「日本のプレイヤーは少ない、だからこそチャンス」クライメートテックにまつわる産学クロストーク

「日本のプレイヤーは少ない、だからこそチャンス」クライメートテックにまつわる産学クロストーク

目次

地球温暖化対策や脱炭素社会の実現、再生可能エネルギーの開発など、気候変動に関わる領域において、テクノロジーを駆使しながら課題解決を図っていく「クライメートテック」企業が注目を集めている。

気候変動が企業や金融機関に与える影響を可視化し、定量的に分析するためにAIやデータ分析等先進的な技術を活用することで、より具体的に物理的リスクなどを把握することができるようになるだろう。

2021年3月29日〜31日の3日間にわたって開催された「FIN/SUM FINTECH SUMMIT 2022」の2日目には、「クライメートテックの現状と未来」と題したパネルディスカッションが行われ、各界の有識者らが登壇。クライメートテックについて、熱いディスカッションが行われた。

本記事では、当日のセッションの様子をお伝えする。

・末廣 孝信(三井住友銀行 ホールセール統括部サステナブルビジネス推進室 部長)

・馬田 隆明(国立大学法人東京大学 FoundX ディレクター)

・北 祐樹(Gaia Vision代表取締役社長 東京大学 生産技術研究所 特任研究員)

・カワモリ ケンタロウ(Persefoni AI, Inc.CEO 兼 共同創業者)

・池田 賢志(金融庁 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)※モデレーター

世界的なクライメートテックの潮流に比べ、日本のプレイヤーは少ない

日本の気候変動における流れで言えば、1年半ほど前に当時の菅総理がカーボンニュートラルを目指すことを宣言したことが記憶に新しい。それ以降、急速にこの分野へ取り組んでいこうとする企業の動きが活発化しているような状況だ。

とりわけ、気候変動は金融への接続が非常に重要なものになっている。融資や投資といった金融上の判断をする際に、対象の企業がどれだけCO2を排出しているのかが重要な判断材料の一つになってきているわけだ。

要するに、CO2を大量に出してしまっている企業であれば、気候変動に悪影響を与えかねないとし、プライオリティが下がることを意味する。こうした判断を行うための情報やデータを、いかにして金融領域と接続していくかが焦点になっているということだ。

このような領域の課題解決を目指しているのがクライメートテック企業ということだが、日本ではどのような状況なのだろうか。

これについて、まず東京大学の起業志望者向けプログラム「FoundX」でディレクターを務める馬田 隆明氏が、世界のクライメートテックの現状について共有した。

「世界の潮流からまずお伝えすると、世界最大の資産運用会社ブラックロック CEOであるラリー・フィンクが『次の1000社のユニコーンは、グリーンビジネスから誕生するだろう』とコメントしていたり、ビル・ゲイツも『今後8〜10社のTesla規模の会社がグリーンの領域から出てくる』と予想していたりします。つまり、“ Best and Brightest”(最も優秀かつ才能に秀でた人材)がクライメートテックに流れてきていると言えます。さらにお金の方も同領域に流れてきており、2021年に入ってから気候変動専用のファンドを組成する動きが顕著になっています。こうしたトレンドから、海外ではIT系出自の起業家たちが続々とクライメートテックに参入し、すでに多くの資金調達が行われるようになっています」

ここで、クライメートテックの基本的な考え方や捉え方について、馬田氏が整理をしながら説明を続ける。

「クライメートテックは、【①理解する ②緩和する ③対処する】という3つの軸に分けて考えると理解しやすいと思います。それぞれの段階でのビジネス機会は図に示したとおりで、クライメートテックと聞くと主に『②緩和する』が注目されますが、実は金融が関わるという文脈で見ると、【①理解する】と【③対処する】において金融が果たす役割が大きいと考えています。【①理解する】という面は会社を評価する上で大切になりますし、【③対処する】という面ではリスクにどう対応していくかを推し量るのに重要になってきます。なので、日本のクライメートテックを盛り上げていくには、この3つの軸それぞれでアクションを起こしていく必要があるわけです」

炭素会計だけでもこの量であり、この両おいきでのスタートアップがゾクゾクト大規模調達しているのが、ここ2年のグローバルな動向だと馬場氏は強調する

同時に、馬田氏は「日本のクライメートテックを盛り上げることができなければ、波に乗り遅れる」と危惧する。

「まだまだ日本はクライメートテックのスタートアップが少ないのが現状です。世界的には1000社くらいの数がある一方、日本では100社にも満たない数にとどまっている。今後の課題は、いかに日本でクライメートテックのスタートアップを増やせるかだと思っています」

馬田氏によれば、そもそも気候変動領域に挑む起業家の数自体が少ないのだという。そのため、現在のFoundXにおける支援としては、クライメートテックの啓蒙活動はもちろん、直近のニーズを捉えるためにも顧客の紹介などを行っているとのことだ。

