社会のDXを加速させるために、「規制のサンドボックス制度」が果たす役割とは

社会のDXを加速させるために、「規制のサンドボックス制度」が果たす役割とは

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2021年9月29日から3日間にわたって開催された日本経済新聞社主催「金融DXサミット(Financial DX/SUM)2021」。「持続可能な社会へ向けて加速するデジタル変革」をテーマに、“金融”に関わる様々なステークホルダーが会場およびオンラインで参加した。(イベント概要紹介はこちら)。

カンファレンスの初日に行われたパネルディスカッション「規制のサンドボックス制度を最大限に活用し、ビジネスチャンスを掴み、マーケットで勝つ」では、社会の変革が進んでいく中で、新たなビジネスチャンスを掴んでいくための「規制改革」について議論が展開された。

モデレーターを務めたのは、EY JapanにてRegTechリーダーとして国内外の規制テクノロジーに精通する小川恵子氏。登壇者は、内閣官房で成長戦略会議事務局企画官を務める松山大貴氏、電動モビリティメーカーglafit代表取締役CEOの鳴海禎造氏、そしてP2P型保険サービスを手掛けるFrich代表取締役CEOの富永源太郎氏という、規制のサンドボックス制度に携わって改革を実際に進めてきた3名だ。

規制改革の鍵を握るサンドボックス制度とは

そもそも「規制のサンドボックス制度」とは何なのか。これについて、まずは前提知識としてEY Japan 小川恵子氏より、制度の背景が解説された。

規制を考える上で、一般的にトレードオフの関係として認識されている要素が「スピード」である。規制が強いほどに様々なリスクへの対応がなされることになるが、その代わりに事業展開およびイノベーションのスピードが落ちることになる。一方でスピードを重視すれば、市場における様々なリスクが発生する可能性が出てくるわけだ。

「つい先日、とある大企業の方とお話しをしたところ、スピードが大きなテーマであるとおっしゃっていました。一方で数ヶ月前に、あるハッカソンにてスタートアップの方と話をすると、とにかく規制なんだとおっしゃいます。イノベーションとレギュレーションのギャップを、いかにビジネス戦略としていけるか。このレギュレーションギャップ戦略が、以前より我々EY Japanが提唱してきた考え方です」(小川氏)

ここ数年を見てみても、規制とスピードについては様々な企業・団体姿勢が交錯していることがわかる。例えば2年前には、Facebookの個人データ無断利用にまつわる制裁金(当時レートで約5,400億円)支払いのニュースが駆け巡り、ビジネスのスピードを優先して規制を無視し、その代償として制裁金を支払うという姿勢が垣間見えた。一方でその前年には、海外にて書籍『Regulatory Hacking: A Playbook for Startups』が発売され、当局対応を企業戦略とするあり方も提示されている。

そんな中で、官民の中でも「当局の施策を活かす」という観点で設計されている仕組みが、この規制のサンドボックス制度である。これは規制大国であるイギリス(FCA:金融行動監視機構)が最初に始めたもので、イノベーションを促進するためのスキームとして、現在では世界各国で同様の取り組みがローカライズされた上で実装されている状況だ。

これを前提に、松山氏からは日本における規制のサンドボックス制度の概要が説明された。松山氏は当制度について「新たなビジネスモデルをまずは試してみることができる場」と表現する。

市場環境が猛烈な勢いで変化する中で、現行の規制と新たなビジネスとがしばしば衝突を繰り返している。そんななか、行政側としては規制変更のリスクを一度に全て認識することは困難であり、また事業者側も新たなビジネスを展開するうえで、どんな規制に抵触するのかが不明瞭な場合がある。そうした「わからない者同士」をつなげて実証実験し、新規事業を生み出すシステムが求められているわけだ。

そのための施策として、日本の行政では規制改革の影響度合いによって3つの層(上図のカラー別層)に分けての選択肢が用意されているが、その中でも規制のサンドボックス制度は、企業やプロジェクト単位で実証を行えるものになっている。実証実験の計画立案に始まり、テストを実施してエビデンスを揃え、それを基づいて国は規制について、企業はビジネスモデルをどう展開するのかという問題をクリアしていくのだ。

