「テクノロジーの発展」と「患者のリテラシー向上」は両輪で考えるべき

「テクノロジーの発展」と「患者のリテラシー向上」は両輪で考えるべき

目次

医療・ヘルスケア分野における最新テクノロジーと、それを活用した先進事例を紹介するグローバルカンファレンス「Healthtech/SUM 2021」。その中の一セッションとして組まれたデモ兼パネルトーク「がんに打ち勝つためのテクノロジー」では、テクノロジーと共に解決策を見出すプレーヤーが結集した。

本記事では前編に引き続き、適切ながんの治療につなげられるプロダクトのデモや、テクノロジーの未来についてのディスカッションの様子をお伝えする。

・市川 衛(READYFOR 基金開発室長/広島大学医学部客員准教授) ※モデレーター
・横山 太郎(医療法人社団晃徳会 横山医院 在宅・緩和クリニック 院長)※パネリスト
・多田 智裕(AIメディカルサービス 代表取締役CEO/ただともひろ胃腸科肛門科 理事長)※デモ
・鈴木 彬(HIROTSUバイオサイエンス 事業部長)※デモ
・大塚 裕次朗(プラスマン合同会社 代表社員)※デモ
・Jingqing Zhang(Pangaea Data Limited/ Head of AI)※デモ

▶︎​​この記事には前編があります

肺がんの画像診断支援を行う「プラスラングノジュール」

3人目の登壇者は、肺がんの画像診断支援を行うAIを製造、販売するプラスマン合同会社 代表社員の大塚 裕次朗氏。肺がんは毎年13万人が罹患する、がんの中では最多の罹患数を誇る病気だ。大塚氏は医療機器プログラムとして販売する「プラスラングノジュール」についてこう説明した。

「肺がんが疑われる場合は、必ずCT検査を受けることになりますが、現状として臨床現場では10分程度の時間で、肺がん以外にも数多くある疾患の兆候がないかどうかをチェックし、レポートを完成させています。日本の放射線科医は優秀で4つのうち1つくらいしか見落としません。でももし、その見落としを極限まで減らすことができたら、患者の命を救うことにつながるわけです。それを実現しようと開発したのが『プラスラングノジュール』という医療機器プログラムです。これは、学術研究の中で世界最高の性能を誇っていて、今日はそのデモをお見せしたいと思います」(大塚氏)

デモでは、プラスラングノジュールのAIが、CT画像にある小さな結節が肺がんとしては非常に早いスピードで成長していることを捉えていた事例を紹介した。人間が見ただけでは分からないものだといい、肺がんの早期発見につながるよう、身近な病院でも画像診断の補助AIを導入していきたいと大塚氏は強調する。

これに対してパネリストである医師の横山 太郎氏は、数年前から自分のクリニックを運営しているなかで「すぐに画像診断のデータを放射線科医にアプローチできるわけではないので、こうしたテクノロジーが自宅やクリニックで使えるようになれば、非常にポジティブだと思う」と感想を述べた。

AIの実装についてはどのような流れになっているのだろうか。

「日本の放射線科医は、日々多くの患者と向き合いながら忙しく過ごしていて、肺結節はチェック項目の中でもごく一部の存在になっています。無論、ルーティンでのチェックは行っているかと思いますが、肺結節のために数秒待つことも許されないので、完全に今のワークフローを崩さずに入れていかないと、放射線科医はなかなか使ってくれないのです。そのため、CTを撮ったら自動で画像をPACS(医療用画像管理システム)へアップロードし、検査画像開く際にはすでにAIの結果がついている状態になるよう、仕組み化をしています」(大塚氏)

自然言語処理を生かしたヘルスデータの解析を行うPangaea Data

最後のデモは、ロンドンを拠点に世界的な展開を見せているPangaea Data Limited(以下 Pangaea)のJingqing Zhang氏が登壇した。

同社では自然言語処理やPangaea独自の技術を活用して、多様なヘルスデータの解析をしている。日常の診療録から未発見や誤診断含む、特徴づけが難しい症例のスクリーニング精度を400%向上し、さらには自動化によって80〜90%程度の診断時間の短縮も得られているという。

