一人ひとりを幸福にする「AI・データの利活用」を追求したい|楽天グループ 北川 拓也

一人ひとりを幸福にする「AI・データの利活用」を追求したい|楽天グループ 北川 拓也

目次

楽天グループ株式会社 常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー)として、同社のAI・データの利活用を強力に推進する北川 拓也氏。前回はチームを束ねて成果を出すために、北川氏が実践するミッション創りなどマネジメントスタイルについてお伝えした。

※この記事には前編があります。
▶︎前編はこちら

後編の今回は「AIやデータの利活用」に関する北川氏の考えをお届けしたい。AIやデータはどう活用されるべきか。DXを進める上で避けて通れないテーマだ。

また北川氏は会社の枠を超え、国内外のウェルビーイング(Well-Being)の研究を支援する「公益財団法⼈ Well-being for Planet Earth」を、予防医学の専門家である石川善樹氏と共に立ち上げた。

ウェルビーイングは「肉体的・精神的・社会的に満たされた幸福な状態」を意味しており、ウェルビーイングの向上を実現するために、国内外でさまざまな取り組みが活発化しつつある。

社内における「AI・データの利活用」と、社外における「ウェルビーイング」の研究支援活動まで、北川氏が描いているビジョンを語った。

会社プロフィール

楽天グループ株式会社

1997年創業。国内最大手のEC「楽天市場」をはじめ、世界30ヵ国・地域で70超のサービスを展開している。グループが提供するサービスのユーザー数は全世界で15億人を超え、「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」をミッションに現在も成長を続けている。また近年は「楽天技術研究所」を設立。データやAIの利活用にも積極的に取り組んでいる。

インタビューイー

北川 拓也
楽天グループ株式会社 常務執行役員
CDO(チーフデータオフィサー)
グローバルデータ統括部 ディレクター


ハーバード大学数学・物理学専攻、同大学院物理学科博士課程を修了。物性物理の理論物理学者として、非平衡のトポロジカル相の導出理論を提案し、『Science』などの学術雑誌へ20本以上の論文を発表。楽天ではCDO(チーフデータオフィサー)としてグループ全体のAI・データ戦略の構築と実行を担っており、日本を含む、アメリカやインド、フランス、シンガポールを含む海外5拠点の組織を統括している。楽天技術研究所の所長、楽天データマーケティング株式会社取締役を兼任。データ基盤作りからプロダクト開発、AIとデータを使ったDXコンサル事業を立ち上げ、データによるビジネスイノベーションを推進している。Well-being for planet earthの共同創設者、理事。

データで一人ひとりの「主観的価値」を明らかにしたい

--北川さんが担当している領域について教えてください。

楽天グループのAIに関すること全般です。一つは内部向けのソリューションで、各グループ会社のパフォーマンスが上がるよう、データやAIの活用を通じて支援しています。もう一つは外部向けのAIを使ったビジネスモデルをいくつか立ち上げています。

--何社くらい担当されていますか?

主要な楽天のビジネスはほぼ取り組んでいます。例えば金融やEC、ロジスティック・デリバリー、広告、メディカルなどですね。

--その中で、北川さんが特に力を入れている分野はどこでしょうか?

どれも気合入れてるんですが、金融や広告は特に面白いですね。個人的に、その仕組みを心の底からすごいと思っているので。

最近よく言っているのは「今は“第二のルネッサンス”が到来している」ということです。神に囚われすぎて人間中心主義から離れたのが“第一のルネッサンス”だとすると、今は資本主義のお金に囚われすぎて、人間中心主義から離れているように思えます。まさに「お金中心主義」の状態です。

それが今、人間主義に回帰するタイミングではと考えています。人類は何を目指すべきなのか。お金はあくまで人がウェルビーイングになるための手法であるべきで、その意味で、お金の使い方をより深く理解する必要があると考えてます。

そして、そのためにデータが鍵を握ると思います。

例えば、10万円をどう使えば、最も人がウェルビーイングになるのか?友達や家族と一緒に旅行に行くことかもしれませんし、近所のみんなが使えるテントサウナを設置するプロジェクトをやることかもしれません。

こういったことがより深く理解できれば、企業だけでなく、国のDXにも貢献できるはずです。

だからこそ、客観的な価値であるお金のデータを通じて、人が持っている主観的な価値を理解したいと思っています。

例えば、「キャットタワー」は猫を飼っていない人からすると、なんとも思わないかもしれません。しかし、猫を飼っている人からすると、とても大切なモノです。

それにいくらのお金を使うのか、どれぐらいの大きさのキャットタワーを買ってるのか、というのが見れたら、その重要性を推し量ることができそうです。猫中心の生活をしているのかなとか、想像力が働きますよね。

これがデータを使ってできることであり、DXで実現できることの1つだと思います。

一人ひとりの主観的価値を想像して、理解するためにデータを活かす。人は一人ひとり価値観や生き方が違うために、データがなければ正しく人のウェルビーイングを高めることはできません。いわゆるPersonalizationというものですが、良いサービスの提供につなげていきたいと思っています。

データから「ナラティブ=物語」を発見する

--あくまで人間の存在を意識した上で、データを使うのが重要なわけですね。

そうです。あと、データはある方程式を解くためだけはなく、「ナラティブ」を発見することにも使えます。

--どういうことですか?

