施設連動型オペレーションが必要な業態のDXで大切なこと|新宿健診プラザ

施設連動型オペレーションが必要な業態のDXで大切なこと|新宿健診プラザ

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労働安全衛生法第66条にて、企業の法的義務として定められている健康診断の実施。企業に所属する従業員(法的表現としては労働者)に対して、年に1度の実施が義務付けられており、これに違反すると50万円以下の罰金が課される事になる。

以前、働くひとと組織の健康を創出している株式会社iCAREを取材したxDX記事でも言及がなされた通り、定期健康診断のデータを活用することには予防効果がある。つまり、定期的に全員の健康状態を可視化することで、通院等が必要な人物を可視化し、早期対応することで働く人ひいては組織の健康状態を一定レベルで担保するというわけだ。

一方で、このコロナ禍。健康診断を実施するにあたっては、なるべくオフラインでの受診時間を減らしたいというのが、受診者の皆さまの本音だろう。健康診断提供サイドとしても、可能な限りオペレーションを効率化し、人流が滞る事態を防ぎたいものだ。

今回はこの健康診断という領域において、オペレーションを高め続けている新宿健診プラザのDX施策について。1日に男性680名、女性700名という、国内最大規模の受け入れ体制はどのように構築されているのか。当事者の2名にお話を伺った。

新宿健診プラザとは

東新宿駅(東京メトロ副都心線/都営大江戸線)より徒歩1分の場所にある新宿健診プラザ。人間ドックをはじめ定期健康診断、生活習慣病予防健診等の企業健診に対応しており、また女性向け健診、60歳以上の方向け健診といった、それぞれの年齢や要望に応じた健診メニューを揃えている。

インタビュイー

中山 充[Mitsuru Nakayama]
一般財団法人日本健康管理協会 新宿健診プラザ
開発事業部 次長

吉田 有美[Yumi Yoshida]
一般財団法人日本健康管理協会 新宿健診プラザ
業務部 施設予約課 課長補佐

国内最大級の受入体制が整う健診フロア

--まずは新宿健診プラザの概要を教えてください。

中山:法人向けの定期健康診断や人間ドック等の健診業務を行っております。ビル1棟がまるまる健診施設になっておりまして、こちらで施設型の健診をご受診いただけます。また、企業様に出向いて実施する会場型の巡回健診も承っております。

--健康診断のオペレーションって馴染みがなくて大変恐縮なのですが、1日に男性680名、女性700名を受け入れることができるって、単純計算しても結構すごい数だと僕は感じました。やはり業界的には多いものなのでしょうか?

中山:オープンな情報で比較できているわけではないのですが、国内最大級の受入体制であることは自負しています。

--お二人はそれぞれ、どのような役割を担われているのでしょうか?

中山:私は、営業サイド全般を受けもっています。お客様としては、健康診断の実施を主管される総務部や人事部の方々です。また、後ほどお伝えするシステム周りについても、過去にプロジェクトベースで関与しました。

吉田:私の方では施設予約課の責任者をしています。健康診断のオペレーションフローは予約を取るという工程から始まって、事前キットを送付し、受診して頂き、結果処理をして、最後にご請求をするという流れです。その最初のステップを、システムとオペレーターを駆使して対応しています。

移転のタイミングで基幹システムを総入れ替え

--健診施設のような、ソフト(オペレーション)とハード(施設)が一体になっている業態の場合、DXの難度は遥かに高くなる印象です。具体的にどのようにDX施策を進めていかれたのでしょうか?

中山:2018年1月に今の施設に移転(新築)したのですが、そのタイミングでシステム更改も迎えることになっていました。

移転のタイミングで基幹システムも、それに付随するサブシステムも全部入れ替えたことで、抜本的なオペレーション改革を進めることができたと考えています。

--本当にそんなケースがあるんですね!どれくらいの準備期間があったのでしょうか?

中山:2016年の夏頃から、システム切り替えを推進する立場となり、各部署における運用面の導入調整を進めていきました。カットオーバーは忘れもしない2018年1月22日。都心でも大雪が降りました。今だから白状しますが、その日だけはなるべくお客様が殺到しないで欲しい、と願っていたのを覚えています(笑)

--何かとトラブルが発生しがちなタイミングなので、よくわかります。どのような方針で設計を進めていかれたのでしょうか?

中山:いかにお客様に快適に、そして負荷をかけない形で流れるように健診を受けていただけるか、という点がポイントでした。もちろん、これについては今でも変わりはありません。

例えば今のシステムでは、お客様の受診票に一意のバーコードが付番されておりまして、何の検査項目を何時何分に受診したのか、通過時間を取得することができます。人流を定量的に把握することができるようになり、時間のかかるポイントを調べて改善するということが可能になりました。新宿健診プラザはお客様の「待ち時間」に対して異常なほど敏感な組織です(笑)

吉田:昔は紙に書いて対応していたのですが、今では全ての検査機器と基幹サイドのデータベースが連動しているので、スムーズなオペレーションはもちろん、検査間違いや検査漏れといった事態も未然に防止できるようになっています。

各チームが自発的に動いてくれたことが有り難かった

--日本では特に、現場の力が強いと思います。システムを刷新するときに、現場からのオペレーション変更への抵抗はなかったのでしょうか?

