ESG時代は企業の「ストーリー」を伝えることが大切

ESG時代は企業の「ストーリー」を伝えることが大切

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2021年3月29日〜31日にかけて、金融庁と日本経済新聞社が共催した「FIN/SUM FINTECH SUMMIT 2022」。その冒頭セッションとなるパネルディスカッション「ESG経営をいかに進化させるか 〜持続可能なビジネスと暮らしに向けて〜」では、講談社・NEC・アビームコンサルティング・バリューブックスの4社が、それぞれの取り組みを紹介し、またESG経営が、よりビジネスと暮らしの中核に浸透していくためにすべきことを議論した。

後編となる本記事では、後半部分のディスカッション内容についてレポートする。

​​この記事には前編があります

・岩田 太地(NEC デジタルインテグレーション本部 本部長)

・今野 愛美(アビームコンサルティング デジタルプロセスビジネスユニット FMCセクター シニアマネージャー)

・関 龍彦(講談社 第二事業戦略部 担当部長・クリエイティブスタジオチーム長・『FRaU』編集長兼プロデューサー)

・鳥居 希(バリューブックス 取締役 いい会社探求)      

・小平 龍四郎(日本経済新聞社 論説委員会 論説委員)※モデレーター

やるやらないは自由だが、「やる」と決めたらESG経営を追求すること

ESGやSDGsは、企業にとってプラスになることはわかっていても、果たしてビジネスとして成立して収益を上げられるのか、といった問いを持つ経営者も多い。

こういったESGの観点をビジネスに取り入れることが良いことなのか否かについて、まずは各登壇者が意見を寄せ合った。

講談社の関 龍彦氏は「ESGはリスク回避ではなく、企業を強くするものだ」と語る。

「ここ3年間ほどで大学生が就職活動で企業を選ぶ際、一番の基準になっているのが『社会貢献活動をしているどうか』なんです。給与でも待遇でもなく、企業が社会的責任を果たしているかどうかを判断しているわけです。また、ESGやSDGsを推し進めている企業の社員は、そうじゃない社員に比べて愛社精神が強く、離職率が低くなるというデータもあります。企業が利益を上げていくには、世の中が求めるプロダクトやサービスを出していく必要がありますが、エシカル消費という言葉があるように、お客様も地球環境に配慮した商品を求めるようになってきている。それゆえ、SDGsへの取り組みやESG経営が大事になってくると考えています」(関氏)

また、バリューブックスの鳥居 希氏は「そもそもの問いとして、SDGsやESG経営をすること自体、その会社がやりたいことなのかどうかを考える必要がある」と自らの見解を述べる。

「もちろん、やるやらないは自由ですし、どっちが良い悪いというわけでもありません。ただ、もしSDGsやESG経営をやると決めたのならば有言実行、行動に移していくことが求められます。その際に有効活用できるのが、先ほど(前編で)お伝えしたBコーポレーションの仕組みです。また、会社の情報をどうやって透明性を持たせていくか考えるときには、具体的な実践と掲げる方針の差分をなくすことが大切になるでしょう」(鳥居氏)

自己紹介パートで、Digital ESGのプラットフォームについて言及したアビームコンサルティングの今野 愛美氏は「3本柱のData Analyticsを活用し、ESG関連の活動がどういう成果を生み出し、企業価値の向上にどのくらい寄与しているのかという相関性を見出すことに、支援先の企業各社は取り掛かっている状況」だと話す。

「どのような業界・フェーズの企業においても、何らかのESG関連の活動が、企業価値の向上にインパクトを及ぼす結果が得られるようになってきています。総じて言えば、企業がESGへ取り組むことで、企業そのものの価値を押し上げているという傾向がわかってきたということです。

加えて、ESGは企業の経営戦略に活かすのはもちろん、意思を明確にすることにもつながると考えています。ESG関連の活動を、国から要請を受けてやらなくてはいけない時代は終わったと思っていて、これからは企業が自社の意思を持ち、掲げた目的を達成するために何を成すべきを発信していくことが求められています。その発信を、外部のステークホルダーが共感・納得することで、企業のESG関連の活動が継続していくわけです」(今野氏)

