新たなステージに入った金融業界。DXが加速させるESGの最前線に迫る

新たなステージに入った金融業界。DXが加速させるESGの最前線に迫る

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2021年9月29日から3日間にわたって開催された日本経済新聞社主催「金融DXサミット(Financial DX/SUM)2021」。「持続可能な社会へ向けて加速するデジタル変革」をテーマに、“金融”に関わる様々なステークホルダーが会場およびオンラインで参加した。(イベント概要紹介はこちら

カンファレンス2日目に行われたパネルディスカッションのテーマは「ESG ×金融DXで見える新たな地平」。ESGとDXという、金融業界を牽引する2つの大きなトレンドについて、立場の違うプレイヤーから有意義な議論が行われた。

登壇者は、日本マイクロソフトで金融機関のDXを支援する藤井達人氏と、今年5月末に設立された日本初ESG重視型VCファンド「MPower Partners」のゼネラル・パートナーである村上由美子氏、金融機関からは三井住友銀行の竹田達哉氏、そして世界屈指の情報ベンダーであるリフィニティブ・ジャパンの富田秀夫氏という豪華なメンバーで議論が深めていった。

金融の世界で進むESGの最新潮流

まずはESGに関する最新の潮流について。藤井氏からは、金融機関からのESG関連のニーズやマイクロソフト社の取り組みが紹介された。金融機関では、特にE(環境)の分野で温室効果ガスの排出量削減や把握に関心が高まっており、金融機関自らがどのように排出削減を推進するのか、投融資先企業のモニタリングやスコアリングに関するサービスについて対話することが増えていることを明かした。

一方、マイクロソフト社としては、2030年にはカーボンネガティブを達成し、2050年までに創業以来排出してきたCO2を全て埋め戻すという野心的な計画に向けて突き進んでいるとした。

「この計画に基づき、CO2削減や除去技術に投資する10億ドル規模のファンドを設立したり、AI技術を駆使して環境問題の解決に役立てたりする取り組みを展開しています」(藤井氏)

村上氏は、ESGが以前より国内企業経営者の中では大きなイシューとして捉えられていたが、経済合理性の観点から普及が進まなかったと説明。対して近年では、大きな変化が見られているという。

「ここ数年で企業の非財務情報の開示が進み、ESG活動と経済的なリターンに関する相関関係が明らかになりつつあることで拡がりを見せています」(村上氏)

さらに、ESGの普及を背景に多様な開示基準が生まれていることも指摘し、それが現在は世界的に統一した基準に収斂されていく過程にあるとも明かした。こうした動きは上場企業に限らず、スタートアップ企業に関しても同様であるとし、実際に同氏がESGを重視した投資活動に従事していることは、冒頭に記載した通りだ。

続く竹田氏は「銀行においてはこれまでの財務情報を基にした企業分析から非財務情報を含めた企業評価に変容しており、ESG重視のパラダイムシフトが起こりつつあることを実感しています」とコメント。

また、金融機関側でも非財務情報を基にした分析が行える人材を育成することや、ESGに関連するコンソーシアムなどに参画していくことで世界基準に追いつくことの重要性が説かれた。

富田氏は、これまで以上に企業からの開示情報が増えていく中で、データベンターとして投資家に一覧性をもって情報を提供する役割が重要になっているとした。そこで、現在問題視されている乱立するESG関連の情報について、開示基準を統合していく動きが加速していることも指摘。その具体例として2つの事例を示した。

「業界としてもESG関連データ推進の国際イニシアチブ『フューチャー・オブ・サステナブル・データ・アライアンス(FoSDA)』が設立されたり、加盟証券取引所の上場企業にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)開示を促すための共有のフレームワークを作ったりするなど、ESG関連の統一的なデータ整備が急速に進んでいます」(富田氏)

ESG時代におけるDXの役割とは何か

各業界からESGに関する最新の潮流が整理されたところで、今度はESGが標準になる時代におけるDXの役割や、ESGとDXが融合した具体事例というテーマで議論が進められた。

藤井氏からは、テクノロジーを有効活用した企業のESGの取り組み内容として、つの事例が紹介された。

1つ目は米国の金融機関が、マイクロソフト社のAI技術を生かしてグリーンボンドの発行業務の効率化した事例だ。「発行体企業の資産に関する資料を可能な限りデータ化し、AIによる分析を通すことで、グリーンボンドに適するかを容易に判断できるようになりました」と、藤井氏はESGとDXの融合の有効性を強調する。

2つ目はイタリアの事例で、欧州の若年層の中で高まるサステナビリティへの意識を背景に、若者をターゲットにしたデジタルバンクの取り組みだ。この銀行では木製のデビットカードを発行し、それで買い物をするとCO2発生量をリアルタイムで可視化できるため、自分の行動がサステナビリティに貢献していく様子がわかるようになるのだという。

続く村上氏は、「実際の投資先企業からESGとDXの融合が具現化される例をいくつも見てきています」としたうえで、特徴的な企業を3つ紹介した。1つ目は保育園の労働生産性を高めるサービスを提供する企業、2つ目にはWebサイトの多言語化を簡便化する企業、そして3つ目には気候変動に関わる膨大な情報を収集・分析し、それを提供する企業だ。

これらは、いずれもテクノロジーを活かしてESG活動を推進している企業であることを説明し、これら3つ以外にも事例は豊富にあることから、DXによってESGが加速する流れは強まっていくことを強調した。

竹田氏は、自身のこれまでの経験からESGとデジタルテクノロジーの両者は困りごとを解決するという根本的な思想が重なっているため親和性が高いとした。ESGとデジタルテクノロジーの親和性に関する具体例として、衛星画像データを活用して世界的な気候変動リスクに対するハザードマップを作成したことを挙げ、DXがもたらす今後のESGの可能性を示した。

