医療と健康を抜本的に変えようとした時、僕の答えは医療機関になかった|iCARE

医療と健康を抜本的に変えようとした時、僕の答えは医療機関になかった|iCARE

目次

組織による健康管理の無駄をなくし、従業員を含めたステークホルダーをエンパワーする事業にチャレンジしている株式会社iCARE。創業時のプロダクトがうまくいかなかった学びから、現在はクラウド型健康管理システム「Carely(ケアリィ)」をはじめ、様々なサービスや連携を通じて、働くひとと組織の「本質的な健康」に向けて一歩ずつ、プラットフォームとしての規模と影響力を高めている企業だ。

今回は、そんな同社の創業時の思いや、改めて「健康」や「働く」とは何かといった、より思想に通ずる部分を代表の山田洋太氏に伺った。DXのX(トランスフォーメーション)とは、構造も含めた全体の変容を意味する言葉。同社がいかにして、健康領域のポジティブな変容を実現しようとしているのか、深掘っていく。

※この記事には前編があります。
▶︎前編はこちら

株式会社iCAREとは

現役の産業医が代表を務める法人向けヘルスケアサービスを提供。「働くひとと組織の健康を創る」をビジョンに掲げ、複雑で煩雑な健康管理をシンプルでカジュアルに変えるクラウドサービス「Carely」の開発・運営を行っている。

Carelyでは、健康診断・ストレスチェック・長時間労働対策といった健康管理をクラウドで一元管理し、人事労務担当者・産業保健スタッフの業務工数を大幅に削減することで、手応えのある健康経営を手軽に実現している。

インタビュイー

山田 洋太[Yota Yamada]
株式会社iCARE
代表取締役CEO

金沢大学医学部卒業後、2008年久米島で離島医療に従事。顕在化された病気を診るだけでなく、その人の生活を理解しないと健康は創れないことを知り、経営を志す。2010年慶應義塾大学MBA入学。2011年心療内科・総合内科で医師として従事しながら、株式会社iCAREを設立。

2012年医療センターの経営企画室室長として病院再建に携わり、病院の黒字化に成功。2016年企業向けクラウド健康管理システム「Carely」をローンチ。2017年厚生労働省が行う検討会にて産業医の立場から提言。2018年より同省委員として従事。2020年Carely利用アカウントが11万を突破。CEO兼、現役産業医。

このままだと、子どもや孫の世代に大きな負担を強いることになる

--そもそもですが、山田さんがこの領域にチャレンジされようと思ったのは、何故でしょうか?「働くひとと組織の健康」って、ものすごく規模の大きな話だなと感じます。

そもそも僕自身、ベースとして臨床の現場にいたのですが、働く人が鬱病になったりだとか、とにかく色々な不調を目の当たりにしました。薬を使うケースもあるし、使わないで良くなるケースもある。

そんな日々の医療行為を行う中で、もっと本流に課題があるよねと、常々思っていました。より上流で予防したり、医療機関じゃないところで健康を作る。そんな環境がないといけない、と思っていたわけです。

--現場にいたからこそ、現場外からのアプローチの必要性を感じられたんですね。

あともう一つ、2012年から3年ほどはiCAREにあまり注力できなかったのですが、実はその時、医療センターの経営企画室室長として病院再建に携わっていました。要は赤字だった病院を黒字化することがミッションだったのですが、毎月億単位の赤字を垂れ流していて、そうなると銀行とかもお金を貸してくれないわけですよ。病院経営を健全化するためには、医療の需要を生むようなことを率先してやらねばいけなかった。

やっぱり、僕としては嫌だったんですよね。病院は不幸で成り立つシステムだなって、改めて思いましたよ。

もちろん、予防だけでは解消しないものもありますが、これはちょっと違うよねとも思ったわけです。

--医療保険制度も、限界を迎えることは自明になっていますよね。

医療保険制度は持続していないのは間違いないと思っています。そもそも今の社会保障制度って、ピラミッド型の人口構造を前提に組まれているので、ワイングラス型の現状で維持できるわけがありません。

そんな状況の中、僕たちの子ども世代が健康で幸せに生きるために医療を抜本的に変えようと考えた時に、僕の答えは医療機関にはありませんでした。

予防医療。これをやらないと、子どもや孫の世代に大きな負担を強いることになる。そう強く思いました。

定期的に従業員全員の健康状態がわかるBtoBは、最強のアプローチだった

--一般的に、健康管理領域のサービスってBtoCで展開されているものが圧倒的に多いと思います。なぜ、山田さんはBtoB領域でスタートされたのでしょう?

