米プロセス団体「WWE」から学ぶ興行DXの視点【xDX編集長コラム】

米プロセス団体「WWE」から学ぶ興行DXの視点【xDX編集長コラム】

目次

※本記事は「架空対談」ということで、xDX編集長・長岡の脳内対話を文字化したものとなります。

--今日は初めての編集長コラムということで、宜しくお願いします。

長岡:宜しくお願いします。

--こちらでは、旬なテーマやxDXとして特にフォーカスしたい時事ネタなどについて、編集長視点でお話しいただきたいと思います。

長岡:普段インタビューや編集を通じて話を「引き出す」のは慣れていますが、自分の考えを「アウトプット」するのはなかなか習慣化できていないもので、ちょっと緊張しますね。

--そこは頑張りましょう。本日のテーマは何になりますか?

長岡:今日は「プロレス」について話したいなと思います。

--プロレスですか?それもう、趣味の話ですよね?

長岡:まあ、趣味の一環ではありますが、今日はちゃんとDXと重ねてお話ししたいと思います。題して「興行のDX」です。

--ああ、なるほど。アナログな興行ビジネスを、いかにDXしていくかということですね。でもなんでプロレスなんでしょうか?興行ビジネスって、映画や音楽ライブ、演劇、スポーツイベントなどいろいろあると思うのですが。

長岡:この記事のタグラインにもある通り、アメリカに「WWE」というプロレス団体がありまして、そこのコロナ禍対応が面白いなと。

DXというと、なんだかオンライン前提の部分がどうしても先行すると思うのですが、そうではなく、本来的かつ徹底したユーザー視点に立った対応がなされていると個人的に感じたので、いろんなショービジネスの形態を代表して、ここの取り組みから興行のDXを考えたいなと考えました。

--個人的なバイアスが強い気がしますが、承知しました。

長岡:その前に、少し迂回をして、ダーツの話をしたいと思います。

--また、急に別のテーマになりましたね。

長岡:1992年にイギリスで誕生した「Professional Darts Corporation(PDC、プロフェッショナル・ダーツ・コーポレーション)」というダーツの団体があります。紹介しておきながらあまり詳しくはないのですが、おそらくは競技ダーツのトーナメントを行っている団体としては世界最大級だと思います。職員数は30名程度のようですが。

このPDC、基本的にはSky Sportsで生放送されているのですが、そのおこぼれがYouTubeやFacebook動画でも配信されていまして、いつも休憩する時などに楽しく見ているわけです。

--ダーツって、よくラウンジとかにあるやつですよね?

長岡:そうですね。正確には、PDCで扱っているのは「ハードダーツ」と言って、麻で作られたボードに金属製の先端部分をもったダーツを投げていくものです。日本で多く目にするのは「ソフトダーツ」と言って、プラスチック製ボードに先端部分がプラスチック製のダーツを投げていくものなので、ちょっと違います。

--なるほど。

長岡:少し話が逸れましたが、この競技動画がコロナ前後で随分と変わりまして、ちょっと最近はつまらないんですよ。

--と言いますと?

長岡:動画を見ていただくと分かるのですが、コロナ前って、バックに大勢の観客がいて、各々が飲食して歓声をあげながら観覧しています。

長岡:ダーツって、ゲームで一回投げるときの最高得点は、20点のトリプルに入れたときの「180点」と決まっていまして、プレイヤーが180を叩き出すと、コーラーと呼ばれる審判が「ワ〜ンハンドゥレット・エンド・エ〜イティー!」と、イギリスなまりの英語を大声でコールします。それにつられて観客の歓声も大きくなり、場がどんどんと熱くなっていくわけです。

--ニッチなところを見ていますね。

長岡:でもこれが大事なところでして、興行のエンタメって、この「観客との一体感」がすごく重要だと思うわけです。ダーツの場合、180が3連続しようものなら、コーラーの声はどんどんと大きく大袈裟になり、また観客も狂喜乱舞します。一方で、1投の最低点である「1」になんて入れてしまったら、コーラーも極端に元気なく淡々と点数をコールし、観客も無反応になります。ブーイングとかではなく、無反応です。プレイヤーとしては、この空間全体の雰囲気も加味してプレイする必要がありますし、テレビなどの映像物で観覧している僕のような人間にとっては、これら全ての流れがエンタメなわけです。

