メタバース時代の娯楽とは。コロナ禍で強制DXしたエンタメ業界の次なる打ち手を探る

メタバース時代の娯楽とは。コロナ禍で強制DXしたエンタメ業界の次なる打ち手を探る

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「持続可能な社会へ向けて加速するデジタル変革」を掲げ、各界の有識者らを招いて行われた「金融DXサミット2021(Financial DX/SUM)」。これまで日経が主宰してきたSUMシリーズにおいて、初の「DX」を主題とする大規模カンファレンスだ。(イベント概要紹介はこちら

金融を主軸としたセッションが多い中、10月1日のDAY3には少し切り口が変わり、「VR/AR/アバター スタートアップが語る アフターコロナ時代のエンタテイメント」と題されたトークセッションが開催された。

DXの台頭はもとより、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)、AIなどテクノロジーの発展も目覚ましいものがある。2020年を突如として襲ったコロナ禍で、多くの産業がパラダイムシフトを迎えているなか、エンタテインメント業界も興行の中止や入場制限を余儀なくされた。

こうした状況下で、先に挙げた最先端技術やアバターやロボットの活用を通して、新たなエンタテインメントの可能性に注目が集まっている。

本セッションでは、meleap CEO 福田 浩士氏のほか、HIKKY代表取締役CEO 舟越 靖氏、バルス代表取締役CEO 林 範和氏、そしてオリィ研究所代表取締役 所長の吉藤 オリィ氏など、各分野を牽引するプレイヤーが集い、DX時代のエンタテインメントのあり方や未来について語る場となった。

これから必ず、新しいスポーツ産業市場が世に出てくる

まずは現在の事業で取り組んでいることについて、各スピーカーがそれぞれ紹介を行なった。

2014年にmeleapを設立した福田氏は、AR技術を活用した「HADO(ハドー)」という全く新しい“テクノスポーツ”を展開している。

「私自身、純粋に”かめはめ波”を撃ちたいという想いがあり、それを具現化させたものがHADOになります。 対戦相手とAR空間上でエナジーボールを撃ち合う新感覚のスポーツで、既存のドッチボールを進化させたような体験を味わうことができます。
現在は36カ国にHADOを体験できる店舗を展開しているほか、AR/VR初の大会「HADO WORLD CUP」も開催したり、観戦者参加型の競技システムを立ち上げ、スポーツの新しい応援体験を広めています」(福田氏)

福田氏がHADOをテクノスポーツと銘打っているのも、「情報社会と呼ばれる現代において、第3のスポーツ産業が出てくる」と予想しているからだという。

「スポーツの歴史を振り返ると、サッカーや野球、テニスなどのアナログスポーツから始まり、工業社会の発展に伴ってモータースポーツが生まれました。そして、インターネットが発達し、スマートデバイスやAR/VRなどの最先端テクノロジーが台頭してきている今、必ず新しいスポーツ産業市場が世に出てくると考えています。
将来的にはサッカーを超えるスポーツ市場の創造を目指し、HADOを広めていきたいと日々尽力しています」(福田氏)

次に、2018年にVRコンテンツの制作や開発技術の提供を行うVR法人HIKKYを設立した舟越氏は、バーチャルイベント事業やオープンイノベーション事業を手掛けている。

「バーチャル世界で、誰もが持つクリエイティビティの価値創造や経済圏の発展を担うために事業展開をしており、世界最大のVRイベント『バーチャルマーケット』を主催しています。来場者も回を重ねるごとに順調に推移していて、『バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数』においては、ギネス世界記録™に認定されました。
これまで世界的グローバル企業から国内大手ナショナルクライアントまで、さまざまな企業とお取り組みさせていただき、バーチャル空間への関心度が非常に高まっている実感を得ています」(舟越氏)

バーチャルマーケットが国内外問わず多くの企業から注目の的となっているのは「出展者が自由にブースをカスタマイズできるUGC(ユーザー生成コンテンツ)であることが強みになっている」と舟越氏は語る。