そもそも論として、健康ビジネスって、不健康な人にリーチするというのが極めて難しい市場です。不健康な状態だけど、病院に行くわけでもなく放っている人もいるわけで、BtoCサービスだといくつかの転換点が必要になると考えています。

例えば人の「欲求」を刺激したダイエットサービスなどは、単価にもよりますが、本気で健康のリフトアップを目指そうとすると、それこそ大資本が必要になります。

--あるタイミングから、マスでの勝負になってきますね。

これに対して、我々が目指している世界に鑑みると、BtoBは最強だなと感じます。少なくとも法律で健康診断の実施が定められているので、定期的に全員の健康状態がわかって、悪い結果が出る人に対しては、しっかりと病院に行くよう対応がなされるわけです。

ここをプラットフォームにすることができれば、労務リスクの対策という軸で行動変容ができる、と思いました。

--なるほど。ちなみに、行動変容には習慣化も大事なポイントだと感じますが、そのあたりはいかがでしょうか?

現時点で僕たちのサービスで習慣化をさせるというのは難しいです。
一方で、「気づきの場」を与えることはできると思っています。

--どういうことでしょうか?

そもそも「健康」って、その人の人生観そのものなんですよね。すごく範囲が広い概念で、働く人のキャリアそのものであり、退職後の人生も影響する壮大なストーリーなわけです。

そう考えると、本人のWillを醸成しないことには、健康という状態になるのは難しい。だからこそ、僕たちは「健康になりたい」という人たちに対する気づきの場「Carely Place(ケアリープレイス)」を提供しています。

「健康にならないとダメ」という押し付けが大嫌い

--Carely Placeとは、どういうものなのでしょうか?

様々なデータを複合的に捉え直して、本人が「変わりたい」と思えるような研修・セミナーを実施し、やりたい人だけが健康に向けて変わっていくことができるというものです。
僕らの考えとして、例えば「タバコを吸いたい」と思っている人に対しては、「タバコを吸わないで」とは言いたくないんです。だって、そういう価値観だから。

これまでの日本では、これを保健指導という名のもとに押しつけてきたわけですが、もっとリスペクトすべきだよと。

--そこを俯瞰して捉えてサービス提供されているものって、他にないですよね。全員が「健康になろうとしなければいけない」が、所与の条件として知らず然らずのうちにあると感じます。

まさに、保健指導の「健康にならないとダメなんだ」という押しつけが、人を逃している気がします。

--こういう広範囲なビジョンは、それこそ一社だけでは厳しいのかなと感じました。このあたりで、横の連携などはあるのでしょうか?

基本的には健康に関わる業務効率化の観点で色々なことをやって、その副産物として我々のもとにデータが集まってきているので、それを活用しようというのは、ある種本流のビジネスとして実現できています。

一方で、健康という概念を広く捉えて、例えば最近だと保険領域の連携も開始しました。つまり、退職後の人生においても健康・不健康が分かれていくので、そこもしっかりと考えようということです。資産も含めて健康だと思っています。

--おっしゃる通り、心身ともに健康であるためには、資産も大切な要素ですね。

他にも、例えば医療機器メーカーのフィリップスさんとは協業という形で、睡眠時無呼吸症候群における病院受診率を向上する取り組みを行っています。具体的にはウェアラブル端末を使って、かなり精度高くデータを取得できるようになっていますね。

いずれにしても、多様な価値観がある中で、身体的な健康、精神的な健康、社会的な健康があって、いずれも人によって重きを置くものは違うわけです。だからこそ、我々がそれら一つひとつを支援していくことで、組織と働くひとの関係が、より良くなると感じています。

僕はプロダクトのオーナーシップをもたないようにした

--お話を伺っていると、ビジョンにもある「働く」というのは、いわゆる「勤務する」以上の概念を示しているように感じます。

まさにそうですよ。様々な価値観の中で、自分らしく生きていくこと、人生を豊かにするもの、と捉えています。

労使間をもっての「労働者が働く」であれば、これからの時代はどんどんとなくなっていくだろうと思います。でも、「人が価値を生み出す行為」は絶対になくならないし、人はそこに幸せを感じているからこそ、働くことを応援することに大きな価値があると考えています。