「流れとしてはまず、臨床現場の医師や研究者ががん患者に対して臨床プロファイルを行います。グラフは乳がんに罹患している患者のデータを示しています。がん以外の併発疾患も見ることができ、患者ごとに症状に基づいて分析することを可能にしています」(Zhang氏)

こちらでは自然言語処理のテクノロジーを使うことで、デモグラフィック情報や過去の診断情報などをつぶさに抽出し、それをスコアリングして提供しているという。こうした詳細なデータを可視化し、グラフやスコアリングすることで、今後の治療をできるだけ早くすることにつなげていきたいというわけだ。

「現在、臨床医や大学や医学研究所などで活用いただいているほか、我々のデータを生かして被験者を探し、薬剤、症状に関してより体系的な臨床試験を行うのを目的に製薬会社とも提携を行っています」(Zhang氏)

5年後10年後に向けた各登壇者の展望とは?

デモの後は、有識者とプレーヤーを交えたパネルディスカッション。登壇者それぞれがどこを目指して取り組んでいるかというテーマのもと、保険診療に入れていくのか、それとも健康診断の控除を目的にするのか、自由診療として位置づけていくのか。10年後20年後に向けての展望について各登壇者が語った。

HIROTSUバイオサイエンスの鈴木氏は「非常に悩ましいところだと思っている」とし、このように説明する。

「社長と何度も議論していますが、おそらく保険診療に関しては時間もかかりますし、サービスを介入させる上で難しい部分もあると思っています。なので、日本国内ではまず、1次スクリーニングという形でリスクを知ってもらい、健康を気にかけていただくという目的で多くの方に使っていただくのがファーストステップだと考えています。海外においては違う方向性もありうると思いますが、本格的にサービスを開始して1年くらいなので、いろいろと試行錯誤しながら一歩ずつ進めていきたいと思っています」(鈴木氏)

またAIメディカルサービスの多田氏は「そんなに遠くない将来に、全世界の内視鏡室で当たり前のように使われている」と確信しているという。

「例えば、カーナビを搭載していない車がないように、医者とAIが一緒に検査した方が内視鏡の精度は間違いなく良くなる。現時点では内視鏡医の95%以上が内視鏡AIをほしいと答える一方、すぐに買うかどうかを尋ねると3~4割くらいの割合になります。ただ、いずれはもっと普及していくと思っています。日本では薬事承認申請を取ることは保険収載とイコールの関係にあり、適切な形で技術料として加算していただける方向で議論が進んでいます」(多田氏)

これに加える形でプラスマンの大塚氏は、「だんだんサービスが使われてくると、それがないと落ち着かない状況が生まれてくるのでは」と意見を寄せる。

「複数の大学病院で肺がんの画像診断AIが稼働していますが、動かなくなって処理ができなくなるとすぐに苦情が来るので、現場で必要とされているのを実感しています。『使ってみないとわからない安心感がある』とも言っていただいており、今後はそういう存在になれればと考えています。方向性としては診療や健診で使うことを想定していて、診療の場合は具体的な患者のベネフィットを示していき、保険収載を目指していく予定です。健診で使う場合は、海外のような費用対分析のアプローチを参考に、保険者に対して健診をすることが費用対効果があるということ、さらにAIを入れることで尚更良いというのを示せればと考えています」(大塚氏)

自然言語処理を軸にしたサービスを展開するPangaea Dataは、日本など海外への展開を見据えた場合、技術的な壁を乗り越え、いかに市場へ入り込んでいけるかが鍵となるだろう。その点についてZhang氏は「日本は医療制度が発展していて、最も重要な市場の一つだと捉えている」と語り、こう展望を話す。

「日本はとても潜在性の高い市場で、熱い視線を投じています。カルテの情報やそれ以外の構造化情報、治療の情報などを抽出し、製薬会社との提携やビジネスの機会を見出していこうと計画しています。我々のモデルを、いかに異なった言語で展開していくかが今後の肝となりますが、すでにヨーロッパ言語圏には対応しようと進めています。さらに最近では、日本含めてアジア太平洋圏にも広げられるように準備を進めているところです」(Zhang氏)

