代替マグロにヴィーガン和牛。世界の「植物性代替肉」市場はここまで来ている 〜Food-Tech Webinar Fall 2022レポート

代替マグロにヴィーガン和牛。世界の「植物性代替肉」市場はここまで来ている 〜Food-Tech Webinar Fall 2022レポート

目次

2022年9月1日に開催されたフードテックイベント「Food-Tech Webinar Fall 2022 powered by addlight/SUITz」。

後編記事では、まず独自の技術で「マグロ」の代替食品の製造にチャレンジするスタートアップと、ヴィーガン「和牛」を追求するスタートアップの2社による事業プレゼンテーションと、後半の登壇者全員を交えたパネルディスカッションの様子をレポートする。

  • Ms. Kelly Pan(Impact Food, CEO and Co-Founder)

  • Ms. Stephanie Claudino Daffara(Impact Food, COO and Co-Founder)

  • Mr. Blair Bullus(Top Tier Foods .President / Wamame Foods .Founder & President)

  • 熊谷 伸栄(株式会社アドライト パートナー)※モデレーター

  • 木村 忠昭(株式会社アドライト 代表取締役)※モデレーター

※この記事には前編があります。

麹や旨味など、日本古来からの「食の智慧」に盛り上がる欧米市場を探る 〜Food-Tech Webinar Fall 2022レポート

刺身での食感を目指して開発されたImpact Foodの「植物性マグロ肉」

最初にプレゼンテーションを行ったのは、米カリフォルニア州を拠点として植物性のマグロ肉の開発・販売を進めるImpact Food社だ。

同社では、植物由来成分やたんぱく質、藻類の成分等を独自にブレンドしてテクスチャー化し、シーフード特有の「食感」等を再現した独自の技術を開発している。食感というものは魚種やその生育状況、季節、鮮度など、様々な変数の影響を受ける「筋繊維の質」で決まるのだが、ここを人工的に再現するというチャレンジを行っているわけだ。

そんなImpact Food社による最初の商品は、生寿司での利用に耐えうる植物性のマグロ肉だと、同社CEOのKelly Pan氏(以下、パン氏)は説明する。

「Impact Foodが提供するマグロは、見た目も機能性(栄養価等)も自然界にいるマグロと同等で、寿司や刺身などの料理への使用にも耐えうるクオリティを実現しています。また、相対的にカロリーは低く、おまけにマグロの体内に蓄積されている水銀も存在しません」(パン氏)

Ms. Kelly Pan(Impact Food, CEO and Co-Founder)

同社が最初の製品としてマグロをチョイスした背景について、パン氏は「グローバル規模での乱獲」に対する危機感を説明する。

太平洋の熱帯・温帯海域に広く分布するクロマグロは、高値で取引されることから乱獲の被害が特に激しく、歴史的生息数の3%以下にまで個体数が減少していると言う(参考情報はこちら)。

魚は今日、世界で最も消費されている食品の一つと言っても過言ではなく、日本においても世界第4位の魚の消費量を誇る国なのだが、食用以外の用途も含めた乱獲は年々拡大しており、グローバル規模で大きな問題になっている。以下のグラフのオレンジ色の部分が、乱獲(Overfished)というサステナブルでない方法で水揚げされた魚の比率を示しており、一方で漁獲枠に余裕がある(Underfished)のはわずか1割程度であることが分かるだろう。

つまり、サステナブルな海洋資源の活用を目指して、漁獲によらない魚肉食文化の創出を目指しているというわけだ。

「このソリューションを基盤として、私たちは植物性魚介類のための革新的な食品技術プラットフォームを構築しています。今回ご紹介したマグロのようなホームカット肉(丸ごとの肉)の後には、ホタテのような軟体動物類にも着手し、中長期的にはカニやエビなどの甲殻類の代替肉も実現したいと考えています」(パン氏)

和牛の「質感」を追求するWamame Foods

続いては、カナダのバンクーバーを拠点にヴィーガン和牛を開発・販売しているWamame Foods社がプレゼンテーションを行った。同社は、フードテック・アグリテック分野で世界トップファンドの一社であるスイス・Blue Horizon社の投資先企業である、Top Tier Foods社の子会社となるフードテック企業だ。