--中長期的には、その人に関する様々なデータが集まっていて、その上で、その人に最適な健康のリコメンドがなされる。そんなイメージでしょうか。

そうですね。よくデータドリブンと言われると思いますが、僕たちはこの部分をしっかりと蓄積していって、必要に応じて法律や日本の政策も含めて働きかけをするためのデータを示していく必要があると思います。データドリブンなポリシーメイキングですね。

--Carely Placeのような世界観は、まさに構造的な変容をもたらすDXの真髄だと思うのですが、そのためには目下、Carelyが多く導入されることが重要との認識です。プロダクトを開発したり、導入する際に特に気を付けていることは、どんなことでしょうか?

これは前身のプロダクトである「Catchball」の時からの教訓なのですが、プロダクトのオーナーシップは僕がもたないようにしていて、エンジニアのトップにもたせるようにしています。これ、すごく大事なポイントです。

--それはなぜでしょう?

たとえ、その業界の職人として最大限の知識をもっていたとしても、その人をプロダクトオーナーにすると、プロダクトアウトなサービスになってしまいます。

一方でエンジニアをプロダクトオーナーにすることで、最初は業界課題がわからないわけですが、だからこそユーザーヒアリングを徹底的にやっていって、そこから抽出された現場目線の課題を解消する機能が浮かびあがって、それらを愚直に実装していくことになります。その上でまた、ユーザーからのフィードバックを受けて、機能をチューニングしていく。このフィードバックループが有効に機能する仕組みとして、この体制を敷いています。

Catchballの失敗は、ほぼ内製できていない開発体制下で、産業医である山田が欲しい機能だけを作ったので、結果として全然売れなかったわけです。

ただ一方で、それだといつまで経っても後手になるプロダクトになりやすいというデメリットもあるので、僕が1ユーザーとして意見することで、機能としての風穴を開けるようにしています。

目指す世界を愚直に実現して参ります

--昨年からのコロナ禍を経て、貴社の事業展開やクライアントにどのような変化がありましたか?

基本的にはポジティブな状況です。これまでの紙やExcelでの運用から、クラウドでいつでもどこでもアクセスして働く人の健康を目指すということで、より専門性を発揮できる土壌が促進されたと感じています。

また、経営者や決裁権限者の視点も変わったと思います。今まで以上に、健康管理をやらなければいけないという意識が高まったのではないでしょうか。

--ある意味で追い風にもなっている状況の中、今後、会社としてどんなことにチャレンジされていく予定か、差し支えない範囲で教えてください。

まず短期としては、健康診断のWEB予約システムはすごく大きな価値を生んでいるので、その価値をしっかりと健康管理領域の色々なお客様に知って欲しいと思います。

中長期としては、先ほどお話ししたようなCarely Placeのように、個人の価値観を尊重しながら健康になりたい人を支援する事業を、ここ2年でもっと伸ばしていきたいと思っています。
あとは上場後ですね。この働くひとと組織の健康問題は、日本だけではなくグローバルな問題なので、海外への展開も不可欠だと考えています。

--その頃になると、社会における健康の捉え方も、随分と変わっている気がします。

そうですね。僕たち自身、健康データって、本来的には一人ひとりが自分の管理のもとで持ち歩くべきものだという思想なので、そのプラットフォームになっていかねばならないと思っています。

そのためにも、まずはBtoBでしっかりと社会的な負を解決するポジションを確立して、この領域における第一人者にならなければいけないと考えています。

今のような広いオフィスになる前の汚い小さなオフィスの頃から、僕たちのことを信じて入社してくれた優秀で頼もしい仲間がいるので、そんなメンバーと一緒に、目指す世界を愚直に実現して参ります。

編集後記

僕が最初にiCAREさんと出会ったのは2014年。まだ、前身のプロダクトである「Catchball」を提供されているタイミングでした。

山田代表は当時、「わくわく働く社会を創る」という理念を掲げていたのですが、7年経った今、文言こそは「働くひとと組織の健康を創る」へと昇華されているものの、働き手のウェルビーイングを追求することへの姿勢は、全く変わっていません。

iCAREは2021年6月14日で創業10周年を迎えています。山田代表の、このブレない軸と世界観、そしてその実現に向けた熱量があるからこそ、ポジティブで着実な拡大が実現していると、お話を伺って改めて感じました。

取材/文:長岡武司
撮影:編集部

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