スタートアップ〜大企業まで、8社が語るDXのホンネ

スタートアップ〜大企業まで、8社が語るDXのホンネ

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2021年9月29日から3日間にわたって開催された日本経済新聞社主催「金融DXサミット(Financial DX/SUM)2021」。「持続可能な社会へ向けて加速するデジタル変革」をテーマに、“金融”に関わる様々なステークホルダーが会場およびオンラインで参加した。(イベント概要紹介はこちら)。

カンファレンス最終日に行われたパネルディスカッション「Person of Financial DX/SUM 〜DXはやっぱり人だよね、スペシャル」では、大企業からスタートアップまで幅広いレイヤーのメンバーによるDXトークが繰り広げられた。

DXを進めるにあたっては、仕組みや器を作るだけではだめで、魂を入れ、情を持って愛でなければ社会へと浸透しないだろう。そんな難しい課題へのチャレンジについて、事前調整なし、予定調和なしの完全本音トークが展開された。

日本のデジタル化を阻害する要因とは

まずは、モデレーターであるGiveFirst代表 山田康昭氏より、日本のデジタル化を阻害する要因の一例が提示された。こちらは、今回の「金融DXサミット」各セッションで出てきたものを整理して一覧化したものだという。

実は山田氏は、以前は日経新聞社に所属をしており、今回のイベントシリーズであるSUMシリーズの生みの親でもある人物だ(昨年退職された後も、SUM事務局アドバイザーとして引き続きカンファレンス運営に携わっている)。

日本をハブとするスタートアップのエコシステムを作り上げたいとの思いから、2016年9月に最初のSUMイベントであるフィンテックカンファレンス「FIN/SUM(フィンサム)」を企画・開催し、そこから様々なSUMシリーズへと裾野を広げていったという経緯がある。2016年といえば、まだ「フィンテック」なんて言葉がほとんど国内で出回っていない時期である。

2016年にFinTechをテーマに開催された「FIN/SUM(フィンサム)」を皮切りに、規制に関する技術(RegTech)をテーマとする「REG/SUM(レグサム)」、AIを主軸においた「AI/SUM(アイサム)」、農業技術(AgriTech)や食糧技術(FoodTech)をテーマとする「AG/SUM(アグサム)」、そして都市開発や交通領域の変革をテーマとする「TRAN/SUM(トランザム)」など、様々なテーマについてのカンファレンスがSUMを冠して行われてきた

つまり、過去5年間にわたって最先端のクロステックを追いかけていった山田氏だからこそ、日本のデジタル化を阻害する要因として抽出されたこれらの内容への理解も大きいのではないかと思われる。ちなみにカッコ内数字は、登壇者に対して行われた「よくある」投票の結果である(一人2挙手)。

  • できない理由を探すのがうまい(4)
  • 年功序列・終身雇用で一つの社風・文化に染まってしまう(2)
  • 完璧主義で失敗を認めない(2)
  • 過剰な顧客保護(過保護)(2)
  • ベンダーロックイン(0)
  • 大組織で本当に働いているのは2割で残り8割は働いているふりをしている(0)
  • 黒字が出ない投資はしない(近視眼的経営)(2)

「今日はこれらの課題に対して、自分だったらこうやって乗り越えてくよ、というようなお話を伺えればと思います」(山田氏)

何かしらの制約があるとイノベーションが生まれやすい

ここからは、各登壇者によるコメントを列挙していく。

千葉 孝浩氏(TRUSTDOCK 代表取締役CEO)

「強制力と言いますか、何かしらの制約があるとイノベーションが生まれるところがあると思っております。例えばコロナ禍では、今までテレビ会議ができなかったところができたり、電子契約の利用も進むなどです。ですので、逆にいくつもの制約を課していくことで、それを乗り越えようとしてDXが進んでいくのではないかなと思います」(千葉氏)

柘植朋紘氏(キーエンス データアナリティクス事業グループ マネージャ)

「DXなんて、普通にやっていたら起きません。なので変なことをやらなければいけないのですが、恥ずかしいんですよね。でも、恥ずかしがらない!ということです。これが大企業には必要です」(柘植氏)

大﨑邦彦氏(クロスピアコンサルティング コンサルティンググループ マネージングディレクター)