同社は「牛肉業界の著名団体と肩を並べる初の最高級植物由来ブランドの確立」をビジョンに、日本食を中心として、植物性タンパク質のハイエンド市場を狙っている。

2020年に発表されたブランド「Waygu™」では、その製品第一号として、日本で生産された大豆由来の焼肉用薄切り(ストリップ)代替肉をリリースした。こちらはシンガポールやアメリカ、カナダで販売され、その品質や風味、肉質において大いに注目された。元々は高級レストランでの展開が想定されていたが、現在はそれ以外にも、テイクアウト寿司など米国最大の日本食生産企業であるAFC社(Advanced Fresh Concepts)のようなマス向けチェーンでも展開されているという。

なぜ日本食に注目したかというと、グローバル規模での注目度が増している一方で植物性代替食品にはまだまだ消極的な姿勢が根強くあるからだと、同社代表のBlair Bullus氏(以下、ブルス氏)は説明する。

Mr. Blair Bullus(Top Tier Foods .President / Wamame Foods .Founder & President)

「日本食は今や本当にグローバル規模での期待値が高まっている一方で、日本の食品企業は日本食の伝統的要素を守ろうとするあまり、なかなか新しいトレンドへと移行しない傾向にあります。当然ながら植物性代替食品についても消極的だからこそ、Wamameのような新興ブランド、日本食の分野で市場シェアを創出・獲得するチャンスがあると考えています」(ブルス氏)

ブルス氏によると、現在の植物由来の牛肉市場は、代替の「ひき肉」を提供する大手生産事業者が主力となっており、ブロック肉や高品質な商品への投資はほとんど行われていないという。これに対してWamame社では、先述の薄切り肉の他にも、ステーキ用の肉やロース肉など、ブロック肉としての肉質を担保することに注力している。

そのために、大学機関をはじめ、様々な研究者や学者、グローバル企業とのコンソーシアムを組み、クオリティの担保に向けて日々研究開発を進めているというのだ。

「私たちは和牛の基本である脂肪、風味、食感等について、ブリティッシュ・コロンビア大学などの世界一流の大学と共同で開発を進めています。特に和牛の脂身は、知的財産として非常に魅力的な要素だと考えているので、開発に力を入れています」(ブルス氏)

ここまで紹介されたとおり、同社で最も重視されているのは「肉の質感」である。今後は日本食の分野だけでなく、あらゆる料理のレストランや製造業に対応可能な形で、高品質植物由来代替牛肉を開発していくと、ブルス氏は強調する。

「現在、Waygu™を試験的に提供している段階で、実際に世界中の大手寿司チェーンで試用されています。特に来年は非常に楽しみで、2023年の第4四半期と翌第1四半期には最大手の寿司チェーンでこの製品の展開が始まるでしょう。このように、日本食の分野で同じようなプレミアムな展望を持つ企業と提携することで、多くのチャンスが生まれると考えています」(ブルス氏)

世界の消費者動向と、日本市場への期待と課題

続いては、ここまでの登壇者や企業関係者、主催者を交えてのパネルディスカッションが行われた。中でも大きな論点となったのは、両社が提供する代替肉に対する消費者動向である。

Impact Food社の共同創業者でありCOOのStephanie Claudino Daffara氏(以下、ダファラ氏)は、まずは米国の消費者動向全般について、「食肉の頻度を減らすことで環境と食の持続可能性に貢献しようとする人が増えている」と説明する。

「たとえば植物性食品やベジタリアンへと100%振り切るという話ではなく、自分がどれだけ肉を摂取しているかを意識し、たとえば週の中でも肉を食べない曜日を決めるなどの取り組みを始める人が増えています。また、フレキシタリアン(基本的には植物性食品を食べるが、時には肉や魚などの動物性食品も口にするという、柔軟なベジタリアンスタイルの人)のトレンドも増え続けています」(ダファラ氏)

Ms. Stephanie Claudino Daffara(Impact Food, COO and Co-Founder)


このような環境下において植物性代替食品のインサイトはどこにあるのだろうか。同社が欧米市場における水産食品領域について実施した調査によると、「味と食感」「一貫性ある品質」「従来の水産食品(動物性食品)との価格競争力」の3点が、重要な決定要因であることが分かったという。

日本市場においてもこの傾向は変わらないものの、より「環境保護」や「持続可能性」に対する姿勢が、植物性代替食品購入の決定要因になっているとダファラ氏は続ける。

「環境保護は、日本の消費者が代替シーフードを食べることを決定する上で大きな役割を果たしています。67%の消費者が乱獲の削減を購入の際の重要な環境要因として捉えていますし、61%が海洋生息地の保護、および海洋動物への危害の削減と漁業による海洋へのプラスチック廃棄物の削減に関心を寄せています」(ダファラ氏)

