スタートアップが続々と参入。心の健康を維持するテクノロジーの国内最前線

スタートアップが続々と参入。心の健康を維持するテクノロジーの国内最前線

目次

2021年12月2日〜3日にかけて開催された「Healthtech/SUM 2021」。医療・ヘルスケア分野における最新テクノロジーと、それを活用した先進事例を紹介するグローバルカンファレンスである。

今回は初日に設置されたセッション「心の健康を維持するテクノロジー」について、今注目のヘルステックベンチャーによるデモの内容と、登壇者全員によるパネルディスカッションの様子をお伝えする。

・川上 憲人氏(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 教授)
・福谷 直人氏(バックテック 代表取締役)
・大塚 寛氏(PST 代表取締役)
・成瀬 勇輝氏(InTrip代表取締役社長)
・大室 正志氏(大室産業医事務所 代表)※モデレーター

▶︎​​この記事には前編があります

温かみや安心感を与える「お手当」の体験を作りたい(ポケットセラピスト)

最初に登壇したのは医学的根拠に基づくメンタル不調対策サービス「ポケットセラピスト」を運営するバックテック 代表取締役の福谷 直人氏。

抱えている症状や在宅勤務といった勤務状況に合わせ、オンライン面談やチャットの相談などの能動的なセルフケアを提供する「オンライン保健室」とも呼ばれているサービスだ。

「企業が用意している心のカウンセリングサービスを、実際に使った経験のある従業員はわずか数パーセントといわれています。しかし、心の不安が叫ばれる社会のなかで、いかにメンタルヘルスの維持や向上ができるかが社会課題だと捉え、サービスを運営しています。小学校の頃を思い出すと『保健室』という場所がありました。体と心のほんの些細な悩みでも寄り添って相談に乗ってくれるのが保健室の存在だったかと思います。そんな安心感を与えてくれる役割が、我々が提供するポケットセラピストになります」(福谷氏)

具体的なサービスの流れとしては、興味のあるテーマを選択すると、保健室の先生が興味関心のある領域に関連した知識を提供してくれる。そこから簡単なアンケートによるセルフチェックを実施し、抱えている悩みや症状に合わせて『セラビスト』と呼ばれる心と体の専門家とのオンライン面談を設置するユーザー体験となっている。

「オンラインのセッションでは、認知行動療法や運動療法の観点からアプローチしていく流れになり、面談後にはユーザーの症状や働き方、ライフスタイルに合わせた『ミッション』(健康のTodoリスト)が作成されます。現在は200〜300コンテンツほど提供しており、ユーザーに合わせたエクササイズの提案を行なっています。また、人は簡単すぎても難しすぎても、すぐに離脱してしまう傾向にあるので、実践しているエクササイズが本当にユーザーに適しているかどうかを自動で判定し、最適なプログラムがリコメンドされるような仕組みも導入しています。今後は川上先生の研究室とメンタルヘルスの不調についての共同研究を通し、メンタル面のサポートができるサービスも準備を進めている状況です」(福谷氏)

コロナ禍が続き、不穏な社会情勢が続くなか、ポケットセラピストの目指す本質は温かみや寄り添い、安心感がある『お手当』だという。心温まるお手当のような体験をテクノロジーを用いて創出し、組織と社員の悩みに寄り添えるサービスづくりを行っていくそうだ。

声帯に着目した独自技術で病態を分析するアルゴリズム(MIMOSYS)

次いで登壇したのが、PST代表取締役の大塚 寛氏だ。

ストレスに影響を受ける心の健康度を音声で判定するサービス「MIMOSYS」を提供しており、人が無意識に制御している声帯の緊張度も解析しながら、客観的なメンタルヘルスの管理を可能にしている。

「我々は音声から病態を分析するアルゴリズムを作っている会社です。アプリを立ち上げ、『おはようございます』『とても元気です』『今日も頑張ります』と発生し、録音解析した結果を表示する流れになっています。よく音声認識の技術と間違えられますが、実は今の声のストレス状態を把握する仕組みになっていて、音声認識技術は使っておりません。我々は声帯に着目しており、声帯部分で発生する特殊な周波数帯域を解析しています。具体的には不随意反応する声帯と心臓の臓器が、副交感性か交感性由来なのかを解析し、ストレス状態の定量化を図っています。加えて、東京大学との共同研究を行い、MIMOSYSエンジンにおけるアルゴリズムの定量性を検証いただいた上で商品化に至っています」(大塚氏)

また、産業医や管理部門の人が見る管理画面についても、部門ごとの平均や従業員の中で数値が下がっている人に対してミクロに分析していくUIになっているという。

「今回は簡単なデモのご紹介でしたが、これから控えているのはストレス状態のみならず、精神疾患や認知症、無呼吸症候群、パーキンソン病などの神経内科系といった疾患を判別診断できるようなソフトの提供も行っていく予定です」(大塚氏)