技術発展に比例して、患者のリテラシー向上や教育面も必要になる

こうした議論がなされるなか、重要になるのは「いかに市場で受け入れられていくかに加え、本当に人の役に立つのか」ということになる。例えば、がんの早期発見が果たして死亡率低下につながるのかという議論がされているなかで、新しい技術が発展していくというのは、ある種乖離を感じる部分もあるのかもしれない。

横山氏は「臨床現場では早くがんを見つけてもらった。もしくは、何かを疑われる検査をしたというだけで大丈夫と感じる人たちがいるのは事実。会社の健康診断でがんのスクリーニングをしていないにも関わらず、がんの有無を診てもらえていると思っている人もいるので、新しい技術を普及させるのと同時に、リテラシー向上や教育の面もセットで考えていく必要がある」と所感を語った。

また、モデレーターの市川氏は「線虫がん検査は陽性陰性のジャッジがしにくい部分があることと、感度の高さゆえの偽陽性も問題も生じるのではないかと思っている。がんの見逃しや検査結果に安心してしまうお客様に対しての責任については、何か議論されているのか」と、線虫を活用したソリューションを展開する鈴木氏に疑問を投げかけた。

それに対して鈴木氏は以下のようにコメントし、啓発の大切さを訴えた。

「まさに仰る通りなので、先ほどもお伝えしたように、1次スクリーニングをしっかりと正しく伝えていくことが大事だと思っています。陽性や陰性という言葉も使用できませんし、仮にがんのリスクが低いと検査結果で出たとしても発症していないことを証明するものではないと、正直に説明しています。なので、定期的に『健康診断や5大がん検診含めてやっていきましょう』という、ある種啓発的な立ち位置を色濃く出すようなか形で運用している状況です」(鈴木氏)

近年、AIと医療を取り巻く議論がなされるなか「AIがもし、がんを見逃したら誰が責任をとるのか」というテーマがよく挙げられる。こうした現状について、多田氏は「AIはあくまで医者のアシスタントとして診断支援をするもので、最終的な診断は医者が行うというのが答えだと思う」と述べた。

また大塚氏は「AIを使うことで、人の内面にどういう影響を与えるのかについてはわからないところ」とし、自身の意見を話した。

「まず1つはエビデンスをちゃんと整え、示すことが月並みですが大切だと思います。医師だけのものと、医師とAIのものとを対比させ、がんの発見率が上がっていれば、そのエビデンスは有用性が高いと言えるでしょう。ただ最終的には、『AIを使ってもらってどう感じるか』が大事。今の放射線学会の方たちも『とりあえず使ってみないとわからない』と仰ってますし、最初は放射線学会から医療現場におけるAIの使い方やガイドラインを定め、発信していくような流れが望ましいのではと考えています」(大塚氏)

他方、自然言語処理でカルテの読み方や調べ方を変えていくPangaea Dataのようなサービスは、新しい気づきを与える一方でAIの関連づけ方が間違っていれば、全く見当違いの抽出のされ方になってしまう危惧もある。Zhang氏はこうした懸念に対し、次のような見解を示す。

「自然言語処理のメリットとして、イギリスでは大勢の患者さんがプライマリケア(1次医療)から病院へ来院されます。患者一人ひとりに対してカルテを書いていくわけですが、カルテに書いたものを他の医師が理解できないと意味をなさない。そういうことからも、我々のサービスは一種のスクリーニングツールだと捉えていただくのがいいかと思います。医師の代わりに意思決定をするものではなく、常にドクターありきで考えており、ドクターの診療の一助になるサービスを目指しています」(Zhang氏)

そして最後には、横山氏がセッション全体を通しての感想を語り、会を締めくくった。

「コロナ禍でテクノロジーを駆使した遠隔診療が注目されていますが、一方でこのテクノロジーが広がったことで一番感じたのは『医療の公平性』にすごく寄与する可能性があることです。このセッションを通して、医療先進国だけではなく、まだ医療分野でテクノロジーの発展が遅れている国々にも入り込む余地が十分あると感じました。ただ、本当にそのテクノロジーが人の人生に対してハッピーになるのかをしっかりと検証していくことも同時にやっていく必要があるでしょう」(横山氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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