【石山アンジュ】DXにはルールメイキングに精通した「パブリック人材」が欠かせない

【石山アンジュ】DXにはルールメイキングに精通した「パブリック人材」が欠かせない

目次

DXが実現する社会環境をどう構築するかーー。

前回から引き続き、今回も一般社団法人Public Meets Innovation(以下、PMI)の代表理事・石山アンジュ氏の活動から、その方法を考えていきたい。

第1話では、石山氏がPMIを設立するきっかけとなった問題意識などをお届けした。今回は、PMIの活動内容の1つである「ルールメイキング(法律づくりに求められる素養・スキル)」を普及させる活動や、PMIの社会的な位置付けをお伝えしよう。

※この記事には第1話があります。
▶︎第1話はこちら

「Public Meets Innovation」のプロフィール

新しい「公」=New Public を掲げ、2018年10月に誕生したミレニアル世代のシンクタンク・コミュニティ。
公共イシューに向き合う官僚、弁護士、ロビイストらがイノベーターと協働しながら、 現代社会の現実や本質を見抜き、未来や社会思想を構想する「ビジョンメイキング」と、新たなアイデアを社会実装する手法「ルールメイカー」を創出し、この国の未来の景色を変えることをミッションに活動を行っている。

インタビューイー

石山アンジュ


一般社団法人シェアリングエコノミー協会 常任理事として、規制緩和・政策推進・広報活動に従事。総務省地域情報化アドバイザーほか厚生労働省・経済産業省・総務省などの政府委員も多数務める。2018年10月ミレニアル世代のシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立。ほか羽鳥慎一モーニングショーコメンテーター NewsPicks「WEEKLY OCHIAI」レギュラーMC出演を務めるなど幅広く活動。世界経済フォーラム Global Future Council Japan メンバー。著書に「シェアライフ-新しい社会の新しい生き方(クロスメディア・パブリッシング)」がある。

イノベーションを加速させるには、官僚や弁護士など「パブリック人材」が必要

ーーPMIはどのようなメンバーで構成されているのでしょうか?

石山 PMIは理事やボードメンバーの他に、PolicyOwnerという官僚メンバー、弁護士、メディア関係者、シンクタンク編集員などのメンバー、約20名がメインで活動しています。

ーー弁護士と官僚の方々がメインで活動しているのはなぜでしょうか?

イノベーション領域の制度や法律をアップデートしていくには、ルールや制度に従事する官僚や弁護士といった人材の存在が欠かせません。そして、そのようなパブリックに関わる人材に変化を起こしていく必要があると考えています。

そのための活動として、弁護士や官僚がつながり、学ぶことのできるコミュニティ事業も立ち上げています。

ーーコミュニティでは、どのような活動をしているのでしょうか?

先行して立ち上がり、外部から参加者を募った「PMI Legal Community 」では、およそ80人の弁護士やロースクール生が会費を支払い、イノベーション領域のルールメイキングにおける知識や実践を学んでいます。

多くの弁護士の仕事は、これまですでにある法律をもとに、顧客が抱える問題などを解決してきました。しかし、イノベーションやDXの領域では、そもそもベースになる法律がないことが往々にしてあります。

自ら法律や制度をつくったり変えたりする発想や、ステークホルダーに働きかけてロビイングを行うといった、従来の弁護士業務とは異なった発想が必要です。

ロースクールや司法試験の中ではなかなか学ぶ機会がありません。そこで、PMIの弁護士コミュニティでは、イノベーション領域で活躍するルールメイカーの先生方をパートナーとして迎え、毎月講義を行い、彼らが実際に悩みながら実践してきたことを紐解きながら、リアルに学べる機会を提供しています。

PMI Legal Community :https://pmi.or.jp/legal/

もう1つが官僚のコミュニティです。最近までは紹介制で活動していましたが、2021年9月頃から、弁護士コミュニティと同様に、オープンに参加者を募る予定です。

官僚コミュニティHP:
PMI Bureaucrat Community:https://pmi.or.jp/bureaucrat/

官僚のコミュニティでは、「問いのつくり方」や「未来を描く」ために必要なリベラルアーツなどを学んでいます。

従来、国家公務員に求められてきた能力として、目の前に課題があることを前提に、それをいかに解決していくか、すなわち「積み上げ型・方程式型の思考法(課題解決能力、実務実行力、リスクマネジメントなど)」があげられると思います。

しかし、テクノロジーの進化のスピードが早く、世の中の変化が激しい現代では、課題が浮き彫りになってから対応するのでは間に合いません。シェアエコもその1つですが、新たに誕生したサービスに、法律が追いついていないケースが多々あります。しかし、前回もお伝えしたように、これではイノベーションの芽が潰れてしまいかねません。

この問題に対処するにはどうすればいいのか。前例のない時代にイノベーション技術を社会実装していく上では、どのような状態をゴールとするか、すなわち「ゴール逆算型・ビジョン逆算型の思考法」が求められます。

このためには、デジタル技術に関する知識やスキルだけでなく、現代社会の現実や本質を見抜き、問いを立てビジョンを描ける思考力、教養力をもった人材が必要です。

そのベースになるのが、本質を見極めるために必要なリベラルアーツだと考えています。PMIでは、行動経済学の専門家など、さまざまな分野の有識者を集めて、官僚メンバーとともに学んだり、議論したりしています。

「Think Tank」と「Do Tank」の違い

ーーPMIでは省庁や政治家に対して、ロビイングするのでしょうか?

