その問いに"興奮"できるか。リーダーが身につけたい「本質を見抜く力」|楽天グループ 北川 拓也

その問いに"興奮"できるか。リーダーが身につけたい「本質を見抜く力」|楽天グループ 北川 拓也

目次

「チームをまとめ、成果を生むために何が必要か?」

社内でDXや新規事業の立ち上げなどを推進するリーダーにとって、大きな悩みの一つであろう。

各チームメンバーの状況把握はもとより、経営層の考えや方向性を的確に理解し、自チームが対峙する環境へ適切に意訳したうえで、日々のアクションプランへと落とし込んでいく。

鳥の目と虫の目、さらには時流を読む魚の目も持ちあわせた、社内の中間“潤滑“管理職としての役割が求められているからこそ、難度も非常に高いと言えるだろう。

そんなリーダーの方々へ、今回は楽天グループ株式会社 常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー)北川 拓也氏のインタビューをお届けしたい。

同氏は、楽天グループのAIやデータ利活用を強力に推進する約1,000人のチームを率いている。だが、当初は自身を含め、わずか2人の体制からスタートしているという。

ここに至るまで、北川氏は何を考え、どんな取り組みを進めてきたのかーー。楽天グループの今後の成長を担うキーパーソンのメッセージは、示唆に富んでいる。

会社プロフィール

楽天グループ株式会社

1997年創業。国内最大手のEC「楽天市場」をはじめ、世界30ヵ国・地域で70超のサービスを展開している。グループが提供するサービスのユーザー数は全世界で15億人を超え、「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」をミッションに現在も成長を続けている。また近年は「楽天技術研究所」を設立。データやAIの利活用にも積極的に取り組んでいる。

インタビューイー

北川 拓也
楽天グループ株式会社 常務執行役員
CDO(チーフデータオフィサー)
グローバルデータ統括部 ディレクター


ハーバード大学数学・物理学専攻、同大学院物理学科博士課程を修了。物性物理の理論物理学者として、非平衡のトポロジカル相の導出理論を提案し、『Science』などの学術雑誌へ20本以上の論文を発表。楽天ではCDO(チーフデータオフィサー)としてグループ全体のAI・データ戦略の構築と実行を担っており、日本を含む、アメリカやインド、フランス、シンガポールを含む海外5拠点の組織を統括している。楽天技術研究所の所長、楽天データマーケティング株式会社取締役を兼任。データ基盤作りからプロダクト開発、AIとデータを使ったDXコンサル事業を立ち上げ、データによるビジネスイノベーションを推進している。Well-being for planet earthの共同創設者、理事。

DXに「文化の変容」が欠かせない理由

--北川さんは、DXを進めるにあたって何が重要だと考えていますか?

文化の変容ですね。

DXは「トランスフォーメーション」という言葉が示すとおり、実現すると企業文化まで変容するでしょう。

そして文化とは何かというと、人々が日々取っている行動の結果です。

つまり、企業文化の変容は、そこに所属する社員の行動変容の結果になります。そうするとDXを進める上で「何をもって行動が変わったのか?」、その指標や基準が欠かせません。

例えば「印刷をしない」。単純なことのように見えますが、これも社内のデジタル化が進んでいるか測る指標の1つになるかもしれません。

ミーティングを例に挙げるなら、企画を提案する社員に対して、マネージャーが仮説や根拠になるデータについて確認しているか。これも、わかりやすい行動規範の1つで、企業文化の変容が測れるかもしれません。

何をもって変化したと判断するか。そしてDXをやるのに、どれだけの行動変容が必要で、それをどう見定めるか。

これを決めるのが、DXのスタートではないでしょうか。

形から入り「ビジョン」を伝える

--先ほどお話しされたのは、行動という「型」からDXを進めるアプローチです。一方で、DXを実現した先にある「ビジョン」を示して、そこから行動変容を促す方法もあります。これについては、どう考えていますか?

ビジョンありきの「ビジョンドリブン」で進めるのか、もしくは行動規範から入る「プラクティスドリブン」で進めるのか。これはどちらもありうるアプローチです。

例えば、柔道部に入部すると「礼」など形から入りますよね。いわゆる「道」がつく分野では、このパターンが多い。だから、日本人にはプラクティスドリブンが効果的だったりします。

古典的な手法ではありますが、文化生成には非常に重要なやり方です。人は心身一体であり、ロジカルに頭で行動変容することもあれば、行動から直接変容することもあるわけです。

--ちなみに、御社はどうですか?

