楽天流 DXの進め方 後編「成功体験を積み”草の根DX”を実現する」

楽天流 DXの進め方 後編「成功体験を積み”草の根DX”を実現する」

目次

DXの必要性が叫ばれる現代、それをどのように進めればいいのかーー。

前回から引き続き、今回も「楽天市場」を展開する楽天グループ株式会社(以下、楽天)の事例を紹介したい。楽天では、出店店舗であるクライアントをサポートする日本全国のECコンサルタント(以下、ECC)による、これまで以上に「マーケティングデータ」に基づいた提案が可能になり、新たな成功事例を生み出し続けている。

しかし、そこに至るには、ある重要な要素が隠されていた。今回は、その要素をお伝えするとともに、DXを実現するために欠かせない「企業文化」について考えたい。

※この記事には前編があります。
▶︎前編はこちら

「楽天市場」のプロフィール

国内最大手のインターネットショッピングモール。1997年5月に13店舗からスタートし、2021年8月時点では約55,000店舗が出店。取扱い商品数 3億品以上、国内EC年間流通総額は、約4.5兆円(一部の非課税ビジネスを除く。消費税込み)を誇る。現在も年々規模を拡大させ、楽天グループの中核を担う。

インタビューイー

浅井 祥人

コマースカンパニービジネスサポート開発部
ECビジネスデータアナリティクス&プラットフォーム課
ビジネスデータソリューショングループ
プロデューサー

栄 陽平

コマースカンパニー 
ECコンサルティング部 マネージャー

齋藤 あゆみ

コマースカンパニー
ECコンサルティング部 セールスプランニング課
営業企画グループ

成功体験を生み出せ

「第1期のエバンジェリスト(伝道師)の方々が、多大な成功事例を作ってくれたことが、非常に大きかったです」

このように振り返る浅井氏。そう、楽天が実現したDXの背景には、この強烈な成功体験にあるという。

筆者もソフトウェアの営業職の経験を通じて、このような光景を見てきた。普段の業務に忙殺される中、新たに導入したツールに興味をもってもらい普及させるには、周囲が一目置くような成果を、ツールを使う利用者自身が挙げる必要がある。

成果を挙げると、その同僚たちも興味・関心を示す。そして、同じような成果を出せるのではないかと使い始めるようになる。言い方を変えれば「成果に差が出ると、自分の評価に響いてしまう」という競争意識も芽生えることになる。

一方で、導入初期に失敗が続くと、周りは見向きもしなくなる。だからこそ、ツールを導入した初期段階は、慎重に進めたいところだ。

浅井氏は「第1期のエバンジェリストの方々には、全国から東京本社に集まってもらい決起会を開催しました。そこで、なぜ自分がやるのか、自らの言葉にして発表してもらいました」と、取り組みの初期について振り返る。

第1期のエバンジェリストの1人であったECCの栄氏は、このように語る。

「初めて触れるBIツールに対して不安もありました。しかし、図表などのビジュアライズの機能に触れて『こんなことまでできてしまうのか!』と感動することもありました。これを使いこなせれば、もっと店舗様に貢献できる。そう考えると、積極的に使いたくなりました」(栄氏)

浅井氏によれば「栄が作ったBIツールの新機能は”栄シリーズ”とも呼ばれている」と語るほど、栄氏はBIツールの習得に注力し、また社内でも大きな反響を呼んだという。実際に開発した機能で、どんなことができるようになったのか。

「1つは、商品をより細かく分類できる機能です。楽天市場で扱う商品は、3億以上(2021年8月時点)あります。ECCであれば、これら商品の分析は欠かせません。そこで、私は商品名を軸に、売上やそれを表示する図などを作成するツールを開発しました。ECCからのニーズも高かったようで、現在まで多くのECCが利用しています」(栄氏)

このような成果を見聞きすると、周囲のBIツールに対する興味も自ずと高まってくる。浅井氏は当時のことを以下のように回想する。

「何ができるのか知りたい、というECCの方には、私はよく栄の成功事例をお伝えしました。そうすると、さらに広まっていくのを肌で感じるようになりました」(浅井氏)