このように、消費者の環境に対する意識とそれに伴う植物性代替食品へのニーズは高まっているものの、消費者の「認知度の低さ」が根本的な壁になっていると言う。Impact Food社が実施した調査結果によると、日本の消費者の55%が「代替水産物については聞いたことがない」と回答しており、今後の積極的な啓発が望まれる状況とのことだ。

Wamame Foods社のブルス氏も、「日本では北米よりもクリーンラベルの製品が多く、サステナビリティの要素を重視しているようだ」とコメントしつつ、今後の需要増への期待を述べた。

「昨今の天災に起因する緊急事態を目の当たりにすると、脱炭素の緊急性はますます高まっていくことが想定されます。私たちは日々牛肉を食べていますが、植物由来の代替食品を食べることで、炭素排出量を減らすことができます。よって、気候変動による緊急事態が深刻になるにつれて、環境に配慮した持続可能な選択肢として、植物性代替食品への需要もますます高まっていくと考えられるでしょう」(ブルス氏)

では、両社は日本市場への参入をどのように考えているのだろうか。ブルス氏は、「日本市場は非常に興味があるものの、なかなか難しいフィールドだ」とコメントする。

「先ほどもお伝えした通り、日本は食品産業において非常に伝統的な側面があるので、正直にお伝えすると参入しにくい市場だと捉えてます。弊社はシンガポールに拠点を設けて事業展開しているのですが、それは植物性代替食品市場として非常に進歩的だからです。もちろん、今後の参入を検討したいとは考えていますが、そのためには日本国内で適切なパートナーシップを組むことが重要だと捉えています。植物性代替食品の事業展開へと積極的に投資してくれる企業との強力なパートナーシップが必要なのです」(ブルス氏)

この点についてはImpact Food社も同様に捉えており、セッションの中でCEOのパン氏は、日本国内での協働を呼びかけた。

「製造面でも、日本のメーカーやサプライチェーン、販売・流通など、より持続可能な選択肢を探しているパートナーがいれば、ぜひお声がけください。私たちは常に既存のインフラと連携しながら、事業を拡大する方法を模索しています」(パン氏)

植物性代替食品にまつわる規制の論点とは

当日は参加者からの質問も積極的に議題として挙げられたが、その中でも「規制」にまつわる質問(画像内4点目の質問)はxDXとしても要注目な内容であった。

以下の記事で日本における細胞農業の規制について紹介したが、植物性代替食品についてはどうなのか。

細胞農業のルール整備に向けて。日本がグローバル市場で発言力をもつためのポイントとは 〜超DXサミットレポート

ブルス氏は「注意すべき問題はラベリング(表示規制)だ」と強調する。

たとえばフランスでは、2022年10月1(日)より植物由来の製品に対して、ステーキやソーセージ、ナゲットといった動物由来の製品の名称を使うことを禁止する政令を定めている(詳細はこちら)。

植物性代替食品のことを、たとえば「動物性食品であるバーガーだ」と消費者が誤認してしまうことは、2010年代後半から各国で問題となっていた背景があり、たとえばアメリカでは2018年にミズーリ州が「ミート」や「ソーセージ」といった名称を使用したラベルを禁止する州法を可決しており、そこから30以上の州で同様の内容が可決もしくは検討されている状況だ。

「欧米のみならず、たとえば南アフリカでも、植物性代替食品のことをハンバーガーと呼ぶことはできません。たしか“植物性の丸焼き”みたいな表現をしないといけないのです。このような国の違いを一つひとつチェックして展開をしていく必要があり、弊社としてもそこに注意しています」(ブルス氏)

一方で食品安全上の問題については、いわゆる細胞培養に代表されるような新技術とは異なり、既存の食品をベースに製造されるので、基本的にはクリアしているとImpact Food社のダファラ氏は説明する。

「私たちは全ての製品において、アメリカで一般に安全と認められている原料を使用しています。ですから規制のハードルは、既存のもの以上にはありません。アメリカでは州ごとに異なる規制に対する証明書があり、それをクリアするためにプロセスを審査してもらって問題がないことを証明するだけです。比較的シンプルだと言えます。細胞農業などと違って、植物性代替食品はすでに多くの製品が市場に出回っていますし、安全性も認められているので、今後も食品安全上の規制で大きく苦労することはないと想定しています」(ダファラ氏)