PMIは現役官僚を抱えている団体なので、いわゆる民間企業が政府に陳情するようなロビイングはしません。あくまで公平中立なシンクタンクの立ち位置です。

日本では、ロビイングと聞くと官僚や政治家に対して、業界団体などが陳情を行う「Do Tank(ドゥータンク)」と呼ばれる団体のイメージが強いでしょう。

一方、PMIは「Think Tank(シンクタンク)」という位置付けになります。Think Tankは、公平中立な立場で、産官学のさまざまな立場の人から意見を取り入れ、議論する場を設置し、まとめた内容を発信します。そして、この考えをベースに、Do Tankなどがアクションを起こしやすい環境をつくります。

PMIでは、その具体的な取り組みの1つにミレニアル世代が未来社会に対するビジョンを提言としてまとめる「#ミレニアル政策ペーパー」の制作があります。今年は、その第1弾として「家族イノベーション〜多様な幸せを支える家族の形」を発行しました。

これまで日本人の常識だった家族という枠組みを、現代の状況を踏まえてより多様な形を支えるために、Policy(政策)・Tech(テクノロジー)・Culture(文化規範)の3つの観点からどのようにアップデートできるのかを示しています。このミレニアル政策ペーパーの反響は大きく、沢山の方に共感の声を頂き、またメディアや政治家をはじめ多くの方々から問い合わせがありました。

また従来の提言書は、いわゆる文書として発行することがほとんどでした。しかし、PMIでは枠にとらわれず、同世代のクリエイターを巻き込んで、クリエイティブなアウトプットの仕方にも挑戦しています。

PMIでは、現役のルールメイカーと民間のイノベーターたちが、役割や立場を超えてフラットにつながり・議論し、一緒にアウトプットしています。このようなスタンスをとっているのは、日本ではPMIだけでしょう。

ーーだから、国家公務員である官僚の方々も積極的に参加できるのですね。

はい。官僚は、一部の業界や団体の利益誘導になりかねない行為はできません。PMIは公平中立なThink Tankという立ち位置だからこそ、官僚もジョインできるのです。

日本のルールメイキングの「希望」と「課題」

ーーここまでは主にルールメイクについてお話いただきましたが、PMIではこのルールメイクに関する活動がメインになるのでしょうか?

実は2021年4月にビジョンを刷新して、活動内容も大きく変えようとしています。

ーーそれは、なぜですか?

イノベーションにおけるルールメイキングの土壌が、この3年で大きく変わってきたのが理由です。

イノベーションが進んでいない原因として、官民の壁が厚く、お互いがそれぞれの言語や現場を理解していないという状況がありました。しかし、官民交流を進めるコミュニティや団体は、この2年間でかなり増えたと思います。

また、CVCなどでもロビイング専門の部署を設置したり、ロビイング人材の登用が増えているなど、民間側の中でも動きが出てきています。さらに政府内でもベンチャー企業を支援するさまざまな政策が出てきて、行政側も変わってきました。

ーーちなみに、海外は日本より進んでいるんでしょうか。

アメリカやイギリスでは、PMIのような団体は以前からあります。決して珍しい存在ではなく、社会的な信用もあります。また実際、そのような団体に多額の寄付や優秀な人材が集まり、積極的に活動しています。

ーーなぜ、海外の方が進んでいるのでしょうか?

まず目に見えて異なるのは「人材の流動性」です。日本も省庁からベンチャー企業に一年出向するケースが出てきたり、官僚が民間企業に転職するケースが徐々に増えてきていますね。

しかし、アメリカでは中央政府で働いたキャリアがあり、今はGAFAのようなテックベンチャーでキャリアを積んで、その後はNPOやアカデミアの領域に参画するような方々が、当たり前のようにいます。

またアメリカでは、企業が創業時に採用するメンバーとして、ロビイストが広報担当者よりプライオリティが高いケースもあります。ロビイング人材の存在が、自社の成長に直結すると理解しているのです。

そして、もう1つ個人的に感じていることがあります。これは、PMIの新たなミッションにも関わることなので、次回お伝えします。

*第3話に続く(2021年9月14日配信予定)

編集:長岡 武司
取材・文:山田 雄一朗
撮影:遠藤素子

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