幸せへの第一歩か、ディストピアの始まりか。メタバースを考える【xDX編集長コラム】

幸せへの第一歩か、ディストピアの始まりか。メタバースを考える【xDX編集長コラム】

目次

※本記事は「架空対談」ということで、xDX編集長・長岡の脳内対話を文字化したものとなります。

例の大会のあれこれ

--月に一回の編集長コラム、今回も宜しくお願いします。前回はプロレスがテーマでしたね。

初回にしてはニッチなアプローチだったなと少し反省でしたが、配信したのが例の世界的スポーツ大会開会式の前日だったこともあり、興行のあり方について改めて考える良い機会になりました。

--開会式や閉会式、そして大会運営など、色々な議題がありますからね。

ここでは個別にどうこう言うつもりはないですが、少なくとも5年前のリオ閉会式の時から感じていたのは、日本はどんな「未来」を描きたいのかという視点がどうやら欠けている、といいますかぶっちゃけ無いのではないか、ということです。マリオやドラえもんなどといった和製コンテンツやおもてなし文化が強調されていましたが、いずれもこの国の「過去」を盛大にアピールしたものです。僕たち日本人はどういう未来を伝えようとしているのかいまいち分からない、というのが一抹の不安としてあったわけですが、今回の大会でそれが完全に世界に露呈してしまったわけです。

--様々な批判の中でも、どういうテンションでみたら良いか分からない、という声がたくさんありましたからね。

本屋を眺めてみると、「成長しましょう」「好きなように生きましょう」といった一種の“成長ポルノ”産業が盛んなわけですが、結局はその先の目標やアジェンダがそもそもない。ただ成長のために成長する群衆意識としての成れの果てが、今回の大会に色ごく反映されているなと、個人的には強く感じた次第です。

昭和世代が昭和のやり方を押し通した結果の無様なアウトプット、というのが大方の批判サイドの視点ですが、問題はそんなに単純でもない気がしています。

--「どうこう言うつもりはない」と言いながら、結構過激な視点でお話しされてますね。

まあ僕個人としても、例の大会には色々な感情がわいていた、ということです。このあたりの個人的な総括については、また別の機会にしたいと思います。

セカンドライフはかく語りき

--そろそろ今月のテーマに入りましょうか。今月は何についてお話しされますか?

ここ最近で「メタバース」という言葉が流行っているようでして、これについて考えていきたいと思います。

--メタバースですか。言葉だけは聞いたことがありますが、よくわかっていないんですよね。

メタバース自体、DXと一緒で、いろんな人がいろんな定義や世界観を語っているので、なかなか分かりにくい概念だと思います。

突然ですが、「セカンドライフ(Second Life)」って知っていますか?

--これも名前だけ聞いたことがありますが、それくらいですね。

世代的に知らないですよね。2003年にリリースされたサービスなのですが、一言でお伝えすると「仮想空間サービス」です。

ユーザーは好きなアバターを選び、走ったり空を飛んだり瞬間移動したりしながらバーチャルなセカンドライフ空間を移動して、他アバターが作成したコンテンツを楽しんでいきます。

空間内では「Linden Dollar(リンデンドル・L$)」という独自通貨が流通していて、そこでコンテンツやサービスなどを売買することができます。

長岡アカウントでセカンドライフ内を飛び回るアバター

--20年近く前に、こんなフォートナイトみたいなのがあったんですね。

そうなんですよ。日本では2007年〜2008年にかけて盛り上がりまして、ちょうどミクシィのようなSNSが盛んに使われていた時期です。今となっては広告代理店が無理やり盛り上げていたという話が出回っていたりしますが、少なくともドンピシャ世代の僕としては、当時の新しいソーシャル3D体験に心躍っていたわけです。

セカンドライフ内で映画の試写会とか行われていて、こういう感じでバーチャル空間にリアルライフがシフトしていくのかなーと夢想したものですよ。

--でも、結局はFacebookみたいに誰でも使うプラットフォームになっていないですね。

色々な要因はありますが、当時メインで言われていたこととしては「動きが遅い」と「目的が分からない」です。

前者については、当時のサーバー環境やクライアントパソコンそのもののスペックに限界があって、どうしても動きがモッサリしてました。一方で後者については、バーチャル空間での「自由」が、ユーザーにとっての戸惑いにつながってしまったということです。サービス機能の範囲内で自由にコミュニケーションをしてもいいよと言われても、何をコミュニケーションすればいいの、と。