禅の教えから生まれた「無意識を意識する」ためのサービス(InTrip)

最後に登壇したのはInTrip代表取締役社長の成瀬勇輝氏。禅・瞑想アプリ「InTrip」は、禅の教えで心を整え、ご機嫌な毎日を作るサービスである。

これまで述べ15万人に座禅を教えてきた京都・両足院の禅僧である伊藤東凌氏と、脳神経学者の青砥瑞人氏の監修によって制作したアプリで、毎日テーマが変わるプログラムを体験しながら、自分と向き合う習慣づくりはテレビや雑誌などでも話題になっている。

「日々忙しいなか、『無意識を意識する』ことはなかなか難しいことであります。ただ、わずか3分だけでも自分と向き合う時間を設けることで、美しさに気付いたり、丁寧になったり、優しくなったりする。そこで、私たちは禅の教えから日常的に自分と向き合う『技術』と『習慣化』を提供するアプリを開発しています」(成瀬氏)

サービスの肝となるのが、毎日発信する『きづく』『ほどく』『しるす』の3つのテーマだ。

「『きづく』は毎日変わる風景や温度、季節などの移ろいを、音楽に合わせて想像を膨らませる体験設計になっています。『ほどく』は優しさや丁寧など、日常的に使っている言葉をいろいろな角度からほどいていく形になっています。5分間の瞑想の中で『あなたにとって成功とは何か』『優しさはあなたにとって、どういうものか』などを、考えてもらうことにより、新たな気づきを与えることができます」(成瀬氏)

そして、3つ目の『しるす』こそが、InTripの真骨頂とも言えるステップだと成瀬氏は強調する。

「人は一日の終わりに、どうしてもネガティブバイアスが働きやすく、悲しかったことや不安なことを思い出しやすいといわれています。そうではなく、一日の最後にどんなに小さなことでもいいので、良かったことに思いを巡らせてほしいという考えをもとに、8つの感情から良かったことを選択してもらい、メモを残しながら、3分間ほど思い出すプログラムを提供しています」(成瀬氏)

成瀬氏自身、旅が好きなこともあり、「日常は旅の連続」だと考えているという。日常に『きづく』『ほどく』『しるす』という旅先での発見に通ずる習慣を取り入れることで、豊かな人生が作られていくというわけだ。

ヘルステックを現場で活用するための勘所とは

最後のパネルディスカッションでは、有識者と登壇者らを交えた議論が交わされた。
川上氏は、まずMIMOSYSについて問いを立てた。

「要素技術としては素晴らしいものの、果たして実際に現場へ落とし込んだ際にどのくらいの効果が見込めるか」という質問に対して、大塚氏は以下のように回答する。

「会社へ導入する際は、産業医のお悩みも聞くようにしています。例えば、コールセンターのような職場の場合、離職率が非常に高いということをSVや産業医の方が気にされています。そこの課題を全体的に可視化し、メンタルヘルスの不調になる手前の状態で抑制するために導入いただく企業のなかで、成功事例としては導入前と後でメンタルヘルスの不調に陥る従業員の数が少なくなるといった成果が出てきています」(大塚氏)

では、従業員のヘルスケア情報などの取り扱いについては、どのような所感を抱いているのか。これについても、大塚氏は以下のようにコメントする。

「個人情報問題についてはかなりあると感じています。MIMOSYS自体、音声の生データは取得しておらず、定量的な数字だけがインプットされるわけですが、実体として、全社導入の検討段階の際には、従業員の誰かひとりでも『ヘルスケア情報を人事評価に使うのではないのか』という疑問を持っていれば、人事部から導入見送りの意思決定がされることがあります。何のためにMIMOSYSを導入するのかという目的とはずれてきてしまい、本末転倒になっているのが残念なところだと思っています」(大塚氏)

モデレーターの大室氏からは、「理学療法士としてのキャリアを形成してきたなか、いつぐらいからメンタルヘルスが腰痛や心の不安などへ影響を与える問題意識を持つようになったのか」と、バックテックの福谷氏へ質問がなされた。

「それに関しては、起業当初から思っていました。コロナ禍で相談がいろいろと増えていき、オンライン面談の声を抽出して形態素解析をしてみると、肩こりや腰痛持ちのユーザーが専門家に質問するうちの8割が『職場のストレス』の話になるのです。ユーザーの多くが痛みとストレスというワードをよく使っていることから、心と体をケアできるようなサービス体験を作れるように意識していきたいと考えています」(福谷氏)