「企業の世界観をバーチャル空間上で表現でき、来場者への訴求を促すことができるのが、さまざまな業界の企業に出展いただいている所以だと思います。
また、リアルの世界では横並びを嫌う著名IPタイトルも、同業・他業種含め1つのイベントで同時に100を超えるIPコラボを実現しています。これはまさに、バーチャル空間ならではの付加価値になっていると言えるでしょう」(舟越氏)

日本で初めての「分身ロボットカフェ」

スポーツ、バーチャルマーケットときて、林氏が代表を務めるバルスは、2018年よりバーチャルライブに特化したサービスを展開している。

「従来はリアルの場所でライブをやることにこだわってきまして、遠隔ライブの仕組みを作り、リアルとバーチャルの融合から生まれるライブエンタテインメントの新たな体験価値を見出すために、2年間で100回以上のライブを行ってきました。コロナ禍で生活様式が一変したなかで、今後はVR技術を用いて、アーティストのファンがどうしたらもっとライブを楽しめるかを考えながら、サービスを進化させていくために尽力しています」(林氏)

また、早稲田大学にて分身ロボットの研究開発を行い、2012年にはオリィ研究所を設立した吉藤氏は、「幼少期の入院生活や引きこもりを経験したのが、オリィ研究所を立ち上げた原体験になっている」と話す。

「病気がちだったこともあり、小中の時は入院で3年半学校に通えない日々を過ごしました。寂しさや孤独感、生きがいの低下など辛い思いを経験したのがきっかけで、一人暮らしの高齢者やその介護者、入院中の子ども、寝たきりの患者などが抱える課題解決をしたいと分身ロボット『OriHime(オリヒメ)』を開発しました。学校や職場などに身体を運ぶことが困難な方でも、OriHimeを自分の分身として活用することで、授業を受けたり仕事を行なったりすることができます。
また、視線入力だけで文字を打つことができるソフトウェア『OriHime eye』は特許技術を取得しており、寝たきりの方でもパソコンを使ったテレワークが実現可能なのも特徴です」(吉藤氏)

同社では2018年11月より、複数回にわたって「分身ロボットカフェDAWN Ver.β」と呼ばれる、OriHime等を活用したカフェの実証実験を行っており、今年6月には日本橋に常設実験店をオープンしている。多くのメディアでニュース配信されたので、ご存知の方も多いのではないだろうか。

コロナ禍で難易度が高まったエンタメの「提供価値」

自己紹介の中でもしばしば出てきたワードが「コロナ」。このパンデミックがもたらしたエンタテインメント業界への影響について、パネルディスカッションが行われた。リアルからオンラインへシフトせざるを得ない状況に立たされた同業界だが、事業を運営していくなかでどのような変化を感じているのだろうか。
舟越氏は「リアルとオンラインの関係性が変わった」と述べる。

「コロナ前はバーチャルマーケットの参加者が70万人ほどでしたが、コロナ禍でリアルイベントが開催できなくなると、参加者や出展者は代替案を探すようになったことで、バーチャルマーケットへの関心が一気に高まりました。バーチャルマーケットは『臨場感を味わえ、思い出が残る』のが、配信と大きく異なる点です。やはり人間はリアリティを求めることもあって、バーチャル空間上でブース出展者とコミュニケーションしたり、友人と一緒に会場を回ったりといった、リアルと近しい体験を味わえることが魅力的だと、コロナ禍で気づく人が増えたと思っています。
また、バーチャル空間を起点にしたビジネス自体はHIKKYしかやっていなかったので、コロナ前は月に数件あるくらいだった問い合わせが、コロナ禍になると月に5000件くらいの問い合わせをいただくようになったのも大きな変化でした」(舟越氏)

福田氏は次世代アイドルたちがHADOで熱戦を繰り広げる「HADOアイドルウォーズ」を例に、次のように説明した。

「競技人口を増やすために店舗展開しているグラスルーツ事業と、観戦者を増やすプロリーグ事業を行なっているのですが、加えて2021年にはHADOの認知度や魅力を広めるため、新世代を担うアイドルたちがHADOでバトルをする『HADOアイドルウォーズ』を展開しています。
ライブ配信で、推しのアイドルがHADOに取り組む様子をリアルタイムで観れるわけですが、勝敗をチェックできるとあって好評いただいている一方で、画面越しだと全てが映らない。これこそ、リアルとオンラインの違いだと思います。リアルだと会場全体の雰囲気を感じ取れますし、推しのアイドルが負けて悔しがる様子や、反対に勝って嬉しがる歓喜の瞬間なども見れるのが、リアルならではの体験価値になっていると思います」(福田氏)