--目的設定がよく分からなかったんですね。

ミクシィであればクローズドなコミュニティで交流してオフ会などに参加できますし、Facebookデアレバ「いいね!」が集まることで承認欲求を満たしてくれる。でもセカンドライフって、もちろんサービスの売買といった経済活動ができるものの、圧倒的にゲーミフィケーション要素が足りなかったわけです。だからこそ、物珍しさで集まったユーザーも、結局はすぐに離れてしまったというわけです。

回線速度が遅かったとしても、例えば好きな女優さんの動画や映像を見るためだったら画面描画されるまでいつまでも待つわけで、そのモチベーション設計ができていなかったということです。

FacebookからThirdverseまで

--今あげてもらったセカンドライフみたいなものが、メタバースということですか?

メタバースの一つのあり方、という表現が正しいですね。よく挙げられるメタバースサービスとしては、セカンドライフの他に、フォートナイトやVRChat、あつ森(あつまれ どうぶつの森)などです。また、日本政府が進めているデジタルツイン・プロジェクト「Project PLATEAU」も、メタバースの一種として捉える人は一定数いますね。

--ちょっとまだ、いまいちピンときませんね。

メタバースって、超(meta)と宇宙(universe)を合わせた造語でして、最初に言葉として登場したのはNeal Stephenson(ニール・スティーヴンスン)という方のSF小説『Snow Crash(スノウ・クラッシュ)』だと言われています。ここでは不特定多数のユーザーがネット上のバーチャル空間で自由に行動できる「場」が描かれていたわけです。

バーチャル空間って、セカンドライフやフォートナイトのような3D空間のものもあれば、そうではなくてFacebookやTwitterのような平面世界のものもありますよね?ある意味で、メタバースは既存のSNSサービスを包含する概念でもあるわけです。

--結構広い概念なんですね。

一部の出会い系サービスがリブランディングをするべく「マッチングアプリ」という別の用語で差別化を測ったように、メタバースも「新しいSNSをリリースします」よりも「メタバースをリリースします」の方が、世間的な印象的にも広報的にも、そしてサービス拡充の余地としてもメリットあがるので、そういう表現位しているだけ、という見方もできるかもしれません。

いずれにしても、日本でメタバースという言葉がここまで注目されるようになったのは本当に最近のことで、少なくとも2020年の春くらいに調べようと思ったら、こちらのTechCrunchの記事くらいしか詳しいものがありませんでした。

--なるほど。ここ最近で、いろんな会社がいろんなメタバース関連ニュースを発表していますよね。

例えば先日、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが「メタバース企業になる準備を進めている」と語ったWeb記事(Webメディア「The Verge」インタビュー)がもとで、世間のメタバース熱が高まりました。少し前だと、MicrosoftもMR(Mixed Reality)プラットフォームの「Mesh」を2021年3月に発表していまして、メタバース構築への布石を打っているといえます。

Facebook提供のソーシャルVRサービス「Facebook Horizon」

--やはり、海外のテックジャイアントがメインのプレイヤーなんですね。

もちろん、国内でも動きはありますよ。例えばつい先日ですが、VR(拡張現実)ゲーム開発を行う株式会社Thirdverseの代表取締役CEOにgumi Founderの國光宏尚氏が就任することになり、約20億円の資金調達も行っていました(参考記事)。VR × メタバース事業への可能性は、note記事でも語られています。

國光氏といえば、ちょうど先ほどご紹介したセカンドライフでの国内初の映画試写会を企画した人物でもありまして(当時の所属は映像制作会社のアットムービー)、20年以上前からバーチャル空間での社会活動の可能性に着目していたともいえます。

メタバースは死ぬほどつまらなそうなもの?

--なんでメタバースがそんなに注目されているのでしょうか?