この「一体としての場」のダイナミクスが、ダーツ、ひいてはエンタメ興行の醍醐味だと感じています。

--テニスの世界選手権なども、そんなところがありますよね。良いプレイをしたら観客がわくし、マッチポイントになると、負けている方への声援が強くなりますし。

長岡:まさにそうですね。エンタメ系興行とお伝えしましたが、そう考えると、ここでの例は観客がプレイヤーと同一の場にいて、一定のルールのもとで自由に応援等ができるもののケースについての話だと言えます。

それが、今度はこちらの動画を見ていただくと分かるのですが、コロナ禍で人が密集する観覧が完全にNGになったので、バックにいた観客陣がゴッソリといなくなり、コーラーとプレイヤーだけになっています。どうでしょう?

--うーん。淡々としていますね。

長岡:感情の抑揚が極端に減りましたよね。これってすごくもったいないと言いますか、本来的に備わっていたエンタメ性が随分と削がれてしまっていると言えます。

--なるほど、そこはよく分かります。でもこれが、プロレスとどう関係しているのですか?

長岡:この空間の中での観客とプレイヤーの関係は、プロレスも同じでして、現地の観客あってのプロレスだとすら言えます。

大音量の入場曲と共に、選手がパフォーマンスを伴ってリングに入っていき、平均5分程度の試合時間のなかで、時にはアイコンとなる技やパフォーマンスを繰り広げ、また時にはストンピングや反則技を使いながら、最終的にフィニッシュ・ホールドと呼ばれる必殺技で相手を打ち破るという流れになります。

--プロレスって、全部決まった話なんですよね?

長岡:それを語り始めたらキリがないので今日はやめておきますが、一つお伝えしたいのは、例え決まっていた結末だと分かっていたとしても、その途中にある偶発的なストーリーや試合運び、選手の見事な“受け”のアクション、十八番となる技披露の“型”なるものに、人々は夢中になるわけです。

先ほどのダーツの要領で、いやそれ以上に観客の歓声やリアクションが試合へと加わることで、その場限りで唯一無二の試合空間が形成されていくことになります。

--そう言われると、パッケージとして制作された映画などの映像物とは、また違う楽しみがありますね。

長岡:そうなんです。僕は映画も好きですが、月並みな表現としてこの観客を含めた「ライブ感」が、プロレスをはじめとする興行ビジネスには不可欠だと強く思うわけです。

WWEで活躍した日本人の一人として有名なTAJIRIさん(本名:田尻義博氏)も、著書『プロレスラーは観客に何を見せているのか』で、以下のように記述しています。

  

“繰り返しになるが、プロレスは「人に見られること」が大前提なので、「見るに値する何か」を提示できないプロレスラーには存在理由がない。だから、どんなときにも「人に見られること」を意識する。
(中略)
僕はこれこそがプロレスの根っこの部分だと信じているから、自分の教え子たちには練習の最初の段階から「人に見られることを意識することが大事だよ」と言い続けてきたのだ。”

-引用抜粋:TAJIRI著『プロレスラーは観客に何を見せているのか』43〜44頁

    

長岡:TAJIRIさんの試合で考えると、「バズソーキック」というフィニッシュ・ホールドがあるのですが、それを出すときには独特の“溜め”ポーズがあるんです。観客にとっては、これからバズソーキックを出すぞ、という合図になるわけです。

--そうやって観客とコミュニケーションをとっているわけですね。

長岡:ある試合で、ベビーフェイスだったTAJIRIさんがこのバズソーキックの溜めをやって、観客がわいていました。でもそのとき、ヒール役の相手選手がバズソーキックを回避し、逆にその選手のフィニッシュ・ホールドに向けたポーズをしたわけです。わいていた観客は一転してブーイングやら悲鳴やらを出すわけです。

でもその後、相手選手がフィニッシュ・ホールドを決めようとした瞬間に、TAJIRIさんが隙をついて転ばせて、その流れで今度はしっかりとバズソーキックを決め、試合に勝つという流れがありました。

そのときの観客の盛り上がりようと言ったら、単純にバズソーキックを決めたときの何倍にもなっているわけです。同じ必殺技であっても、例えばこのような形で、会場全体のムードは大きく波打っていくことになります。

--そうやって解説されると、ぜひ見てみたくなりますね。

長岡:ぜひ、ご覧になってください。国内最新の放送回はスポーツテレビ局の「J SPORTS」で見れますし、過去の試合はYouTubeでもたくさん見れます。

そんなプロレスが、コロナ禍を理由に無観客になったらどうでしょうか?