続いて、川上氏はバックテックとInTripの両社を対比させ、「バックテックの場合は、デジタルツールを生かしつつ『人が介在するサービス』である一方、InTripの場合は完全にフルオートなサービスとして提供していて、双方におけるメリット・デメリットについてどう感じているのか」と述べた。

InTripの成瀬氏は「基本的にはフルオートだが、手触り感のあるサービスを作るのを大事にしている」とし、次のように説明する。

「InTripは、禅僧である伊藤東凌さんの声で構成しておりまして、実際にプログラムは毎日変わっていくので、相当数のコンテンツを作っています。具体的には、毎週私が京都へ出向いて収録しているんですね。今後やっていきたいこととしては、AI技術を用いてユーザーに最適なプログラムをレコメンドできるようにしていきたいです。まだサービスをローンチして1年くらいなので、十分なデータが蓄積されていませんが、データをもとにカスタマイズできるようになれば、サービスのさらなる品質向上になるでしょう。これこそ、人を介在させるサービスにはないメリットだと捉えています」(成瀬氏)

他方、福谷氏は「安心できる体験を提供したいという企業理念から、人をベースにしたサービスづくりを行っている」とし、以下のように話す。

「いろいろなシステムテックレビューを見ていくと、医療職とユーザーが同じ時間を共有するアプローチの方がヘルスケアアウトカム(医療の効果)の向上が報告されています。こうした結果を出すためには、何より継続率が重要になってくる。例を挙げると、健康経営を実践している企業のうち、フルオートメーションのサービスを使っているところは月の継続率が5〜10%程度なのに対し、ポケットセラピストの場合は90%以上維持できています。人が介在する際の品質担保やスケールについては、ビジネスモデルで解決していくという選択肢をとっています」(福谷氏)

ヘルスケアに関心が高まっているなか、海外に目を向けるとシリコンバレーでは「マインドフルネス」が流行っている。マインドフルネスは日本の座禅が由来になっているわけだが、京都の禅僧と組んでサービスを開発しているInTripの代表取締役僧侶・伊藤東凌氏は「マインドフルネスとは異なるInTripならではの体験として『ほどく』が挙げられる」という。

「やさしさという言葉ひとつとっても、人によって微妙に違うニュアンスを持っています。そこの感覚を柔らかくほどいていくことで、自分の中で思うやさしさの感じ方や目線が変わってくる。固定概念やバイアスがとらわれない考え方が生まれ、新しい気づきが生まれるのを、テクノロジーを用いて実現させようとしているのが、InTripの目指す世界観だと思っています」(伊藤氏)

ヘルステックビジネスの将来性

最後にヘルステックビジネスノイ今後について議論が交わされた。

InTripは基本的にBtoCモデルで展開しているが、アメリカにおけるマインドフルネスの興隆の仕方についてベンチマークしているという。

「アメリカで台頭している『Calm』や『Headspace』のようなアプリは、企業や教育機関へ導入されたり保険会社と連携して誰でも使えるようにしたことで広まっていきました。我々も国内でスケールさせるため、企業導入などの動きに注力していこうと考えています」(成瀬氏)

バックテックの福谷氏は「サービス開始以降、さまざまなビジネスモデルを検証してきたなかで、最近では人事トップのCHROが予算をすぐに確保してくれるケースが出てきている」と語る。

「産業保健や健康経営も、ひとつの人事施策ではなく、企業の成長を見据えた経営戦略として考えなくてはならなくなっています。ある程度、規定のプログラムを受ける研修制度に位置づけた形で、サービスの訴求を行うようにしています」(福谷氏)

さらにPSTの大塚氏は「我々の立ち位置としてはアルゴリズムを作る会社なので、サービスの領域に昇華させるのは苦手意識を持っている」と吐露する。

「自社で開発したアルゴリズムのエンジンだけをクラウドサービスで提供し、API連携するような事例が多かったりします。ただ、エンジンの確からしさ、信憑性に関しては突き詰めており、学術論文の発表や特許の取得というファクトを持っているのが強みだと考えています」(大塚氏)

最後に各登壇者が今後の展望について述べ、会を締めくくった。

「これからの時代に重要視されるのは、心温まる体験や安心する体験だと思っています。これらを提供するためにテクノロジーを活用しながら、ユーザー一人ひとりに寄り添ったサービスを作っていきたい」(福谷氏)

「心の状態を可視化するビジネスをしているが、最近は特に子どものメンタル不調者も多く見られるので、親御さんが子どものメンタル面を気遣うという機会をもっと提供できるようと取り組んでいきたい」(大塚氏)

「禅の教えを使い、自分と向き合う時間をどう作るかというのを意識してサービスを作っているが、今後はBtoCのみならずBtoB領域にも広げていきたい」(成瀬氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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