林氏はコロナ禍で「バーチャルとリアル両方が出てきたことで、逆に提供価値を考えるのが難しくなっている」と述べる。

「2020年から配信事業へと切り替えたのですが、リアルでのライブ活動中心にやってきたアイドルやアーティストと、オンラインが主戦場のバーチャルYouTuberとでは、大きな差が生じました。
というのも、初めの方はリアル一辺倒でやってきたアイドルやアーティストのオンライン配信は盛り上がっていたものの、徐々に尻すぼみになっていく傾向があったのです。対して、もともとオンラインで活躍していたバーチャルYouTuberは、チケットの売り行きにそこまで変化はありませんでした」(林氏)

その要因は、ファンが求めるインサイトに大きな違いがあったと林氏は続ける。

「明暗を分けた理由を深掘りすると、バーチャルYouTuberは、リアルという空間には存在しないキャラクターとしてエンタテインメントを提供しているからこそ、コロナ禍でもファンが求める体験価値を提供できていました。
他方で、リアルという場で推しに会える価値や友人と盛り上がれる価値、会場の熱気に浸れる価値を求めるファンを持ったアイドルやアーティストは、オンライン配信でどう価値を提供するか考えなくてはならない状況に立たされたわけです。運営側としても、ファンがライブに求める価値を再定義する必要性があると感じています」(林氏)

別の観点として吉藤氏からは、「今まで介護業界を中心に導入されていたOriHimeが、障害者雇用の文脈でも裾野が広がった」と説明する。

「コロナ禍でテレワークやリモートワークが常態化するなか、『障害者雇用のやり方がわからない』という相談をよく受けるようになりました。行政から大手企業までさまざまな業界でOriHimeに興味を持っていただく機会が増えました。女性従業員が育休明けにOriHimeを使ってテレワークを行う事例など、OriHimeの活用の仕方が多様化してきています。
OriHimeを使って一緒に外出したいというニーズも顕在化してきており、旅行や墓参りなどにも使われるようになりました」(吉藤氏)

来たる万博に向けて考えるエンタテインメントの未来

最後に、2025年開催の大阪万博への期待について、それぞれがコメントしていった。

「HIKKYではミラーワールドを創っていますが、まだ位置情報の精度が低いと思っています。今後はリアルな街のセンサーに着目し、バーチャルとリアルを繋ぎこむ世界を創造することで、バーチャル空間で働く人の生活圏や経済圏などを拡張させていきたいです。メタバースブームも盛り上がってくるなかで、万博という場所でさらに進化させたミラーワールドを見せたいと思っています」(舟越氏)

「万博は新しいテクノロジーを披露する場だと思うので、ARを使った全人類参加型の運動会をやってみたいと個人的には考えています。5分、10分だけ、地球上にいる人が繋がれるテクノロジーを見せることができれば面白いのではないでしょうか」(福田氏)

「単にハイブリッド開催するにしても、リアルで来場した人にどういう体験を作れるのか。あるいはオンラインで視聴する人へ届けるべき価値は何かをしっかりと考えるのが肝になると思います。配信用にカメラを置くだけでは、リアルの価値を薄めてしまうのと一緒。万博という影響力の大きいイベントでは、オンラインとリアル双方で、独自の体験価値を作り込むことが大事になるのではないでしょうか」(林氏)

「日本はこれから超高齢化社会を迎え、ひいては寝たきり社会の到来が予想されます。体が動かなくなっても『こういう楽しみ方や社会参加の仕方があるよね』というのを発信していきたいです。『寝たきりの先の憧れ』を創造するべく、尽力していきたいと思います」(吉藤氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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