「私が思うのは、先駆け部隊・斬り込み部隊を作ることです。空気を読まずに動く人、そしてその人たちをサポートする1〜2割ということです。全員が変わる必要がありますが、全員が“一度に”変わる必要はないと思っていて、カオスなことが好きな人がまずは斬り込んでいくべきでしょう。ちなみにクロスピアは“槍の先”をイメージして作られた会社でして、まさに先兵でありたいとの思いがあります」(大﨑氏)

新色顕一郎氏(クレジットエンジン 取締役COO)

「うまくいっているところで考えますと、人材の流動性を上げるといったところや、デジマでもいいから一個入れてみるといった姿勢があるところが挙げられるかなと思います」(新色氏)

小坂慎吾氏(アクイアジャパン カントリーマネージャー)

「3つ目に挙げていただいた“完璧主義で失敗を認めない”とうことが結構重要かなと思います。一例として、我々アクアイアジャパンはできて3年なので、リードを多くしないと商談ができないわけです。それまでオフラインで毎週セミナーをやっていて、毎回十数名の方にご参加いただいていたのですが、コロナ禍で来場が難しいとなったときに、とっさにオンラインでやろうとなりました。すぐに東急ハンズで三脚を買ってきて、iPhoneを使ってその週のうちにオンラインセミナーを実施したところ、30〜40名ほどの方にご参加いただけました。そこから着々と回数を重ねていき、最終的にはアクイア単独でも200名ほどの方にご参加いただく回も出てきました。めちゃくちゃスモールスタートで失敗するかもしれない心配もありましたが、あれがなかったら、今頃私はここにいなかった可能性もあ高いかなと思います。初めから完璧主義というのはできないと思っていますし、失敗は必ずあるので、逆にリスクヘッジをしながら早めに失敗をするというアプローチの方が、デジタル化というのは早く進むのではないかなと思います」(小坂氏)

中山田明氏(MFS 代表取締役CEO)

「C向けのサービスをやっていて感じるのは、デジタル化が進む中で、いまだに現金でお支払いなどをやっている方もいらっしゃいます。このように、これまでの慣行を変えられないシーンは多いのかなと。ですので、デジタル化を進めていくにあたっては、それをやることのメリットが出てくると、もっと広がっていくのかなと思います」(中山田氏)

畑加寿也氏(justInCaseTechnologies 代表取締役/justInCase 代表取締役)

「何か新しいことをしましょうとなった際には旧来型のベンダーさんと弊社とで選定プロセスになることが多いのですが、選定項目の中で毎回上位に出てくるのが安心感・セキュリティ実績です。これって定量化が難しいので、決済担当者に何らかのスケープゴートを与える必要があります。そこのケアができていないと進まないんじゃないかなと、日々やっていて思います」(畑氏)

前例に従う的なものをぶっ壊すことを、意識的にやっていかねばならない

次に、今年9月からデジタル庁が指導したことに付随して、「行政に期待すること」というテーマで各々がコメントした。

「例えば保険で考えると、同じ金融庁でも、保健課という当社グループを監督する側もいれば、フィンテック室のような企画側もいまして、かなり立場が違うのでおっしゃっていることが違います。そこの横の情報交換がより深くなっていくと、嬉しいスタートアップは多いのではないかなと思っています。」(畑氏)

「まず短期的には、今の流れには期待しています。官の皆様が今日的なテクノロジーを使うことはとても大事だなと思っていまして、彼らが例えばスタートアップの新しい技術を取り入れて内部の改革をやられたら、すごく雰囲気がよくなるだろうなと感じます。また中長期的には、人材育成に期待しています。やはり脈々と受け継がれてきた教育制度にフィットするような雇用制度や働き方になっていると感じていて、だからこそ、前例に従う的なものをぶっ壊すことを、意識的にやっていかねばならないと思っています。本当に日本全体を変えるとなれば、まずは教育からだと期待しています」(大﨑氏)

「まさに中央省庁や自治体とご一緒することも多いのですが、テックに明るい方も多いです。一方で、人事制度や予算の計画みたいなものは民間と違う部分も多くあり、それらを認識しつつ、民間で使っているものをどんどんと官でも使えるようになると、より色々なことがスムーズになる気がしています」(千葉氏)