これはいろんなメタバース推進者のインタビューや記事を読んでの単なる僕の感想ですが、大きくは2つ。広報的な意味合いと、フロンティア創出への期待にあるんだろうなと感じています。

前者については先ほどお伝えしたので良いとして、後者としては、要するに現実世界にはどんどんと開拓できるフロンティアがなくなっていると。宇宙空間や海に進出するという手もありますが、それには時間も諸々の物理的なコストもかかるし、現時点でお金を潤沢にもっているテック企業は物理開発のノウハウもない。

であれば、自分たちの得意なフィールドであるバーチャル空間でのフロンティア創出を進めようということです。フロンティア開拓ではなく、フロンティア創出であることがポイントです。

--コロナ禍であることも関係しそうですね。

タイミング的に間違いなく、非対面社会に向けた取り組みとして、説得性のある要素になっているとは思いますね。

--そうなるとテック界隈としては、「次なるイノベーションはメタバースにあり」という感じで見定めているのでしょうか?

もちろん一枚岩なわけがなく、批判や警笛を鳴らすプレイヤーやメディアも多いです。

例えばテックメディア「WIRED」ではFacebookのメタバース構想を「死ぬほどつまらなそうなもの」と一刀両断していますし、「Pokemon Go」などのAR(拡張現実)ゲームを提供する米Niantic社のジョン・ハンケCEOは「メタバースはディストピアの悪夢」だと警笛を鳴らしています。

--辛辣なメッセージですね。

両方の軸が面白いなと思いまして、例えば前者については、一種のブームにあやかったメタバースの構想でしかない点が「つまらない」と糾弾しているわけです。少し前にJTBが「バーチャル・ジャパン・プラットフォーム」という新サービスを発表して、その古さが話題となって一種の炎上状態になったこともありましたよね。あれ自体、JTB側はメタバースなんて表現はしていませんが、要するに短絡的な3Dバーチャル空間での体験をブームにあやかる形で無理に創出しようとしたと一般消費者にはうつったことで、失笑を買ったことになったといえます。WIREDの例は、同じ切り口で法人向けサービスの短絡的なビジョンがつまらないといってるわけです。

--確かに、iPhoneが破票されたときのようなワクワク感はありませんね。

そしてもう一つ、より深刻なメッセージは後者ですね。ここ最近のメタバースの文脈は「VR」とセットで語られることが多いと思うのですが、本当にざっくりお伝えすると、没入したバーチャルサービスは危険だというメッセージです。

「Pokemon Go」って今でも街中でプレイヤーを見かけるくらい大きな社会的影響を与えたサービスだと思うのですが、これってVR(仮想現実)ではなく「AR(拡張現実)」です。つまり現実世界にバーチャル情報を重ね合わせる技術を応用したものです。

その本質が何かと考えると、僕としては、リアルな発見へのセレンディピティだと思っています。

--どういうことですか?

すごく丸めて言ってしまうと、ポケモンを探すために外に出ていろんな場所に出歩くことで、ポケモンゲットの合間にあるふとした瞬間に、この場所にこんなものがあるんだというリアルな発見がもたらされる、ということです。非日常の中に自分たちの日常への介入がなされるわけでして、これこそがNianticが目指しているあり方の一つだといえます。

今のメタバースは、そんなリアルとは隔絶された悪夢でしかない、ということです。

--なるほど。

一方でそうは言っても、例えば「Pokemon Go」自体も、モンスターに没入しすぎると、結局はリアルな世界ではなく画面の中の半バーチャルな世界に目線が埋没してしまうわけでして、これについては書籍『遅いインターネット』(幻冬舎)でも以下のように書かれています。

“媒介としてのモンスターたちに依存すればするほど、肝心の個人と世界との距離感が広がってしまう(「他人の物語」の要素が入り込んできてしまう)。スマートフォンの中のピカチュウに意識が集中することは、目の前の景色を遠ざけてしまう。(中略)Googeともナイアンティックとも異なる日常の、自分の物語へのアプローチをいかに実現するのかが、今、問われているのだ。”

引用:『遅いインターネット』(幻冬舎)126頁

--自分の物語へのアプローチ。面白いけど、これだけだとよく分からないですね。

面白い本なので、一読されることをおすすめします。インターネットって本来どうあるべきなの?という観点で、Webメディアの方も面白いですよ。

退避先としてのメタバース

--結局のところ、僕たちはメタバースをどう捉えるべきなのでしょうか?