中山:もちろん、ある程度の抵抗はあったと思うのですが、そこは多少強めに押し切る形で進めていきました。前のレガシーシステムのやり方に固執した設計を進めてしまうと、新しいシステムの良さを十分に活かすことができません。

私たちの場合は幸い、フロア移転があって物理的な検査オペレーションもある程度変えざるを得なかったので、その変化に合わせる形でシステムオペレーションの変更も進めていったことになります。

--中山さんは以前からシステムのことをされていたのでしょうか?随分と進め方が考えられていると感じます。

中山:実はそれまでほとんどやったことがなかったのですが、あくまでサービス業という切り口で調整や判断を繰り返し、結果的にうまく収まったと感じております。何よりも、お客様に迷惑をかけたくないという新宿健診プラザ職員のプロ意識が強く、各チームが自発的に動いてくれたことが有り難かったですね。

--DX施策はシステム更改して終わりではなく、継続的な改善が肝だと思います。受診中のオペレーションについては、先ほどの通過時間チェックで定量把握できると思うのですが、それ以外の施策はどんなものがあるのでしょうか?

吉田:例えば先日ですが、株式会社iCAREが提供する健康管理システム「Carely(ケアリィ)」の「健診WEB予約機能」を導入しました(iCAREについてはこちらも参照)。これまでは受診予約に対して電話などのアナログな方法でしか対応していなかったのですが、WEBシステムを活用することで、何よりも受診者の方の負担が随分と減っていると感じています。私たちとしても抵抗なく作業ができていますね。

紙やFAXから離れられなかった健康診断の予約業務をペーパレス化するCarelyの「健診WEB予約システム」によって、企業の人事担当の工数が93%近く削減されたというデータもある。新宿健診プラザのような医療機関サイドとのコミュニケーションもスムーズになり、従業員・企業・医療機関の三方良しを実現。操作やオペレーションのわかりやすさを重視し、UI部分に特にこだわって開発されている

--新しいシステムを導入すると、使いにくさなど、何かと問題になることが多い印象なのですが、その辺りの運用面での所感はいかがでしょうか?

吉田:新宿健診プラザではメンバーに対して、毎月オペレーション研修会を実施しているのですが、Carelyについては難しい操作ではないので、オペレーションでつまずくことはありません。新しい施策を行うにあたって、この「使いやすさ」はすごく重要だと思います。

残りの2割からイノベーションが生まれてくる

--ここまでデジタルを使った変革の取り組みについて伺いましたが、改めて、現場でDXを進めるにあたって大事なことはなんだとお考えでしょうか?

中山:システムを使って、8割のことは汎用化できると思います。逆に考えると、残り2割はどうしても人にまつわるものが残ります。完全な自動化を目指すのではなく、この2割を残して観察することで、そこからイノベーションが生まれていくんだと考えています。

--有難うございます。それでは最後に、今後の目標を教えてください。

吉田:これからますます受診者数が増えていくことが想定されるので、より多くの方がいらっしゃっても耐え得る施設にしていく必要があります。予約に関しては、いかにミスなくスムーズにお客に伝えていけるかが大切なので、システム活用はもちろん、日々の電話対応についても継続的にチェックと改善をしていければと考えています。

中山:理想はリピート率100%ですね。これは法人も個人も両方です。個人の受診者様については、地理的な制約もあるかと思いますが、一度ご受診いただければ快適にお過ごしいただける自信はあります。一方で、現状に満足することなくお客様からのご意見やご要望を真摯に受け止め、絶え間ない改善を今後も継続していきます。

編集後記

今回は「健康診断」という、少し特殊な業態をテーマにしたDXインタビューだったわけですが、その取り組みの根幹にある考え方は、どの企業でも共通していることが改めて感じられました。

新宿健診プラザでは「顧客を待たせない」というミッションに対して、処理を最適化するための施策をとことん考え、システム更改&施設移転という絶好のタイミングを活かしてバックヤードを刷新し、日々のオペレーション改善を継続しています。

目指すべき顧客価値が組織内で明確に共有され、それに向けてハードとなる施設とソフトである組織を変革し続ける。まさにユーザーファーストなUX設計を目指していると感じた次第です。

「お客様の待ち時間に対して異常なほど敏感な組織」という言葉が、非常に印象的でした。

取材/文:長岡武司
撮影:編集部

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