また、別のアングルとして、「給与を含めた雇用環境が阻害要因になっているのではないか?」というテーマについても、各々がコメントした。

「我々アクイアジャパンの知名度はまだまだない状況の中、だいたいは採用に苦労するのですが、コロナ禍では逆にうまくいったわけです。なぜかというと、地方の方々の採用もできるようになったからです。今まで募集がなかった地域でも採用ができるようになったので、地方で眠っている優秀な方がどんどんと活用できるようになってきているので、そこが人材の流動性に上がり、DXの活性化にもつながると考えています」(小坂氏)

「採用という面では、コロナについては我々のところでも結構チャンスだと感じています。場所を選ばずに働けるようになってきた中で、大企業と比べて我々のようなスタートアップの方が、よりフレキシブルに働く場所の自由をご提供できる面があるからこそ、実は追い風になっているところがあると感じています」(新色氏)

「行動様式が大きく変わってオンライン化が進んだという観点では、コロナは大きな契機だったと思います。オンラインでやらざるを得なくなってやってみたら、結果いいじゃんとなって、効率化されることとなったわけです。これは、リソースが限られているスタートアップとしては非常に有り難いことです。あと、心身的にもかなりプレッシャーのかかる仕事なので、リラックスできる場で働けるという意味でも、逆に良い環境になってきているなと感じます」(中山田氏)

「賃金が上がるということは、当然ながら業績が上がることが前提となるので、まずは業績を上げましょうと。その上で、単純に“報酬”といっても、金銭以外のことも色々とあるわけです。単純に賃金を上げるだけだとできることが狭くなってしまうので、各メンバーに必要な報酬は何で、それに対して会社は何を提供できるかを考えることが大事かなと思います」(柘植氏)

「同じく大前提は業績なのですが、制度的には下方硬直性があるとも感じています。DXをやるのは博打を打つのに近いと私は考えていますので、報酬も博打に紐つけてあげた方が良いと思います」(大﨑氏)

官とオープンソースをもっと組み合わせたい

最後に、「連携」というテーマで、各々からコメントが寄せられた。

「ここに挙げられた阻害要因を見ていても、“前例主義”というのは大きくあるのかなと思います。だからこそ、逆に前例がないことをやらなければならない縛り、みたいなことを全ての企業がやれば良いのかなと。あと今回のセッションはスタートアップの方が多いということで、大企業がやらなければスタートアップだけでやるかみたいな話も出てきていたからこそ、まずは挑戦する方々で実績を出して、それを前例にして大企業含めてDXを進めていくというので連携ができたらいいなと思います」(千葉氏)

「スタートアップ側に入ってくるダイバーシティは広がってきているので、次は大企業との連携や流動性かなと思います。あとは、今日出てきた話は日本のマーケットに多い内容だと思うので、日本だけの枠にとらわれずに考えていくことが課題なのかなと感じています」(新色氏)

「金融の観点だと、例えば自分の信用力を数値として把握できている人ってほとんどいません。どういう評価が金融機関からなされているのか、認知できていないわけです。そういうデータがどんどんと集約されていって可視化されていくと、それを使った新しいサービスができて個人のできることも広がっていくので、すごく期待しているところです」(中山田氏)

「前に進めるというテーマで考えると、金融庁と組んで、保険業法を全部書き換えたいなと思います!」(畑氏)

「官とオープンソースをもっと組み合わせたいなという思いが個人的にはあります。国民の100%をカバーしているサービスは官だと思います。そこのレベルが高くなれば、他のサービスのレベルも高くなると思います。かつオープンソースというところでは、ソフトウェアの民主化といっても過言ではないかなと思っていますので、この2つが大事かなと考えています」(小坂氏)

「どこと組みたいかということですが、すべてです。大企業からスタートアップ、金融からパブリックセクターまで全部です。DXっていろんな境目が怪しくなるという現象だと思いますし、金融インダストリーに身を置いている方であれば、すごく侵食されてきていると感じていると思いますが、逆にいうとそれは変わるチャンスでもあると思っています。企業規模やインダストリーにかかわらず、最適なパートナーと最適なソリューションを作る気構えが最重要だと思っているので、“すべて”です」(大﨑氏)

「キーエンスは営業をかけられることがすごく少ないです。売り込むという人たちがすごく少ないので、売り込んでくれるくらいやる気があるところと組んでいきたいと思っています」(柘植氏)

取材/文:長岡武司

金融DXサミット(Financial DX/SUM)2021 レポートシリーズ他記事

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