気候物理リスク分析プラットフォームを開発するGaia Vision

そんな数少ない日本のクライメートテックのひとつとして期待されているGaia Visionは、最先端の気候ビッグデータを用いたリスク分析プラットフォームを提供するスタートアップだ。

同社の代表取締役社長を務める北 祐樹氏は、気候や気象といった地球科学のバックグラウンドを持ち、現在も東京大学で研究員として研究を行いながら、Gaia Visionの事業も手がけている人物である。

「国内外問わず、近年は気候変動の影響によって世界中で気象災害が増加傾向にあります。台風、洪水、森林火災、熱波、強風など自然が猛威を振るい、甚大な被害をもたらしていることは周知の事実として知られていることです。それに伴い、経済的な損害額も増えているような状況になっています。そんななか、最新の気候科学の研究成果と利活用がビジネスや金融に必要になってきています。気候変動が差し迫る世界で、気候科学を活かした社会システムの変革が求められていると言えるでしょう」

Gaia Visionは、多くの方にサイエンスを利用してもらうことを念頭に、まずは河川洪水に特化した形でビジネスを始めているという。

「東京大学の最新の研究知見であるグローバル河川氾濫モデル『CaMa-Flood』を用いて、世界中の洪水シュミレーションを過去から将来まで正確に予測することを行っています。企業や社会に対してどのくらい影響があるのかを最新の気候科学における知見を活用しながらシミュレーションできる、独自の仕組みとなっています」

「企業あるいは金融のプレイヤーにとっては、気候変動による物理リスクはWhen・Where・Whatの観点で重要になってきます。そこで我々が立ち上げたのが『気候物理リスク分析プラットフォーム『Climate Vision(仮)』です」

Climate Vision(仮)は企業の場所を入力するだけで、簡単に気候変動の物理的リスクを可視化できるものだという。

日本含め、世界中のさまざまな研究機関から気候のビッグデータが出されているわけだが、それらをもとに同社が、簡単にデータへとアクセスできるプラットフォームを構築し、そこに解析のアルゴリズムを組むことで、非専門家でも容易にリスク管理や分析に活用できる仕組みを想定しているという。

「さらに、単に気候変動のデータだけでなく、そこから推測される将来の被害について、財務情報として出力できるのもユニークな点と言えます」

炭素会計プラットフォームを提供するPersefoni社

2020年に創業し、これまで累計1億2千万ドルをVCから調達しているPersefoni社は、気候管理・炭素会計プラットフォーム「Persefoni(パーセフォニ)」を提供している。

Persefoniは、CO2排出量を一元的に管理し、計算・可視化するクラウドサービス。温室効果ガス排出量の算出から分析、レポート作成までを一気通貫で行うことができるという。

企業は、現在の排出量を把握することでカーボンニュートラルへの道筋を見つけるのに役立つほか、炭素会計における計算も全て自動化している。従来であれば、複雑な計算式や専門的知識を有する必要性が計算過程で生じるわけだが、Persefoniではユーザーがどこでどんなデータを入手すれば計算できるのかをサポートするオンボーディングのガイダンスを用意しているので、非専門家でも問題なく算出処理を進めることができるというわけだ。

Persefoni社CEOのカワモリ ケンタロウ氏は、Persefoniの特徴を次のように述べる。

「コアな部分である炭素会計と、競争環境に置かれているセクターや競合他社と比較が可能な気候変動ベンチマーク、そしてパリ協定で定められた1.5度/2度目標に準じて、組織のCO2排出量を可視化する気候変動モデリング機能も提供しています。実際に、我々のプロダクトを使うユーザーは、主に2つのユースケースを想定して使っていて、1つ目はカーボンフットプリントが何であるかを理解し、新しいコンプライアンス要件に合うように満たしていくことです。新しい規制が走ったとき、何を満たせばいいのかを理解するのにプロダクトを活用していただいております」

また2つ目は、カーボンフットプリントを可視化し、炭素削減のイニシアチブが深まるように設計していることだ。特に計測対象については、セクターによっても地域によっても異なってくるからこそ、先述したようなオンボーディングが重要になるという。

さらに、「Persefoni社は気候変動やサステナビリティ領域で、世界でも有数の専門家らがアドバイザリー・ボードメンバーとして名を連ねている」とカワモリ氏は強調した。

三井住友銀行が世界の銀行に先駆けてTCFD開示した理由

三井住友銀行の末廣 孝信氏は、各登壇者の発表を聞いての所感や、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)対応を行ってきた経験で得たことについて述べた。