メタバース自体、デジタルを使った新たな切り口として面白いとは僕自身思っています。ある程度の期間を置くのであれば、世界の変容(トランスフォーメーション)をもたらす可能性を持つトレンドだとも思います。

ただし、どうやっても今時点では一足跳びの構想だなとも思うわけでして、個人的にはVRメタバースよりも先にARメタバース的なものがもたらすメリットの方が先なんじゃないかと思うわけです。そういう意味では、iPhoneのような革命になるかというと、個人的には疑問符があります。

少なくとも一般消費者としては、メタバースか否かを意識する必要なんてないでしょうね。

--なんとも歯切れの悪い表現ですね。

メタバース自体、輪郭がぼやけた概念なのでどうしても言い切りが難しいなと。

ただ思うのは、パラレルワールドとしてリアルとのインターフェースをもった空間ではなく、あえてそこに没入させる意図的な環境としてのメタバースには、大いに可能性があるのかなと思います。

本当に一例ですが、今って変化を求められる時代じゃないですか。みんなリアルな世界で「変われ変われ」って言われているので、多くの人の心が疲弊していると思います。だからこそ、ここ最近の日本では、昭和を懐古するような波がもたらされていて、いわゆるノスタルジー・マーケティングも増えてきていると考えられます。

昭和の「あの頃のよかった時代」を仮想体験するような場としてのメタバースなどがあったら、僕は寝る前に没入してみたいなと思うわけです。

--なるほど。退避先としてのメタバースということですね。

あらゆる変化が求められるVUCAな世の中において、没入する世界がメインになってしまうと、それこそフィルターバブルだとか意識・価値観の齟齬が広がっていくので、意図したパニック・ルームとしてのメタバースこそ、今は求められているんじゃないかなと考えるわけです。そういう意味では、ゲームとの親和性は高いと思うので、先ほどお伝えしたThirdverseなどの動きは注視していこうと思っています。

いずれにしても、最初の話ともリンクすることとして、メタバースでもなんでも、過去を個人の中でパッケージングして咀嚼した上で、しっかりと「未来」に目を向けることが大事だなと感じますよ。

ちょうど良い距離としてのテクノロジーとの関係性

--うまく最初の話に戻しましたね。先日xDX編集部会議で「そもそもデジタルって、これ以上便利になる必要があります?」という命題が出されたと思うのですが、こういったメタバースについて考えると、改めてこのことを考えざるを得ませんね。

テクノロジーへの失望は随分と前からアーリーアダプターの中では話題になっていて、それがEUのような国を跨ぐ議題に発展して、今は個人にまで波及している状態なわけですが、昔はもっと希望に満ち溢れていたと思うんですよね。

僕、古い雑誌が好きでして、最近は映画会社アップリンクが1993年から数年間出版していたサブカル雑誌『骰子(だいす)』のバックナンバーを読んでいるのですが、初期の誌面で黎明期のインターネットは、まさに個人同士のコミュニケーションを革新するダイナミズム溢れる媒介として語られています。もちろん、監視社会への警笛もサブカル雑誌らしくしっかりと取り上げているのですが、それ以上に皆がワクワクしている雰囲気が上からムンムンと伝わってきます。

--アラフォーの危険なおじさん話になってますよ。

その頃がよかったなんていうつもりは全くありませんが、来たものを消費し続けるのではなく、ちょうど良い距離としてのテクノロジーとの関係性を一人ひとりがもっと考える節目にきていることは、間違いないのではないかと思います。

僕の場合、とりあえずは通話機とスマホを分けまして、夜21時以降はスマホをオフにして娘との寝る前の時間を大切にするようにしたのですが、それだけで幸せ度数が爆上がりしています。そういう個人の試行錯誤が今は大切な時期だなと、これに関しては実践者として思っています。

文:長岡武司

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