講談社・NEC・アビームコンサル・バリューブックス。登壇各社によるESG施策を紹介
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コロナ禍というパンデミックに加え、気候変動の影響から起きる甚大な自然災害や、地球環境の悪化によるさまざまな社会課題など、“行き過ぎた資本主義”の歪みが生じている。
そんななか、不確実な世の中を生き抜き企業として存続していく上では、ESG経営の視点が不可欠になってくるだろう。デジタルテクノロジーをうまく活用して、ESG(環境・社会・ガバナンス)という「別途可視化が必要な価値」をいかに見える化できるかがキーポイントになる。
2021年3月29日〜31日にかけて、金融庁と日本経済新聞社が共催した「FIN/SUM FINTECH SUMMIT 2022」では、最初のセッションとして「ESG経営をいかに進化させるか 〜持続可能なビジネスと暮らしに向けて〜」をテーマにパネルディスカッションが行われた。
ESG経営が、よりビジネスと暮らしの中核に浸透していくためにすべきことは何なのか。当日のセッションの様子を、前後編に分けてお伝えする。
・岩田 太地(NEC デジタルインテグレーション本部 本部長)
・今野 愛美(アビームコンサルティング デジタルプロセスビジネスユニット FMCセクター シニアマネージャー)
・関 龍彦(講談社 第二事業戦略部 担当部長・クリエイティブスタジオチーム長・『FRaU』編集長兼プロデューサー)
・鳥居 希(バリューブックス 取締役 いい会社探求)
・小平 龍四郎(日本経済新聞社 論説委員会 論説委員)※モデレーター
30〜40代女性のSDGs認知率向上に寄与する「FRaU SDGs」
まずは各登壇者より、ESGおよびサステナブル領域で取り組んでいることについて紹介がなされた。
関 龍彦氏が編集長兼プロデューサーを務める雑誌『FRaU』は、ライフスタイル・ワンテーママガジンとして1991年に創刊されたもの。2018年4月より不定期刊の雑誌としてリニューアルしており、同年12月(翌1月発売)には、女性誌初となる1冊まるごと「SDGs」に特化した「FRaU SDGs」を発刊している。
関氏は「SDGsは目標で、ESGは手段」だと捉えているという。その上で、自身が企画した「FRaU SDGs」についてこう説明する。
「2018年時点で、日本のSDGs認知率は14.8%、とりわけ30〜40代女性の認知率が低い状況でした。このままだと、SDGsの浸透が遅くなるのではと思い、FRaUならではのワンテーママガジンという特性を活かして作ったのが『FRaU SDGs』でした。2019年1月に第一弾を発売したところ、重版がかかるほどの大きな反響を得ることができました。その後も、継続的にSDGs関連の特集を出し続け、3年半で計10冊を刊行しています。SDGsメディアのフロントランナーとして、業界をリードする気概を持って取り組んでいます」
コロナ禍で特に売れた号については「昨年夏に発売したSDGs特集の第8弾『ニッポンの宿題』」を挙げる。
「羽生結弦さんにインタビューさせていただいたのですが、ファンの方を中心に多くの方が雑誌を手に取ってくださいました。普段、あまりSDGsに関心を持たれない方でも、羽生結弦さんをきっかけにSDGsとの接点が作れたのではと思っています」
地球環境に配慮した本の流通スキームを構築するバリューブックス
続いてプレゼンを行った鳥居 希氏は、大学卒業後にモルガン・スタンレーMUFG証券会社で15年間務めたのち、2015年7月より古本の買取販売をビジネスにするバリューブックスに参画する。
同社は「日本および世界中の人が、本を自由に読み、学び、楽しむことのできる環境を整える」ことをミッションに掲げ、主な事業として、会員制買取サービス「VALUE BOOKS」や登録不要の買取サービス「Vaboo」の運営を行っている。
一方で古本による寄付プロジェクト「チャリボン」も手がけており、2011年からの累計寄付金額は6億円を超えているという。
鳥居氏は「お客様からお送りいただく本のなかで、実際にインターネットで中古本として販売するために買い取れるものは、半分くらいしかないのが、長年の課題だった」と話す。
「そんななか、買取時の送料を弊社負担にしていたのを、有料にするという意思決定を行いました。そのぶん、買取金額を約1.5倍に設定することで、本の配達で生じるCO2をできるだけ抑えることができると思ったんです。それ以外にも、他の会社さんとタッグを組んでアップサイクルの取り組みを行うなどして、地球環境に配慮した形で事業を展開しています。また、『バリューブックス・エコシステム』という、古本売上の33%を出発社に還元するような仕組みも始めています」
バリューブックス・エコシステムでは、毎年、出版社別のリユース率を算出し、その数字が90%を超えている出版社のうち、バリューブックスのパートナー出版社に対して、該当書籍の売上の33%を還元している。還元金の使途は、各パートナー出版社に委ねられており、著者に還元する出版社もあれば、よりよい出版活動のために生かす出版社、社会貢献のために使う出版社もあるという(参考:バリューブックス・エコシステム プロジェクト紹介ページより)
そんなバリューブックスの大きな特徴として、米国非営利法人B Labが定める認証制度「B Corporation(Bコーポレーション)、以下Bコープ」を取得していることが挙げられる。