弊社はミッションドリブンとプラクティスドリブンの良さをミックスさせています。例えば、出席が必須な「朝会」はプラクティスの典型です。

しかし、そこで語られているのは「ビジョン」です。

これだけ社員が増え、簡単にビジョンなど共有できない状況になっています。その解決策の1つが、プラクティスとビジョンをうまくミックスさせることです。

プラクティスだけを考えていてはいけない。でも、ビジョン語りだけすればいいわけではない。この矛盾を抱えながら経営しているのが、実情ではないでしょうか。

人間ってやりたいことが増えると、矛盾し始めるんです。そして、矛盾していると何かやる代わりに、何かを諦めなければならないという交換条件で考えてしまいます。

例えば、質と量の議論もそうですよね。現場からすると「どっち?」ってなりがちです。

しかし、経営者からすると「両方やるのが当然」です。

弊社の場合、「英語化」もそうですね。グローバル化という観点からすると正しい。そうしなければ、勝てないですから。

でも、日本人の優秀な人材を採用しようとすると、英語ができる人は必ずしも多くない。これも矛盾ですよね。

だから、この状況を改善するために「矛盾マネジメント」が求められます。DXでも同様なマネージメントが必要とされるでしょう。

「矛盾マネジメント」で大事なこと

--矛盾マネジメントは、まさに中間管理職の方々が日々直面して、悩んでいることだと思います。北川さんは、どうやって矛盾マネジメントをしているのですか?

まず「無邪気」でいることですね。

--無邪気ですか?

ですね。矛盾していることに悩みすぎないことです。大きな目標を達成しようとすると、ほぼ確実に矛盾した二つのことを達成しなければいけなくなる。それ自体は大した問題ではないんです(笑)。

だから、心の底から同僚や仲間を信じて「両方達成したい」と伝える。これは偽らざる気持ちであり、それを素直に伝えるのがいいのではないでしょうか?

困った時は率直にお願いするのがよいですよね。自分にもどうやってやればよいかはまだわからないが、とにかく両方達成したい、お願いしますと(笑)。

それでも矛盾を指摘されたら、率直に困るしかないですよね。これも大事、あれも大事、あれ、困ったな、と(笑)。 

想いを伝えるために、整合性をとる必要もないかと思います。そもそも人間は、矛盾に満ちた生き物ですから。

矛盾していると言われても、怒らないのも大事ですね。むしろ両方達成したい自分の気持ちが伝わらなくて悲しかったりします。経営者からしたら「悲しい」という感情に嘘偽りはありません。

そして最終的には、あの手この手を尽くして、一緒についてきてくれる人とやっていくんだと思います。

--その境地に行き着いたのは?

やはり昔は怒ったり、必死に説明していましたね。ロジックが伝わらなくて、感情的になったりとかしてました。

凹みますよね。でも、頑張って説明しようとすることもすごく大事で、そのやり方もよいんだと思います。

大事なのは結果がでるまで、ありとあらゆるやり方でやり続け、あきらめないこと。そうすればどこかで仲間が増えてくるんだと思います。

メンバーが共感する「ミッション」の創り方

--最初は2人、今は1000人ほどのチームを率いています。急激に人数が増えるチームを、どうまとめているのですか?

ミッションやビジョンを共有するのはもちろんですが、「太いナラティブ=物語」に乗ってもらうのも重要なことです。

できれば、3年くらい続けるであろう物語を見つけて設定する。そのために、世の中の流れ、会社の戦略など色々な動きを読みながら、外れのない本筋を見出す。しかも、それをわかりやすいメッセージに落とし込む。これはもう、完全に中間管理職の仕事ですね(笑)。

しかし、これができると、チームの規模が倍々で大きくなっても、ミッションやビジョンの浸透がうまくいきます。

--ちなみに、北川さんが担当しているチームのミッションは何ですか?

データ部署のミッションは「データにより気づかれていない価値を、発見し、実現する」です。これはデータにより「arbitrage opportunity(=アービトラージ・オポチュニティ)」を発見することを意味します。

アービトラージ・オポチュニティは、ひと昔前だと地域や市場ごとに異なる物の値段などを捉えて、そこから差益を生み出すという意味合いが強かったです。

しかし、今はデータから見えない価値を明らかにして、アービトラージ・オポチュニティを発見することが求められています。

わかりやすい例を挙げて説明すると、仮にA社の企業価値が世の中で100億円と評価されていたとしましょう。ところが、データを分析してA社の企業価値が1000億円だと判明し、投資すれば、そこで差益を生み出せるかもしれません。

弊社のマーケティングなら、LTV(ライフタイムバリュー)をデータからどう査定して、それを引き出すか。そして、世の中で言われている価値と実際の価値を埋めるために、最適なサイト構造やプライシングなどをどうやってデータから導くか。

これをまとめたのが、データ部署のミッションです。

あと楽天技術研究所のミッションは「人を超える自動化」です。

例えば、携帯ならネットワークの接続が自動化され、故障が発生しても繋がるようにする。あと弊社の場合、商品カタログが重要なので、人が手間とお金をかけて作っていたのをAIで自動化しようとチャレンジしています。