企業文化がDXを後押しする

このような成功体験の共有は、浅井氏のようなシステム開発担当者からだけでなく、現場でも進められた。

「朝礼や共有会で、支社全員にBIツールの紹介と、その成功事例を共有していました」

このように語るのは、第3期エバンジェリストを経験し、現在は営業企画でBIツールの運営業務を務める齋藤氏である。

いわゆる朝礼など、型にはめて進める企業もある中、楽天の取り組みはこれらと一線を画しているという。

「これは、楽天が創業当初から築いてきた文化が大きいのではないかと思います。もともと、成功事例や気づきをECC同士で活発に共有していました。だから、BIツールの成功事例の共有も、比較的スムーズに行えました」(齋藤氏)

また浅井氏は、楽天に根づくあるキーワードを挙げた。

「当社には、企業理念の「成功のコンセプト」にも含まれる“仮説→実行→検証→仕組化”や、知識を横展開して共有する”横展(よこてん)”という言葉が日常的に使われています。齋藤さんがお伝えしたようなやり取りは、まさに現場で、これらが実践されていることを表していると感じます」(浅井氏)

DXでより深まった「相互理解」

チームビルディングを経て、ミッションを共有。綿密に立てられた施策の実行から成功事例を生み出し、それを現場で共有して仕組み化する。


このサイクルを経て、ECC業務のDXはわずか1年足らずで完結した。ここまでの取り組みについて、齋藤氏と栄氏はこう振り返る。

「やはりエバンジェリスト制度が大きかったと思います。しかも、BIツールで使用する新機能を、現場のECCが開発できるようにした。Excelで実現できなかった自動化や処理の高速化を、スピード感をもってできたと思います」(齋藤氏)

「システム開発や営業企画の方々の支援も大きかったです。特に、システム開発の方々には、オンライン勉強会などを通じてフランクに相談できる関係を築いていただいたおかげで、BIツールから心が離れることがありませんでした」(栄氏)

一方、浅井氏もプロジェクトを振り返り、こう語る。

「栄の振り返りと重なる部分はありますが、一番の収穫は現場の方々との距離が近くなったことです。この業務を通して、ECCの皆さんとコミュニケーションする機会がさらに増えました。それにより、ECCはこんなに価値のあることをやっているのかという気づきと共に、一種のリスペクトも生まれます。この活動を通じて、互いの理解を深めることができました」(浅井氏)

チームごとに異なるであろう価値観や常識、文化の違いを、DXプロジェクトを通じて乗り越えていったことが、各者コメントからもうかがえるだろう。

“草の根DX”の根源にある「楽しさ」

大きな成功を収めた楽天のDXプロジェクトだが、同社はこれで終わらせず、今後もBIツールに関する情報の共有を広げ、より多くのECCが活用できるように改善を続けていくという。BIツールによるデータを基に、クライアントへの提供価値を高めていく”データドリブン文化”の浸透を、さらに推進するというわけだ。

最後に、浅井氏はここまでの取り組みを、以下のように総括する。

「私たちが行ってきた取り組みは“草の根DX”と言ってもいいのではないかと思います。マネジメント層の意思決定だけで動くのではなく、システム開発、ECC、営業企画の現場のメンバーも積極的に動いてDXを進める。もちろん、業務の一環なので真剣ですが、勉強会などを通じてワイワイやりながら、とても楽しい時間を過ごせました。こういう形のDXがあっても良いのではないかと思います」(浅井氏)

今、多くの企業で求められているDX。筆者は“トップダウン”で進めるのが当然だと考えていた。むしろ、そうでなくては成功しないとさえ思い込んでいた。

しかし、今回の事例のように、マネジメント層の意思決定だけでなく、現場から盛り上げる”ボトムアップのDX”もありうるのだ。「感動」や「楽しい」など感情が揺さぶられるのも、DXには欠かせない要素かもしれない。

“Join the Chaos”をコンセプトにするxDXでは、今後もこのような事例を取り上げていきたい。

編集後記

以前取材した北川氏からの紹介で実現したこの企画。当初想定していた以上の取り組みがなされていて、驚いたのが正直な感想です。

一方で、これを実現した楽天の組織力の高さも見逃せません。企業理念の「成功のコンセプト」にも含まれる”仮説→実行→検証→仕組化”や、”横展(よこてん)”以外にも、楽天の組織のあり方を示すキーワードがサイトに数多く掲載されています。

読者の中には「楽天だからできたのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。実際、取材をした私もその1人です。これまで色々な企業を取材してきましたが、規模が拡大し続けても組織力を高め続けられる、異色の企業だと感じました。

DXを遂行する組織文化とはーー。その点も勘案しながら、DXの取り組みを企画する必要があるかもしれません。

取材/文:山田雄一朗

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