「この仕組みの中で内閣官房の成長戦略会議事務局が事業者からの相談窓口となり、事業者から新たなビジネスについてヒアリングし関係省庁と調整します。2018年6月の当制度立ち上げからこれまでに21件のプロジェクトが認定されており、いっそうの拡がりに期待が寄せられています」(松山氏)

スタートアップ2社による制度活用の声

では、事業者側の声はどうだろうか。まずは実際にこの制度を活用した企業として、glafitの代表取締役CEOの鳴海氏から自社の紹介とその取り組みについて紹介された。同社は小型電動モビリティの開発を手掛けるメーカーで、本社を和歌山県に置く。和歌山県は原動機付自転車の登録台数が日本一でもあり、県としても自転車での移動を奨励しており、自治体を挙げて自転車が使いやすい環境整備を整えている最中だ。

「最近では電動キックボードなどの小型電動モビリティに注目が集まっていますが、当社は従来から日本の法律に適合してモビリティを開発していました。現行規制のままではユーザーに非常に不便が生じていたところにSNSの告知でこの制度について知り、2021年6月には規制変更に成功しました」(鳴海氏)

またFrich代表の富永氏からも、制度の活用についてのコメントがなされた。同社は保険関連のビジネスを手掛ており、大勢の人が加入する商品としては組成できないような少額の保険を、相互扶助を活用して保険として形にするP2P保険を提供している。保険は規制業種であるため許認可が必要で、タイムリーな商品を生み出すのが難しい。そこで、それをカバーするためにも、個人間の相互扶助の仕組みを使って社会的セーフティネットを広げているという。

「現行の制度では当社のような少額短期保険業者には、再保険の引き受けができなかったという点が課題でした。顧問弁護士から規制のサンドボックス制度について教えてもらって活用を決め、条件付きで少額短期保険業者による再保険引受が可能になりました」(富永氏)

規制改革は実際にどのように進むのか

さて、当セッションに対して事前にいくつか質問が寄せられていたが、まずは具体的にどのような実証計画を立案したかという点について富永氏と鳴海氏から語られた。
まずは富永氏から。自社のサービスを展開するにあたって、保険業法の条文の解釈が誤っていないか、またそれに基づいて事業を展開しても問題ないかということを内閣官房に相談することから始まったという。

「法律の条文解釈で乗り切るよりも、いっそのことサンドボックス制度に則って実証実験をしてから法律を変更するほうが、今後の事業展開やパートナー企業との関係構築を考える上でも安心感があることから、この制度を活用して実証計画を立案していきました」(富永氏)

また鳴海氏からは、自転車とバイクの2つの機能を有する電動バイクを開発する中で、この製品が「常にバイクとして扱われる」という法律上の制約を不思議に思い、なぜ自転車として扱われないのかという内容を内閣官房に相談したのが始まりだったことを明かした。

「まずは、道路交通法を所管する警察庁の意見を確認しにいき、実証実験に進む前段階として、警察庁がどういう課題意識を持っていて、どんな理由から規制をかけているのかを理解しました。そのうえで、それを解決するための実証実験のプロセスを考えて約1年間かけて設計して進みました」(鳴海氏)

これに対して松山氏からは、実証に進むにあたって、企業がどれくらい事前準備をすればいいかについて語られた。

「事業内容と規制について企業と行政が互いに手探りな状態であることが多いため、やり取りを進める中で綿密なコミュニケーションが必要なケースが大半です。そのため、明確な事前準備の目安はなく、実際に相談を持ち込む企業側がいきなり計画を提出するケースもほとんどありません」(松山氏)

規制のサンドボックス制度の有効性やビジネスへの影響はいかに

続いての質問は、規制のサンドボックス制度を活用して実感したメリットやビジネスの広がりについてだ。

富永氏は、特に金融系スタートアップ企業ではメリットが大きいとした。大企業や金融機関との連携する際には、当局と十分な対話を行ったうえでサービスを提供している点が、提携先にも安心感を与えるのがその理由だという。