こちらは、同社のDigital ESGプラットフォームを活用して、「価値の連鎖の道筋」を図解した物のサンプルだ。図の左側にはESG関連のアクションが置かれ、それが様々なところに価値の連鎖を及ぼしながら、最終的に財務や企業価値へのインパクトにつながっていく。企業価値の向上をKGIとする、一種のKPIツリーのような見方とも取れるだろう。

「我々が提供しているData Analyticsは、この価値の連鎖がされてきたのか否か。あるいは途中で途切れてしまった場合、どこで発生していて、どこから先の価値創造に向けた取り組みに企業として注力するべきか。これらウィークポイントを可視化することにフォーカスしています」(今野氏)

社員の納得性を高め、外部に説明可能な状態にする必要がある

デジタルテクノロジーを駆使し、ESG経営を推進するNECの岩田 太地氏は、「『やらなければならないこと』から『やりたいこと』へと変わっていく社員が増えていくのでは」と所感を述べる。

「ESGに対する意識変化はいい兆しである一方で、ESGのマテリアリティはセキュリティや人権対応、個人のエンパワメントなど、やることが多岐にわたっています。当社のような大企業であれば、それらを分業してやっていけるわけですが、重要なのはそれぞれの社員が納得をもって、どういうゴールに結びついているのか、またはそれらの活動を会社の営みとしていかに外部の方へ説明できるかだと思います。こうしたことを踏まえ、我々が新たな挑戦をしていきたいのは、データやAIなどのデジタルテクノロジーを使って、社員の納得性を高め、外部に説明可能な状態にしていくことです」(岩田氏)

現在NECでは、(前編で言及されたとおり)アビームコンサルティングとの協業のもとで、過去の経験則に基づいた財務・非財務の相関関係を分析している段階である。だが、今後は外的要因や過去の経験値に囚われずに会社の営みの因果関係を見つけ出してPDCAを回し、それをサステナブルな成長につなげていくことを視野に取り組んでいく予定だという。

岩田氏の言うとおり、ESGやSDGsの重要性は理解していても、いざ発信側として言葉で伝えていくとなると、難しいと感じる部分は多いだろう。これについて、メディアという立場で、ESGやSDGsを伝える意義や心がけていることについて、関氏は次のように語る。

「やると決めたら伝えないといけないわけですが、よくありがちなのは『伝えているつもり』になっていること。データを開示していくことはもちろん、それにプラスして世の中へ伝えていくときに大事なのは『ストーリー性』を見出すことです。その会社がどういう理念を持って、なぜESGアクションを進めていて、どのような青写真を描いているのか。データを示すのとは別に、物語として伝えていく必要もあると思っています。これこそ、我々メディアの役割だと思っていて、わかりやすい言葉使いや表現、メディアの持つエンタテインメントの力を生かし、本質的なストーリーを届けることが重要になってくるでしょう」(関氏)

また、日本企業は旧態依然とした組織風土を重んじたり、波風立てないためにも殻に閉じこもる傾向があると言える。こうしたなか、ESGを推進していくためには、社内リソースのみならず、外部の専門機関やパートナーとの協働が肝になってくるだろう。

鳥居氏は「Bコープの中でも、協働の観点は重要になってくる」とし、次のように所見を述べる。

「現在制作中の『 B Corp Handbook』の日本語翻訳版は第二版になるんですが、そこではDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の重要性が説かれています。自社のほか、他社と協業していく際にも大切な要素になっていて、例えば我々が行うアップサイクルの取り組みや利益の一部を出版社へ還元することは、個社だけではできません。とかく、社会課題は大きなものであり、自社だけで取り組んでいくことは困難と言えるでしょう。そのため、いろいろな企業と協業しながら連携を進めていっている状況です。また、意思決定の場や発言する機会を設ける際は、多様性を持たせることも大切になります。新しい視点を取り入れ、イノベーションを起こすためにも、性別や業種問わず多様な人とのディスカッションが大事になってくるでしょう」(鳥居氏)

