サステナブルな社会に向けて、金融が果たすべき役割とは?

サステナブルな社会に向けて、金融が果たすべき役割とは?

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気候変動や生態系の問題が重要性を増す中、金融がかつてないほど持続可能性(サステナビリティ)を意識した動きを求められる時代になってきた。経済や社会、自然環境を持続可能なものにするために必要なお金の流れはどうあるべきか、またテクノロジーはそれをどうサポートできるのか。

2021年3月29日〜31日の3日間にわたって開催された「FIN/SUM FINTECH SUMMIT 2022」の3日目では、「金融× サステナビリティが生み出す新たな価値」をテーマにしたパネルディスカッションが行われ、有識者によるディスカッションが行われた。本記事では、セッション当日の様子をお伝えする。

  • 藤井 達人(日本マイクロソフト エンタープライズサービス事業本部 業務執行役員 金融イノベーション本部長 / 日本ブロックチェーン協会 理事)
  • 中島 徳至(Global Mobility Service 代表取締役社長 CEO)
  • 副島 豊(日本銀行 金融研究所 所長)
  • 末廣 孝信(三井住友銀行 ホールセール統括部 サステナブルビジネス推進室 部長)
  • 尾山 耕一(EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジック インパクト パートナー  / EY Japan SDGsカーボンニュートラル支援オフィス メンバー)※モデレーター

各企業・金融機関が考えるサステナビリティ

まずはサステナビリティへの取り組みについて、各社から現状共有がなされた。

日本マイクロソフトで業務執行役員を務める藤井 達人氏からは、マイクロソフトグループが掲げる企業ミッション「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」と、これを達成するための会社としてのコミットメントについて紹介がなされた。

「特にカーボンに関しては、1975年の創業以来で排出したCO2の総量を含めて埋め戻すという、野心的な目標を掲げています。これらの目標は当然ながら、一社でできることではないので、グループの従業員を中心として、お客様やパートナー、製品・サービス、達成のための政策などを含むポリシー、そしてオペレーション、それぞれのレベルでサステナビリティの感度を高めて取り組むということをやっています」(藤井氏)

中島 徳至氏がCEOを務めるGlobal Mobility Serviceは、金融包摂型のFinTechサービスを展開するグローバルベンチャー企業だ。従来の与信審査に通過しない人でも、独自のIoTデバイスとフィンテック技術および金融ネットワークを活かして、自動車のローン/リースが可能になるというサービスを提供している。与信審査を通過できないことで車の購入ができない人が、世界には約17億人もいるとのことで、これらの人々の金融へのアクセスを可能とする事業というわけだ。

「これまで電気自動車の会社を2社経営してきたのですが、その中でもフィリピンで展開していた事業をきっかけに、いくら真面目に働いていても金融機関から与信を与えられず新しいモビリティを購入できないという人の存在を知りました。つまり届けたい国や地域に最新のモノが届かず、それによってサステナブルな面で社会へのネガティブな影響が出続けるという現実を目の当たりにした。
我々が取り組んでいるのは、サステナブルな世の中を作ることではなく、サステナブルが当たり前になる仕組み作りです。そのために、様々な金融機関さんなどと協働している状況となります」(中島氏)

金融機関の立場からは、三井住友銀行でサステナブルビジネス推進室の部長を務める末廣 孝信氏が参加した。三井住友銀行含むSMBCグループでは、サステナビリティを「「現在の世代の誰もが経済的繁栄と幸福を享受できる社会を創り、将来の世代にその社会を受け渡すこと」と定義しており、2030年に向けて長期的なKPI(SMBC Group GREEN×GLOBE 2030の長期目標)を設定している。

たとえばグリーンファイナンスおよびサステナビリティに資するファイナンスについては、2020年度から2029年度までに30兆円の実行額、そのうちのグリーンファイナンスは20兆円の実行額を、それぞれ定めている。また、2022年4月からの高校学習指導要領改訂で「金融経済教育」の内容が拡充されたことに紐付き、同社における金融経済教育についても2030年までに150万人の参加者を目指すとしている。

そして日本銀行からは金融研究所 所長である副島 豊氏が登壇し、サステナビリティの現状に対する未来と現在のトレードオフからの視点が語られた。

「このような大きな課題に対して、定性的な観点から議論に入るのはもちろんなのですが、そこから具体的に何をするべきかとなった時に、「どれくらい酷い未来になるの?」という“量”の話になります。こうなると、やはり数字で把握しなければならないので、どうしてもモデルという物が必要になります。
経済学では「負の外部性」、つまりは対策を怠った場合にどれだけの負の影響が及ぶのかを考えるアプローチがあり、このようなところからバランスを考えていく必要があります。昨今ではサイエンスのツールがたくさんあり、経済学もその一つであるので、そういうところからのコントリビューションが必要なんだろうなと考えています」(副島氏)

サステナブルな社会に向けて企業は何をするべきか?