振り返ってみると、やらなきゃいけないことをうわーっとこねくり回して、その中からミッションになる言葉が生み出される感じです。

--かなり悩んで、ミッションを設定しているように見えます。

いえ、私はあまり悩みません。言葉もパッと浮かんできます。あれやこれやビジネスモデルを考えてると、割と自然とつながるストーリーが見えるんですよね。

もともと、そういう思考をしているんです。アカデミックの世界では、論文を書く際にアブストラクトに「この論文で提示している世界で初めてのコンセプトは何か」明示しなければなりません。

ミッションを考え、言葉に落とし込むのも、これに似ています。

--本質を突き詰める点が研究に似ている?

はい。あとミッションの設定は、イコール「問いの設定」なんです。私は問題を解くより、問いを設定する方が得意なので、ミッションの設定も向いていると思います。

--先ほどのお話しでも出てきた「何をもって人の行動が変わったと判断するか?」というのは、まさに問いですね。

えぇ。実際、問いを立てる人の方が、マネージャーに向いていますよね。解くのが得意だと、自分がやった方が早いとプレイヤーになってしまいますので。

--問いを立てるときのコツは何ですか?

相手が持っている「文脈」とどうつなげるかです。あまりにも文脈からかけ離れていると、聞いた相手もピンときません。例えば、物理学の問いを投げかけても、物理学の文脈が共有できていないと伝わらないですよね。

ビジネスにおける問いが面白くなるかどうかは、日々発信されて聞いているニュースや自分に関わる会社の戦略などとリンクしているかが鍵を握ると思います。最近なら、やはりコロナウイルスのワクチンの話とかにつながると、興味を持ってもらいやすいですね。

その正しい感覚値を身につけているか。世の中の文脈もある、会社の文脈もある。もっと狭い範囲なら、うちの部署でどんなことをやっていて、メンバーは何に困っていて、何に喜んでいるか。

これがわかれば、面白いと思ってもらえる問いが見えてきます。ある意味、これはお笑いに近いかもしれません。

国際会議とかでも、色々な文脈がある中で面白いことを言えると、それだけで「ウィット(wit = 機転)がきく」とリスペクトされます。人の心を掴めるリーダーだと認識されるんです。

もちろん、アドホックにこれをやるのは大変です。私も正直あまり好きではないですし、胸焼けしそうですが(笑)、でもそういう場ってたくさんありますよね。

その時々でどう場作りするかも、マネージャーに求められるスキルの1つと言えるのではないでしょうか。

編集:長岡武司
取材/文:山田雄一朗
撮影:是枝 右恭

▶︎後編記事につづく

関連記事

  • 【安宅和人 × 斎藤幸平】人類のあり方のトランスフォーメーションによせて

    【安宅和人 × 斎藤幸平】人類のあり方のトランスフォーメーションによせて

  • スタートアップ〜大企業まで、8社が語るDXのホンネ

    スタートアップ〜大企業まで、8社が語るDXのホンネ

  • 社会のDXを加速させるために、「規制のサンドボックス制度」が果たす役割とは

    社会のDXを加速させるために、「規制のサンドボックス制度」が果たす役割とは

  • 新たなステージに入った金融業界。DXが加速させるESGの最前線に迫る

    新たなステージに入った金融業界。DXが加速させるESGの最前線に迫る

  • メタバース時代の娯楽とは。コロナ禍で強制DXしたエンタメ業界の次なる打ち手を探る

    メタバース時代の娯楽とは。コロナ禍で強制DXしたエンタメ業界の次なる打ち手を探る

  • D(デジタル)よりもX(トランスフォーメーション)の方が大事。DX時代の人材育成談義

    D(デジタル)よりもX(トランスフォーメーション)の方が大事。DX時代の人材育成談義

News

  • オロ、ビジネスモデルにあったデジタル広告を可能にする独自指標「PGI」を開発

  • 【資金調達】ITエンジニア向け見積もり作成のDXツールを展開する株式会社EngineerforceがSEEDラウンドにて総額3,500万円調達!

  • 製薬・医療機器メーカー向けのプロモーションSaaSを提供する株式会社フラジェリンが、大阪オフィスを「WeWork なんばスカイオ」に開設

  • エンジニア組織の活動量を自動解析し、生産性向上をサポート エンジニア組織支援SaaS「Findy Teams」正式版をリリース

  • 株式会社ピー・アール・オーが新規事業特化型コンサルティングを行うunlockとDX関連の開発を必要とする新規事業プロジェクトの支援加速に向け業務提携を開始

FREE MAILMAGAZINEメルマガ登録

DXに特化した最新情報配信中