「クライメートテック領域の動向を追っていると、国内外問わず、どの企業も開示や定量化、CO2の見える化を行ってきている印象を抱いています。今回のカンファレンステーマである『ビジネスと暮らしの二刀流』と照らし合わせてみても、企業が基盤としているのは地球であり、個人の暮らしにフォーカスしても、世界中で異常気象や過去に類を見ない災害が頻発しています。

今ここで手を打っておかないと、将来的には地球に住めなくなってしまうわけで、気候変動とどう立ち向かっていくかが企業においても必須事項になっていると思っています。そんななか、三井住友銀行グループでは世界の銀行に先駆けて、気候変動による物理的リスクや移行リスクを定量化しました。また、どのような算定のプロセスを経て可視化をしていったかも開示したことで、他の銀行も当社と同じような仕組み、あるいは全く違うアプローチで開示する動きが生まれたりと、流れを作れたのが良かったと思っています」

そもそもだが、なぜ三井住友銀行は気候変動で生じるリスクの定量化や、そのプロセスまでをも開示したのか。末廣氏は「2017〜2018年でも、企業によっては定量化の分析を行っていたものの、『ほとんど事業への影響はない』といった開示が多かった」からだと話す。

つまり、どのくらいの金額的な損失になているのか、不透明だったというわけだ。その点について、投資家や株主からの質問が多く寄せられるようになったことから、どの銀行よりも早く数字として見える化し、開示を行うことになったという。

「翻って言いますと、手作業のところが多く、非常に苦労した場面もありましたし、決断の連続でした。ただ、この苦労を経験したからこそ、現在さまざまな企業と組んで制作しているTCFD定量化分析開示ツールや、CO2の見える化におけるソリューションに活かすことができていると思っています」

クライメートテックの将来性は、企業や投資家にとっても大きな価値創造になりうる

クライメートスタートアップ各社は、今後サービスを普及させていくために、どのような展望を抱いているのか。Gaia Visionは、いかに顧客に理解してもらうかが重要になると捉えていると述べる。

「営業活動をしていると、気候変動のリスクを見たくない・知りたくないという理由で、契約につながらないケースもあります。我々としては、あくまで気候変動がどう変化していくのか、それにどう適応するかという観点でサービスを展開しようと考えています。特に、日本は防災技術やBCP技術が非常に優れているので、そういった適応シーンまでご提供することで、気候変動に対するレジリエンスが生み出せるよう、尽力していきたいと思っています。将来的にはクライメートテックに優秀な人材がたくさん入ってきて、業界が盛り上がるような下地を作っていくためにも、まずは足元のスケールを考えていかなければなりません」(北氏)

またPersefoni社も同様に、マーケット自体の教育が必要だと続ける。

「クライメートテックはまだできたばかりの市場ですから、お客様やパートナーは学習をしている段階だと考えています。炭素会計や物理的リスクなど、専門的な用語や技術を説明しても、まだ理解してくれる方は少ない。テクノロジーのソリューションを提供し、プロダクトを改善させていくためには末廣さんが仰ったように、市場における競争に加えて共創(コラボレーション)も必要になってくるでしょう。そういう意味では、さまざまな業界や企業を巻き込んだエコシステムを構築していくことが大切になるわけです。一番早くアグレッシブに動いた企業が、たくさんの価値を生み出せる。いわば、時間が限られている気候変動の領域においては大きなビジネスチャンスがあり、企業にとっても投資家にとっても、大きな価値創造を見出せる可能性があると感じています」(カワモリ氏)

これに対して東京大学の馬田氏は、「デマンドサイドを増やしていくためには、サプライサイドすなわちクライメートテックに関わる人を増やすことが大切」だとし、今後のスケールで考えていくべきことについて意見を表明した。

「クライメートテックのスタートアップを増やしていくこともそうですし、雇用を生み出していくことも重要になってきます。そして、自分にとっていい会社があれば転職をして、もしないのであれば自らが起業するのもひとつの手です。

また、カワモリさんが市場の若さを指摘していましたが、新しい市場を作っていくには、より良いルールメイキングが大切になってきます。市場を発展させるためにもルールをきちんと定め、国や大学としても何か貢献できることがあるのではと考えています。そして、クライメートテックは非常にオポチュニティがあると捉えていて、解決すべき大きな課題があるからこそ、そこには必ずお金が付いてきますし、非常に大きな機会があると思っています。個人的には、この領域にチャレンジする人を輩出していき、担い手を増やせるようにしていきたいなと感じています」(馬場氏)

最後に、三井住友銀行の末廣氏はクライメートテックについて、「定量化したあとは削減していき、最終的にゼロにすることが大切。テクノロジーを活用した炭素会計含め、企業戦略としてどう推進していくかを、我々だけでなく企業と一緒になって考えながら、サポートできるようにしていきたい」と述べ、セッションの最後を締めくくった。

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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