他方で、各界のプロフェッショナルからさまざまな知見を集め、コーディネーションしていくことも、ESGやSDGsといったスケールの大きな取り組みを進めていく上では外せないことだと言える。

これについて関氏は、メディア運営の視点からうまくコーディネーションしていくためのコツや、プロフェッショナルとして振る舞うことの大切さを説いた。

「3年前からSDGs関連の特集をするようになり、現時点で劇的に変わったと思っているのが、『お付き合いする関係先がものすごく広がった』ことです。化粧品やファッション業界に加えて、観光省や学校、宇宙関係など、SDGsというひとつの目標をハブにしてどんどんと関係性が広がっていくのを実感しています。また、私自身『SDGsの何から始めればいいかわからない』という方に向けては、『個人でレジ袋削減や脱プラスチックなどに取り組むのは粛々と行い、それ以外はプロフェッショナルとしてやるべきことをやること』と助言しています。プロでやるときに大事なのは、多様性のある方々と組んでしのぎを削るというか、イノベーションを起こすために同業、異業種問わずに知恵を出し合っていくこと。これこそが肝要であり、プロフェッショナルとしてSDGsに取り組む意義だと思っています」(関氏)

ESGは専門部署から全社横断で取り組むようになってきている

異業種や畑の違う異分野との協業について、アビームコンサルティングのようなコンサル会社はどのように捉えているのだろうか。

「よく企業の方とお話ししているのが、『データで抽出されたものは完全解ではない』ということです。要は、データをひとつのファクトとしてどう取り扱っていくのか。そして企業のストーリーにどうそのデータを反映させていくかがとても重要になってくるわけです。そのストーリーを構築するにあたっては、社内への啓蒙や社外との連携が肝になります」(今野氏)

データのファクトをうまく活用し、注力すべきところに投資をしていく。また、企業の意思を発信する場合でも、独りよがりにならず、さまざまなステークホルダーと対話をし、合意をとった形で着地をさせていくことが求められると、今野氏は強調する。加えて、以前まではESGがサスティナビリティ推進部門が取り扱うテーマだったが、ESG関連のトピックが多岐にわたっていることからも、「全社横断で取り組むべきものに変わってきている」と今野氏は続ける。

「ESGを取り巻く環境は変化していると言える状況で、企業内で誰が管理するのか。誰が統括し、どうその結果を見ていくのかを考えなくてはならないフェーズにきています。社内でも企業の意思を出していき、賛同者やリードしていく人を明確にしながら活動を継続していくのが大事になってくるでしょう」(今野氏)

しかし、全社横断で取り組むプロジェクトも、やはり一筋縄ではいかないことが多い。大きな会社になればなるほど、「組織のタコツボ化」が生じやすくなるのが、日本企業の弱みだとも言われている。

そんななか、NECのような大きな企業は、社内でのコラボレーションや他社との協業についてどのようなスタンスをもっているのだろうか。岩田氏はセッションの締めとして、次のように意見を述べた。

「NECは2022年4月度から、大きな組織改革を行います。いわゆるピラミッド型組織からプロジェクト型組織へと移行し、横の連携を進めるプロフェッショナル職を重視していくようになります。さらに、社内の縦割りも排除していく動きも活発化させていく予定です。我々のキーとなるコラボレーターのひとつが金融機関になっていて、企業データのアクセス管理や利用目的管理、セキュリティなどを、デジタルテクノロジーのプロフェッショナルとしてしっかりと基盤を用意することが大事だと捉えています。

しかし、登壇されている皆様の意見にもあったように、データだけだと限界があるわけです。そこで、メディアなどのパートナーと心揺さぶるような、インスパイアできるストーリーも作っていくことも必要になってくるでしょう。こういったことを推進できる多様な人材が必要になってくると、今回出席して改めて感じました」

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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