高校の物理でやるように、ファンダメンタルな法則や方程式があって、それを踏まえて世の中で起きている現象を再構築するという方法もありますが、実はもう1つ、ナラティブから現象を明らかにするというやり方があります。まだよく理解されていない分野においては、実はこのやり方が主流なんです。

科学の世界でも、ある現象を表す方程式を築くのに成功したのは、ほぼ数学と物理学しかありません。化学や生物ですら、まだナラティブから現象を理解しているケースがほとんどです。

例えば、タバコを吸うとがんになりやすい、という因果関係ですら、方程式的に理解するのは難しいと思います。

DXにおいてデータは客観的な存在で、方程式側に寄せることもできればナラティブに寄せることもできる。しかし、方程式よりナラティブに寄せることが多くなるでしょう。

--ナラティブを発見するためにデータを使うという考え方は、一般的にはあまり認知されていないように見えます。この考え方を広めるには、どうすればいいでしょうか。

データを基にしたナラティブの興奮を伝えられれば、もっと広まるかもしれませんね。

例えば、コロナで家にいることが多くなった結果、犬と猫を飼う人がとても増えています。弊社の売り上げも同様に上がっているのですが、犬猫の間で売上単価の上昇を比較すると、面白いことにキャットフードの単価の方が大きく上がっていたんです。

自分は犬派なので、なぜこうなのかわからないのですが(笑)。

でも何かしら原因がありそうですよね。こういった疑問からナラティブを想像して、ビジネスチャンスにつながていくことができるかと思います。

こういったお客様の需要を理解するナラティブを、メーカー・ブランド様と一緒に作っていきたいと思っています。

データを見ることで、お客様が求めているものや生活の様子を、より豊かに想像して理解し、そのナラティブをメーカー・ブランド様と一緒に作ることでブランディング・マーケティングのやり方だけでなく、モノづくりのあり方にもかかわっていけたら、と考えています。

例えば、ビジネスシューズなら「走りやすい」といったキーワードと一緒に検索されていまして、もし「走りやすい」というキーワードの横にブランド名が検索されていたら、そのブランドは「歩きやすいビジネスシューズを提供している」と見られている可能性が高いわけです。

データを見ることで、それがよりリアルにわかり、獲るべきマーケットを明確にしてメーカー・ブランド様にお伝えできる。ニッチな需要を捉えることで市場も広がりますし、こういった取り組みを通じて、日本を改めて「世界で勝てる」ものづくり大国に戻したいという想いがあります。

海外から見ると「よくこんなところに手が届くね」という製品が日本には多い。時間軸が長い話ですが、こういうところを目指していきたいですね。

20代・30代女性のウェルビーイングを上げたい

--他に今後やりたいことはありますか?

個人的に「ウェルビーイング」に関心があり、DXを通じて向上させたいですね。

特に、日本において重要なのは「20代・30代女性のウェルビーイング」です。この層のウェルビーイングが高まると、国民全員のウェルビーイングが向上するという示唆もあります。

例えば、結婚している女性のウェルビーイングが高まれば、旦那さんが喜び、親も喜び、子どもも喜ぶ。すなわち、この世代の女性がウェルビーイングの起点になっていて、日本のウェルビーイングの指標になりうる可能性があるかと思っています。

だからこそ、その方々がウェルビーイングになるヒントがどこにあるのか、生きづらさはどこにあるのか、データを基に理解していけたら、と思います。

予防医学研究者で、ウェルビーイングに関する研究に取り組んでいる石川善樹さんとよく話しているのが「この世代は期待値が大きすぎて、辛すぎるのではないか」ということです。子どもを産まなきゃいけない、結婚しなきゃいけない、しかも仕事もしなきゃいけない。

社会がもっと寛容になり、この世代の女性の生き方がもっと自由になるといいなと思っています。子どもを産むのも、結婚するのも自由であり、そんな多様な価値観を社会が受け入れるのが大事ではないでしょうか。

例えば、楽天ではとても美味しい無添加の出汁を、簡単に作れる商品があります。子どもや旦那さんに美味しい料理を食べてもらいたい。でもわざわざ出汁をとる暇がない。そこで、この商品を使うと、この問題が解決できるのです。実際、熱狂的なファンも数多くいます。

このようなブランドをもっと応援していきたいですね。

他にも楽天でウェルビーイングを上げる商品の1つに“蟹”があります。蟹は1人では食べないですよね。つまり、蟹を売るイコール家族の団欒を売っているわけです。

これが楽天の社会に対するエンパワーメントで、旅行も含めウェルビーイングを高めるためのサービスで構成されています。

改めてウェルビーイングを高めるサービスとは何か考え、お客様に提供する。これをDXでしっかり盛り上げていくというのは、大事なミッションだと感じています。

編集:長岡武司
取材/文:山田雄一朗
撮影:是枝 右恭

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