次に、「サステナブルな社会に向けて企業は何をするべきか」という点について、各社の意見が持ち寄られた。

日本マイクロソフトの藤井氏は、システマティックな運用の実現が鍵になると強調する。

「まさにここ数年で、サステナビリティに関しては、企業のミッションのど真ん中として取り組んでいくべきテーマとなりました。そのためには、様々なことをデータとして捉え、分析し、うまく結果につなげていく。こういうサイクルを回していくことが必要になります。
その際に、サステナビリティに関わる非財務データの約8割は非定型データであるとも言われているので、マニュアルなどで手動分析するなどの対応では全く間に合わないわけです。よって企業側の対応としては、できるだけ早い段階で運用の方法論を整理した後に、システム化をしてシステマティックに回していく必要があるかなと思います」(藤井氏)

また消費者の意識変革にも鑑みた上で、消費者への対応と企業の取り組みをいかにして両輪で回していくべきかという観点もあると、藤井氏は続ける。

「消費者も変わっていかないといけませんし、消費者のニーズに対応して企業側も製品・サービスをサステナビリティに対応していかなければなりません。ここのバランスについても企業は意識をしながら、ビジネスを展開していく必要があるでしょう」(藤井氏)

またGMSの中島氏からは、「どのような社会を創造していくかに尽きる」というコメントがなされ、そこに内在する「意志」の重要さが強調された。

「発想が飛躍的になればなるほど、マーケットからの答えというよりかはプロダクトアウト型の行動をしないと、なかなか意志を持って取り組むことはできないなと感じています。
その上で企業に求められることは、その意志をいかにして行動へとつなげるかということだと考えます。たとえば私たちの場合は、多くの企業さまと資本業務提携等をしており、たとえば日本だとアプラスというファイアンンス会社と提携して、外国人労働者向けのローンサービスを始めています」(中島氏)

GMSのFinTechサービスを活用し、自動車を安全に遠隔起動制御するIoT デバイス「MCCS」を搭載した車両を対象とした新型マイカーローンを開発・提供している。2021年7月のリリース前にも、愛知県を中心に新型マイカーローンの検証を実施してきたという

「これまでは、永住権や日本語が話せる保証人がいるなどの条件を満たさないと、自動車ローンを利用することができませんでした。現場のお話を伺っていると、外国人の皆様がかなり真面目に働いているということで、そういった課題に対して金融機関様が挑戦されると覚悟を決められて、しっかりと経営判断をされて取り組まれています。その強い「意志」を形にする役割を担い、常に先頭を走っていくのが、僕たちスタートアップなんだと考えています」(中島氏)

あくまで、人々は合理的にしか行動しない

サステナブルな社会に向けた企業の取り組みについて、三井住友銀行の末廣氏からは消費者目線から見た消費選択に関するコメントがなされた。

「いま、小中学校ではSDGsが普通に教育の中に組み込まれています。となると、これからの若い世代は、環境に少しでもいいものを求めるという消費選択をしていくことがスタンダードになると思うので、企業としてはここが大きな課題であり、また転換点だとも考えています」(末廣氏)

また同氏は、日本企業が本来的にサステナブルな仕組みとの親和性があるとの考えから、そこに対する期待も述べた。

「私の中では、江戸時代がそうであったように、日本人はこういう分野に特に意識と強みがあると思っています。昔からの“もったいない”などの意識が若い世代に再度広がっていくことが、企業にとってのヒントにもなってくると感じます。
また企業の側から見ると、日本はグローバル市場の中でまだまだ低いという評価がありますが、日本は「三方よしの精神」をどこも持っています。これまでの会社の素地を思い出していくと、企業に「社会の公器」だという意識があるのは明確だと感じます。このような素地があるからこそ、企業だけでなく消費者も含めて、どういうふうに社会問題にお金を振り分けていくのかをみんなで考えて、より良いものに使っていくことが大事だと考えています」(末廣氏)

さらに日本銀行の副島氏は、「人々は合理的にしか行動しない」という前提のもとで、サステナブルな社会のデザインの仕方を考えていくべきだと強調する。

「サステナビリティへの取り組みがサステナブルであるためには、理念だけではダメだと思っています。個人の行動を変えていくためには、「そっちをやった方がお得だよ」という形へと仕組みそのものを変えていかないと、結局は長続きしないでしょう。
ではどう変えるべきかというと、経済学のモデルが一つ活かせると考えています。ちょっと宣伝になりますが、気候変動問題をどう捉えるかに対して金融研究所ではこれまで何本かレポートを書いており、今回それらを1つのサーベイ論文にまとめたものを発表しました。是非ご覧になってみてください」(副島氏)

気候変動とマクロ経済の関係を分析し、政策評価を行うためには、これらの間の相互作用を適切にモデル化し、分析の枠組みを作る必要がある。「気候変動の経済学」ではそのフレームワークを提示するとともに、気候変動問題に対処するための政策を考える手掛かりを提供している。このディスカッションペーパー『「気候変動の経済学」:欧米における主要研究の紹介』では、欧米における主要な研究をいくつか取り上げ、そのエッセンスが解説されている