最後に、両社からイベント参加者へのメッセージとして、今後の事業展開(画像内6点目の質問)についての構想が寄せられ、セッションは終了した。

「私たちはシェフやレストランに対して、私たちのブランドと製品のアンバサダーになってもらうようなアプローチをとっています。植物性代替食品は、まだまだ消費者に対する積極的な啓発が必要です。ですから、たとえば寿司職人のような方々と協働しながら市場を検証・開拓することが不可欠なのです。私たちはアメリカ市場からスタートしていますが、当然魚の消費量が多い国にも目を向けているので、日本でも中長期的に展開していきたいと考えています」(パン氏)

「私たちの計画はとてもシンプルで、腕の良いシェフと一緒に仕事をするということを第一に考えています。そのために現在、アメリカ、シンガポール、それからカナダで、高級レストランとの協働を進めています。高級レストランで認めてもらうことができれば、そこからの市場展開は非常に期待できるものになると思います。と言いますのも、私たちが提供するWaygu™は、他の多くの植物性代替肉と同程度のコストで実現するからです。ということで、まずは外食産業での展開を通じて、市場を作っていきたいと考えています」(ブルス氏)

編集後記

代替マグロにヴィーガン和牛、とても面白いですね。特に私自身、刺身が大好きな人間なので、Impact Food社の代替マグロは非常に興味があります。同社COOのダファラさんによると、鮮魚を口にしたとき特有の“磯の香り”を再現するために、代替マグロでは藻の原料を使って香り付けをしているとのこと。日本での展開はまだ時間がかかるかもしれませんが、アメリカに渡れば口にすることができるので、渡米した際にはぜひ食してみようと思います。

取材/文:長岡武司

Food-Tech Webinar Fall 2022 powered by addlight/SUITz 

▶︎麹や旨味など、日本古来からの「食の智慧」に盛り上がる欧米市場を探る 〜Food-Tech Webinar Fall 2022レポート

▶︎代替マグロにヴィーガン和牛。世界の「植物性代替肉」市場はここまで来ている 〜Food-Tech Webinar Fall 2022レポート

関連記事

  • メタバースプラットフォームの雄「cluster」が目指すクリエイターファーストな世界

    メタバースプラットフォームの雄「cluster」が目指すクリエイターファーストな世界

  • 「Why NFT?」を明確にせよ。doublejump.tokyo COOが語る、世界が熱狂するプロダクト開発のポイント

    「Why NFT?」を明確にせよ。doublejump.tokyo COOが語る、世界が熱狂するプロダクト開発のポイント

  • 次世代の経営者が実践するニュービジネスの立ち上げ方 〜SHARE SUMMIT 2022 セッションレポート〜

    次世代の経営者が実践するニュービジネスの立ち上げ方 〜SHARE SUMMIT 2022 セッションレポート〜

  • コインチェックが取引所以外の事業を展開する理由。Web3エコシステムの創出に向けて

    コインチェックが取引所以外の事業を展開する理由。Web3エコシステムの創出に向けて

  • Web3を日本に根付かせる条件とは? 〜SHARE SUMMIT 2022 セッションレポート〜

    Web3を日本に根付かせる条件とは? 〜SHARE SUMMIT 2022 セッションレポート〜

  • 世界中のZ世代に寄り添うVTuber「Tacitly」。NTTコノキューが進めるIPファースト戦略を探る

    世界中のZ世代に寄り添うVTuber「Tacitly」。NTTコノキューが進めるIPファースト戦略を探る

News

  • ㍿トモヤが企業ユニフォームや学生服の申込・集計をサポートするユニフォームオーダー支援システム「TANQ」の本格的なサービス提供を開始

  • ㍿エムケイシステムがクラウドストレージサービス「ShalomPost」のサービス提供を開始

  • Aokumo㍿がAWSパートナー6社と共に「Cloud Native Builders Group」を設立

  • トクティー㍿がJTB旅連事業㍿と業務提携契約を締結

  • ㍿MatrixFlowがAI素材の流通基盤となるべく、MatrixFlowマーケットプレイスをリリース

FREE MAILMAGAZINEメルマガ登録

DXに特化した最新情報配信中