになっています。要するに実際のファクトは、働くことで人はめちゃくちゃ亡くなっているし、めちゃくちゃ健康を損なっているということです。

これがこの業界の大きな社会的ペインだと言えます。

“ 最新の安全衛生に関する推計値は問題の深刻さを示している。 毎日、全世界で1,000人が労災事故により死亡し、さらに6,500人が労働関連疾病により死亡していると推定されている。年間総数では、労働に起因する死亡者数は2014年の233万人のから2017年の278万人と増加している(Hämäläinenet al, 2017)。”

-引用:ILO「2019年労働安全衛生世界デー報告書(序章)

--例えば自分の娘が、働くことで健康を損なっていたとしたら、最大限に悲しいし、企業の管理はどうなっていたんだ?ってなるのは、至極当然のことだと感じますね。

そうですよね。そのための健康管理業務なのですが、それに付随する無駄うちがたくさんあって、人事労務や専門家も疲弊してしまっているという現状があります。

結果的に、本来やらねばならないアクションプランができていないという状況なので、そこを解決するために、テクノロジーやアウトソーサーとしての役割で我々がご支援しているということになります。

これが根底にある概念です。

エモーショナルな部分は人の手が残り続けるべき

--今お話しいただいたことを前提に、Carelyでは具体的にどのような機能があるのでしょうか?

例えば、健康診断の予約機能というものがあります。これも、めちゃくちゃ面倒な領域です。

従業員からすれば、人事担当から受診を依頼されるので、電話で健康診断の予約をするわけです。でも、まず健診センターに通じないので、繋がるまで待っている必要があります。繋がったと思ったら、今度はどのコースを選べば良いのかわからない。さらには日程調整も電話で行うので、すごく煩雑です。

企業担当からしても、従業員の希望調査や、紙の健診結果をデータ化する作業など、細かい作業が必要になります。

--考えるだけで煩雑ですね。

ここにITが入ることで、選択肢を事前に従業員側に提供できるし、日程もWebでシームレスに予約できるし、健診結果はあらかじめデータで提供されるわけです。大きな効率化につながりますよね。

年位一回の些細なイベントなのですが、モニタリングの必要があるからこそ、そういったものが働く現場にはたくさんあるんです。だからこそ、この領域はITをふんだんに使えるところだし、実務担当者がエンパワーされる余地が大いにあると強く感じています。

--一方で、冒頭にシステムは一つの手段とのお話がありましたが、その観点でシステムでは対応が難しいけど支援が必要な部分は、どんなものがあるのでしょうか?

例えば「説明責任」ですね。よくAIの議論でも出てくるものですが、要するに相手に納得してもらうためのエモーショナルな部分は、人の手が残り続けるべき部分だと捉えています。例えば、システムが画面上で健康状態を表示するのと、産業医が面談で対応するのとだと、やはり後者の方が安心する人が圧倒的に多いですよね。

--医師からの説明があると、ざっくばらんに質問もできるので安心できるし、納得感もありますね。iCAREのサービスとしては、Carely以外にどのようなものを提供されているのですか?

産業医の斡旋や、リモート保健師などを展開しています。このあたりは、人事労務担当の業務とテクノロジーの隙間にある仕事だと言えます。

例えば中小企業の場合は、専用に産業医をアサインすることが難しいケースもあるでしょうから、そのような場合を想定して、弊社ではリモート保健師チームがいます。テキストカウンセリングやビデオ会議を実際に行っていますね。

組織は多軸で分析をしないと見えてこない部分が多い

--御社では創業時に、Carelyとは別に「Catchball(キャッチボール)」というプロダクトをローンチされていたと思います。プロダクトとしての変化・進化について教えてください。

iCAREは、2014年時点では企業向けヘルスケアクラウドシステム「Catchball」を展開していた(現在はサービス提供終了)

Catchball、懐かしいですね!

基本的な概念は、今のCarelyと何も変わっていませんが、アプローチとして大きく変えたところがあります。

あの当時は、人事労務や専門家にとって使いやすく、彼らがもっと活躍できるようにフォーカスしたプロダクトとして設計していました。でも、「働くひとと組織の健康を創る」を愚直に追及していくと、それだけだと不十分だって気づいたわけです。

--先ほど、人と組織と人事労務・専門家という、3つの単位があるとおっしゃっていましたね。

そうです。組織の課題は、しっかりと組織の人達に気づいてもらうことが大事なんです。

例えばストレスチェック一つとっても、厚生労働省が提示しているようなレベルで組織分析の結果を返すだけでは到底不十分です。詳細に分析して返す、場合によっては組織の他データを組み合わせて分析する必要もあるわけです。

ある企業様では産業医のアクティビティデータを分析するということもやっていています。例えばストレスチェックをやって、その結果自体はそこまで気になるものではなかったのですが、その時に人事担当者の方が「定性的に気になることがある」ということで、800件ほどの産業医のアクティビティデータを分析すると、50%が30代の中途社員が占めていることが分かったんです。要するに、中途のリクルーティング後のオンボーディングの失敗が、就業後の不調に繋がっているということなんですよ。

--なるほど。そうやって別軸から分析をしていくのですね。

組織は多軸で分析をしないと見えてこない部分が多いので、当初のCatchballを超えて、組織とその中で働く人にも目を向けたCarelyへとコンセプトを昇華させたわけです。

あと新旧プロダクトの違いで言うと、従業員目線をかなり気にしている、という点も大きいですね。EX(Employee Experience)はめちゃくちゃ大事です。従業員側のニーズをどう汲み取って、人事・健康戦略につなげるか。

健康は一つの側面での解決はあり得ないからこそ、何度もお伝えしている通り、人と組織と人事労務・専門家の3面からそれぞれ切り込んでいく必要があるというわけです。

取材/文:長岡武司
撮影:編集部

▶︎後編記事につづく

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