「人々はいいものを使いたがるので、企業はそれがサステナブルな社会という目標にしっかりと合致するようなモノを出していき、それを嗜好する仕組みを作っていく必要があります。これに対する枠組みを決めて実行していくことが、長続きしていくためのポイントでしょう」(副島氏)

より良い金融市場に向けた企業評価が金融には求められる

ここまでのディスカッションを前提に、金融がサステナブルな社会に対して果たすべき役割は何なのか。これについても、各社からのコメントが寄せられた。まず日本マイクロソフトの藤井氏は、米フィンテック企業のAspiration社を事例に、金融にまつわるトレンドを共有した。

「この分野ですと、特に欧州の若い人たちを中心にサステナビリティの機運が高まっていますが、たとえばデジタルバンクの領域で、サステナビリティに貢献できるような機能を備えたサービスを提供しているフィンテック企業が増えています。たとえばアメリカのAspiration社では、カードを使うごとにCO2の排出量に貢献できたり、それが溜まっていくと食事ができたりといった機能が実装されています。そうなると、人々はコミュニティ化していき、達成に向けた力学が働くことになります。そういうところが大きなトレンドとしてみられるかなと思っています」(藤井氏)

またGMSの中島氏は、スタートアップを経営する立場として、SDGsという大きな流れが追い風になっていると強調する。

「僕たちは金融包摂型フィンテック企業として、一社では取り組めないような大きな課題に立ち向かっているわけですが、その中でSDGsという流れが各金融機関さまの背中を押しているのは大きいと感じています。つまり、短期的な収益ではなく、より長期的な目線でもって、経営そのものをサステナブルな社会へと適応させていくという意志の表れが顕著だと感じています。
たとえば貸し出し金融の幅を広げて適正な収益をしっかり取りつつ、リスクもしっかりとヘッジする。こういうことが、意志をしっかりもてば、デジタルテクノロジーを駆使して実現できるようになってきたわけです。まさに、この時代だからこそできると感じています」(中島氏)

一社でできることには限界があるのは金融機関も一緒であり、産官学連携したアクションの重要性について、三井住友銀行の末廣氏も続ける。

「このサステナビリティの領域において、日本の金融機関はどんどんと変わってきています。今まで自前主義でやってきたところが、いろんなところを組んでいかねばならないという意識へと劇的に変わっています。SDGsには細かく169の項目があるわけですが、その中の約1割が金融に対する期待としてあります。サステナビリティの文脈で、金融機関も含めていかに産官学連携していくかが求められていると感じています」(末廣氏)

この「一丸となった進め方」に際してポイントとして、日本銀行の副島氏は「評価のあり方」を強調する。

「サステナビリティに向かって企業の行動変容を促すにあたって、非常に大きな役割を果たすのが、金融市場における企業の評価だと思います。この評価が適切に機能するからこそ、企業は情報開示をしっかりと行うようになるわけで、評価をしないと「今までのままでいいんだ」ということになります。
すでにこの動きが始まってから時間は十分に経過していて、数字というものもたくさん出てきているので、そうしたものの分析を進めていき、より良い金融市場に向けた企業評価というところが金融には求められるんだろうなと考えています」(副島氏)

10年後に到来する社会は、間違いなくその人の志や技術によって築かれていく

最後に、各登壇者から聴講者に向けたエールのコメントがなされた。ここでは、副島氏と中島氏からのものをご紹介する。

「サステナブルのお話をしていると、よく「成長を諦めなければいけませんか?」という声を聞きますが、私はそうではなく、サステナブルであるためには成長が必要であり、その成長のために金融が果たせる役割は大きいと考えています。
技術革新はどんどんと進んでいくわけで、今の技術を所与として考える必要は全然ありません。先ほど私からお伝えしたのは、未来と現在のトレードオフから考えるということでしたが、もう一つ別の視点から捉えますと、イノベーションがトレードオフ環境そのものを変えていくことも十分にあり得るということです。サステナブルな社会を進めるにあたっては、そういう方向を目指していくことがとても大事なのではないかと考えています」(副島氏)

「つまるところ、あるがままの未来ではなく、あるべき未来に対して、意志をもって作ろうというところに尽きると思います。行動にはリスクがつきものなので、そういうところにスタートアップを使ったり、DXを使ったりして、お互いの強みを活かす形で進めていくべきだと思います。
なお、よく学生の方とお話をするのですが、学生から見ると世界はすでに出来上がっていて、自分たちがチャレンジする隙間さえないと感じる人が多いようです。でも、どの時代であってもそれは一緒だと思っていまして、10年後に到来する社会というものは、間違いなくその人の志や技術によって築いていかれると思います。つまり、意志さえしっかりと持てば、社会は間違いなくサステナブルな方向へと歩んでいけると思います」(中島氏)

   

取材/文:長岡武司

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