--観客のリアクション前提環境が崩れるので、相当淡白なものになりそうですね。

長岡:観客の声援がないプロレスは、もうエンタメ性の大半が失われたも同然です。かと言って、新型コロナの猛威がひどいアメリカ国内では、従来のように大勢の観客を動員しての興行も不可能な状況。

そこでWWEが行った施策は、とてもユニークなものでした。

こちらの動画をご覧ください。何か気付きませんか?

--あ!映像になっていますね。

長岡:そう、WWEは単純に映像配信をオンライン化するのではなく、大量のLEDボードに観客を映し出すという力技をやってのけたのです。これ、「WWE ThunderDome(WWEサンダードーム)」と呼ばれているものでして、COVID-19のパンデミック中にWWEイベントに参加する方法として、2020年8月に開始されました。

--これはすごいですね。これだと、従来のエンタメ性が担保されますし、これまでは遠隔で現地参加できなかった人でも、会場と一体になる機会を得ることができますね。

長岡:そうなんです。もちろん、観客としては現地参加の方が熱量が高いのは間違い無いのでしょうが、映像で見るという視点においては、可能な限り従来のあり方を再現しています。もちろん、WWE単体の力ではなく、The FamousGroupというバーチャルライブやMRソリューションを提供する企業との提携があって、この大仕事が成立しました。LEDは1,000個ほど並んでいて、実際の音と偽の群衆ノイズを駆使しながら、リアル会場さながらの会場を実現しているのです。

--お金もかかりそうですね。

長岡:もちろん、大きな資本が必要になったのは間違いないでしょう。ただ、コロナ禍で投資を控えるのではなく、状況を打破するためにあえて積極投資をしたのは、さすが世界最大のエンタメ興行企業の決断だと感じます。

あともう一つ、しつこいようですがここでのポイントは、観客の視点というプロレスの根幹部分を大事にしたDXを行ったということです。観客が作り上げる歓声やらブーイングやらを、しっかりと選手と一体になるように設計して興行システムとして機能させたのは、僕たちビジネスマンがしっかりと学ぶべきポイントだと感じます。

--ユーザーファーストな視点ですね。

長岡:そうですね。ここでいうユーザーとは、観客もそうですし、選手だって含まれるでしょう。

あと数日で世界最大のスポーツイベントが開催されますが、今回のWWEの取り組みような視点がもっと意思決定に活かされたのであれば、もう少し違う形になっていたのでは無いか、とも感じる次第です。まあ規模もステークホルダーの数も段違いに異なるので、そう単純な話で無いのは百も承知ではありますが。

本来的にステークホルダーが何を求めているのか。そこのインサイトをしっかりと見極め、DXによってソリューションの形が変わったとしても、バリュープロポジションのあり方は変えない、もしくはより別な形で進化をさせる。それを思い出させてくれるような良い具体例として、今回は興行DXを進めたプロレス団体「WWE」を紹介しました。

--xDXとして、最後はうまくまとまったような気がします。それにしても、WWEサンダードームは圧巻ですね。

長岡:そもそも人って、同じものが大量に並べられると、それだけでワァーってなる気がしますね。2年前に「#私はこんな仕事がしたい展」というクリエイター作品展示イベントがあったのですが、そこでは展示ディスプレイとしてiPadが215台並べられており、同じくその構図に感情が動いたことを記憶しています。

--そういう部分はあるかもしれませんね。

長岡:でも、例えば地方都市に並んでいる太陽光パネルには心が動かないわけであって、やはり中身となるコンテンツこそが重要なんだよなとは、常々思うところですね。

文:長岡武司

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