Bコープの取得は、企業の経営戦略的にどう作用し、どんなアドバンテージとなりうるのだろうか。
「よく『ESGの指針と何が違うのか』と言われますが、Bコープは具体的に実行を促すツールとなってくれるものだと捉えています。また、それをグローバルの基準で他社と比較できること、さらに大きな価値になっているのはコミュニティであることです。Bコープの一員になることで、他社と効果的な協業をしたりベストプラクティスを共有したりすることができるのがメリットだと言えます」
ESGと経営をリンクさせるアビームコンサルティング
アビームコンサルティングでシニアマネージャーを務める今野 愛美氏は、2006年に同社へ入社後、国内外の企業に対して財務経理や経営管理、リスクマネジメントなどの観点に立って支援を行ってきた人物だ。
現在は、同社のESGやサステナブル経営支援のサービスリーダーに従事。ここ6〜7年の間に、ESGという非財務の要素が急速に注目されているなか、「いかにESGを企業経営の中に組み込んでいくか」ということを重視しながら、日々業務に従事しているという。
それが、非財務情報を経営管理に生かす「Digital ESG」と称するものだ。下図にあるとおり、ひとつのプラットフォームとしてESGデータを収集する仕組みの構築やESGの測定・分析を行い、可視化を図ることで、ESGを経営とリンクさせることを目指す取り組みになっている。
Digital ESG Platformは、ESGデータを収集する「Data Connection」、ESG × 企業パフォーマンスをデータから分析する「Data Analytics」、そしてESGデータと分析結果を確認できる「Cockpit」という、3つのコアコンテンツで構成されている。「Data Analytics」と「Cockpit」は先行リリースをしているという(参考:アビームコンサルティング Connected Enterprise® for Digital ESG紹介ページより)
「これらの要素が企業の経営管理に入り込んでいくことで、より一層ESGという非財務の要素も重要視するようになり、持続可能な企業の活動にも寄与するのではと考えています」
Digital ESGのプラットフォームを構成する3つのコアコンテンツのコンセプトに賛同する企業も多く、現在すでに数十社の事例をもっているという。その事例をもとに、他の企業と話を進めたりすることで、Digital ESGの普及に努めているそうだ。
また、企業ごとにESGへの取り組みや思いも異なるため、「個別にカスタマイズして提供しており、幅を持ち合わせている点が強みになっている」と今野氏は強調する。
人的資本に関する指標と財務指標の関係性を可視化するNEC
NECのデジタルインテグレーション本部 本部長を担う岩田 太地氏は、金融機関や産業セクター向けに、デジタルテクノロジーを活用したビジネスの推進を行っている人物だ。
同氏が、データを活用してESG経営をどう推し進めていくかに興味を持ったきっかけは、主に2つあるという。
「金融機関が企業に対して提供するコーポレートバンキングのあり方が大きく変化したこと、そしてもうひとつは、企業がデータを活用して経営を高度化させることの重要性を感じたことです。そのなかで、ESG経営に注目をするようになったんです」
サステナブルな成長には、非財務と財務の統合をより強化していく必要があり、これまでリスクマネジメントだったESGを成長に結びつけ、さらには非財務と財務の関係をデータで見える化することがポイントになる。
NECでは、多くの企業のESG経営を支援する際の模範となるよう、率先してデータを活用したESG経営の実践を始めているという。
「財務は“結果指標”なので、それに関わる非財務の取り組みをより強化していくことが、変化の激しい時代において重要だと認識しています。そのなかで、先ほど今野さんからもお話があったアビームコンサルティングと連携し、非財務指標の財務指標への影響を分析しました。その分析結果の例を図で示すと、人的資本に関する指標と財務指標の関係性を見出すことができたのです」
さらに、NEC独自のAI技術(Causal Analysis)を使って相関関係だけでなく因果関係も分析したところ、社員のエンゲージメント向上には、上司から部下への共感を発信してチーム内の心理的安全性を担保すること、そして、部下に個人裁量権を与えることが重要であることも分かってきたという。
「先ほど財務指標の関係性について述べましたが、要は将来的に企業のPBR向上につながることがロジック立てて説明できると、社員の納得性も高まり、投資市場への対話もより具体性を持たせられると考えています」
外部環境が変わるなかで、因果関係がどのように変化していくのか。これについて、定量的な形で計測可能な状態にしていくという。たとえば女性の雇用率上昇におけるPBR改善を考えてみても、それが過去のことなのか、それともこれからの取り組みなのかで大きく違ってくるわけだ。
世の中の変化に合わせて、少なくとも「年単位」の期間で因果関係の分析のPDCAを回す仕組みを作っていくとのことだ。
編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介
▶︎この記事には後編があります(4月7日 AM10:00配信予定)