線虫の活用から内視鏡AIまで、がん患者を救う最先端ヘルステック

線虫の活用から内視鏡AIまで、がん患者を救う最先端ヘルステック

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がんは、病気のなかで最も死亡率が高く、日本人の死因順位においてもトップを占めている。そんななか、コロナ禍によって在宅勤務が増え、また受診控えによる健康診断やがん検診の受診率の低下といった問題が浮上している。

こうした現状は、未発見の進行がんによる健康被害拡大の懸念につながっているのだ。

Healthtech/SUM 2021では「がんに打ち勝つためのテクノロジー」と題したセッションが行われ、テクノロジーと共に解決策を見出すプレーヤーが結集。がん検診における現状や、適切ながんの治療につなげられるプロダクトやサービスの紹介、テクノロジーの未来について議論を行った。

・横山 太郎(医療法人社団晃徳会 横山医院 在宅・緩和クリニック 院長)※パネリスト
・多田 智裕(AIメディカルサービス 代表取締役CEO/ただともひろ胃腸科肛門科 理事長)※デモ
・鈴木 彬(HIROTSUバイオサイエンス 事業部長)※デモ

がん検診の受診率低下は、5年生存率も注視していくべき

冒頭では、まず医師の横山 太郎氏より「がん検診」の現状について共有がなされた。

国立がん研究センターが発表したがん患者の数は、2019年に比べて2020年は6万人減少したという数値が出ている。ただこの結果は、コロナ禍で検査数が減ったことに起因するものであり、それによってがんと早期診断される人も減っているのではないかという危惧もなされているという。

こうした状況について、横山氏は「実際の臨床の現場でも、がんを疑ったとして、なかなか検査に結びつかない」と吐露する。

「今までは患者自身の思いや年齢などが関係していましたが、そこに新型コロナ蔓延の影響を多々感じることがあり、特にファクトやデータがあるわけではないものの、コロナ禍で検査数が減っていることを実感しているような状況です」(横山氏)

一方で、がん検診に関しては「早く見つけすぎることで、過剰な診療を招いているのでは」という論点もある。横山氏は「今回の新型コロナで検査数が減ったことが、後々どういう影響があるのか。今後の5年生存率など、冷静に見ていく必要があると思う」と意見を述べている。

線虫を活用した全く新しいがん検査「N-NOSE

続いては、がんに打ち勝つためのテクノロジーを開発しているプレーヤーによるデモが行われた。

最初は、尿一滴で精度86%を誇る線虫がん検査「N-NOSE(エヌノーズ)」を展開するHIROTSUバイオサイエンス 事業部長の鈴木 彬氏が登壇した。

N-NOSEは、線虫の嗅覚を利用して、人の尿一滴で全身15種類のがんリスクを一度に検査できる全く新しいタイプのがん検査だ。

従来のがん検査は、がんの種類ごとに別々の検査を受けなければならなかったり、費用が高かったり、また早期がんに対する感度が低かったりする課題があった。N-NOSEはこれら全ての課題を解決したソリューションだと鈴木氏は言う。

「少量の尿を採取するだけなので、体への負担がなく簡便に検査することが可能です。その上、全身を網羅的に高性能な検査が行えるため、早期のがんにも高い感度を示すのが特徴となっています。費用も1回あたり12,500円と、総合的ながん検査と比べて1/10程度の値段で検査を受けることができます」(鈴木氏)

N-NOSEをWebで購入すると、専用のキットが自宅に届く。

中に入っているチューブで尿を採取し、主要都市にある回収場所のN-NOSEステーションへ持ち込むか、自宅へ集荷依頼を出して検体を引き取ってもらう流れになっている。

「回収した検体は専門の検査センターへ運ばれます。全ての工程はお伝えできませんが、がん患者の匂いに反応する線虫は『C. elegans (シー・エレガンス)』という名前がついており、遺伝子が全て同じ雌雄同体で個体差がないのが特徴です。一匹の成虫が100〜300個の卵を産み、3日4日で成虫になります」(鈴木氏)

会場では、線虫ががんのにおいに反応する動画をもとに解説が進む。

「まず健常者の場合、尿を置いている『+』の箇所ではなく、反対の場所に多く線虫(白色の点)が集まっているのが見て取れます」

「他方、がん患者の場合は『+』の箇所に線虫が多く集まってくるのがわかると思います。実は1検体に費やす作業数は37工程にも及び、シャーレを数十回入れ替えて検査を実施しているんです。また、線虫がどれだけ尿に反応したかを人力で数えるのは現実的ではないので、検査解析のプロセスは完全自動化されており、多くの検査を可能にしています。検体の解説結果は約4週間で『結果報告書』という形でお客様の自宅へお届けする流れになっています。この結果報告書には、がんのリスク度判定やハイリスクになった場合のネクストアクションが提示されています」(鈴木氏)