ビジネスの広がりという点では、まさにこれからだとしながら、「正しく世の中に受け入れていただくための素地を作ることができたので、これからの拡大が楽しみだなと思っているところです」と展望を述べた。

また鳴海氏は、実際に製品の開発までこぎつけることができたという点で、同社にとって規制のサンドボックス制度が非常に大きなメリットをもたらしたことを強調した。

「これまでグレーゾーンであったために、世間からも小型モビリティ業界全体が怪しげなものとして見られがちでした。しかし、関係省庁からお墨付きをもらって明確な線引きができたことで業界の健全な発展につながり、事業の広がりを実感しています」(鳴海氏)

ここまではスタートアップ2社から制度のメリットについて語られたが、規制変更が承認された21件には大企業の事例もある。そこで、この制度を大企業が活用するメリットについても松山氏は強調した。

「大企業も従来型のビジネスモデルのみで戦っていくことが難しくなっています。この制度は企業や事業の規模で選んでいるわけではありませんから、大企業でも当然活用することができます。われわれとしてもこの制度が積極的に活用され、新しいことに果敢に挑戦してもらえる環境づくりに励んでいきたいと思っています」(松山氏)

また、規制改革のためには新たなビジネスの社会的な影響度合いや事業分野を評価されるのかという疑問も寄せられたが、松山氏は規制の分野を限定しているわけではないという認識を示した。

「行政としては新たなビジネスに社会的な意義や革新性などがなくても、規制に引っかかることがあると教えてもらえる機会でもあります。それらを解決するために、各省庁とも話をしながらやっていく場がこの制度でもあると考えています」(松山氏)

企業が規制改革を進めるために持つべきマインド

続いては、規制改革を進めるうえで持つべきマインドや心境の変化について。鳴海氏は、日本では規制が厳しいという印象が先行して、具体的に何がネックになっているのかを理解されていないことが多いとしつつ、実は規制の構造自体はシンプルで、正しい理解が進めば円滑に改革が進むと説明する。

「改革にたどり着くまでのコミュニケーションを調整してくださるのが内閣官房の方の役割で、担当者は日本を良くしようとする方ばかりです。話し合いができて同じ方向を向ければ、必ず良い方向に進めると感じています」(鳴海氏)

また富永氏は、行政機関の役割への印象の変化について語った。

「今回サンドボックスに取り組んで感じたことは、当局とスタートアップは外から見ると対立しがちな印象があったのですが、実はそうではないという価値観の転換です。世の中に貢献するために、内閣官房の方を接点として行政とパートナーシップを組んで一緒にプロジェクトを進めていると考えられるようになりました。私のような門外漢でも、適切なサポートが得られたことによって、事業のスタートに立つことができました」(富永氏)

最後に、登壇者から規制のサンドボックス制度の展望と聴講者へメッセージが寄せられた。

まず松山氏からは、官と民が連携していくことの重要性が指摘。行政は時代のスピードを意識しながらさまざま政策を立案していくが、それ以上の速度で社会が変わっていてその全てを把握することは不可能だからこそ、民間の力を借りる必要があるとした。

「われわれは事業者と各省庁をつなげて全体を取りまとめる調整部署ですが、新しいビジネスが生まれることにワクワクしながら取り組んでいます。今後は、各省庁の側から案件が持ち込まれて改革が進むということにも発展していくと期待しています」(松山氏)

鳴海氏は「地方発のベンチャー企業の私たちでもできたことから、その気になればだれでも規制改革にチャレンジできることを証明したはずです。日本は規制が厳しくて無理だと思う方も多いでしょうが、その考えは一旦忘れてください。今は国も変わってきており、最も厳しいと言われた警察庁ですら新しいモビリティの展開に前向きです。皆さんも改革に参画していただいて、一緒にこの国を良くしていけたらうれしいです」とコメントした。

最後に富永氏は、規制はもう言い訳にならないこと強調して次のように語った。

「世の中のために実装すべきアイディアや事業があれば、国としては制度を用意しているので、あとは事業者がやり切るだけです。私でもできたぐらいですので、志のある方々にはこの制度を活用して社会に貢献する事業を展開していってほしいと思います」

取材/文:長岡武司

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