「このように、DXによって従来の財務情報以外のデータを生み出すことができるため、デジタルテクノロジーはESGを加速するうえで大きな役割を果たし、ESGを高度化できるのです」(竹田氏)

富田氏は、企業のESGデータの収集は基本的に開示情報を使用しているが、それでは収集タイミングが年に1回程度に限られることが従来からの課題であると指摘した上で、以下の事例を紹介した。

「そこで当社では衛星写真やドローン、IoT技術を駆使して多様なデータを収集しており、今年3月のスエズ運河での座礁事故の際には、当社が提供する情報がサプライチェーンに対する影響度を測ることに貢献しました」(富田氏)

また、自社のラボにてサステナブルファイナンスの専担チームを立ち上げ、スコープ3(自社排出量以外の原材料・商品調達、配送、商品使用、廃棄過程から出る温室効果ガスの排出量)を推計するモデルの開発など、情報開示の幅を広げる研究にも取り組んでいるとした。

ESGとDXの融合を進める上での「課題」

さて、これまではESGとDXの融合がもたらしてきたポジティブな側面について語られてきたわけだが、今度はその負の側面や課題について。

藤井氏からはマイクロソフト社が掲げるカーボンネガティブの実現に向けた3つの課題が挙げられた。

1つ目は、世界で流通するカーボンクレジットの取引量が少なく、さらにその質も十分に担保されていないという点だ。これに対しては、認証機関を通過したカーボンクレジットにブロックチェーン技術を使用することで、P2Pで透明性のある取引を行えるプロトコルを開発する方法で解決に向けて動いているとした。

2つ目には、CO2を固定化する技術が十分に確立されていないことで、先述のファンドを通じて固定化技術に投資していること。そして3つ目は、スコープ3の計測についてで、この点について藤井氏は以下のように説明する。

「従来、スコープ3の算出には業界平均を使用してきましたが、正確な排出量を測定できないことが課題でした。そこで、計測のためのリモートセンシングやIoT技術を開発し、取引先やサプライヤーに対して提供することで解決の糸口としています」(藤井氏)

また村上氏からは、日本国内の男女間におけるデジタルデバイドが言及された。そもそも日本では、OECD諸国の中では女性の基礎学力が高いにも関わらず、男女の賃金格差が激しいことが以前より問題として挙げられている。

「デジタル化が進む社会の中で、うまくデジタルスキルを獲得できれば経済活動に貢献することもできますが、男女間に潜むデジタルに関する認識の差がさらなる男女格差を生むことを問題視しています」(村上氏)

同氏は、家庭や学校、社会といった各段階で、男女を問わずデジタルに対する興味関心を促す環境を醸成していくことが必要であり、それには家庭や学校、社会以外にもメディアを通じて問題意識を共有してアクションを取っていくべきとした。

竹田氏は「デジタル技術の進展で可能になることが増えている一方で、その技術の使い方について注意を払うべきでしょう」と警鐘を鳴らす。藤井氏が言及していたカーボンクレジットに関しても、普及が進むにつれて、情報の真贋性やクオリティをいかに担保するかといった問題が噴出する点を指摘した。

これには暗号資産も同様のことが言え、今まで価値として認識されていなかったものがその価値を認められるようになる世界においては、間違った使い方をされないことが重要な課題の1つであるとした。

富田氏は、気候変動問題について関心が低い企業や集団をどのように社会に包摂していくのかということが課題になると指摘。グリーンクライムへの対応を訴えた。

「 特に、直接的に気候変動に悪影響を及ぼすグリーンクライムを犯している者をどのように捕捉していくかが課題です。当社としては、グリーンクライムを起こした会社の情報を収集してデータベース上で公表することで投資判断にもお役立ていただいています」(富田氏)

さらに富田氏が注目しているのは欧州で発生している天然ガス価格の高騰で、それが電気料金に跳ね返った時に、脱炭素化への取り組みが逆行しないかを懸念しているという。

ESGに対する基本姿勢を明確化し、包括的に対処することが重要

最後に、ESG × DXという今回のテーマに照らして、パネリストから聴講者にメッセージを寄せられた。

藤井氏からは、世界的に短期間且つ一気にESG対応が求められている中で、むしろ顧客に対して新しい価値を提供する機会が訪れている旨がコメントされた。

「こうしたESG時代において新たなサービスを生み出していくためにも、私たちのようなテクノロジーベンダーを使い倒していただきたいです」(藤井氏)

村上氏はESGの分野では日本が世界に遅れを取っていながらも、日本の人材レベルが高いことや、社会インフラが安定していること、技術の水準も世界トップレベルであることを踏まえ、イノベーションを起こす条件は整っているとエールを送った。

「あとは点と点をどうやってつなげるかが鍵になりますので、当イベントを視聴しているビジネスリーダーの方々にも積極的に取り組んでほしいです」(村上氏)

竹田氏は気候変動問題について、2030年の温室効果ガス削減目標を達成するには金融機関と取引先企業が一緒に向かっていくことの重要性を再確認し、その上で共創的な取り組みへのコメントがなされた。

「私たち金融機関は2030年の目標に向かってお客様と一緒にどう達成するかを真剣に考えています。当社としても全面的にサポートいたしますので、ぜひ一緒に気候変動問題に取り組んでいきましょう」(竹田氏)

最後に富田氏からは、ESGに関連する新しい基準や規制などがこれからも現れてくるとの予想を前提に、包括的なアクションの必要性が強調された。

「その都度、それらに対応するのは非常に効率が悪いので、各企業が気候変動や人権なども含めたESGに対する基本姿勢を明確化し、それに向けて包括的に対処していくことが重要でしょう。その中で私たちも少しでもお手伝いをしたいと思っています」(富田氏)

取材/文:長岡武司

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