N-NOSEは2020年1月から一般ユーザーへ提供を開始し、すでに10万人以上の検査実績があるという。その中には「早期がんが見つかった」という声も届いており、検査の正確性についても実証されているそうだ。

「今後はがん種特定ができるような研究を進めており、直近では早期すい臓がんを特定できる検査の開発に成功したことを発表しました。N-NOSEを広めて、がんに苦しむ人をひとりでもなくしたい。これがN-NOSEで実現したい未来像です」(鈴木氏)

デモ後、腫瘍内科の経験がある横山氏は「線虫検査後、体のどこにがんがあるかがわからない状況のなかで、実際の臨床現場ではどのような流れになっていくのか」という質問を鈴木氏へ投げかけた。

鈴木氏は「現状では、まず5大がん検診をお勧めしている」と答え、次のように続ける。

「5大がん検診を受けていない方に関しては、まずはしっかりと検診を受けてもらい、そこでがんが見つかれば次の段階へと進んでいきます。がんが見つからなかった際は、場合によっては別の検査を受けたりするかと思いますが、そもそも5大がん検診を受けていない方が非常に多いので、我々としては5大がん検診をネクストステップとしてご案内しています」(鈴木氏)

ただ、患者側ががんのリスクが高いと感じるようになれば、「がん検診ではなく保険診療に流れるのでは」と横山氏が疑問を呈する。それに対して鈴木氏は、以下のように答えた。

「実際のところ、Webやコールセンターでさまざまな問い合わせをいただきますが、ハイリスクになった方に回答していくなかで、保険診療に流れていくような状況には現状なっていないと思います」(鈴木氏)

内視鏡AI研究開発で世界のトップをひた走るAIメディカルサービス

続いては内視鏡AIでがんの見逃しゼロを目指しているAIメディカルサービス 代表取締役CEOの多田 智裕氏が登壇した。現役の内視鏡指導医でもあり、将来的に現場で活用できるような内視鏡AIの開発に従事している人物である。

そんな多田氏は開口一番、「96.7%という数字が意味するものはなにか」と述べ、プレゼンテーションを始めた。

「胃がんを早期発見した場合の5年生存率の割合は96.7%といわれています。しかし、胃がんの早期発見というのは専門医にとっても非常に難しく、早期胃がんの2割程度は見逃されてしまっているとも考えられています。こうした状況を見て、私自身が内視鏡指導医でもあることから、自ら内視鏡AIを開発するスタートアップを立ち上げ、がんの見逃しゼロを目指しております」(多田氏)

多田氏率いるAIメディカルサービスは、2018年に世界初の胃がん検出AI、2019年に世界初の食道がん検出AIの開発に成功するなど、内視鏡AI研究開発では世界のトップランナーとして知られている。

さらに、2021年8月には世界初となる胃がん鑑別AIの薬事承認申請が完了し、「がんの見逃しゼロ」へ向けて着実に前進しているという。

デモでは、実際に胃がん鑑別AIのプロダクトが披露された。

「内視鏡検査は、ハイビジョンで体の中の隅々まで見ることができ、胃がんや食道がん、大腸がんを早期発見できる唯一の検査方法です。今回は実際の胃カメラの内部はお見せできないので、あらかじめ写真を用意させていただきましたが、一見がんに見えそうなポリープでも、AIの解析でがんではないと判別したり、がんの疑いがある箇所はパーセンテージが高くなったりするようなプロダクトになっています。このような胃がん鑑別AIを使えば、将来的にはがんを見逃すことなく、確実に早期発見できるようになると考えています」(多田氏)

内視鏡検査において、日本には世界最高水準のデータが質・量ともに揃っていることから、プロダクトの開発を完了することができたと多田氏は強調する。

「胃がん鑑別AIは世界初のプロダクトゆえ、全世界からも多くの引き合いをいただいております。最近ではシンガポール大学との共同研究開発を正式に発表しました。これにより、日本のみならずシンガポールや東南アジアへと展開していく予定です。さらに、欧米の世界的な医療機関からも共同研究のオファーをいただいているので、全世界へ進出できるように取り組んでいきたいと考えています。日本発のイノベーションである内視鏡AIによって、世界の患者の命を救うことに貢献できればと思います」(多田氏)

内視鏡AIにおいては、国内外のさまざまな企業による開発競争が繰り広げられている。そんななか、多田氏の開発したAIのプロダクトは他と比べ、どのような比較優位性があるのだろうか。

「AIの開発に一番重要なのは、先ほども申し上げたようにデータになります。通常の医療機器開発であれば、 10施設程度のデータを用いるところ、我々は100以上の医療施設からデータを集め、研究開発に役立てています」(多田氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

▶︎​​この記事には後編があります(2月14日 PM12:00配信予定)

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